伊東良徳の超乱読読書日記

読んだ本の感想を中心に本に対するコメントを書き散らします。読み終わった本は図書館に返すのでフォローは保証できません。

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アイドルワイルド!

2012-03-31 21:42:39 | 小説
 黒人と白人のハーフの米兵の父と琉球人の母の間に生まれ、女なら誰しも呆然と見とれる美貌の持ち主で人を何人殺しても決して捕まらない強運の持ち主伊禮ジョーが、フィールドワークで沖縄を訪れた大学院生多田耀子と濃密な性関係を持ちながらのめり込んでいき、キャンピングカーで北海道まで行く様子を描いたヴァイオレンス系官能小説。
 この作者に度々登場する女が群がりやりたい放題のことをしても制裁を受けることなくいられる主人公による、万能感・至福感を、読者は共有できるのでしょうか。何度も書かれるからには、読者の支持・ニーズがあるのだと思いますが、私には男の妄想の気恥ずかしさが先に立ちます。
 この作品では、そのジョーがごくふつうの大学院生に入れ込み、そうするうちに毒抜きされて次第にその神性を失っていくことになりますが、そのあたりは万能の主に自己投影できない読者層の嫉妬心に応えたのかもしれません(私には、「愛と誠」で母親の愛に接した太賀誠が凄みを失ってあっさり砂土谷峻に刺されて砂土谷に驚かれるみたいなイメージと重なりましたが・・・)。
 耀子の恋人、つまり寝取られ男の中年新人作家忠彦の冴えない飄々とした姿が、意外に味わい深い。このあたりは、中年男性読者層に配慮したのか、作者自身の投影なのか・・・


花村萬月 祥伝社 2011年8月10日発行
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キミは知らない

2012-03-31 20:58:13 | 小説
 幼い頃に大学の歴史・民俗の研究者だった父を火事で失った高校2年生の水島悠奈が、父親の本に興味を示したことから関心を持った非常勤講師の突然の退職をきっかけに、その非常勤講師を追っているうちに、謎の権力者たちに祭り上げられたり追われるようになり、父親の死と先祖の秘密に行き当たるという青春恋愛アドベンチャーミステリー小説。
 高校生主人公で爽やかタッチでもあるんですが、基本的な設定というかメインストーリーが血筋の呪縛・血統のよさに置かれているのが、復古的な重苦しさを感じさせます。非常勤講師津田のスーパーな活躍と合わせて、ちょっとなんだかなという感じがします。全体としては読み味は悪くないのですけど。
 脇役で若い弁護士が登場して、「若くして司法試験に通るほど優秀な男が、小さな村の騒ぎに巻き込まれている」(207ページ)って。最近は司法試験合格者数を政策的に増やしてますから、新人弁護士が就職先もなくあふれていて、小説の世界より現実の世界でそういうことは珍しくなくなりそうな気がします。こういうことをいうと、マスコミからは弁護士の業界エゴだ、弁護士をどんどん増やせといわれるのが常ですけど。


大崎梢 幻冬舎 2011年5月25日発行
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「国会原発事故調査委員会」立法府からの挑戦状

2012-03-31 20:20:02 | ノンフィクション
 国会に設置された東京電力福島原子力発電所事故調査委員会の設置の経緯について、中心的に動いた著者が解説した本。
 福島原発震災で政府の「初動の失敗」「後手の対応」「情報の小出し」に国民も諸外国も不信感を募らせている状況に危機感を持ち、政府によって設置された原発事故調査委員会では説明責任を十分に果たし国内外に納得してもらえるとは到底考えられないことから、政府から独立した調査委員会を国会に置き委員は(国会議員ではなく)民間人から選任するという構想を思い立ち推進した経緯と、それがまったく初めての前例のない構想であったために官僚や政府の抵抗に遭い難航した様子が描かれています。
 法律の制定の過程で国会事故調の権限が当初の構想より限定されていったことや、法律の成立後も国会事故調の体制を作る段階で官僚のサポートがないため委員の人選や参与や事務局スタッフの充実をどうすべきかなどについて法案成立後急遽来ていただいた弁護士や大学教授の力に頼るところが多かったなどの事情が紹介されています。そういった事情が、発足があまりにも遅くなったこととともに、国会事故調の足かせとならなければいいのですが。
 国会事故調そのものの話と別に、行政府の肥大を嘆く下りでは「司法においても同様のことが起きている。行政府である法務省には、司法である裁判所から、決まりきった人事として常時百名程度の判事が法務省に在籍して、司法も行政の強い影響を受けかねない体制を続けている。検事と判事が同じ職場で、時には机を並べ、一つの仕事を共にし、時間外には酒を酌み交わすという民主主義国がどこにあろうか。」(114ページ)とまでいっています。自民党の法務部会長や衆議院法務委員長の時にそれを追及してくれるとよかったと思いますけど。
 また、住専国会の時に参議院の資料要求によって住専各社の融資稟議書等が予想外にすんなり提出されたことに元検事の国会議員が「国政調査権とはすごいものだな、もっと活用しないといけない」と感慨を漏らした様子を紹介しています(130~131ページ)。
 法律上の効果をギリギリ検討すると微妙なものはありますが、国会が本気になれば、福島原発震災でも傲慢な東京電力の墨塗り運転マニュアルが一瞬で墨塗りを剥がされた上でネット公開資料になるなどの威力を発揮します。政府・官僚の肥大・横暴を抑制するためにも、国会にはがんばって欲しいし、政治家にもそういう意欲はあるということを感じさせてくれました。


塩崎恭久 東京プレスクラブ新書 2011年12月25日発行
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