眠りたい

疲れやすい僕にとって、清潔な眠りは必要不可欠なのです。

17歳

2024-05-06 | 
やがて風に舞うだろう
 桜が満開した石畳の坂道で
  花びらに邪魔されながら写真を撮った
   マリア像は不思議な微笑を湛え 
    思春期の僕らはただ夢を追いかけた
     17歳の春
      戻れない過去
       今でも呼吸する記憶たち

        長い石畳の坂道に慣れるには
         余りにも脆弱な精神だったはずだ
          僕らは寮の屋根に上って
           煙草を吹かし
            永遠に喋り続けた
             まるで熱病のように
   
             砕け散る破片
            それを記憶と名付けるのなら 
           指向性のハンドルマイクの如く
          注意して録音に望まなければならない
         かつて少年と呼ばれた
        君の饒舌なアナウンス
       昼休みにマイク・オールドフィールドを流した君は
      赤い舌を出した
     消えないで
    どうかお願いだ

   画面がちらつく視野
  薄れ行く記憶
 魚たちの世界
井戸の中の化石

 封印された刻印
  散髪屋で同じ髪型にされた
   春が来る
    同じように17歳の時間が
     国会で民主的に可決された
      「異議なし」
        深夜ラジオを毎晩聴いた
         電気信号が遊覧される
          気紛れな君の所作
           造作も無い事
            僕は空き部屋で
             ただひたすらに油絵を描いた
              どうして17歳だったのだろう?

               僕らは音楽だけを信じた

              ジャニス・ジョプリン
             シド・バレット
            キング・クリムゾン
           レッド・ツェッペリン

          そうして
         あなたの名前
        ジョン・レノン
       僕らは世界を手中に収めた
      「グレープフルーツ」と「スイミー」を読んだ
      君はだらしなく制服をはおり
     僕はヒトラーの「我が闘争」を暇つぶしにした
    ルドルフ・シュタイナーに傾倒した10代は
   入学と同時に保護者との対面を余儀なくされる
  
  どうして
 17歳だったのだろう?
 永遠を信じた

やがて

 やがて桜の花びらが舞うだろう

  祝福された

   懺悔のように

    木魂する

     一片の詩

      「呼吸しなさい」

       僕らは

        17歳だった




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旅路

2024-05-01 | 
酔っぱらってグラスを割る夢を見た
 赤いワインが大量出血した血液の様に赤い溜まりを作った
  僕はそんな光景を何の感情もなく眺めている
   そんな夢だ

    君と旅に出た汽車の中で
     僕等は緑の瓶のハートランドビールを飲んだ
      駅の売店で購入したシュウマイをつまみにして
       他愛の無い戯言で笑った
        全席禁煙なのを知ってたかい?
         10年前に禁煙した君が皮肉に微笑んだ
   
          そのくらいの情報は知っているよ。
           
           なら禁煙すれば?

            紙煙草が駄目なら葉巻を燻らせることにするよ。

             僕の返事に呆れて君はビールを飲み干した
              汽車は何度か停車し沢山の人々が乗り降りした
               ぼんやりとそんな後継を眺めていた

                何時かは何時かにしか訪れない
                 過去は美化されやがて痛みが増えたり消えたりする
                  ただこの瞬間だけが世界だった
                   容赦の無い世界だった

                   宙空の中に満開の桜を見た
                    ごらん、世界はこんなにも美しいんだよ。

                    一瞬、黒猫の言葉が聴こえた様な気がした
                     僕は昔の様にグラスを路上に叩きつけるのだろうか?
                      酔っ払った足取りで舞台に向かい
                       おぼつかない手つきでギターを弾くのだろうか?

                       あの頃
                        近くの山から見える街の夜景が好きだった
                         あの沢山の灯りのひとつひとつに
                          それぞれの暮らしがあり人生がある
                           そんな風に想うと頑張れそうな気がした

                            いなくなった友人たちを想った
                             草原の中で
                              何度も彼等彼女等の名前を呼んでいた
                               けれども返事は無かった
                                やがて僕は彼等彼女等の名前を忘れた
                                 ただ呼び続けることだけが残った
                                  それが人生の大半になった

                                  ビールを飲み干してシュウマイを食べ終わると
                                   終点で僕等は汽車を降りた
                                    喫煙室を見つけて急いで煙草に灯を点けた

                                    僕等は駅からそう遠くない宿に辿り着いた
                                   温泉に入り
                                  それからビールを飲み続けた
                                 君が酔っぱらって
                                ジャニス・ジョップリンの歌を口笛で吹いた

                               あの頃の僕等はただ楽しくて
                              終わりが来るなんて誰も信じない

                            いつかまた
                           グラスを路上に叩きつけて粉々に割るのだろうか?

