詩はどこにあるか(谷内修三の読書日記)

日々、読んだ本の感想。ときには映画の感想も。

岡島弘子「水平線」、村野美優「伐られてしまった木の上に」

2019-06-24 22:58:28 | 詩(雑誌・同人誌)
岡島弘子「水平線」、村野美優「伐られてしまった木の上に」(「ひょうたん」67、2019年02月28日発行)

 岡島弘子「水平線」。

かきまわされ さかさまにされ
ぶちまけられても
ながれながれて どこかで仲間を呼び合い
水たまりになり
おだやかな水平線をつくる 水

 一行目の音の響きが刺戟的だ。岡島には書かなければならないことがあるのだ、ということがわかる。二行目は強引だ。乱暴だ。しかし、「れ」の音が一行目と響きあい、三行目へと動いていく。「れ」を繰り返したあと「どこかで仲間を呼び合い」と「意味」が現われる。「水平線」ということばへ向かって動き始める。
 ちょっと、いやだなあ、と思うのだが、一行目、二行目の印象が残っているので、二連目を読む。

裏切られ ののしりあって 別れても
感情の嵐の山坂を いつか
真っ平らにしてしまう 水

 ここでの「意味」は「感情の嵐の山坂」という比喩と「水」という事実が交錯して、「水」が「比喩」にもどるところを「見せどころ」としている。
 このあと三連目があるのだが、それは「念押し」である。
 私は、こういう「完結」が好きになれない。
 一連目の書き出しが好きである。ことばが動いていこうとしている。それを感じさせるからだ。
 「結論」が好きになれないのは、「結論」によって最初の動きが死んでしまっている(殺されている)と感じるからだ。

 村野美優「伐られてしまった木の上に」にも同じことを感じた。

あの場所に
草ぼうぼうの空き地があった

柵の外から手を入れ
ペパーミントの葉を摘み
煎じて飲んだ夏があった

遠くから見ていただけの
名前も知らない木があった

 二連目が楽しい。「柵の外から」が言い得て妙。リアリティがある。頭で書くと柵の「間」からになると思うが、あ、「外」か、うなってしまう。「外」は必然的に「内」を呼び覚ますのだが、まだそれは書かない。
 「ペパーミントの葉を摘み/煎じて飲んだ夏があった」という二行の、「時間」というか、「事実」の変化が強い。「事実」が詩という「真実」にかわるのは、こういう瞬間だ。

ある日
空き地の前を通りかかると
木の上に
隕石が落ちてきたみたいに
大きな家が建っていた

 「ある日」は、一連目の「あの場所」と呼び合う。「ある」「あの」の呼応。そして、ここからストーリー(意味)が始まるのだが、あまり楽しくない。「隕石」という比喩が「意味」になりすぎている。
 ペパーミントには「摘む」「煎じる」「飲む」という肉体の動きを反復する動詞があって、その動詞によって時間(ストーリー/意味)が「事実」にかわっていくというつよさがあるのに対し、「隕石が落ちてきた」では肉体が動かない。目が動いていると村野は言うかもしれないが、その目は空想を見る目である。つまり「肉眼」ではない。
 好意的に読めば、その「肉眼ではない(空想の目)」は、そのあとの連から始まる意味の中心「知らない」ということば(認識)へとつながっているのだが、(そしてこれは三連目で「伏線」としてすでに準備されていることからわかるように、周到に制御されたことばの運動なのだが)、私が詩のことばから読みたいのは「認識」ではない。知的操作ではない。
 
 こういうことは書いてもしようがないのかもしれないが、好きになりかけて、好きにならずによかったと思う瞬間に似ている。
 もう一度、好きになる(なれる)瞬間を待てばいいのかもしれないけれど、歳をとってくると、そういうことは面倒だなあと感じてしまうのだった。






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