伊東良徳の超乱読読書日記

読んだ本の感想を中心に本に対するコメントを書き散らします。読み終わった本は図書館に返すのでフォローは保証できません。

タラ・ダンカン5 禁じられた大陸 上下

2008-07-30 00:59:50 | 物語・ファンタジー・SF
 圧倒的な魔力を持つ14歳の少女タラ・ダンカンが、魔術師や泥棒、エルフ、小人の友人たちとともに敵と戦うアドベンチャーファンタジー。著者が10巻まで書くと宣言しているシリーズの第5巻です。
 第4巻までは舞台となる「別世界」の西側だけで話が展開していましたが、第5巻で東側に「禁じられた大陸」があることが明らかにされ、ドラゴンたちが封鎖しているその禁じられた大陸に、タラの友人が幽閉され、それを助けに行くタラたちの冒険が展開されます。
 第1巻からずっとそうですが、展開の速さを狙ってか、エピソードがたくさん詰め込まれる傾向にあるので、話があちこちして、慣れないとそれなりに注意して読んでいても話について行けなくなって読み返したりするハメになります。
 第5巻では、タラももうすぐ15歳ということもあり、登場人物間の恋愛関係というかいちゃつきシーンが増えています。
 基本的に荒唐無稽な軽めのラブコメ的ファンタジーと読むべきですが、第5巻の終わりで禁じられた大陸が解放されて「オオカミ人間たちはといえば、別世界を自由に移動することをゆるされ、奴隷制度のない暮らしがどんなものかを知り、その生活に大いに満足した。ただしそれも、彼らが“市場経済”やら“民主主義”といった、何やら耳に心地よい言葉とかかわり合いになり、“政府”というものをつくらねばならなくなる時までだった。」(下341頁)という表現が出てきて目を引きました。ハリー・ポッターやペギー・スーに影響されたのか現代政治を皮肉る意欲が出てきたのでしょうか。ちょっと注目しておきたいと思います。
 毎回、一番最後の数ページで新たなできごとを引き起こし、次巻に続くという終わり方をするのが、いかにも安っぽい連続ドラマ風で、最後に興ざめして終わるのが読後感を悪くしています。


原題:TARA DUNCAN , LE CONTINENT INTERDIT
ソフィー・オドゥワン=マミコニアン 訳:山本知子・加藤かおり
メディアファクトリー 2008年7月18日発行 (原書は2007年)
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流れ行く者 守り人短編集

2008-07-28 01:06:06 | 物語・ファンタジー・SF
 守り人シリーズの外伝的な短編集。
 シリーズ第1作の精霊の守り人より前の短槍使いバルサの少女時代、養父ジグロと連れだってカンバル王国からの追っ手を避けながら武道の訓練を受け護衛士として鍛えられながら育っていった経緯を短編でまとめています。
 少年時代のタンダの思いと、素っ気ないながらにタンダに好意を持つバルサの関係がほほえましく読めます。護衛稼業を通じて大人の男たちの喧嘩だけでなく、サイコロ賭博にも知識と技を深めていくバルサのたくましさには、同時に少し胸を痛めますが。
 基本的には、守り人シリーズ10巻を読み上げたファンのもっと読みたいという渇望感と、バルサの幼少期やタンダとのつきあいを知りたいという欲求へのファンサービスという意味合いの強い本です。守り人ファン、バルサファンには満足の1冊です。守り人シリーズを1冊も読んでいない人には、なんだこりゃという本でしょうけど。


上橋菜穂子 偕成社 2008年4月発行
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生協の白石さん お徳用エディション

2008-07-27 01:52:42 | 趣味の本・暇つぶし本
 東京農工大学生協の客(学生)からの注文・意見等を記載した「ひとことカード」への生協職員からの回答をまとめた本。
 インターネットでブレイクし、2005年に出版された生協の白石さんの改訂増補版です。
 ひやかしネタや無理筋の相談にも、ユーモアを持って答えようとする姿勢が、ヒットしてブームが鎮静化した後も続けられていることがわかります。職場が続いているのだから当たり前ですが。もっとも、面白くしようとしてムリしてる感じも見受けられますが。
 でも、こういうやりとりを、少し余裕を持っておもしろがれる環境があることはいいことですね。やはり大学という場の性質と限られた人達のコミューンだということで成り立つ部分が大きいと思います。


白石昌則 講談社 2008年4月1日発行
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謎の転倒犬

2008-07-27 00:44:44 | 小説
 就職難で就職先が見つからず売れっ子占いの助手に就職するハメになった石狩拓也の目で、占いの客をめぐるトラブルを占い師摩耶優麗が推理して解決する様子を語るパターンの短編ミステリー連作。
 ミステリーとしてはトラブルの中身も軽めで謎解きも深くなく、どちらかといえば登場人物のキャラ設定でコメディ仕立てにした軽い読み物と位置づけた方がよさそう。素顔なら若いときの岩下志麻似で25~6に見えるのに営業用に化粧をすると40代、その化粧が剥げかけると50代に見える女性占い師とか、腕っ節は強くて有能でオネェ言葉の経理部長とか。こういうクセの強いキャラに囲まれてこき使われ続ける押しの弱い主人公ってのは、まぁありがちな設定ではありますが。
 飛び飛びの連作のため、就職の経緯や登場人物の紹介がダブり、続けて読むには目障りな感じ。書かれた時期が数年前で、読んでいてアレッと思うことが多々ありました。あとがきでも「就職難」っていってもとか言い訳していますが、それよりも定期券が自動改札に差し込むタイプだというのを「最近は、たいていの定期券がそのタイプだろう」(165頁)って・・・いったいいつ書いた本?と思いました。


