伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年に続き2023年も目標達成!

羽田空港で働く。 ANAエアポートサービスのすべて

2016-05-31 00:14:22 | 実用書・ビジネス書
 ANA(全日空)の羽田空港でのオペレーション業務を統合したANAエアポートサービス株式会社の業務の紹介をし、羽田空港での働きがいを語ってリクルートにつなげようという企業紹介ヨイショ本。
 就活上の興味がない読者にとっては、羽田空港のオペレーションを支える人々、職種、特殊車両等の機械類の紹介と写真、特に空港の駐機スポットまわりの写真が見どころです。
 羽田空港で働くスタッフの責任感、プライドが強調されています。もちろん、人命に関わることがある業務ですし、公共交通機関に関わる業務ですから、強い責任感とプライドを持って働いて欲しいと思いますが、労働側の弁護士の目には、その重い責任を負う労働者が、どのような変則的で厳しい労働条件で働かされているのか、どのような待遇を受けているのかが、とても気になります。一番最後に2017年度採用正社員募集要項が記載されていますが、給与の記載や交替制勤務(早朝・深夜・夜勤あり)に関する記載はカットされています。ANAエアポートサービスのネット上の募集要項には書かれていることでさえ。
 現実には男性中心の業務にも、写真では女性の労働者を当てたがる。「コックピット内で活躍!『ブレーキマン』」という囲み記事(24ページ)では、「ブレーキマン」の写真は女性。もし女性が普通に就業しているなら、今どき「ブレーキマン」なんて呼称が生きているとは思えません。こういうところに職場の実態を偽ろうというさもしい根性が見えます。
 2016年1月13日に行われた「空港カスタマーズサービススキルコンテスト」で妊婦がグランプリに輝き、マタニティ制服姿の写真が掲載されている(62ページ)のは、JALのCA(客室乗務員)への休職命令でマタハラ訴訟が起こされているのに対するエクスキューズないしは、我が社はJALとは違うというアピールでしょうか。


イカロスMOOK イカロス出版社 2016年3月30日発行 
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蜃気楼のすべて!

2016-05-30 00:38:26 | 自然科学・工学系
 蜃気楼の原理、発生場所毎の観察スポットや見え方、研究の現状等を解説する本。
 下部が低温、上部が高温の逆転層ができたときに、空気中の光速が密度が低い(高温)部分で速く密度が高い(低温)部分で遅くなることから遠方からの光線が下向きに曲がり通常時よりも上から目に入ることになるために、遠方のものが上に伸び上がって見えるために蜃気楼が発生する、と説明されると、なるほどと思います。逆に下側が高温だと遠方からの光線が上向きに曲げられて下から目に入り下に遠方の景色が見える、それがアスファルトの道路が熱くなると「逃げ水」が見える原理とも。
 それを実験で見せるのに、砂糖水(密度が高い)を下側に注入した水槽を通して景色を見ると一番簡単に再現できるというのも、言われればなるほどと思います。
 でも逆転層が生じればいつも蜃気楼が見えるわけでもなく、蜃気楼の名所(例えば魚津)で逆転層が生じるメカニズムもまだ十分わかっていないそうです(魚津について、よく言われてきた雪解け水が流れ込んで海表面の水温が下がるためというのは間違いで、実は高温の大気が移流してくるのだけれどもどういうメカニズムで高温の大気が移流するのかは未解明だそうです)。蜃気楼の研究自体が、定点カメラ等の技術が進んだごく最近になって本格的に始まったばかりだとか。
 水平線に沈む太陽が歪んで四角く見えることがあるのも、蜃気楼と同じ現象なのですね。


日本蜃気楼協議会 草思社 2016年4月20日発行
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なにもないことが多すぎる

