眠りたい

疲れやすい僕にとって、清潔な眠りは必要不可欠なのです。

祝祭された日

2012-09-14 | 
ねえ、ハルシオン。
 どうして彼女はこんなにお酒をつくったのさ?

 テーブルの中央の大き目の金魚鉢の様な入れ物に
  マルガリータが表面張力でかろうじて零れないぎりぎりの緊張感をたたえていた    黒猫は呆れたように金魚鉢を見て
    それからあくびをしながら眠りについた
     まるで自分には関係の無いように
      試しに一杯飲んでみる
       すごくたっぷりとラムが入っている
        
        美味しいでしょう?
         普通のレシピの三倍のラムをいれたの。
          
       少女が緑のビール瓶を飲み干しながら嬉しそうに云った
      僕はグラスの淵の塩を舐めながらごくごくと金魚鉢から
     マルガリータを飲み続けた
    確かにひどい暑さだったし砕いた氷で冷えたマルガリータは美味しかった
   けれどもいくら飲んでも金魚鉢からお酒が減らない
  まるで魔法だ
 いつまでも無くならないお酒
7杯目からもうどうでもよくなった
 それから庭の草花を眺めて軽く酔っ払っていると
  奇妙な光景を見つけた
   やっと半分になった筈の金魚鉢のお酒が
    いつのまにかいっぱいに満たされている
     
     君の仕業だろう?

     少女は楽しげにグラスを空けながら微笑み云った

  だって時間がたつとせっかくのマルガリータが薄くなって温くなるじゃない。
 
 さっきよりずいぶんラムが効いているけど?

僕の言葉を一蹴して少女はラムの空の瓶を笑いながら揺らした

 また作るより効率的にしただけよ。

  まさかラム酒1本使ったのかい?

   そのまさかよ。う~ん、ラムが程よく効いていて美味しい。

    少女はかなりのハイペースでグラスを空けた
     僕も彼女の乾杯のたびにグラスを空けた
      いい加減ふたりとも酔っ払っている
       黒猫のハルシオンが憐れむような目で僕らを眺めている

       今日はお天気よ。風が涼しく気持ちのいいお天気。
        こんな日には庭でお酒をいっぱい飲むべきよ。
         それだけの価値がある青空なんだから。
          嫌なことや心配事なんて全部忘れるべきよ。
           たまにそんな日があっても
           きっと神様も許してくれるはずよ。
             神様、かんぱ~い。

           少女の云う事にもなんだか奇妙に納得して
          僕も神様に乾杯した
         僕は秘蔵の葉巻を取り出し
        吸い口を切り落としてからゆっくり煙を燻らせた
       吐き出した紫の煙が風に流されてゆく
      少女が楽器を2本取り出した
     それから僕に楽器を手渡し
    なにか弾いて、と命令した
   フェルナンド・ソルの練習曲を弾きかけると彼女は演奏を止めた
  
  ねえ、空はこんなにも青いのよ。そんな暗い曲、似合わないわよ。

 君ならどう弾くのさ?

こんな感じ。

 少女は簡単な3コードのブルースを弾き始めた
  僕は彼女の伴奏に乗せて適当に音を紡いだ
   いい感じ。
    彼女は嬉しそうに微笑んで次のターンでソロをとった
     タッピングも早弾きもなんにもない素朴で単純な音
      僕らは弾き合いっこし合間にマルガリータを飲んだ
       まるで永遠に近い時間
        僕らはお酒を飲みギターを弾き続けた

        嬉しいことがあった時には
         美味しいお酒を飲むべきよ。

        哀しい事があったら?

       僕が尋ねると少女は微笑みながら云った

      哀しい事があった時にはお腹いっぱい美味しいものを食べるのよ。

  

       空が青い



    ね、

    今日はなにか嬉しいことがあったの?

  試しに少女に聴いてみた

世界がね、今日はとても綺麗に見えるの。

 空が青いお天気の祝祭の日なのよ。

  

   そういう日はとても嬉しいの。



    少女が満足そうにそう云った

     全く同感だった





    嬉しいことがあった時には
         美味しいお酒を飲むべきよ
 
     哀しい事があった時にはお腹いっぱい
          美味しいものを食べるのよ。







        少女の言葉には全く同感だ







         祝祭された日






















    
      
           
 

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6 コメント

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青空 (なおこ)
2012-09-16 01:57:38
こんばんは。台風の音、どうですか?

