さまざまな依存症を紹介し、依存症が他人事ではないことを指摘し、依存症について巷間言われ信じられている誤解について論じた本。
依存症は脳が快をもたらした経験に過敏に反応しコントロールがきかなくなった状態で、依存症患者は繰り返しにより次第に「快」は感じられなくなってもやめられず、その状態では本人はすでに「好き:Like」だからやっているのではなく、ただ「脳が欲している:Want」からやめられない、本人がやめたくてもやめられないのだというのです(21~29ページ)。言ってみれば依存症は「快」にまつわる「記憶の病」で(26ページ)、その結果、治療は「かつての快の記憶が消えるまで」続けなければならず、「より科学的な答として、脳の中で活動をやめたドパミン・トランスポーターが再生を始めるまで、少なくとも二年間はかかる」のだそうです(246ページ)。
この本では、アルコール依存症、ニコチン依存症、薬物依存症、ギャンブル依存症、オンラインゲーム依存症、糖質依存症、性的依存症をとりあげ、「実はわが国で最も多い病気の一つが依存症である」(5ページ)、「依存症やその予備軍は『国民病』あるいは『現代病』と言っていいほど、現代の日本社会に蔓延していると言っても過言ではないだろう」(6ページ)と述べています。その中で著者は、タバコやアルコールの依存性が違法薬物に引けを取らず覚醒剤より強いこと(56ページ、67~68ページ)、薬物を摂取したからといって多くの人が依存症になるわけではなくヘロインで35%程度、覚醒剤で20%程度、アルコールは4%程度に対しタバコは80%以上が依存症になる(98~99ページ)と指摘しています。それでも、著者は、国連薬物犯罪事務所(UNODC)に勤務し(112ページ)法務省矯正局に勤務していた(254ページ)こともあってか大麻やMDMAの解禁には反対しています。ただ、厳罰化したり自己責任をいっても治療・回復できないので、認知行動療法などによる治療を勧めることが現実的だというスタンスです。
依存症の治療は、単に薬物等を「止める」苦行ではなく、より楽しいことを知り実践することだ(ラットの実験でさえ、麻薬(モルヒネ)漬けにされたラットでもたくさんの遊具を用意し多数のラットと同じ檻に入れるとモルヒネには見向きもしなくなる:93~95ページ)という依存症の治療の章のまとめ(265~269ページ)が印象的で、考えさせられました。まわりで関わる人びとの心労・心痛は並大抵ではないでしょうけれど。

原田隆之 文春新書 2021年3月20日発行
依存症は脳が快をもたらした経験に過敏に反応しコントロールがきかなくなった状態で、依存症患者は繰り返しにより次第に「快」は感じられなくなってもやめられず、その状態では本人はすでに「好き:Like」だからやっているのではなく、ただ「脳が欲している:Want」からやめられない、本人がやめたくてもやめられないのだというのです(21~29ページ)。言ってみれば依存症は「快」にまつわる「記憶の病」で(26ページ)、その結果、治療は「かつての快の記憶が消えるまで」続けなければならず、「より科学的な答として、脳の中で活動をやめたドパミン・トランスポーターが再生を始めるまで、少なくとも二年間はかかる」のだそうです(246ページ)。
この本では、アルコール依存症、ニコチン依存症、薬物依存症、ギャンブル依存症、オンラインゲーム依存症、糖質依存症、性的依存症をとりあげ、「実はわが国で最も多い病気の一つが依存症である」(5ページ)、「依存症やその予備軍は『国民病』あるいは『現代病』と言っていいほど、現代の日本社会に蔓延していると言っても過言ではないだろう」(6ページ)と述べています。その中で著者は、タバコやアルコールの依存性が違法薬物に引けを取らず覚醒剤より強いこと(56ページ、67~68ページ)、薬物を摂取したからといって多くの人が依存症になるわけではなくヘロインで35%程度、覚醒剤で20%程度、アルコールは4%程度に対しタバコは80%以上が依存症になる(98~99ページ)と指摘しています。それでも、著者は、国連薬物犯罪事務所(UNODC)に勤務し(112ページ)法務省矯正局に勤務していた(254ページ)こともあってか大麻やMDMAの解禁には反対しています。ただ、厳罰化したり自己責任をいっても治療・回復できないので、認知行動療法などによる治療を勧めることが現実的だというスタンスです。
依存症の治療は、単に薬物等を「止める」苦行ではなく、より楽しいことを知り実践することだ(ラットの実験でさえ、麻薬(モルヒネ)漬けにされたラットでもたくさんの遊具を用意し多数のラットと同じ檻に入れるとモルヒネには見向きもしなくなる:93~95ページ)という依存症の治療の章のまとめ(265~269ページ)が印象的で、考えさせられました。まわりで関わる人びとの心労・心痛は並大抵ではないでしょうけれど。

原田隆之 文春新書 2021年3月20日発行