goo blog サービス終了のお知らせ 

ワインバーでのひととき

フィクションのワインのテイスティング対決のストーリーとワインバーでの女性ソムリエとの会話の楽しいワイン実用書

ワインバーでのひととき ファースト(改訂) 140ページ目 第四話 人型ソムリエロボットの実力は? 

2012-07-10 22:40:47 | ワインバーでのひととき1改訂四話 完
【140ページ】


「私が子供の頃、夜寝る前に、老人が船で漁に行き、大きなカジキを釣り上げるが、サメに食べられて

しまう話を父がしてくました。」

「それは、ヘミングウェイの『老人と海』ですか?」

「そうだったようです。私が中学生の頃には、父の本棚から『日はまた昇る』や『武器よさらば』や『誰がために鐘が鳴る』

等のヘミングウェイの本を取り出し夢中で読んでいました。

ところが高校生から大学生の頃はロボットに興味を持ち、ヘミングウェイのことは忘れてしまったのです。」


 深川博士は、シャトー・マルゴー2,000年を一口飲み、話を続けた。


「そしてロボットの製作である程度の成功を収め、ワインに興味を持ち始めたのです。

そんなある日、知人からヘミングウェイが愛したワインの話を聞いたのです。このワインを愛するあまり

孫娘にマーゴと名付けたのです。」


「そのワインこそシャトー・マルゴーだったわけですね?」

「そうです。幼少期の思い出と共に、シャトー・マルゴーが私のお気に入りのワインになっていったのです。」

「深川博士、アジミーにひとつ訊ねてもいいですか?」

「はて、何でしょうか? 別にかまいませんが。」


 和音は、アジミーに話しかけた。


「アジミー、ヘミングウェイの愛したシャトー・マルゴーのヴィンテージはいつ頃のものと推測しますか?」

「ヘミングウェイは、1899年~1961年まで生きています。すると1960年台の名声を落とした

シャトー・マルゴーではありません。私の推測では、熟成期間を考えれば、新しい所有者に替わった1934年~

1945年頃のシャトー・マルゴーだと思います。」

「私もそう思います。」と和音が言った。




ワインバーでのひととき ファースト(改訂) 139ページ目 第四話 人型ソムリエロボットの実力は? 

2012-07-08 05:31:44 | ワインバーでのひととき1改訂四話 完
【139ページ】


 アジミーは、シャトー・マルゴー2,000年を抜栓し、グラスに注いだ。


「さあ、いただきましょう」と深川博士が言った。

「はい、それにしてもマジミーの所作は、味川さんにそっくりですね?」

「ええ、味川さんの指導を受けているので!」

「アジミーだったら、このシャトー・マルゴー2,000年をどう表現するか興味があります。

彼女にテイスティングさせてもらえませんか?」

「いいですよ」


 深川博士は、アジミーに指示を出した。

いや、その前にアジミーの方から二人の会話から判断して確認してきた。


「深川博士、私がシャトー・マルゴー2,000年をテイスティングするのですか?」

「イエス、テーブルのグラスに注ぎ、試飲して、テイスティングコメントを言いなさい」


 和音は、シャトー・マルゴー2,000年を飲みながら、アジミーがテイスティングするのを眺めていた。


「テイスティングコメントを述べさせて頂きます。

シャトー・マルゴーのブドウ品種のブレンドは、一般的にはカベルネ・ソーヴィニヨン75%、メルロー20%、

カベルネ・フラン&プティ・ヴェルド5%です。ところがこの2,000年は、カベルネ・ソーヴィニヨン90%、

メルロー10%となっています。文豪ヘミングウェイが『力強さの中にもエレガント』と称えたマルゴーとは

別物になっていると思います。」


「アジミーの個性が出たテイスティングコメントですね?」

「分析能力にかけては、世界一のソムリエと言えるからね」と博士が答えた。

「ところで、博士がシャトー・マルゴーがお気に入りになったきっかけがヘミングウェイだったそうですね?」

和音が、深川博士に訊いた。







ワインバーでのひととき ファースト(改訂) 138ページ目 第四話 人型ソムリエロボットの実力は? 

