将棋 この絶妙手がすごい! 羽生善治 若手時代の神業的しのぎ vs泉正樹

2019年01月13日 | 将棋・好手 妙手
 前回(→こちら)の続き。
 
 
 「将棋のポカを語ったら、今度はいい手もやらなアカンで」
 
 
 という友人のアドバイスと、コメントで好評をいただいたことにより、今回から私がおぼえている絶妙手について語ってみたい。
 
 まず登場いただくのは、やはりこの人、羽生善治九段
 
 それも、まだデビューして間もないころの、とびきりのすごい手を紹介しよう。
 
 
 1988年C級1組順位戦の4戦目で、羽生善治五段泉正樹五段と当たることとなる。
 
 泉は3連勝、羽生は3回戦でベテラン佐藤義則七段に敗れて1敗。
 
 昇級を争うには、どちらも負けられない、直接対決の大一番である。
 
 終盤の妙技もすごいのだが、全体としてなかなかおもしろい将棋であり、参考になる手筋も多い。
 
 手順もシンプルで追いやすいので、中盤戦からじっくりと見ていくことにしよう。
 
 
 
 
 泉の先手で、戦型は相矢倉
 
 矢倉らしく先手が先行し、後手番の羽生は受けに回る形に。
 
 駒損ながら3筋に拠点を作った泉が、ここでいかにも矢倉という過激な手を披露する。
 
 ヒントは、今一番先手がほしい駒は何?
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 ▲55銀と突進するのが、「野獣流」泉正樹の強烈な攻め。
 
 先手はすでに、桂香の二枚替えで駒損だが、そのもいらないと捨ててしまう。
 
 後手は△同金と取るが、そこでわれわれも大好きな▲33銀の打ちこみ。
 
 △同銀▲同歩成△同金▲34歩とたたくのが、まさに「一歩千金」の格言通り。
 
 
 
 
 この歩を打ちたいがための、銀の特攻なのだ。
 
 矢倉や角換わりの将棋は、多少のは気にせず、バリバリ攻めるのがいいらしい。 
 
 後手は△43金とよろけるが、すかさず▲33銀とおかわりで追撃。
 
 こめかみへの一撃が強烈極まりなく、羽生は△31玉と落ちるが、これぞ「玉は下段に落とせ」の格言通り。
 
 さらに「をよこせ」と▲56金とぶつけ、これ以上先手に戦力をあたえられない後手は△54金と引く。
 
 攻められっぱなしだが、相居飛車の後手番というのは、戦型によっては、こういう展開になりやすいのだ。
 
 
 
 
 ただ、こうしてじっと辛抱されると、攻め続けるのも大変である。
 
 この局面、先手に手駒がなく、3筋の駒もダブって重く感じられる。
 
 ここで足が止まると、後手には反撃の筋がいくらでもあるが、
 
 
 「▲33の銀がいなければ、歩が成れるのになあ」
 
 
 そう感じたアナタは、なかなかスルドイ。
 
 「パンがなければケーキを食べればいいのよ」と言い放ったアントワネットのごとく、が邪魔なら捨ててしまえばいいのである。
 
 
 
 
 
 
 
 
 ▲24銀成が、邪魔駒除去の華麗な手筋。
 
 △同歩の一手に▲33歩成となって、大砲の前にトンネルが開通し、先手絶好調の図。
 
 頭上に大穴が空いて、これ以上正面から受けられない羽生は、△37成桂と攻め駒の裏側からプレッシャーをかける。
 
 泉はかまわず▲43と、と取る。
 
 △36成桂飛車を取られても、今度は▲24角と眠っていたを飛び出して、気持ちよすぎるさばき。
 
 「野獣流」の攻め、一丁あがりの巻である。
 
 
 
 
 
 
 さて、問題となるのが、この局面。
 
 「先手がその利を生かして攻めまくり、後手がそれを耐えに耐え、最後に一瞬だけ攻めのターンが回ってくる」
 
 という、相居飛車でよくあるパターンだ。
 
 ここで、いいカウンターがないと、矢倉や角換わりの後手番は、なんの楽しみもないことになってしまう。
 
 具体的には、次に先手が▲33角成とすれば、頭金の詰みが受けにくく、ほぼ必至
 
 だから、ここで詰めろ級の手が必要となる。
 
 豊富な持駒はあるから、形は△86桂の「歩頭の桂」とか、△69銀とかける手だが(どちらも憶えておくと、とっても使える手筋です)、控室での棋士たちの検討でも、やや足りないという結論に。
 
 なら後手負けかといえば、これがそうでもない。
 
 なんといっても、指しているのが、あの「天才」羽生善治である。
 
 当時まだ18歳の五段とはいえ、すでに実力はトップクラスと認められていた。
 
 この少年なら、きっとすごい手で、皆をおどろかせてくれるに違いない。
 
 その期待感は、今の藤井聡太に対するそれと同じようなものだ。
 
 その視線を受け、はたして羽生は控室の面々が驚愕する一手を放つ。
 
 だがそれは、並みいるプロたちの予想を超えた、すごい手だったからではない。
 
 控室の検討で
 
 
 「この手だけは指してはいけない」
 
 
 といわれた、だれが見てもわかる、ただの凡手だったからだ。
 
 
 (続く→こちら
 
 
 

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