2016-05-29 19:08:36 | 小説
 「世界の中心で、愛をさけぶ」の片山恭一の最新作。
 高1のときにバンドを組んだ、ボブ・ディラン信者の「ぼく」とショージ、マルクス、史郎が、高1のときのバンドと島での野外演奏の後、原因不明の男性ばかりが罹る病気のためにショージが先に死に、他の3人が同じ病院に入院して19歳で死の影がちらつく中で「ぼく」が病院生活のあれこれを語る章と、「ジョー・パブリック」と称する正体不明の人物の観念論的な語りの章を交互に重ね、両者がつながらないままにだらだらと続けられます。「ぼく」の語りは、状況説明に乏しく、リアリティにも欠けていますが、まぁ一応普通の小説しています。しかし、「ジョー・パブリック」の語る章では、何が言いたいのか、話の行き着く先も見えず、「ぼく」の章との連携もなく、語りもいかにも観念論で気取った文体であることもあり、読者の忍耐力を試す実験小説かという疑いを持ち続けました。「ジョー・パブリック」の語りに共感もできず早くこの章が終わって欲しいという思いで惰性でページを繰っていたため「ジョー・パブリック」の正体はなどという興味も持てませんでした。我慢して読み進むうちに、慣れはしましたが、それでも何を目的にこれを挟み続けているのか、私には理解できませんでした。「ジョー・パブリック」の正体に興味を持ち続けられる読者がどれだけいるのでしょう。そしてもしそういう読者がいたら、読み終わったときに失望感を持たずにいられるでしょうか。
 「ぼく」の語りパートだけでも観念的に過ぎるきらいがあるとはいえ、せめて「ぼく」のパートだけで完結してくれたら、最後の悟り的なものへの流れで、そこそこには共感できたかも知れないとも、思えましたが。


片山恭一 小学館 2016年4月25日発行
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負け逃げ

2016-05-28 23:37:20 | 小説
 田舎の高校で、生まれつき右脚が不自由な教室では優等生の野口が夜は誰彼構わずセックスして車から放り出されるのを見た教室ではいつも1人ウォークマンを聴いている同級生田上の歪な感情、密かに漫画家を志望していたところクラスで浮いている鈍くさい美輝が自己陶酔的な漫画を密かに書いていることを知り批評を続ける真理子の優越感とやっかみ、同僚教師と不倫を続けつつ結婚を誓いながら成就しなかった過去の恋人の幻影に引きずられているさえない中年の生物教師ヒデジの閉塞感、優しく優秀だったが引きこもり後失踪した兄に複雑な思いを持ち続けクラスメイトとの交際に巧く入れないやんちゃな高校生小林の鬱屈した心情、飲んだくれキャバクラ嬢と浮気する夫と母親の作ったものを食べず口も聞いてくれない娘に悩み同僚教師との不倫に走る志村妙子の悲哀、心が通わない母に優等生の顔を見せながら誰彼構わずセックスを続けつつ不器用な同級生田上を気にかける野口の当惑、といった田舎から出たい/出られない/故郷に残るしかない/残りたい思いと諦めを載せたけだるい群像劇短編連載。
 冒頭の「僕の災い」の書き出し「野口は、この村いちばんのヤリマンだ。けれど僕は、野口とセックスしたことがない。」がとても印象的で刺さる。小説の書き出しの重要さを語る教材として、「国境の長いトンネルを抜けると雪国であった。」と並べてもいいかも (^^ゞ


こざわたまこ 新潮社 2015年9月20日発行
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警視庁情報官

2016-05-27 23:50:23 | 小説
 警視庁が秘密裡に開設した情報部門「警視庁情報室」の情報官黒田純一を主人公とする警察小説。
 シリーズ第5作まで出ているものの第1作なので、ハズレはないだろうと思って読んでみましたが、小説としては、ハズレでした。警視庁情報室の黒田純一が出社すると情報室を告発する怪文書が出回り、同時に世界平和教(この小説での位置づけからすると明らかに統一教会)への家宅捜索開始の情報が入るというプロローグは、普通に小説しています。しかし、その後は、ストーリー展開などどうでもよいと考えていると思われる、まるで警視庁情報室の沿革(社史)か黒田純一の伝記のように、布石も落ちも考えない昔語りが順を追って延々と続きます。プロローグに戻ってくるのは何と最終章第4章の終盤の341ページ。しかも、作者は黒田純一に自己を投影していると感じられるのですが、その黒田純一がとんでもなく有能・万能のエリートで、そのエリートが一切しくじらずそつなくエリート街道を進んでいき、周囲から賞賛され続けるというのは、小説ではなく、公安警察官としての作者の幻想/妄想を綴っているように思えます。このストーリーとしての面白さを考えず、自己を投影したエリートの成功妄想をひたすらに展開するという2つの点で、ストーリーテラーとしての意思を持たない者の文章を読み続けるのは、読書としては苦痛です。
 公安畑を歩んだ作者が、警視庁公安部の実情、ディテールを描いたという点では、その情報部分は興味深く参考になりますが、小説・娯楽作品として読むのには、無理があると思います。
 なお、「法務省記者クラブは通称『司法クラブ』と呼ばれ」(317ページ)とされていますが、私のおぼろげな記憶(もう20年あまり前の日弁連広報室時代の記憶ですが)では、「司法記者クラブ」は裁判所(東京高裁)所属の記者クラブで、法務省の記者クラブは「法曹記者クラブ」と呼ばれていたはずです。