この詩の中に出てくる少女は、わたしの友人に似てますね。底抜けに明るくて、さばさばしていて、快活で、即興的で、どんな時でも楽しそうによく笑い、愛される。

彼女は長年、わたしに劣等感をおこさせる存在でした
いつも幸せそうな彼女を素直に喜べず、反発しつづけてきました。詩を読んで痛みに襲われたってことは、いまだに彼女から卒業出来てない証拠かな……。

sherbetさんは、この詩の中の少女が好きですか?
穏やかじゃない質問をしてごめんなさい。

いつかわたしも美味しいものが喉を通るようになりたいです。
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なおこさんへ (sherbet24)
2012-09-16 02:29:04
お酒を舐めながら風の音を聴いているとぼんやりと考え事をしてしまってなかなか眠れずにいます。風が強いです。

なおこさんに劣等感をおこさせる友人と「少女」はもしかしたら似ているようで全く似ていないのかも知れません。僕がこの少女に感じている感覚は、ある種の絶望感や哀しみ劣等感を嫌というほど味わった少女があたらしい世界で再生し生き直しているというイメージです。はじめ少女は誰も信じないしお酒と煙草と珈琲と音楽だけを愛する。ほとんど食事もとらず静かな場所で絵本を読んでばかりいる、感じです。

この詩で彼女が快活に見えるのは僕の表現力不足です。この庭ではしゃいでいるけれども次の瞬間急に黙り込んでしまうのかも知れません。

少女のイメージはエドヴァルド・ムンクの「病める子」のベットの上の少女でした。僕はこの少女の、死をおだやかに受け入れる透徹した瞳がすきです。
もし彼女が元気になったとしたら・・・。
そう想って少女を表出させているのかもしれないですね。

なおこさん。僕も卒業できていない感情が沢山あります。だから夜中にお酒を舐めて詩を紡いでいるのでしょうね。おやすみなさい。朝起きたら、美味しい朝食を召し上がれますように・・・。



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Unknown (なおこ)
2012-09-17 23:07:38
そちらにあった台風が、こちらにいます。外は大荒れです。
sherbetさんのイメージを聞いて、再び詩を読むと違った表情が見えてきました。ムンクの「病める子」は知りませんでした。貴方が知っているイメージと、わたしが知っているイメージは、こんなにも違うんですね。

わたしなら、少女に何を与えられるだろうかと考えました。
涙も枯れ果てた後に。
すべての感情やがすりきれた、無感覚の、壊れた心かもしれません。
足音も声も忍ばせた、澄み渡った静寂かもしれません。


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なおこさんへ (sherbet24)
2012-09-18 23:24:07
なおこさん、台風の影響はどうでしたか?ひどい被害がなければ良いのですが・・・。

同じイメージというのは分かち合いたくても分かち合えない共同幻想なんでしょうか。それぞれの人生の背景を持ってしか知覚できない夢みたいなものがあるのかもも知れませんね。

僕は少女に音楽を贈りたい。

たとえその行為が偽善であったとしても。

優しくありたいのに本当の優しさを持ち得ない自分を受戒して何度もため息を吐く夜です・・・。

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Unknown (なおこ)
2012-09-20 07:20:15
音楽を奏でる人は優しい、優しさを持ち得ています。
人の感情に寄り添うものは優しいです。涙を流したり、笑ったり、そういうのは優しいです。

わたしは静かなところで、心の中の音楽や声を聴きたい人間です。

自分以外の人間に変われと誘導されるのが辛かった経験から。独りぼっちで死んでも、それは自分の責任。それほど自分じゃなくなることが辛いんです。

貴方が受戒される必要はないです。

音楽の優しさは正しい。

そんなこと言われるとわたしが苦しいです。

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なおこさんへ (sherbet24)
2012-09-21 23:03:19
「わたしは静かなところで、心の中の音楽や声を聴きたい人間です。」

なおこさん、僕の詩が必要とされている居場所が貴女のこころの井戸の奥底であるといいなと想います。自分自身であり続けることへの障害は周りにも自分の精神にも在ると感じます。本当にむつかしい問題です。僕は時々、自分自身の恥ずかしさに消えてしまいたくなることがあります。

音楽の優しさは正しい。

そうですね。

涙を流したり、笑ったり。美しいことだと想います・・・。






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