ラヂオアクティヴィティ[Ra.] 第二部・国境なき恐怖 163ソーシア うれしい知らせを勉は受けていた。 みんなも、ホテルのラウンジでくつろいでいる。 むこうから桜田女医が笑顔でやってきた。 「どうしたの?」 とても、うれしそうだったので、ナンシーは訊いた。 「ソーシアが京都に来るのよ」 輝代はそういうと、とてもうれしそうだった。 「ソーシア。それは、チェルノブイリ原発事故で被曝した子どもね」 輝代の目が青白く輝いた。 「体調、よくなったのかな……」 勉は質問した。 「さあー、少しはよくなったみたいね……、移動が許されたのだから」 不安気な桜田。 「命をかけているのよ!」 輝代は眉間に皺をよせた。 「そんなに簡単に命なんて、かけられないわよ!」 ミス・ホームズは思慮深い顔をしていた。 「そうね。でもあの子、ソーシアは生命を掛けているかもしれない。憎い、チェルノブイリ事故……。あいつらのせいで、後わずかしか生きられない……。殺されたのと同然の身ですもの……。あいつらに……」 輝代はじっとテーブルを見つめながら深刻に意見を述べる。 「あるアメリカ人は発言したわ。広島を見て“広島は未来である”と述べたのよ。そうでしょう。核兵器を多くの国は持っているのですもの……。その人たちと同じことを表現できるわ」 「何? どういうこと……」 「“チェルノブイリは未来である”。原子力発電所を持っている国はどこもがチェルノブイリにならないとは限らないのよ」 輝代はよく、こういった問題を知っていると、今更ながらナンシーは驚いていた。 「“チェルノブイリは未来”か……」 「でも、それ以上になるわよ」 輝代の目がキラリと白く光った。 二人の女性がホテルに入ってきた。勉は走った。 「ソーシアさんですね」 「私は女医のイネッサです」 やはりソーシアの顔色は悪い。イネッサにもたれかかっていた。 「どうします?」 「まず、ソーシアの部屋を教えて下さい」 イネッサは早くソーシアを安静にしてやりたかったのだ。 様態をつべこべ言っても、ソーシアの状況はよくならない。 それよりも、できるだけ早く休ませてあげることが、医者の勤めとイネッサは思ったのである。 「はい、545号室です。僕が鍵を持っています」 イネッサはソーシアを連れて、エレベーターに向かっていた。 遅れないように、勉も跡を追った。 エレベーターから降りるのは、勉が先だった。 勉は先に部屋の鍵を開けておこうと考えたのだ。 ドアを開けて、体でそれを押し止めた。 「ありがとう」 初めて、ソーシアが発した言葉だった。 か細い声だった。 「どういたしまして……」
ありがとうございます。 Index[Ra.] |
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