                          もう会えない君との旅の夢を見たんだ

                         元気そうで良かったよ

                        昼頃目覚めると

                       不思議と泣いていた

                      不思議と嗚咽が止まらなかった






















                
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ばらっど

2024-04-25 | 
ジャック・ダニエルの蓋を開けた
 たまにはゆっくりと飲もうよ
  僕は使い慣れたタンブラーグラスに独白する
   光景は薄汚れた存在を霞める
    残り物のキャンドルライト
     灯が暗闇に揺れ
      アンモナイトの呼吸のリズムで煙草を吸った
   
       3日飲まなかったアルコールは意識を弛緩させ
         軽く酩酊した態で戯言を云う
         グラスは冷静であたまが良いので
          僕の言葉に振り返らない
           唯 時間が移ろうだけ
            湿度の高いこの島で
             扇風機が優しく微笑む

             古いテレヴィジョンで昔の唄が流れた
            作り物だけれど決して安易ではない唄たち
           はじめて「ばらっど」なんて作った僕は
          気恥ずかしさの影に
         変わらぬ世界の在り様を模索した
        もう誰の唄も批判せぬよう誓った
       それが何がしかの魂を有する故に
      誰かを記憶した所作を侮蔑する真似だけはするまいと
     自己弁護だろうか?
    そんな気になったりもする
   忘れてしまったけれど
  君を想い創った旋律は決して嘘ではなかったんだよ
 だから
誰かが誰かのことを想い創った「ばらっど」を嘲笑することは出来ないのさ
 
 例えばさ
  あの君に於いて大切だった宝物を
   彼等は笑った
    必死で暮らす君の日常を白夜が皮肉に嘲笑する
     君は違うんだ、と唄い続けるだろう
      ラジオから流れた君の心は
       今夜も垂れ流された情報として錯綜するだろう
        一片の跡形も残さず
         君の心は酔いどれの嘔吐と成り果てる
          
         クラスの隅っこで歌った唄は
        時代錯誤だと相手にもされない
       それでも僕らは歌い続けるべきだった

      勝つ必要もない
     けれど
    負ける必要もない

           
                 3時間かけてボトルの半分を飲み干した


           心を込めて演奏すれば
          きっと想いは伝わる
         心を込めて言葉にすれば
        きっと優しさに触れる

       ばらっどの呼吸

      深夜三時に送ろう

     歌い続けていて

    語り続けていてね

   僕は笑わないから

  キットダヨ









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天体観測

2024-04-11 | 
消えない世界を想い
 緩衝地帯に打電する信号の様に
  それは赤でも無く黒でも無かった
   深夜零時に降る雨は
    優しく魂を包み込む
     綺麗なワインの赤を零し
      カーペットに赤い溜りが出来るのを
       ただ黙って眺めているのだ
        繊細さを気取った悪癖に於いて   
         消えない世界の
          消えないパレード
           野良猫達が空き地に集い
            すっとんきょうな声で歌った

            パレードはあの空の向こう
             そこでまた始まる
              さあパレードだまた始まる
               始まりはいつも夜の向こう
                いつもの広場

                広い公園の
               水の無い噴水
              赤い林檎を齧る
             薄っすらとした霧の夜
            断罪する君の赤い舌
           黒いこうもり傘が
          強い風であっけなく壊れた
         信号は届かなかったのだろうか?
        丸い眼鏡を外し
       ぼやけた空間を見渡した
      綺麗な嘘
     曖昧な現実
    不本意な果実
   熟れた真夏の午後
  憧れた静かな微笑
 僕の知らないお話
ただ安らかに

