伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年に続き2023年も目標達成!

新潟から問いかける原発問題 福島事故の検証と柏崎刈羽原発の再稼働

2024-08-13 22:40:01 | 自然科学・工学系
 新潟県原子力発電所事故に関する検証総括委員会の委員長であったがその後就任した原発推進知事から意見が合わないとして検証総括委員会の開催もできないまま、もちろん検証総括委員会報告書も作成に至らないままに任期満了として放逐された著者が、5年間の在任中及びその後に見聞し検討したことをとりまとめた本。
 新潟県の技術委員会、健康と生活への影響に関する検証委員会、避難方法に関する検証委員会の議論の経過や報告書の内容、それらの報告書で不足している論点も含めた福島原発事故と柏崎刈羽原発や東電・原子力規制委員会等の問題点がわかりやすく整理して書かれています。著者の専門分野は宇宙物理のはずですが、専門外の文献等を理解し整理する力に驚きました。率直に言って、私は、新潟県が3つの委員会に加えて「検証総括委員会」を設置したとき、屋上屋を重ねるというか、そんなの必要ないんじゃない?と思ったのですが、3つの委員会の報告書の検討で他の問題との総合・連携の必要性についてさまざまな指摘がなされていて、なるほどと思い、不明を恥じました。こういった視点は貴重というか必要なもので、検証総括委員会はやはり必要であり、また著者の委員長就任は適切なものだった、新潟県知事が政治的思惑によらずに報告を全うさせていれば、という思いが募ります。


池内了 明石書店 2024年4月20日発行
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そうだったのか!身のまわりの流れ

2024-08-06 19:15:03 | 自然科学・工学系
 流体(気体・液体)にまつわる日常でのさまざまな現象について流体力学の観点から解説する本。
 流体力学の本でありながら、ナビエ・ストークス方程式が(名称は紹介されているけど)書かれていない、流体力学の基礎とか体系とかを説明しようとせず、現象の説明に徹しているところが、初心者に取っ付きやすい本となっていて好感します。
 マグロが海中で高速(最大時速80kmとか)で泳げる理由を体型の流線型だけでなく体表からぬめり物質を分泌していることが水流の乱れ(渦の発生や成長)を抑えて水の抵抗を低くしていることで説明しています(25~28ページ)。どれくらいの分泌物をどれくらいの頻度で放出しているのかわかりませんが、それ自体けっこうな体力を使うだろうなと同情してしまいます。マグロがそうしてすいすい泳いでいるイメージを膨らませればマグロがよりおいしく感じられるかもしれない(28ページ)という執筆者の感性は私にはとても理解できません。
 カルマン渦(流体中に固定された物体の下流にできる渦)による有名な事故の例として1940年のアメリカのタコマ橋の崩壊が紹介されています(41ページ)。歴史的にはそれも有名なのでしょうけれども、日本の現代の読者にはより近い有名な事故として高速増殖炉「もんじゅ」のナトリウム漏洩事故があるのですが、そちらが紹介されていないのは、「忖度」なんでしょうか。


井口学、植田芳昭、植村知正編著 電気書院 2024年6月7日発行
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顔に取り憑かれた脳

2024-06-26 23:57:23 | 自然科学・工学系
 顔についての識別や自己認識について検討し解説した本。
 自分と近い者の顔はわずかな差異でも識別できるが、そうでないものは容易に見分けがつかないもの(外国人の顔ってみんな一緒に見えたりしますし、私など、若いタレントグループなんかもう誰が誰だか判別できません)ですが、生後6か月の赤ちゃんは人間の顔も、サルの顔も見分けられる、でも生後9か月くらいになると人間の顔は見分けられるがサルの顔は見分けられなくなるそうです(79ページ)。聴覚の方でも、日本人の生後6か月の赤ちゃんはLとRを聞き分けられるけど生後10か月くらいになると聞き分けられなくなるとか(79ページ)。日常生活でよく使うことの方に能力資源が振り分けられて行くということなのでしょうけれども、人体の神秘を感じます。
 鏡に映った自分の姿を自分だと認識できることが確認されているのは、人間以外に、チンパンジー、オランウータン、ボノボ、イルカ、ゾウ、カササギ、ホンソウワケベラ(魚)くらいなのだそうです(90ページ)。もちろん、そういう実験をやった動物がそれほど多くないのでしょうけれども、サルや犬は認識できない(同種の別個体だと思っている)というのも不思議に思えます。
 犬は切なそうな表情をする(猫やウサギはそういう表情はしない)ことがよく見られますが、犬には眉毛の内側を上に引き上げる表情筋があるのだそうです(204~206ページ)。犬がそのように「進化」したというよりは、そういう人間に好かれる特性を持った犬が増殖された結果そういう犬が満ち満ちているということでしょうけど。でも、そういう表情筋が発達しているとして、犬がその表情筋を使ったとき、犬の内心でそれに見合った(人間がそうだと評価する)感情が生じているのかは、より緻密な実験・検証が必要に思えるのですが。


