ワインバーでのひととき

フィクションのワインのテイスティング対決のストーリーとワインバーでの女性ソムリエとの会話の楽しいワイン実用書

ワインバーでのひととき セカンド(改訂) 25ページ目 美しい切子のワイングラス  

2013-01-23 22:14:29 | ワインバーでのひととき2改訂三話まで完
【25ページ】


 和音は、右端のワインを選び、鯵元社長の専属ソムリエに手渡した。

専属ソムリエは、そのワインを抜栓し、グラスに注いだ。

そして、コルク片が入っていないのを確認し、社長にアイコンタクトをとった。


「和さん、今度はコルク片が入っていません。 さあ、テイスティングをどうぞ!」


 和音は、グラスを手にとり、香りを嗅いだ。


「トリュフをはじめ豊かな芳香を放っている。」


 そして、和音は一口含んだ。


「とてもなめらかで、フルーティな味わいだ!」


和音は、シャトー・ペトリュスの特徴を述べながら、考えを巡らしていた。


「味元社長は、カベルネ・ソーヴィニヨンのテイスティングの後で、その味覚が

残っているのにもかかわらず、シャトー・トロタノワを簡単に答えた。

迷っているように装っていたが・・・・・・」


和音は、慎重にもう一度テイスティングをおこなった。


「トリックを仕掛けて、このメルロの3本のワインは、すべてシャトー・トロタノワ?

それなら鯵元社長が間違えずに答えることができる。

だったらなぜこのワインがシャトー・ペトリュスのように感じるのだ?」


 和音はグラスの切子のブドウのデザインを凝視した。

描かれているブドウの種類はメルロ、そして5%のカベルネ・フランが隠し彫りされている。


「このメルロのデザインが私の判断を狂わせているのか、いやデザインで仕掛けがあると

思わせているだけか?」

ワインバーでのひととき セカンド(改訂) 24ページ目 美しい切子のワイングラス 

2013-01-11 23:22:43 | ワインバーでのひととき2改訂三話まで完
【24ページ目】


鯵元社長はさらにひと口含んだ。


「私の答えはシャトー・ト」


彼がワイン名を答えるのを遮るように和音が突然話しかけた。


「さすが鯵元社長!」

「ええ?」


鯵元社長は和音が何を言っているのか理解できなかった。


「私は、鯵元社長のテイスティングを見てもっと悩むのでは思ったのです。

カベルネ・ソーヴィニヨンのテイスティングの後では、その味覚の余韻が

残っているはずですから」


和音は鯵元社長の目を見つめた。


「ところがそのワインをテイスティングするなり、ポムロールのワインだと言いました。

有名なワインはメルロ主体にカベルネ・フランがブレンドされているのです。

それらにはカベルネ・ソーヴィニヨンはブレンドされていない・・・」


和音は、鯵元社長に微笑みかけた。


「テーブルに並べられたボルドーの3本はすべてポムロールのワインですね?」

「和さんのテイスティングのヒントになりますから・・・・

私の答えはシャトー・トロタノワです。」


鯵元社長は一瞬動揺したが、和音がポムロールのワインだと判ってもいいと思い直した。

かえってシャトー・ペトリュスに間違えさせるチャンスだと思った。


「それでは和さん、1本選んでください」



ワインバーでのひととき セカンド(改訂) 23ページ目 美しい切子のワイングラス 

2013-01-10 21:02:10 | ワインバーでのひととき2改訂三話まで完
【23ページ】


 鯵元社長が、ボルドーのメルロのワインを3種用意したと言ったが、

それらはすべて同じワインであった。

そのワインとは、ポムロール地区のシャトー・トロタノワ!

ぶどう品種比率はメルロ90%、カベルネ・フラン10%であった。


 だから鯵元社長は、必ずワイン名を当てることができる!

勝負のポイントは、シャトー・ペトリュスと同じ一家が所有・管理している

このシャトー・トロタノワをいかにシャトー・ペトリュスと思わすかにかかっている。


 シャトー・ペトリュスのぶどう品種比率はメルロ95%、カベルネ・フラン5%である。

和音とのテイスティング対決に使用するワイングラスは、メルロのデザインを施された

切子のグラスである。


 切子職人の桐山は、鯵元社長から受け取ったシャトー・ペトリュスの実際のぶどうをモデルに

切子のグラスを作製した。

グラスのぶどうは、メルロの中にカベルネ・フラン5%の比率で隠して描かれていた。

桐山の切子のワイングラスからは、シャトー・ペトリュスの気が放たれているのである。


 社長の専属ソムリエは、社長から受け取ったワインを抜栓し、グラスに注いだ。

鯵元社長は、そのグラスを手に取り、テイスティングをおこなった。


「これは、ポムロールのメルロだと思うが・・・」


鯵元社長には答えがわかっているが、難しそうな表情を浮かべて、もう一口飲んだ。


「メルローのウェートが90%を超すワインと言えばシャトー・ペトリュスか

その兄弟分のシャトー・トロタノワ、それともペトリュスを追い成長を続けるシャトー・ル・パンか?」

ワインバーでのひととき セカンド(改訂) 22ページ目 美しい切子のワイングラス 

2013-01-07 23:10:34 | ワインバーでのひととき2改訂三話まで完
「おっ、フランスのラングドックのワインだ」


鯵元社長は残念そうな表情を浮かべた。


「和さんを、確かに追い詰めた! 彼は迷っていた。

コルク片が入っていると言って、指をワインに入れたから?」


鯵元社長は、心の中で呟いていた。


「メルロの闘いでは、それを防ごう」


鯵元社長が気を取り直すと、


「カベルネ・ソーヴィニヨンの国名当ては、どちらも正解で引き分けでした。

次は、ボルドーの3種のメルロのワインのテイスティング対決です。」


3本のワインを示しながら言った。

それらのワインはラベルを隠すように紙に覆われている。


「3本の中から私と和さんが1本づつ選び、ワイン名を答えます。

それでは、私から選び、テイスティングをします。」


鯵元社長は、3本のワインに対して背を向けた。


「和さん、3本のワインを移動させてください。」


和音は、左右のワインを入れ替えた。

そして真中のワインと左のワインを入れ替えるそぶりをして元に戻した。


「ワインの移動を完了しました。」


和音が言うと、社長は振り返った。

そして真中のワインを手に取り、専属ソムリエに手渡した。