 土曜日の夕方は幸せだった
  ランドセルを処分し
   誰かの影が伸びるある種の時間
    それを想った
     其れを想った
      絵画の風景に依存し
       現実をあざ笑った午後
        現実らしい実態を伴った事象に
         やはり叩きのめされるのだ
          いつだって
           パレードを待ちわびた
            
           展望台から眺める天体に
            少しだけ慰められた想い出
             もう忘れてしまいそうな神話の儀式
              ね
               もう少しだけ飲もう
                ソーダー水にウイスキーを垂らして舐めた
                 歌われた事の無い歌を歌おう
                  望む
                   空から堕ちた具象の様に
                    仮装した羅列が落ち続ける事を

                    「ヨコハマの波止場から
                      船にのって
                       異人さんに連れられて
                        いっちゃった」




                    ちりん


                   風鈴の音がした


                  まるで何かを想い出したかの様に


                ちりん




              いつかの天体観測




           









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2024-04-08 | 
壊れやすい水
 古井戸は永遠に蓋をかぶせられた
  水があるところには神が宿るという
   飲み水になり
    洗濯に使われ
     そうして畑に命を宿す

    野菜の状態を吟味するお婆さん
     これはまだ食べごろじゃない
      そういって草花に丁寧に水をかける朝のお仕事
       戦前のこの島の写真を眺めた
        まだ若い端正な顔立ちをした少女が
         水瓶を運んでいる
          美しい写真だった

      ロバート・キャパが
       ベトナムでシャッターを押した
        米兵がトラックの上から
         ベトナム人の男に煙草を薦めている
          笑顔を浮かべている
           あの悲惨な情景で
            その写真の穏やかさに少し安心するんだ

         ある人のコンサートに行った
        数年ぶりの活動再開だ
       彼女は優しく激しく歌った
      魂 と想った

    在る時期
 僕はこの人の唄が聴けなかった
それは余りにも痛くってこころがどうにかしてしまいそうだった 

   彼女の歌を聴いて
    自然と涙が溢れた
     誰かの唄で泣いたことなんてそれまで無かった
      きずくと 涙と汗で僕は滅茶苦茶だった

       久しぶりに泣いた
    
        随分と我慢していたんだな
         泣いてすっきりとした

       問題は山済みだね
      流した壊れやすい水には
     神が宿っていたのだろうか?

    僕は彼女のいる世界に
   同じ場所で同じ空気を吸っていることに感謝する
    
    それは必然でたぶん奇跡だ




      
 
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雨の日

2024-04-02 | 
君の昔を知らない
 薄明の朝缶ビールを片手に庭の草木に水をまいた
  水をまき終えるとワインの瓶を引っ張り出してきて
   縁側でお日様の陽光を浴びながら飲酒した
    朝ご飯に何が適当なのか今日一日をどう過ごそうか
     答えがなかなか見つからないのでワインで酩酊した朝の時刻
      僕はそっと煙草に火を点けた
       白い煙が消えゆく記憶の様に空に消失してゆく
        たまらなく時間だけが残された

        少女は煙草をくわえてバーボンを舐めている
         煙草を吸いながらウイスキーを飲むと精神が解放されるの
          彼女はそう独り言の様に呟いた
           ポンチョに落ちた白い灰をぱたぱたと叩いて落とし
            グラスに残ったウイスキーを一息で飲み干した
             それから立ち上がってギターケースの中から楽器を取り出した
              緑色のソファーに座り丁寧に調弦にいそしんだ
               僕はワインの残りを舐めながら
                調弦する少女と楽器のペグをぼんやり眺めていた
                 飽きもせず眺めていた              

                  調弦が安定すると少女は僕を見つめ不思議そうに尋ねた

                   どうしてあなたは楽器を出さないの?

                    あまり楽器を弾く気になれないんだ。なんだかね。

                     ね、あなた音楽好き?