柴田よしき 東京創元社 2008年5月30日発行
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ハリー・ポッターと死の秘宝 上下

2008-07-26 16:47:23 | 物語・ファンタジー・SF
 ベストセラーファンタジーとなったハリー・ポッターシリーズの完結編。
 6巻で近年最強の闇の魔法使いヴォルデモートを倒すためには7つの分霊箱を破壊した上でヴォルデモート自身を倒さねばならないと知ったハリー・ポッターが親友のハーマイオニー及びロンとともに分霊箱を探し求めながら、ダンブルドア校長の遺言から知った死の秘宝の謎を解き、ハリーがヴォルデモートとの最終対決に臨むというストーリーです。
 原書で読んだとき一番わからなくて自分の英語読解力を怪しんだ35章は、日本語版でも今ひとつ本当はどこなのか、なぜ「キングズ・クロス」なのか、ハリーの夢なのか、はっきりしない感じがします。ダンブルドアがハリーに僕は死んでいる?と聞かれたときの答の「全体としてみれば、ハリーよ、わしは違うと思うぞ。」って、またあいまい。ハリーとダンブルドアがどこかの「場所」で出会って語り合うのではなく、ダンブルドアが(絵の中からスネイプに語りかけることができるのと同様に)ハリーの頭の中に語りかけているということなんでしょうねと、読み返して理解しました。読み違いかもしれませんが。
 語学力の関係で、日本語版での方が、友人たちを失ったときのハリーの哀しみを共感できた感じがしますし、ハーマイオニーへの愛しさ(ハリーが思っているということでなく読者としての私が感じる)、ルーナのとぼけた暖かみ、ネビルのたくましさがより強く感じられました。
 主要言語のほとんどで2007年のうちに発売されていることを考えれば信じられないほど遅い発売ではありますが、日本語版の存在はやはりありがたいと思いました。


J.K.ローリング 静山社 2008年7月23日発行
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あたらしい図鑑

2008-07-26 14:30:55 | 小説
 13歳の野球少年が、足を捻挫してついでに扁平足を直すために病院に通ううちに知り合った老詩人との交流を通じて、思春期の性と人間関係に目覚めていく青春小説。
 少年が老詩人のことを調べるために行った図書館で出会った少女に一目惚れして、そこから内向的に性に目覚めていく過程と、老詩人とのつきあいで言葉にならない感情を「図鑑」化することで人間の気持ちの機微に触れ、また大人・老人への理解を深めていく過程が並行し最後に重なり合う形になっています。
 登場させる大人を、老人でありながら巨漢の詩人という型破りな設定にすることで、説教臭さを避け少年の心に入りやすくしているところがポイントでしょう。比較的素直な友だちと絡ませることで、主人公の気持ちを少しひねた部分を作りながらもあまり外さずに素直な方向に戻していて、親世代には安心な読み物です。


長薗安浩 ゴブリン書房 2008年6月10日発行
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人は、永遠に輝く星にはなれない

2008-07-21 08:30:21 | 小説
 総合病院の医療ソーシャルワーカー猪口千夏の元に訪れる様々な患者・家族、特に譫妄で病院に送られてきた87歳の独居老人西原寛治との出会い、相談を通じて、高齢と病、失業などによる不幸と生活の悩みを描いた小説。
 突然の事故や病に襲われて途方に暮れ、生活に困る人々、高齢のため否応なく体が不自由になってくることへの受容と拒絶意識、客観的には恵まれているのに自らの不幸を嘆き続ける人、自らの努力で切り開こうとせずに愚痴ばかり言い続ける人、ソーシャルワーカーの元を訪れる様々な客観的・主観的問題を抱えた人々を描くことで、人がいつまでも自分の思い通りではいられないことを語っています。結局は、自分で自分の現状を受け容れ、現実の条件の下でできることをやっていくしかない、その答えに気付きたどり着くことの難しさがメインテーマだと思います。
 健康には問題のない独居老人をもう1人の主人公に据えることで、事故や病気にあわなくてもいつかは高齢のために自分の思い通りには行かなくなる、そのことにあなたは向き合えますか、と問うているわけです。そして、それをケースワーカーの目から見ることで、自分の家族にそういう日が来ることへの覚悟も。
 ソーシャルワーカーの生き様のストーリーにはなっていますが、結局はそこよりも人生の末期への受け容れの覚悟が問われて、小説を読んだ気がしない重い読後感を持ちました。


