眠りたい

疲れやすい僕にとって、清潔な眠りは必要不可欠なのです。

逃避行

2014-01-21 | 
哀しいくらい寒い夜
 街灯の青の下で彼等は煙草を吹かした
  僕は気ずかれない様に息を潜めて
   灯りを落とした部屋の窓のカーテン越しに
    その奇妙な光景を覗き込んでいた
     黒塗りの車が3台やって来て
      エンジン音を切って静かに配置された
       彼等や車はまるで何か意味を持ったオブジェの様だった
        君はフランスパンの切れ端を咥え
         ワインでパンを胃袋に流し込みながら
          手馴れた手つきで楽譜やら楽器をケースに忍び込ませた
     
          ねえ
           彼等は全体何者なんだい?

           僕の質問には答えず君はこう云った

            煙草持ってないかい?

           僕は黙って銀色のシガレットケースを差し出した

          一本頂戴。
  
         咥え煙草の君が気だるそうに呟いた

        急いで。
       もう此処にもそう長い時間いられない。

     いったいどうしたのさ?

    君はくすくす微笑んだ

   彼等が現れたんだよ。
  僕等は逃げ延びなくっちゃあいけない。

何処へ、さ?

 世界の果てまでだよ。

  僕等はなにもしちゃあいないじゃないか?
   ただ寒い夜に暖炉の前でお酒を飲んで音楽をしていただけなのに。
    不条理だよ。
     悪いことなんか何もしちゃいないのに。

     君は煙草の吸殻を灰皿に投げ捨て
      聞き分けの無い僕を皮肉に笑った

       理由なんてありはしないのさ。
        条理なんてそもそも存在しない。
         世界は不条理に出来ているんだ。
          彼等に僕等の言い分は通用しない。
           彼等が現れたら戦うか戦いを放棄するしかないんだ。

           闘いを放棄するって?

           逃げるんだよ。
            もうあの国のパスポートは偽造してある。
             僕等は仲間の伝言に従ってこの世界から逃避するのさ。

             この世界を捨てて?

            それとも、
           それとも君は彼等と戦うことを望むのかい?

         君は真顔でそう尋ねた

        嫌だよ。
       もう誰かが傷つくとこなんて見たくない。
      僕も闘いを放棄するよ。
     行こう。
    逃げよう。
   一緒にさ、何処かの世界でまた二人で音楽の続きをしよう。

  君は哀しげに僕を見つめた
 それからこう告げた

偽造パスポートは一枚しかないんだよ。
 これを使って君は最果ての国に行くんだ。
  
  君はどうするのさ?

   僕はこの世界に残るよ。

    嘘だろう?冗談だろう。
     奴等ピストルを持っているよ。
      嫌だ、一緒に逃げよう。

      パスポートは一枚きりだ。
       僕が彼等を引きつけている間に君はこの世界から逃げるんだ。
        いずれこうなる事は君だって分かっていたはずだ。

        君はどうするの?
         闘うのかい?

         煙草に灯をつけながら君は微笑んだ

         今度君に出会うのは最果ての国でだ

         それまでその楽器を預かっていて欲しい。
          やがて君はこの記憶を少しずつ失ってゆくだろう。
           僕や仲間や彼等の存在を忘れてゆくのさ。

           だから。
            だから音楽を止めないで欲しい。
             音楽だけが僕等を繋ぐ鍵なんだ。

             どうか鍵を失くさないで。

             どうか歌い続けていて。

            玄関の扉が大きな音を立てて壊されようとしていた

           君は僕を窓の外に放り投げた。

          走るんだ。

         きっと上手く行かなくても走るんだ。

        僕は寒すぎる夜の街を走り続けた。

       深夜零時

      そこで世界は止まった

     走るんだ。

    きっと上手く行かなくても走るんだ。

   遠い記憶の声が木霊する

  いつか

 いつか最果ての国で君に会えるだろう

だから僕はきっと上手く行かなくても走る

 世界の不条理の構造の中を走り続ける

  走り続ける


  哀しいくらい寒い夜


   世界の果てまで


    今夜もグラスに記憶と孤独を混ぜて飲み干した


     くすくす


      君の遠い微笑が聴こえた様な気がした


       僕は黒いギターケースから楽器を取り出して


        そっと歌った

         そっと歌った














































                
コメント (6)
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