                      もちろん。

                       それじゃあ今日は私が弾いてあげる。
    
                        そう云って少女は「シンプリシタス」を弾いた
                         僕は黙って彼女の演奏に耳を傾けていた
                          ワインの酔いと少女のギターで少しだけ気持ちよくなれた

                           街は高い城壁で囲まれ
                            街の外の世界と遮断され一体何年の月日が流れただろう
                             僕らは朝起きると珈琲を沸かし
                              お気に入りのレコードを古臭いプレーヤーで一日中流した
                               昔気質のレコードショップの様に古臭い音楽が飽和した
        
                               ジョンダウランド、バッハ、ショパン、アランホールズワース&ソフトマシーン、ジャコパストリアス
                                ジョーパス。ジャンゴラインハルト。そんな感じだ

                                 そらから僕等は珈琲を沸かし酔い覚ましに飲んだ

                                  クッキーを齧りながら少女は語り始めた

                                   魂はいまだ旅の途中なの

                                    その中には嬉しいこと悲しいこと

                                     望むこと望まざることがあるのよ

                                     私たちは生まれる前からこの旅を続けているの

                                    だから心配しないで

                                    過去も未来もすべてがこの瞬間に起因しているの

                                  だから

                                 心配しないで

                                ご飯をしっかり食べてぐっすり寝て朝きちんと起きるのよ

                               自分が大切にしている者にもう一度向き合うの

                              毎日を丁寧に生きるの

                             それが暮らしよ。

                            僕等はカーボーイジャンキーズのアルバムを流した

                           窓の外では雨が降り出した

                          しとしと

                         しとしと

                        誰かの涙の様に
















 

  
       
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春のバスタブ

2024-03-30 | 
虚飾された世界で
 粉飾された電波を打電する
  不可思議な世界で
   ただ眠りたいと想う朝の10時頃
     バスタブに湯を張って
      何も考えずにビールを飲んだ
       生暖かい風が
        何だか春らしい
         小鳥のさえずり
          庭に咲く花びらの加減
           光が差す日曜日
            安息の日を望み沐浴した

            神様と試行錯誤した深夜
             sionの「12号室」を聴いた
              病室の静けさと清潔なシーツ
               無音の錯誤
                誰かがピアノを弾いている
      
                 届かぬ想いは辟易とした記憶の有象無象
                  歌うたいの少女が
                   ギターを抱え
                    水の無い噴水で歌をささやく
                     誰のためでもない世界  
                      君は笑うのだろうか?
                       あの頃と同じように   
                        皮肉な陽光の加減で

                        小さな鍋で水を沸騰させ
                         卵を三つ入れた
                          ラジオから流れてくる音楽を聴いていて
                           忘れかけた頃
                            卵をそっと救い上げる
                             割れたゆで卵に塩を塗し
                              ワインで流し込んだ
                               そっと優しい酩酊が訪れる
                                縁側で煙草にそっと灯を点け
                                 庭の木々を眺めた
                                  

                                  あなたがここにいてほしい


                                  春だ
                                 日差しの優しさにまどろみ
                                ワインのボトルを空けながら
                               なんだか少しほっとした
                              酔いつぶれて眠っても
                             誰も意義を唱えなかった
                            あの頃を想い出し
                           苦笑しながら独りで酒を飲んだ


                          あの頃の僕等は
                         ただ楽しくて
                        終わりが来るなんて誰も気付かない

                       お風呂から上がると 
                      縁側でビールの空き缶を作る事に余念がない12時
                     ギターを取り出して歌った
                    陽気なふりをしてジャンゴ・ラインハルトを弾き
                   ブルースを手癖でひとつふたつ
                  いつの間にか僕は此処に居る
                 煙草を吸った1時頃
                フランスパンをちぎってワインで租借し嚥下した

               人が何と忠告しようと
              僕の成分はお酒と煙草で出来ているらしい
             気だるい朝
            眠れない夜
           きっと月夜の晩に
          テインカーベルが囁きにくる
         パレードはあの街の向こうよ

        窓から逃避した夜空は静かで
       永遠は
      摩耗された記憶の層に鎮魂された鳥の化石
     深い井戸の底に眠るかつての友人達
    あの洋館で繰り広げられた終末さえも
   やはり訪れなかった

 永遠を探しているの?
緑の草原で少女が尋ねる
 僕は珈琲を飲みながら苦笑する

  永遠なんて無かったよ
   皆、消えてしまった
    すべからく僕らがそうであるように

     あなたは歌を忘れたの?