濱嘉之 講談社文庫 2010年11月12日発行(単行本は2007年12月)
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落英 上下

2016-05-26 00:51:00 | 小説
 大阪府警本部薬物対策課の刑事2人が、覚醒剤の売人の捜査の過程で拳銃を発見し、それが迷宮入りしている殺人事件に使用された拳銃だと判明して、その殺人事件の専従捜査に投入されるという展開の警察小説。
 捜査1課の刑事ではなく、薬物対策課の刑事を主人公に据えたのが1つのアイディアなんでしょうが、裏表紙の紹介で想定される殺人事件のミステリーではなく、薬物対策系・暴力団対策系の警察官のアウトロー無頼小説です。主人公の桐尾自身、脅迫と暴力で売人を締め上げて検挙し続け、かつて自分が担当した事件の被疑者のヘルス嬢と関係を持ち続けているという、外れ者の、しかし大阪府警ならいかにもいそうな強面警察官です。それに後半登場する和歌山県警が持て余す外れ者警察官満井のはちゃめちゃぶりが合わさって、後半はどんどん危なく外れていきます。そのキャラクターの味わいと、外れっぷりが読みどころです。
 前半の地味な、しかし法的な建前からするとすでにかなりむちゃくちゃな捜査のスローペースな展開から、満井登場後の派手な無軌道ぶりへの変化で読ませています。ちょっと、前半のあまり動かない展開でページを取り過ぎているきらいがあり、もう少し早めに動かした方が読み物としてはよかったと思います。


黒川博行 幻冬舎文庫 2015年10月10日発行(単行本は2013年3月)
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仕事文具

2016-05-25 00:43:55 | 実用書・ビジネス書
 「ステーショナリーディレクター」「文具コンサルタント」(そんな仕事があるんですね)の著者が、仕事に使う文具商品を紹介し蘊蓄を語る本。
 「『仕事文具』と題したこの本では、仕事をさまざまなシーンに分け、その場面で便利に使える文具をセレクトして紹介している」(まえがき)というのですが、この「まえがき」前半で「このように私には、この作業をするにはこの文具、といった自分なりのルールがある」と言って書き出している著者お気に入りの文具のうち、( iPad touch は文具でないとして、また PEAK のルーペも文房具でないとしたとしても)パイロットの「カスタム823」太字万年筆と高橋書店のマンスリー手帳が紹介されていません。パイロットの「カスタム743」(144ページ)、ディーブロス・クリエイターズダイアリー(73ページ)、あたぼうスライド手帳(74ページ)、ロンド工房ブラウニー手帳(75ページ)、レイメイ藤井カードサイズダイアリー(76ページ)は紹介されているのに。雑誌連載をまとめたものだから、まえがきと齟齬が生じたのでしょうけれども、こう言ってはなんですが、私だったら、こういうまえがきをつけるなら雑誌連載時に紹介しなかったお気に入りは書き下ろしで追加します。そういうところが処理されていないのは、本作りがやっつけ仕事なのかなと感じてしまいます。
 カタログで読まされると、あれば便利というか、あぁこういう商品/機能が開発されているんだと驚いて欲しくなるという商品を紹介され、たいていはビックリするほど値段が高く、そこでまぁなくても困らないよねと思い直すことが多い本でした。


土橋正 東洋経済新報社 2016年4月21日発行
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国税局資料調査課

