ニューヨーク(ダウ・ジョーンズ)独裁政権に市民が抵抗運動を起こす一方、数年前までリセッション(景気後退)に陥っていた米国経済には、原油価格高騰が脅威となっている。
これは現在の世界情勢ではない。1970年代後半に起きていたことだ。
財界の指導者や消費者は、経済成長の大きな足かせとして不透明感を挙げることが多い。しかし、米国のエネルギー供給の大半は、世界でも最も不透明感の大きい地域に依存しているのだ。
先進国の経済成長は、中東産の割安な原油に大きく頼ってきた。70年代には、こうした状況がいかに賢明さを欠いたものであるか(特に米国にとって)が明らかとなった。
それは、石油輸出国機構(OPEC)の禁輸措置を皮切りに始まり、イラン革命で最悪の場面を迎えた。この際、イランの革命勢力が皇帝(シャー)を追放し、米大使館では人質52人が444日間にわたって拘束された。原油とガソリンの価格は2年間で倍増。エネルギー価格の急騰を受け、激しいインフレと戦後最大級のリセッションが発生した。
これ以降、米国は中東産原油から部分的に距離を置いてきたが、その依存度は現在でも極めて高い。米エネルギー情報局(EIA)によると、米国が輸入する原油の17%はペルシャ湾岸諸国から、また22%がアフリカからのものだ
。
ただ見方によれば、米国は70年代の石油危機以来、何かを学んできたとも言える。自動車はより燃費のいいものとなり、製造業部門は大幅に省エネ化した。現在、1ドルの国内総生産(GDP)を算出するのに必要なエネルギー量は、30年前の約半分に過ぎない。
だがそれでも、地政学的不透明感によって経済成長が損なわれないエネルギー政策を、米国が十分に講じているとは言えない。
結果として、米国の景気回復は現在も、原油の価格と供給の双方に対して脆弱(ぜいじゃく)性を抱えている。
現在のガソリンコストは、81年から82年の厳しいリセッション直前に見られた懸念すべき水準にまで再上昇している。インフレ調整後のガソリンコストは、79年および80年とほぼ同水準だ。エネルギー価格の上昇により、消費者の裁量的支出は削られ、企業は労働などエネルギー以外の部門に投入すべき資金を絞っている。
さらに、より大きな懸念事項となっているのは、反体制勢力によって原油輸送が分断された場合のことだ。エネルギーへの支出をさらに拡大するというのも一案だろう。ただ、いくらになっても買う、というのは現実味がな
い。
一方、反体制派の動きは収束には程遠い。
「世界人口の1割を占め、世界で最も低コストの産油地域であるこの地域は、大きな転換点を迎えつつあるようだ」と、投資会社カンバーランド・アドバイザーズのデービッド・コトック会長は言う。同会長によると、エネ
ルギー価格の上昇は長期化するとみられるが、「米経済はこれに対する準備ができていない」という。
現在の中東情勢は、政治家や企業幹部、規制当局に対して警告を発しているに違いない。つまり、米国はエネルギーを中東に依存している体質について、対策を講じる必要があるということだ。コトック氏は現在の政策について、「ほとんど正気のさたではない」と言う。
何らかの行動を起こさなければ、米国の脆弱(ぜいじゃく)性は変わらない。それは、79年当時も現在も同じことだ。米国の哲学者ジョージ・サンタヤナに倣って言えば、「過去から学ばない者は同じ過ちを繰り返す」のである。
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