      そうじゃないさ、
       毎日が忙しすぎるんだ。
        或いは
         毎日が退屈すぎるのさ

         少女は黙ってギターを弾いた
          酔いどれの僕は
           少女の伴奏にでたらめな旋律を付け加えた
            時が優しくほほをなぜる
             居なくなった誰かが僕に合図を送る

             思念は表層の自堕落
              ゆっくりとさ、
               お湯に浸かるといいよ

                午前のお風呂は優しい

                 鳥の声が聴こえる

                  静けさの中

                   ほろ酔いで花びらを眺める
   
                    静かだ

                     そんな春の訪れ

                      眠りには

                       魂を再生させるちからがある

                        柔らかな眠りを

                         そっと君に贈る

                          君を愛している

                           たとえ冗談にしか聴こえなくても

                            永遠に君を愛しているんだよ

                             君はきっと笑うだろうね

                              いつもの皮肉な微笑みで

                               くすくす

                                くすくす















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緑の庭園

2024-03-27 | 
緑の庭園
 宙空に漂う密やかな場所
  僕等が暮らした有象無象の夢の在りか
   凝固した記憶の楽園
    世界の在り様が時間を超越した
    
     古びた茶色に変色したポスター
      もう
       決して訪れない音楽会の案内文には
        君が不遜な態度でアジテーㇳした論文が掲載されていた筈だ
         珈琲の黒の中
          夢見ている
           夢見ている

           フェアリーテイル
            緑の刻印
             少女のお茶会に呼ばれ
              僕はオレンジ色の着色された明かりの下
               煙草を咥えてギターを弾いた

                チムチムチェリー
                 ロンドンデリー
                  哀しみの礼拝堂

                   誰かが
                    壊れかけたピアノを弾く
                     グリーンスリーブスが流れ
                      僕等はくすくす微笑んで紅茶を嗜む
                  
                      あの頃の僕たちは
                       ただ楽しくて
                        終わりが来るなんて
                         誰も想わない

                         緑の庭園
                          緑の楽園
                     
                           大好きな人に
                            あの花を贈れたら
                             失った記憶も
                              安寧の寝床に辿り着けるのだろうか
  
                              眠れない夜が
                               幾つも通り過ぎる
                                消えない傷跡
                                 笑わない傷口

                                 不遜な態度で
                                  侮蔑した存在に
                                   何時しかかような価値が付与されうる
                                    だがしかし
                                     ねえ
                                      僕はまだ楽器を抱えているよ
                                       可笑しいね
                                        まだ詩を歌っているんだよ

                                         眠れない夜
                                          眠れない夜

                                          くすくす

                                         くすくす

                                        記憶の君が微笑む
                                       あの理科の準備室で
                                      煙草に灯を付け
                                     存在の在りかを模索し
                                    丹念に黒板に落書きした

                                   緑の庭園
                                  其の地図を描こうと
                                 仲間達は航海に出た
                                辿り着けぬ果てに
                               彼等彼女等は大人になり
                              僕だけが
                             記憶の最果ての国を目指したのだ

                            庭園には緑の薔薇が咲いている
                           庭園の中央には
                          温室の蝶園があって
                         不思議な蝶達が舞っているのだ

                        ウバでいいの?
  
                       少女が紅茶の葉を吟味している

                   僕はクッキーを齧り頷いた
                     少女がカップとポットを暖める
                    そうして僕等のお茶会が始まった

                   我々は静かにお茶を飲んだ

                  あなたには帰る場所はないの?

                 突然少女が呟いた
                僕は途方に暮れて煙草に灯を点けた

               考えた事ともなかったよ

              ねえ
             あなたは何処に行きたいの?

            最果ての国

           最果ての国?

          少女が不思議そうに聴き返す

         そう
        いつか
       此の現世の肉体がきれいさっぱり消えてしまえば
      きっと辿り着けると想うんだ

     其処で誰かが待っているの?

    どうだろう?
   もう記憶が曖昧で
  大切な友人の面影も想い出せないんだけれどね

でもあなたは行くのね
 最果ての国に

僕は黙り込んで少しだけ頷いた
   少女は優しい瞳で僕を見つめた

    あなたはどうして眠れない夜に詩を描くの?

