クリーニング店のパートタイマーで出された衣類のポケットの金品をくすねている信代、怠け癖のある日雇いの建設作業員で万引きを続ける治、元夫の後妻の息子のところに通い暗に金をせびる年金生活者の初枝、両親の愛情を妹に奪われたと思い家出して初枝を慕い風俗店でバイトする亜紀、学校に行かず治と万引きを続ける祥太、両親に虐待されて家に入れてもらえずにいたところを祥太と治に拾われた「りん」、行き場のない血のつながらない6人が下町の片隅で肩寄せ合って暮らす様子を描いた小説。
社会の底辺での収入も乏しく安定しない生活、それもすねに傷を持ち現在も違法な行為を続けることで成り立っている生活、そして血縁もなく共同生活する義務もないところで、自主的にたくましく楽天的に続けられる共同生活を描くことで、家族や人生のあり方に疑問なり問題を投げかけています。この生活が、愛情・好意に基づくものだったのか、金のためだったのか、初枝が死んで亜紀は悩みますが、愛情・好意だけというきれいごとでもなく、といって金のためだけだったともいえないのでしょうし、そこは突き詰めなくても、さらにはどっちでも、まるっと飲み込んで、まあいいじゃないといっているような気がします。その意味で大きく包み込むような肯定感を示しているようですが、しかし同時に作者は、犯罪を基盤とする、寄せ集めの「家族」がいつか崩壊し、悪事を働いた者は処罰されることを描き、決して、この家族を肯定も是認もしていないという姿勢も見せています。それは作者の引き気味の姿勢なのか、批判者へのエクスキューズなのか…
信代と治のセックスレス夫婦が久々にセックスする場面が微笑ましい。映画で見たときに、美しい描写ではないのですが、安藤サクラがとてもセクシーに思えた場面で、セックスレスの多さや亜紀のバイトする風俗店での不器用なオタクたちなどの社会風俗を描写しているという面もあるかも知れませんが、映画にしたときの売りを作る商売っ気だなとも思いました。先に指摘した「犯罪者」家族を肯定するのかという批判にきちんと逃げ道を残していることも併せ、是枝監督は、やはり商業映画の監督なのだなと感じさせる点です。もちろん、商業映画の世界で社会問題が採り上げられることに意味があり、是枝監督の存在は貴重だと思うわけですが。
是枝裕和 宝島社 2018年6月11日発行
社会の底辺での収入も乏しく安定しない生活、それもすねに傷を持ち現在も違法な行為を続けることで成り立っている生活、そして血縁もなく共同生活する義務もないところで、自主的にたくましく楽天的に続けられる共同生活を描くことで、家族や人生のあり方に疑問なり問題を投げかけています。この生活が、愛情・好意に基づくものだったのか、金のためだったのか、初枝が死んで亜紀は悩みますが、愛情・好意だけというきれいごとでもなく、といって金のためだけだったともいえないのでしょうし、そこは突き詰めなくても、さらにはどっちでも、まるっと飲み込んで、まあいいじゃないといっているような気がします。その意味で大きく包み込むような肯定感を示しているようですが、しかし同時に作者は、犯罪を基盤とする、寄せ集めの「家族」がいつか崩壊し、悪事を働いた者は処罰されることを描き、決して、この家族を肯定も是認もしていないという姿勢も見せています。それは作者の引き気味の姿勢なのか、批判者へのエクスキューズなのか…
信代と治のセックスレス夫婦が久々にセックスする場面が微笑ましい。映画で見たときに、美しい描写ではないのですが、安藤サクラがとてもセクシーに思えた場面で、セックスレスの多さや亜紀のバイトする風俗店での不器用なオタクたちなどの社会風俗を描写しているという面もあるかも知れませんが、映画にしたときの売りを作る商売っ気だなとも思いました。先に指摘した「犯罪者」家族を肯定するのかという批判にきちんと逃げ道を残していることも併せ、是枝監督は、やはり商業映画の監督なのだなと感じさせる点です。もちろん、商業映画の世界で社会問題が採り上げられることに意味があり、是枝監督の存在は貴重だと思うわけですが。
是枝裕和 宝島社 2018年6月11日発行