By Jacob M. Schlesinger 日本銀行の黒田東彦総裁は16日、ウォール・ストリート・ジャーナルのインタビューに応じ、自らが「バズー カ」と呼んだ大規模な金融緩和策をさらに強化するために「ヘリコプターマネー」の採用を検討するか質問を受 けると、破顔一笑して両手を空から紙幣をばらまくようにひらひらと動かしてみせた。同総裁の下で日銀が取り 組む大胆な金融緩和は、総裁就任から3年たつが、ひいき目にみてもまちまちな成果しか挙げていない。 黒田総裁の答えは「ノー」だったが、この実験主義者の総裁はその可能性を一応検討したことを明らかにし、 はっきりと認めないながらもそうした考えを実行するかもしれないことをにじませた。 「ヘリコプターマネー」とはマネタリストとして知られる経済学者ミルトン・フリードマンが1969年に編み出 した概念で、ベン・バーナンキ前連邦準備制度理事会(FRB)議長がFRB理事時代にデフレ克服策として採り上げ 有名になった。中央銀行が金融システムを経由せず、あたかもヘリコプターから紙幣をまき散らすように現金を 直接消費者にばらまく手法だ。この手法は、財政当局と連動して採られる可能性が高い。財政当局は減税や大規 模な歳出計画を実行し、中央銀行がその債務を直接まかなう形になるだろう。 黒田総裁は40分間のインタビューで3回、そのような手法に着手する意図はないと断言した。その根拠として 総裁は、世界の先進諸国においては中央銀行と財政当局はお互いに独立したものという習わしがあり、その一線 は越えないとの考えを繰り返した。2013年の就任時には慎重な前任者が神棚に上げておいた禁忌を次々と破った 黒田総裁だが、その彼ですらあえて触れることをしない政策を示した形となった。 それでもインタビュー全文の書き起こしを詳しく読むと、ヘリコプターマネーの議論を続けるにつれ、黒田総 裁が興味深い一連の事実を示したことが分かる。まず、金融緩和の名の下で日銀はすでに財務省が新規に発行す る国債の2倍以上を市場から買い入れており、事実上、無制限な国債発行を保証している。次に、これにより政 府は「過去最大規模の予算を組む」ことができた。そして、日銀の「金融政策は名目と同時に実質金利にも強い 圧力をかけている」と総裁は語った。つまり、日本政府は公的債務が国内総生産(GDP)比200%を超える世界最 高水準にあるにもかかわらず、膨大な資金をただで調達できるということだ。 財政政策と金融政策はすでにこのような目標達成に向けて事実上協力し合っているので、要するにヘリコプタ ーマネーは「必要ではない」と黒田総裁は結論付けた。 だが、ヘリコプターマネーが市場や経済、消費行動を一新して本当に効果を挙げるには、日銀がすでにやって いるように中央銀行が財政支出をまかなうだけでなく、ヘリコプターマネーをやっていると明言し、政府に返済 を決して求めないと約束するしかない。さもなければ、人々は将来大幅な増税があると考える他はなく、それを 踏まえた行動をするだろう。 黒田総裁はそれを良く承知している。総裁は金融政策を語る際、手段だけでなく言葉にもかなり力を入れてい る。政策効果は、どのような行動をとるかと同時に、その行動をどのように表現するかで左右されると考えてい る。また、黒田総裁にはリフレ政策が窮地に追い込まれたように見えると、否定したと思われた路線を変更して きた実績がある。日本のインフレ率が低迷し続けるならば、黒田総裁の言葉に耳を傾けるだけではいけない。総 裁の手の動きにも注目すべきだ。 -0-
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