     誰かに

      誰かに伝えたいんだ

       君の事を忘れない

        決して忘れない

         風鈴の音が聴こえる

          幻聴だろうか

           風の通り道

             緑の記憶

              緑の庭園


               君を

                大好きだよ


                 大好きだよ

                 
                  深夜3時に呟いた

                   少しく

                                    
                      
                 ねえ




                      愛しているよ






























































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プレゼント

2024-03-17 | 
あの日あの時間違えた別れ道で
 僕はいつだって憂い
  煙草を吹かせて哀し気に微笑んだ
   何時かの微笑
    困惑した世界の中心点で黒猫があくびする
 
     ねえハルシオン
      どうして僕は現世にいるのだろう?
       もう誰も居なくなってしまった世界で
        どうして僕は楽器を弾いているんだろう?

        黒猫は何も答えずに優美に紙煙草を嗜んだ
         それから一枚のタロットをめくった
          「道化」
           くすくす微笑んで
            黒猫は楽しそうにワインをグラスに注いだ
             僕は途方に暮れて空を見上げた
              あの日に少しだけ似た
               重く垂れ込めた灰色の世界
                地団太の孤独
                 少年時代から出遅れた足音
                  オルゴールが鳴り始め
                   世界が終焉を迎える頃
                    あの日あの時の一瞬
      
                    僕はギターを弾いていた
                     カルリの練習曲を弾き
                      回らない指でジュリアーニの楽譜をさらっていた
                       中庭の卓球台で試合を楽しんでいた男性が
                        お調子者らしく
                         エリック・クラプトンは弾かないのかい?
                          と口笛を吹いた
                           「ティアーズ・イン・ヘブン」
                            その頃
                             みんなこの曲に浮かれていた
                              僕は黙って
                               ランディーローズの「Dee」を弾いた
                                退屈そうにみんな中庭を去った
                                 僕は黙々と楽器を弾いていた
                                  とてもとても寒い冬の日だった

                                  寒くないの?
                                 声に驚いて顔を上げると
                                先生が優しそうに珈琲カップを僕に手渡した
                               口にした珈琲がとても暖かかった
                              寒くないの?
                             彼女はもう一度確かめるように尋ねた
        
                            寒いですよ、もちろん。

                           手袋をすればいいのに。

                          手袋をしたらギターが弾けないんです。
                         僕の答えに彼女は
                        それもそうね。
                       と呟いて巻いていた緑色のマフラーを取って
                      僕の首に巻いてくれた

                     暖かいよ、それ。

                    でも先生が寒いでしょう?

                   大丈夫。医局は暖房が暑いくらいなの。
                  それに素敵な音楽で気持ちが暖かくなったから大丈夫。
                 あとね、
                煙草は控えめにね。

               そう云って彼女は建物の中に姿を消した
              残された緑色のマフラーはいい匂いがした

             先生は忙しそうにカルテを抱えて歩き回っていたけれど
            僕がギターを弾き始めると何処からか現れて
           曲が終わるまで興味深そうに聴いていた
          それから
         また聴かせてね、と云ってすぐに何処かに消えた
        不思議な先生だった
       でも僕はその先生となんとなく気が合った

      こんにちは。

    そう云って先生が中庭のベンチの僕の隣に座った

   今日は忙しくないんですか?

  私、今日お休みなの。

 休日出勤ですか?

そんなところ。
 ね、良かったら何か聴かせて。

  僕は魔女の宅急便の「海の見える街」を弾いた
   曲が終わると先生は満足そうに微笑んだ
    それからキャンデーを僕にくれた
     煙草のかわり。
      そう云って自分の口にもキャンデーを放り込んだ

       不思議よね。
        どうしてそんなに指が動くのかしら?
         私の指も練習したらそんなに動くのかな?

          出来ると想いますよ。

           彼女は笑って無理よと呟いた。

           私、不器用なの。手術もそんなに上手じゃないし。
            
           僕はなんて云ったらいいのか分からず黙り込んだ

          先生は悪戯っぽく、嘘よと微笑んだ。
         僕等は二人でくすくす笑った

        先生は他の先生たちと飲みに行ったりしないんですか?

       どうして?

      いつも此処にいるから。

     そうね。人が多い処が苦手なの。それに。
    それに他の先生たちとは大学が違うから

   そういうの関係あるんですか?

