四日市市内の県内有数の進学校八稜高校、通称「ハチコウ」に迷い込んでいたところを拾われてそのまま校内で飼われることになった犬「コーシロー」の面倒を見る「コーシローの世話をする会」(略称コーシロー会)の中心メンバーの3年生時の様子を、昭和63年度、平成3年度、平成6年度、平成9年度、平成11年度そして令和元年度と飛び飛びに描いた短編連作。
進学校の3年生、受験生の青春模様が描かれているのですが、それぞれの話の最初と最後がコーシローの目から見た描写になっていて、コーシローには人間には感じられない恋心が分泌する匂いがわかるという設定になっているところが秀逸です。年度ごとに主人公が交代して全体としては群像劇ではありますが、第1話の主人公のパン屋の娘塩見優花と国内最高峰の美大を目指す早瀬光司郎は、その後も少しずつ顔を出し、この2人のスッキリ踏み切れない切ない恋愛感情が通しテーマとも言えます。そのもどかしさと切なさが読みどころでしょうね。
八稜高校は近鉄富田山駅の隣(10ページ、191ページ)というのですが、近鉄には「富田山」駅はなくて、近鉄名古屋線で近鉄四日市から4駅目の「近鉄富田」駅の隣に県立四日市高校(通称四高:しこう)という作者の出身校があります。作者は、1969年生まれという生年だけが公表され、遅生まれで一浪していれば第1話と同じ昭和63年度の高3生になりますが、いずれにしても塩見優花・早瀬光司郎とほぼ同じ時期・場所で過ごしていて、土地勘と時代の風潮がリアルに描かれ、思い入れも十分なのだと感じました。

伊吹有喜 双葉社 2020年10月18日発行
「小説推理」連載、2021年本屋大賞3位
進学校の3年生、受験生の青春模様が描かれているのですが、それぞれの話の最初と最後がコーシローの目から見た描写になっていて、コーシローには人間には感じられない恋心が分泌する匂いがわかるという設定になっているところが秀逸です。年度ごとに主人公が交代して全体としては群像劇ではありますが、第1話の主人公のパン屋の娘塩見優花と国内最高峰の美大を目指す早瀬光司郎は、その後も少しずつ顔を出し、この2人のスッキリ踏み切れない切ない恋愛感情が通しテーマとも言えます。そのもどかしさと切なさが読みどころでしょうね。
八稜高校は近鉄富田山駅の隣(10ページ、191ページ)というのですが、近鉄には「富田山」駅はなくて、近鉄名古屋線で近鉄四日市から4駅目の「近鉄富田」駅の隣に県立四日市高校(通称四高:しこう)という作者の出身校があります。作者は、1969年生まれという生年だけが公表され、遅生まれで一浪していれば第1話と同じ昭和63年度の高3生になりますが、いずれにしても塩見優花・早瀬光司郎とほぼ同じ時期・場所で過ごしていて、土地勘と時代の風潮がリアルに描かれ、思い入れも十分なのだと感じました。

伊吹有喜 双葉社 2020年10月18日発行
「小説推理」連載、2021年本屋大賞3位