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辻村深月(ミヅキ)(1980-)「仁志野町(ヒトシノチョウ)の泥棒」(2009年):一方で「泥棒」を非難しながら、他方で許しておく、大人の矛盾した態度に、小学校6年生の「私」は不満だった!

2018-06-13 14:27:52 | 日記
(1)
水上律子(リっちゃん)が、小学校3年の時、私達の通う仁志野(ヒトシノ)北小に転入してきた。仁志野北小では、クラスは全学年1クラスで、入学から卒業まで同じメンバーだった。
(2)
リっちゃん(律子)は、明るく、手先の器用な子だった。律子と優美子と私(ミチル)は仲が良かった。優美子の母は、家でピアノ教室を開き、優美子もピアノを弾いた。律子の母親は、小柄でぽっちゃりした人で、おおらかだった。私の母は、小学校の教師で真面目で堅い人だった。
(3)
小学4年の時、律子の母が、赤ん坊を産んだ。「恥ずかしいから、黙ってなさい」と母から言われたと、律子は初め「よその子」を預かっていると言っていた。
(4)
小学校5年の時、樹里(ジュリ)が「りっちゃんの家のおばちゃん、泥棒なんだよ」と私に告げた。どの家も農家で、戸締りせずに田んぼや畑に行くので、そのすきに、近所の家に忍び込み、現金などを盗むという。何軒も。泥棒に入られた。「りっちゃんが下見するといけないから、遊んでいいけど、家に上げてはいけない」と言われる子もいた。
(4)-2
しかし警察には、誰も通報しない。親たちは皆、知っているが、律子の母親と普通に付き合っている。
(5)
律子を、人気のある優美子から引き離そうと、嫉妬する樹里たち数人の女の子が、優美子と私を呼び出した。
りっちゃん(律子)の母親の話を聞き終えた優美子が、「知ってる」と告げた。「仲良くなったばっかりの頃、うちでもそういうことがあって、うちのお母さんと、りっちゃんのおばちゃんが話し合ってた。もうやっちゃだめって、お母さん、止めたって言ってた」とのこと。
(5)-2
「ミチルちゃんに、ずっと言わなくて、ごめんね」と優美子が、私に言った。
(5)-3
私は、優美子を「すごい」と尊敬した。クラスのみんなも、優美子の毅然さを知って、律子をいじめることなく、以後も、普通に付き合った。
(6)
律子の母親の泥棒について、PTAでも問題になったが、騒ぎ出す人たちはいなかった。大人たちは、何もなかったかのように振舞った。
(7)
小学校6年の夏休み、ある日、私は母と県庁所在地の繁華街に出かけた。映画を見て、食事し、買い物し、夕方、家に帰った。おじいちゃんの軽トラが表になく、畑に行っていた。玄関の引き戸が、少し開いている。嫌な予感がした。律子の母親が盗みに入っていた。
(7)-2
「上に行っていなさい」と母が、私に言った。階下で、二人が話した。母は、私に、「律子ちゃんは、お母さんと関係ないから、これからも律子ちゃんと仲良くしていいよ」と言った。律子の母は、盗みが問題になるたび、これまで転居していた。だから律子も1年位ごとに、小学校を転校した。
(8)
翌日、律子が謝りにきた。「ごめんなさい」と言って泣いた。私は、「なかったこと」にした。これまで、大人のやり方を変だと思ってきたが、今、私も「半端なりに、もうわかっていた」。
(9)
卒業制作のため、絵の具を、律子・優美子・私の3人で、駅前の店まで、買いに行った。そこで、私は、律子が「星の形をした消しゴム」を万引きするのを、見つけてしまった。律子は、かわいそうなほど動揺し、顔は真っ赤になり、顔から表情が消えた。
(10)
「私はもう、おしまいにしてもいいと思った。」「お金、払いなよ」と私が律子に言った。私は「許せない」と思った。私は優美子を探して「先に帰る」と告げた。もう係わりたくなかった。悲しかったし、苦しかったが、すっきりもした。
(10)-2
その後、律子とは、卒業まで満足に口を聞かなかった。卒業制作は、律子と優美子が版画を制作した。私は別のグループに入れてもらった。
(11)
小学校卒業後、律子の家は転居し、律子は別の中学に通った。噂では、中学でも1年単位の引っ越しと転校を繰り返したという。高校は、律子は、別の町の高校に行った。
(12)
高校1年のある日、偶然、校門の横で、律子にあった。互いの口が、あ、と開いた。私は思わず「りっちゃん」と呼びかけた。
(13)
ところが、律子は、私の名前を思い出せなかった。「優美子ちゃんの、友達だったよね」と言った。そして「懐かしいな」と言ったが、最後まで、私の名前は思い出せなかった。私のクラスメートが「おまたせー」とやって来ると、律子が「遅いよぉ」と応え、律子は、私に「じゃあまた」と言って別れた。
(14)
結局、「私はもう、彼女の友達でなかった」。

《感想1》
小学6年の「私」は潔癖だ。一方で、大人たちは、「泥棒はいけない」・「泥棒は警察に通報する」と教える。ところが他方で、大人たちは、泥棒を隠し、公に非難もせず、警察にも通報しない。この矛盾した大人の態度が、「私」には納得いかなかった。
《感想2》
泥棒するりっちゃん(律子)のお母さんと切り離し、りっちゃんは別の人間だと思って、「私」は付き合ってきた。ところがりっちゃん自身が泥棒(万引き)をした。一方で泥棒を非難しながら、他方で許しておく大人の矛盾した態度に不満な私は、りっちゃんの万引きを許せず、絶交した。
《感想3》
①《母親の泥棒行為と律子ちゃんは関係ない》との優美子ちゃんの信念は、確かに、「すごい」と尊敬されてよい。②律子の万引きの問題については、優美子ちゃんは知らなかったのか?知らなければ、優美子ちゃんと律子の友情が壊れないのは、これまで通りだ。
②-2 だが、律子の万引きを知っているのに、優美子ちゃんが、律子の苦しみを知り、許し、付き合い続けたのだとしたら、優美子ちゃんは「さらに、すごい」と言うべきだ。
《感想4》
りっちゃん(律子)が、「私」(ミチル)の名前を忘れたのは、おそらくフロイト的無意識のせいだ。彼女は、彼女を責める「私」(ミチル)を無意識下で忘れたかったのだ。だから、「私」(ミチル)の「名前」を忘れた。ただし、律子は、「私」(ミチル)という人間の《再認》ができなくなるまで忘れることはなく、かくて出会ったとき、彼女も、「口が、あ、と開いた」。《再認》したのだ。
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