  それはやっぱり人間関係だから。

 なんだかままならないですね。

そうね。ままならないわ。
 そこにいつも貴方のギターが流れてくるのよ。
  花を見つけた蜜蜂みたく吸い寄せられるの。
   お陰で仕事が溜まって休日出勤なの。

    ごめんなさい。
     僕が謝ると、
      嘘よ。信じないで。
       と可笑しそうにくすくす微笑んだ

        此処を出たら大学に戻るの?

         キャンデーを舐めながら先生が尋ねた
          僕は途方に暮れて空を眺めた
           
           あなたはたぶんもう大丈夫。
            何処に行ってもね。

             僕は先生にマフラーを返そうとした

              いいの。あげる。

               いいんですか?

                うん。
                 あなた今日何の日か知ってる?

                  知りません。此処にいると時間や日にちが曖昧になって。

                   クリスマスよ。
        
                    プレゼント。それ。
                     いつもギターを聴かせてくれたお礼に。
                      

                      ね、いつか私にも教えてくれる?


                       何をです?

 
                       ギター。


                      教えてね。


                     そう云って先生は建物の中に入っていった

      
                    三日後


                   僕は其処を去った


                  先生に挨拶をする事は叶わなかった


                 ねえハルシオン。


                先生ギター弾いているかな?


               懐かしそうな目で黒猫は空を眺めた


              冬の日


             掠れかけた記憶の残像


            クリスマスプレゼントの想い出
























         
                        
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優しさと哀しみ

2024-03-12 | 
 「優しさと哀しみ」

   いちばんきれいな心
   優しさと哀しみ
   精神のあやうい均衡
   脆くなった気持ち
   大好きな君と
   あの捨て猫は
   飼い主を見つけられただろうか

   たまごは
   見るのも
   食べるのもすきです
   空から
   たくさん 空き缶が降ってくる
   それは
   どしゃぶりの雨のような音
   長い長い夢を見た
   目覚めた時
   ぼんやりとしていた
   窓ガラスを
   石で叩き割った
   評判が悪くても
   僕は
   僕でいたい
   ただ 抱き締めた
   君の背中が
   茶色の下の遠い景色のようで
   猫が泣いていた
   自転車の
   油の切れた音がする
   頭を
   ボリボリ掻いて
   しらんぷりした

   「少シ様子ヲ見テミマショウ」

   永遠に続くものなんて
   ありはしないんだね

   みんな夢だった
   夜更かしの夜も
   あの子供の夢も
   手首切りたくなるような
   心の震えも
   誰かを愛したことや
   裏切られたことや
   それら 全ての犠牲は
   もう忘れなくては

   「残念ナヨウデスガ
    君ニハ 印ガ
    アリマセン」

   いちばんきれいな心
   優しさと哀しみ
   僕は
   みすぼらしい
   花壇の花にさえ
   存在をおぼえた

   僕らは残酷だ
   自分より
   弱い生物を
   探している
   ねぇ 僕
   僕は何もしていないよね
   何も知らないとき
   僕はいつでも
   そんな風に言っていた
   
   ごはんを残すと叱られるので
   無理してでも詰め込んだ
   食事のあとに
   一本だけ
   煙草がもらえた
   食堂の明かりが おれんじ色で
   夜の太陽なんだね
   冷房が効きすぎていて
   空気が
   とてもひんやりとしていた

   「   サン、大丈夫デスヨ」

   でも
   雨に濡れていた
   三本足の犬の
   その目が忘れられない
   そうして逃げ出した
   夜の道端で
   あの猫が
   ぐちゃぐちゃになって
   動かない
   限界だと思った
   何度も吐いた
   
   壁を叩く音がする  
   強く叩く音
   弱く叩く音
   あの声は
   誰のものだろう
   たどたどしく
   日本語で言う
  
   「タスケテクダサイ」
   「タスケテクダサイ」

   繰り返されるフレーズ
   暗転
   あのとき
   あのとき 僕は
   疲れていた
  
   ダカラ ドウカ

   神さま
   見捨てないで
   どうか
   皆をあわれんで

   いちばんきれいな心
   優しさと哀しみ
   僕は
   祈る術を
   知らない

   そして
   それだけが残った


   優しさと哀しみ



                   1997・11・29






   
   
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