中野珠実 講談社現代新書 2023年12月20日発行
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動物園を100倍楽しむ!飼育員が教えるどうぶつのディープな話

2024-05-13 18:40:21 | 自然科学・工学系
 動物園などで見られる動物51種について、概ね3ページで、その生態や希少性(絶滅危惧の程度)等を解説した本。
 動物園の飼育員の話が中心ということからか編著者の関心からか、繁殖(発情期や交尾の方法、妊娠期間、1度の出産での出生数や出産の頻度、その後の子育て)と寿命の話題と餌・食事、飼育での注意点の話題が中心となっています。
 アルマジロの陰茎が全長の2/3に及ぶ(13ページ。そう書いていながら、「交尾では体長の約半分ほどにまで膨らんできます」って、謎)とか、アルマジロ類の多くは1日に16~18時間眠ります(12ページ)とか、トリビアが満載です。
 トナカイは硬い餌を与え続けると歯が著しく摩耗したり欠損する(41ページ)、ゴリラに野生でない人が食べる甘い果実をやるのは虫歯の元(51ページ)など、餌についての苦労話もいろいろとあり、興味深く読めました。


大渕希郷編著 緑書房 2023年7月10日発行
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化石に眠るDNA 絶滅動物は復活するか

2024-05-09 21:45:41 | 自然科学・工学系
 化石の中のDNA(古代DNA)研究の歴史と現在と今後のあり方について、「ジュラシック・パーク」(恐竜の血を吸った蚊が琥珀の中に閉じ込められた化石から恐竜のDNAを採取して恐竜を復活させる)の実現の可能性、恐竜ほど古いものは無理でも近年の絶滅動物なら復活させられるかというテーマを軸に、著者の愛読書の「桑潟幸一准教授のスタイリッシュな生活」(奥泉光)の例を用いながら論じた本。
 化石の中から採取したアミノ酸やDNAは、劣化し分断されている上に菌類や細菌が入り込んで増殖していたり、さらには採取・実験・検査の過程で別の(現生の)ものが混入するなどのおそれがあり、そもそも化石生物のものかどうかの同定からして難しいなど、学問・研究的な観点での慎重さが求められる一方で、PCRによるDNAの増幅技術やゲノム解読・塩基配列決定技術の進歩により絶滅種の復活も比較的最近絶滅した種であれば技術的には不可能ではなくなっていること、その中で絶滅種を復活させるということがいいことなのかとか、勉強になるとともに考えさせられる本でした。
 DNAの増幅やゲノム解読に関する技術的な説明には私には難しく思えたところがありましたが、それ以上に、著者が強調するクワコーの素晴らしさが、私には今ひとつ理解できないのが残念でした。


更科功 中公新書 2024年2月25日発行
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生命はゲルでできている

2024-04-26 20:34:33 | 自然科学・工学系
 生物の体が細胞から細胞外マトリックス、血管、腱、靱帯、軟骨、筋肉、皮膚など様々な階層でゲル状の組織でできていること、その性質、利点などを説明した本。
 ゲル(ドイツ語読み:英語読みではジェル)の例にゼリーやこんにゃくの他に豆腐やゆで卵、炊いたご飯やゆでた麺などが挙げられ(2ページ)驚きます。物理では、物質の3態として気体、液体、固体の分類がなされ、物質はその3つに分けられると思っていましたが、考えてみると生物の世界ではそう分類できないものが大半だと気づきます。通常は柔らかい流動性のあるものでも変形し流動する間もないほどのごく短時間にことが起こると硬いもののように振る舞う(外力を跳ね返す)、極めて速く足を動かせば水上を駆け抜けることもできるもので、時間スケールの取り方で固体のような性質も液体のような性質も持ちうるという説明があり(11~14ページ)、ちょっと目からウロコの気分がしました。そういう原理で水上を走るトカゲが表紙に採用されています。
 さまざまな生物組織やそれを構成する化学物質、構造の説明は、かみ砕いてなされているようで、でもわかったようなわからないような感じのところが多くありました。ゲルについての研究はまだ日が浅く、わかっていないことがとても多いというのですが。
 いろいろと視野を広げてくれる刺激に満ちた本でした。