山田宗樹 小学館 2008年6月22日発行
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恋人たち

2008-07-20 16:13:55 | 小説
 子どもの頃ベランダから飛んで右足が重くなる発作の後遺症を持つイラストレーター瀬川彩夏と15歳年上の広告代理店勤務の大貫さん、自損事故で視力と恋人を失った舞子と同乗していた舞子の恋人の友人恭一の2組のカップルが、彩夏が舞子に絵のモデルを頼んだことから絡んでいく恋人たちの日々を綴った小説。
 2組のカップルの絆は緩やかで(どちらも結婚は予定していない)揺らぐように見えて揺らがない、それぞれの中で絆を確かめ深めていく様子が、1話ごとに彩夏と恭一の視点で語られていきます。
 絵画とグルメっぽい小洒落た優雅な生活に、時折不安を感じつつも今の生活を肯定的にかみしめていく、安心感のあるお話です。長くこんな洒落た関係が続けられるかという疑いと羨望がおおかたの読後感になるでしょうけど。
 作品を通じる感覚が、マチスの絵を題材にしているように、カラフルでぺったりとした色彩で、それが楽しそうに見えます。私はマチスって昔から苦手なんです(はっきり言って巧くない絵は苦手です)が、美術としてでなく生活のシンボルないしアナロジーとしてはいいのかもなんて思ってしまいました。


野中柊 講談社 2008年5月27日発行
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あなたの呼吸が止まるまで

2008-07-20 12:11:01 | 小説
 舞踏家の父親と2人暮らしの小6少女朔ちゃんの父子関係、友だち関係、そして信頼を寄せた大人との関係とその裏切りを描いた青春小説。
 赤字を出しながら舞踏の公演を続ける父とともに母親に見捨てられて大人びた朔ちゃんが、優しいし朔ちゃんを認めてくれるけど舞踏のことになると朔ちゃんのことも忘れてしまう父や周辺の大人たちに寄せる思いと視線が、温かでしかし切ない。そして自分の思ったことをはっきり言い妥協しない同級生鹿山さんとの友情と憧れ、優しいけど事を荒立てたくなくて完璧な嘘をつこうとする田島君との友情、とりわけ孤立しても凜として最後には意地悪な同級生も圧倒していく鹿山さんの存在感と最後まで続く朔ちゃんとの友情が、暖かい。
 朔ちゃんを大人扱いしてくれて、それがうれしくもあり信頼を寄せていた父の友人の男性に裏切られ性的な行為を強要されて傷ついた朔ちゃんを、あからさまなうちひしがれた様子ではなく、精神的に深いダメージを受けてまわりにはどこか変と思われつつも気づかれないという状態で描いているところが作者の問題意識を示していると思います。朔ちゃん、かわいそう(T_T) でも、あからさまに相談することなく、父親との関係や友人との関係に精神的に支えられながら、自分で自分なりにけりを付けていく朔ちゃん。まだこれからの闘いが予想されますが、朔ちゃんの意志とそれを支えてくれる人間関係が、少し明るい展望を見せてくれます。がんばれ朔ちゃんって気持ちで、切ない読後感です。


島本理生 新潮社 2007年8月30日発行
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ゼウスの檻

2008-07-19 10:54:38 | 物語・ファンタジー・SF
 遺伝子操作によって創り出された雌雄同体の新人類「ラウンド」をめぐり、木星の実験宇宙ステーション「ジュピターⅠ」の中の特区内でのみ生育を許可して実験を続ける政府側とラウンドの存在を許さないとしてテロ攻撃を企てる過激派組織「生命の器」が攻防戦を展開するというストーリーのSFアクション小説。
 テロリスト稼業を引退して研究者になっていたが「人質」をとられやむなく「生命の器」に雇われてジュピターⅠに潜入するカリナと、警備隊の隊長城崎を軸にストーリーが展開していきます。冷酷非情に殺戮を続けるカリナの姿には、主人公の1人ではありますが共感することは難しい。それでもカリナの持つ数少ない人間的な想い出「夏のドーム」(267~269頁)の少年が警備隊長城崎である(22~24頁)ことは、この種のドラマのお約束とも言えますが、皮肉な運命です。その点は2人には自覚されませんし、強調もされていませんから読み流してたら気づかないかもしれませんけど。
 作者あとがきではラウンドをめぐる議論とドラマを通してジェンダーとセクシャリティを描くことに主眼があるように書かれています(305頁)。メインテーマがそこにあることは明らかですが、私は実はそこよりも研究者(フォン・シャイオー=カリナvsクライン)の研究対象への偏愛と性(さが)の方により重いテーマを見てしまいました。クラインのラウンドに寄せる思いと度々示されるラウンドを守るためなら・・・という決意。そして具体的に書くとあんまりネタバレですから書きませんけど、殺人機械のように冷酷に殺戮を続けるカリナとエウロパの微生物やさらにはラウンドに対する態度の落差。ありそうな感じもしますが、しかしそれはあんまりだと・・・


上田早夕里 角川春樹事務所 2004年11月8日発行
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