眠りたい

疲れやすい僕にとって、清潔な眠りは必要不可欠なのです。

赤い雫

2014-01-05 | 
哀しい色をしたマフラーを首に巻いた君は
 僕が知らない国へと去っていった
  人々がまことしやかに云う
   あの子も最果ての国へ旅立ったのだと
    グラスのワインが零れて赤い染みを作った

     ねえハルシオン
      最果ての国について何か知らないかい?

      僕の質問に黒猫はあくびをし
       それから気だるそうに話し始めた

       最果ての国は球体で出来ている
        始まりも終わりも無い世界のことだよ

        僕はグラスにワインを注ぎ黒猫にすすめた
         ハルシオンは美味そうにワインを赤い舌で舐めた

          街の何番線のバスに乗ればその国に着くのかな?

           僕の言葉にくすくす微笑み
            彼は僕をたしなめる様に云った

            残念だけれどその質問には答えられない

            どうして?

            最果ての国に行くという事は 
           この世界から零れ落ちることを意味するんだ
          まるであんたが零したそのワインの赤い雫の様にね

         でも僕は最果ての国に行くつもりだよ

        どうして
       どうしてあんたは最果ての国を目指すんだい?
      あの国には映画館も無ければ街のスーパーも無い
     携帯電話も無ければ新聞もやっては来ないんだ

   隔離された世界ということなのかい?

 厳密に云うとそれは半分しか当たっていない
隔離されているのは我々が現実と呼ぶこの世界そのものなのだからね
 あんたは昼間からお酒を飲んでいる
  煙草を吹かしきっと空を見上げるだろう
   その時きっと青い空を見るんだ
    あの夏の雲に似た風景の中に
     最果ての国への扉があるんだ
      何者にも干渉され得ない緩やかな飛行
       知覚の扉が入り口なんだよ

       僕等はワインを飲み続けた

      僕は行かなくちゃいけないんだ

     どうして?

    ハルシオンが皮肉に髭をぴんと伸ばした

   僕は大切な友人の影を其処でしか見えないからさ
  夕映えのグランドに伸びた少女の影
 図書館の窓から眺めていた風景
僕はこころが震えて煙草に灯を点けるだろう
 世界の境界線が交差した時間と空間の狭間で
  きっと失われた君の影を追い続けるだろう
   もう誰の事なのかも忘れてしまった記憶の階層に於いて
      
    僕等は永遠に失われた何かだ
     途方も無い時間の流れを経てこの場所に辿り着いたんだ
      けれどもこの世界にも君の影は存在しなかった

       ラジオから何処かの国の戦争が話題に上る
        拡声器でアジテートする群集に紛れ込む
         酒場の裏で吐きながら青い月を眺めた
          公園の水の無い噴水に途方に暮れる
     
          ねえ

           君の居場所は全体この世界の何処なんだい?

            君に会いたい

             そうして僕は

              そっとグラスから

               赤いワインを零すだろう

                静かに

                 静かに












コメント (2)
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