長田義仁 岩波科学ライブラリー 2024年3月14日発行

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健康寿命をのばす食べ物の科学

2024-01-06 00:07:10 | 自然科学・工学系
 食品、食生活が健康に与える影響とその原因・機構に関する研究の現状等について解説した本。
 新書であること、序盤の語り口等から平易な本と思って読み始めましたが、中盤以降はカタカナ・英字の生化学物質名と構造式が頻出し、あぁ私はやっぱりこの分野(生化学)が苦手だったんだと再認識するハメになりました。化学物質とか亀の子(ベンゼン環)とかが苦手な人は220ページ以下のまとめだけ読むという方針が無難に思えます。
 私は、聞き慣れない生化学物質名が出てきたところで脳が固まってしまい/拒絶反応を起こし、説明内容の大部分が理解できていないので、たぶん私の理解不足なのだろうと思うのですが、母乳についての説明で「乳の源は血液で、乳一リットルをつくるのに血液四〇〇~五〇〇リットルが必要とされます」(206ページ)って、それでいいんでしょうか。母乳で乳児を育てれば授乳量は1日あたり1リットルくらいになるということですが、人間の体内の血液は通常5リットル程度といいますから、この記述だと、授乳中の母親は毎日全血液の100倍程度を消費し(乳に変え)ているということになりかねません。私の読み違いなら(なんといっても、私はこの本の説明のほとんどがちゃんとは理解できてませんから)それでいいんですけど…


佐藤隆一郎 ちくま新書 2023年4月10日発行
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はたらく土の虫

2024-01-03 21:14:16 | 自然科学・工学系
 土壌中に生息する虫たちの生態を解説した本。
 著者自身は、体長0.5~2ミリメートルくらいの節足動物「トビムシ」の研究を専門としている(世界中でトビムシを専門とする生態学者は50人くらいだとか:3ページ)そうですが、土壌生物
には「分解者」のイメージがつきまとうがミミズやシロアリのような特に影響力が強い者以外は野外では分解作用の検出さえ難しく分解にどれくらい寄与しているとも寄与していないとも断言できないとか(2~3ページ)、人工的な培養器の中でいろいろな餌を同時に与えると強い好き嫌いを示すトビムシが自然条件下では消化管内容物に大きな差はなく菌糸や胞子、腐食など多様な餌が入っている(105~106ページ)など、観察が難しい土壌動物について確定的に明らかにされていることはまだ少ない(133ページ)という研究者としての悩みが語られています。
 「はたらく土の虫」というタイトル、ほのぼのとしたタッチの挿絵から、子ども向けの本のようにも見えますが、しっかり大人向けの本です。


藤井佐織 瀬谷出版 2023年11月30日発行
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都会の鳥の生態学 カラス、ツバメ、スズメ、水鳥、猛禽の栄枯盛衰

2024-01-02 21:47:25 | 自然科学・工学系
 東京や著者の住む市川市を中心に都会で生息する鳥たち、特にツバメ、スズメ、カラス、水鳥、ハヤブサ・タカ・フクロウ等の様子を解説した本。
 人間の傍で営巣することで天敵のカラスから守られるツバメ、人の傍ではあるがツバメほど人に近づかず人目に付かないところで営巣するスズメ、バブル後急増したが生ゴミなどの対策で2000年以後東京では激減したカラス、駆除されなくなりまた緑地保護の動きもあって都市への進出が見られる猛禽類などの様子が紹介され、鳥と人との距離が論じられています。
 カラー口絵ではカラフルなイソヒヨドリやカワセミが目を惹きます。カワセミが、きれいな水のない都会で生息しているということには興味を持ち、より詳しく読みたいところですが、カワセミ関係は2ページだけ(142~143ページ)で、著者の関心はそちらにはあまり向かず、ほとんどのページがそれ以外のツバメ、スズメ、カラス、猛禽類などに当てられています。その辺、学者らしいということでしょうか。


唐沢孝一 中公新書 2023年6月25日発行

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津波 暴威の歴史と防災の科学

2023-12-23 22:08:54 | 自然科学・工学系
 津波被害の歴史を解説した本。
 津波研究者の手による研究書なのですが、時系列に沿った記述ではなく、また体系的な論述でもなく、著者の語る物語的な配列と流れで、過去の被害もインタビューに重きを置いた紹介をしていて、読み物風の構成・体裁になっています。
 現時点での日本の読者の目からは、津波というと東日本大震災を想起するのですが(原題の "TSUNAMI" からサザンオールスターズの歌を想起する人もいるかもしれませんが)、2011年の日本の津波被害に度々言及はしているもののそれを紹介した章はありません。海外の視点(著者の所属はオーストラリアとハワイ)からは東日本大震災は津波被害としては代表的なものではないということなのでしょう。1755年のリスボンの津波による経済的損害は2011年の津波で日本が被った経済的損害の約2倍と明記されている(224ページ)のを見ると、そう学ぶべきなのかと思いました。
 この本でエピソードを紹介する度、人間は歴史に/被害に学ばない、簡単に忘れてしまうという指摘が繰り返されています。肝に銘じておきたいと思いつつ、そういうもんなんですよねとも思ってしまいます。


原題:TSUNAMI The World's Greatest Waves
ジェイムズ・ゴフ、ウォルター・ダッドリー 訳:千葉敏生
みすず書房 2023年10月2日発行(原書は2021年)
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