眠りたい

疲れやすい僕にとって、清潔な眠りは必要不可欠なのです。

オブジェ

2016-09-07 | 
断罪された僕の空白の余白に
 少女は金粉の模倣を塗して虚構で真実を虚飾する
  僕等は夢を見ていたのだ
   ただ静かに夜の空から雨が降りしきる
    眩暈が止まないから
     虚ろにワインを舐めている深夜零時頃   
      君の記憶の歌を空想する

      不確かな記憶だよ

       伯爵はそう云い
        不遜な態度の少年だった僕を笑った
         確かな重みの懐中時計を懐から出して
          彼はフィリップモーリスに灯を点ける   
           白い煙を僕の顔に吹きかけた

           どうだい一本
   
            勧められた煙草を咥え   
             僕はやはりワインを飲み干した
              記憶の類が視野を訪れ
               届かない空を想い
                伯爵の案内状に目を通した

                 仮想の出来事展

                  不可思議なオブジェが大広間に並び
                   壁一面に不条理な絵画が展示されている
                    燭台の蝋燭の明かりに照らされた
                     赤い椅子に少女が座っている

                     わたしを忘れたの?

                      君はくすくす微笑んだ
                       不確かな記憶
                        それは確かにあの井戸の底に封印したはずだったのに
                         懐疑的な質問で
                          僕は少女の存在を憂えた
  
                          君は居ない筈だよ

                         どうしてそう想うの?

                       少女は不思議そうに尋ねた

                      だって君は摩耗された記憶の残骸の一部じゃないか?

                     そう?
                    でも、
                   でも本当は摩耗された記憶はあなたなのよ
                  あなたは
                 あなたの存在は此処には無いの
                あなたはもういないのよ

               哀しげな視線で少女は
              もういない僕の存在を俯瞰した
             もう誰もいない大広間で
            
            そうして此処には君もいないんだね?

           そう。

          全ては流れゆくわ。

         やがて摩耗され消えゆく黒白フィルムの類なの

        あれから気の遠くなるほどの時間と空間が過ぎ去ったわ
       何もかもが消え去って
      ただ風の歌だけが残ったの
    
     風の歌?

    風の街の風の歌

   少女は椅子に座りながら古臭いギターを弾いた
  とてもとても懐かしい旋律だった
 それは僕の心の何処かを刺激した
もう帰れない世界
 此処ではないあの少年の時間

  青いビー玉がポケットに残された
    
   本当に憶えていないの?

    なにをさ?

     この旋律はかつてあなたが作った曲なのよ。

      記憶が交差する
       階段を上ると屋根裏部屋があって
        伯爵は其処で葉巻を吹かしている
         僕は案内状を手渡した
          伯爵は面白そうにそれに目を通した
           それからこう僕に尋ねた

            それで
             君はこの展覧会に参加するのかい?

              僕は少々困ってしまった

               僕には分からないんです

                何がだい?

                展覧会に参加しすべきなのか
                 過去や未来や今この瞬間のこと
                  少女の影や
                   僕自身の存在について
                    皆目見当がつかないんです

                    伯爵は煙を美味そうに吹かしてこう云った

                     君の存在は
                      この展覧会の主要なオブジェなのさ
                       君の記憶も君が探し求める誰かの影もね
                        
                        深夜零時に静かに雨が降りしきる

                         眠れない夜に於いて
              
                         僕は不遜な空想の産物だった

                        誰もが僕の存在を忘れ

                       僕自身も僕を忘れた

                      僕は余りにも壊れ物だった

                     眠らなければ

                    けれども

                   本当に朝はやってくるのだろうか?

                 本当は永遠に雨が降りしきる夜に

                永遠に取り残され夢を見続けているのではないだろうか?

              わたしを忘れたの?

             少女の声が木霊する

            雨の夜

           僕は

          僕は





















                
       

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