2012-06-29 22:48:09 | ワインバーでのひととき1改訂四話 完
【138ページ】


 味川は、和音と深川博士のグラスにシャトー・マルゴーを注いで、話を続けた。


「この新しい所有者は、莫大な資財を投入して、畑から醸造設備、貯蔵設備、さらにシャトーにいたるまで

徹底的に改造していったそうです。その結果1978年以降再びメドックのトップに返り咲いたのです。」


「今飲んでいるシャトー・マルゴーはその1978年なのです。」と深川博士が言った。

「和音さん、実は1978年のヴィンテージを見抜いていたのでは?」


 味川は、和音の目をじっと見つめた。そして話を続けた。


「このワインの感想を述べた時、名は知らなくてもと言っていましたね? 『名は』は78では?」

「それは偶然です。」そう言いながら和音は笑った。

「和音さん、それではソムリエロボットのアジミーを呼びます。

味川さん、アジミーにシャトー・マルゴーの2000年を持って来させてください。」


 味川は、「失礼します!」と言って別室に行った。

そして、しばらくすると味川ともう一人の女性が出てきた。

和音は、彼女がアジミーか?と思った。

彼女はワインセラーの前に立つと、扉を開け、ワインを一本取り出した。


「アジミー、シャトー・マルゴー2000年を深川博士とお客様の所に持って行き、二人に注ぎなさい」

「承知しました。」


アジミーが二人の前に立つと、和音に挨拶した。

「いらっしゃいませ! 深川博士、ワインを注ぎましょうか?」

「ええ!」


深川博士は、テーブルのワイングラスを指さし、


「あのグラスに私とお客様の分を注いでください」


ワインバーでのひととき ファースト(改訂) 137ページ目 第四話 人型ソムリエロボットの実力は? 

2012-06-28 22:44:27 | ワインバーでのひととき1改訂四話 完
【137ページ】


「1976年とはに答える前に、ひとつお尋ねしてもよろしいですか?」

「何でしょうか?」


和音は、まるで女性のソムリエと会話している錯覚を覚えた。


「1973年~1974年のワインの大暴落はなぜ起こったかご存知ですか?」

「大きな要因は、オイルショックでした。それに追い打ちをかけたのがワインゲート事件です。」

「ワインゲート事件?それはどんな事件だったのですか?」


深川博士にとっては、初耳の事件であった。


「それは、ワイン商がニセボルドーワインをつかまされた事件です。面白いエピソードが残っているのですよ!

裁判で、裁判官から、それがどうしてボルドーワインだと判らなかったのですか?と訊かれて、そんなことは

誰にもできませんと答えたそうです。」


「アジミーだったら見分けられると思う。」

「ええ?、味川さんでは?」


和音は、思わず聞き返した。


「味川さんは、私の専属ソムリエですよ!」

「味川さん、失礼しました! 手を触ったり、胸やお尻を触ろうとしてしまいました。」

「いえ、OKを出した博士が悪いのです。」


味川は、深川博士を睨みつけるふりをした。


「話の続きですが、シャトー・マルゴーにとって1976年とはでしたね?」


和音は、うなずいた。


「ワインの大暴落の後、熱意を失ったジネスト家からメンデロブロス家に所有者が替わった年です。」

ワインバーでのひととき ファースト(改訂) 136ページ目 第四話 人型ソムリエロボットの実力は? 

2012-06-27 20:19:09 | ワインバーでのひととき1改訂四話 完
【136ページ】


「和さん、このシャトー・マルゴーのヴィンテージは・・・あっ!」


深川博士は、和音にヴィンテージを訊ねようとして思い出した。


「テイスティング対決の時以外は、ただおいしくワインを飲むのが和さんの流儀でしたね?」

「そうですね。」

「あっ!」


 味川も小さく叫んだ。彼女は、深川から以前聞いた話を思い出したのだ。

和音は、ワインの感想を述べている中で、偶然かどうかは判らないが、ヴィンテージに符号する

言葉が含まれている場合がある。


「シャトー・マルゴーにとって、重要な年がいくつかありますね? まず1855年」


和音は、味川に向かって話しかけた。


「パリ博覧会で目玉企画として、メドックワインのランク付けされた年で、シャトー・マルゴーは1級に

格付けされました。」


味川は、和音との会話をスムーズにおこなった。


「次に1934年。この年は?」

「1929年~1933年の世界大恐慌の影響を受けて、1934年にシャトー・マルゴーはジネスト家の所有になりました。

ジネスト家は、ブドウ畑の拡大や醸造設備の充実に取り組みました。

ところが1960年~1970年にかけて一時期名声を落とします。

さらに1973年~1974年にかけてワインが大暴落して、大損失を受けるのです。」


和音は、味川をじっと見つめた。


「そして1976年。この年は?」