2016-05-24 21:28:23 | 実用書・ビジネス書
 「料調(リョウチョウ)」の略称で有名な国税局資料調査課(リョウチョウがすでに有名になってしまったため、国税局内では「コメ」と呼ばれているそうです)について、元国税局資料調査課所属の国税実査官が解説した本。
 サブタイトルは、「マルサを超える最強部隊の真実」。このあたり、国税職員間の対抗意識が感じられます。
 プロローグ(16~29ページ)で紹介される、著者の行った税務調査の実例(をアレンジした)の説明が、一番興味深く読めます。同様の実例の話は、あとは最後の「第6章 調査事例 コメの現場から」に4例紹介されていますが、こちらは短くまとめられて抽象的であまり面白みがありません。最先端の課税逃れとその摘発は、高度な経済専門技が駆使されて、詳しく説明されても一般人には理解できないかもしれませんが。途中にも細切れのエピソードがありますが、どちらかというと行政官の苦労話/愚痴と行政の組織等の話が多くなっている印象です。それはそれで興味深いともいえますが。また、課税逃れを考えている人(初心者)には、「敵を知る」いい材料になるのかも知れませんが。そこにはあまり興味のない私には、読み物としては、プロロ-グの調子で、実例を次々紹介し続けてくれたら最高に面白いものになったと思うのですが。
 「事前調査の段階では客を装って店に入ることもある」「風俗店の場合は、運が悪いと性病をうつされることもある。文字通り過酷な現場だ。」(50ページ)…確かに過酷ですが、その事前調査で風俗店に行って性病をうつされるようなことをする費用はやはり自腹じゃないでしょうから、税金ですよね。


佐藤弘幸 扶桑社 2015年7月10日発行
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ひと目でわかる!モノの見分け方事典

2016-05-18 21:06:05 | 実用書・ビジネス書
 「辛いシシトウの見分け方」「甘いミカンの見分け方」等の、トリビアと言うほど奥が深くない「見分け方」を、1項目1ページのイラスト+若干のコメントで説明する本。
 今読者の関心を最も惹くであろう「大震災でも安心 耐震性の高いマンションの見分け方」という項目で「見分けるカギとして有力なのが、1981年6月1日に施行された『新耐震基準』。震度6~7クラスの地震でも、建物が倒壊しないくらいの強度を持つという証である。」(100ページ)って、何をどうやって見分けろと言ってるんだろう。1981年以降施工ならOKって言ってるんでしょうか。耐震偽装とか、杭打ち工事データ偽装とかの不正が発覚して、その耐震基準通りに作られていないマンションが相当数あることで、世間の人々が心配しているわけです。「耐震性の高いマンションの見分け方」なんてタイトルつけるなら、その「見分け方」を書かないで何の意味があるんでしょうか。
 「ポイントは4つ 電車ですぐ降りる人の見分け方」(154ページ)では、「寝ていない」「窓の外を気にしている」「スマホを手にしているが見ていない」とイラストに描き込まれています。でも、こういう態度を取りながらフェイントで降りない人、けっこういるように思えます。いかにも降りそうな態度で、性格悪いのが。


ホームライフセミナー編 青春出版社 2015年11月1日発行
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最新重要判例200労働法[第4版]

2016-05-17 23:13:06 | 実用書・ビジネス書
 労働事件の著名判例を1判決1ページで紹介していく本。
 労働法を学ぶ/研究する人々、労働事件を取り扱う法律実務家には、日頃から労働判例を頭に入れておき、時々一気にレビューすることは、仕事がら有益です。しかし、通読するのは、性質上なかなかしんどく、といって仕事上の必要が生じたときに調べるという使い方には1判決1ページ程度の解説では物足りません。そういう意味では中途半端な出版物です。「最新重要判例」と銘打ちながら、掲載判例は201件中「昭和」が67件(33%)、1900年代が124件(62%)というのも、どこが「最新」だと言いたくなりますし(確かに新しい判決も入ってはいるのですが)。
 私にとっては、私とは立場を大きく異にする(例えば、国労バッジをつけたまま職務に就いた労働者を通常業務から外して火山灰の除去作業をやらせたという、私には組合嫌いの職制が嫌がらせでやらせたとしか思えないものを「職務管理上やむをえない措置」で適法な業務命令とする国鉄鹿児島自動車営業所事件最高裁判決を嬉々として1番目に持ってくるセンスとか)著者による判例の解説を読むことは、あぁこういう読み方をする人もいるというか、使用者側(反労働者側)はこういう理屈をつけようとするんだということの勉強になります(不当労働行為などでは、労働者側に寄ったと見える解説をしているものもありますが)。そういう意味で、判例の復習という面の他にも、私にとっては刺激になる読み物でした。


大内伸哉 弘文堂 2016年4月15日発行
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