陽気な死人
蝸牛だらけの粘土の地べたに
僕は自分の手で深い穴を掘らう、
そこに悠々と老いたこの身を横へて、
海中の鮫のやうに忘却の中で眠らう。
僕は遺言を憎み、墓を嫌ふ者だ。
人の涙を乞うよりは、
生きながら鴉(カラス)を招いて
持ち崩したこの身、残るくまなく啄(ツイバ)ませよう。
蛆(ウジ)どもよ! 耳も眼もない哀れな兄弟分よ、
見るがよい、暢気(ノンキ)で陽気な死人が一人、貴様等の處へいま来たぞ
放蕩の哲学者、腐敗の子、蛆どもよ、
俺の遺骸(ナキガラ)を遠慮なく探し廻ってみた上で、
教えてくれ、死んだ上にもまた死んで
魂抜けた老いの身に、残る悩みがまだあるか!
《感想1》
①死人が「自分の手で深い穴を掘らう」というのだから、この死人は、元気だ。
①-2 また、土の中で「悠々と」、「眠らう」と、この死人は、死を恐れない。
①-3 死人は「陽気」である。
《感想2》
②「遺言」は、この世への執着。「陽気な死人」は、この世に執着せず、あの世へ行く。
③「墓」は、この世に生き残る者に対し、「涙を乞う」もの。彼らの同情は、いらない。
③-2 「陽気な死人」は、自尊心・名誉心の塊。同情を、嫌う。
③-3 同情をほしがる位なら、「生きながら鴉(カラス)を招いて/持ち崩したこの身、残るくまなく啄(ツイバ)ませ」た方がましだと言う。誇り高い魂!
《感想3》
④ここで、死人にたかる蛆(ウジ)に語りかける。蛆に親しく言う。「耳も眼もない哀れな兄弟分よ」と。生きた者なら嫌がる蛆が、死人にとっては友人。「陽気」な呼びかけ!確かに「暢気(ノンキ)で陽気な死人」。
④-2 蛆は、死人の「兄弟分」で、両者は似ている。蛆が「放蕩の哲学者」、「腐敗の子」なら、「陽気な死人」もまた、そうだということ。
《感想4》
⑤死人は、虚無であり、もはや「悩み」がない。死人は、「陽気」である。詩人は、虚無を「陽気」と呼ぶ。
⑤-2 だから「陽気な死人」は、蛆を挑発する。「俺の遺骸(ナキガラ)を遠慮なく探し廻って」みよと。
⑤-4 この死人は、肉体において「死んだ上に」、さらに精神においても「また死んで/魂抜けた老いの身」。
⑤-5 二重に死んだ「死人」は、二重に虚無であり、どんなに探し廻っても「残る悩みがまだある」ことがない。悩みがない「死人」は、「陽気な死人」である。
THE JOYFUL DEAD
In the clayey ground having many snails, I dig a deep hole by myself.
I lay my body there in a relaxed way,
And sleep in forgetfullness like a shark.
I hate a last will and dislike a grave.
I never ask for others’ tears,
But I invite crows while I live,
And I let them pick my evil body thoroughly.
Oh, maggots! My misery brothers having neither eyes nor ears,
Do look. Here comes one easygoing joyful dead to you now.
Prodigal philosophers, children of decay, maggots,
Do search around my dead body brutally,
And teach me what worries still remain
In my aged body that dies again after its death and has no soul!
蝸牛だらけの粘土の地べたに
僕は自分の手で深い穴を掘らう、
そこに悠々と老いたこの身を横へて、
海中の鮫のやうに忘却の中で眠らう。
僕は遺言を憎み、墓を嫌ふ者だ。
人の涙を乞うよりは、
生きながら鴉(カラス)を招いて
持ち崩したこの身、残るくまなく啄(ツイバ)ませよう。
蛆(ウジ)どもよ! 耳も眼もない哀れな兄弟分よ、
見るがよい、暢気(ノンキ)で陽気な死人が一人、貴様等の處へいま来たぞ
放蕩の哲学者、腐敗の子、蛆どもよ、
俺の遺骸(ナキガラ)を遠慮なく探し廻ってみた上で、
教えてくれ、死んだ上にもまた死んで
魂抜けた老いの身に、残る悩みがまだあるか!
《感想1》
①死人が「自分の手で深い穴を掘らう」というのだから、この死人は、元気だ。
①-2 また、土の中で「悠々と」、「眠らう」と、この死人は、死を恐れない。
①-3 死人は「陽気」である。
《感想2》
②「遺言」は、この世への執着。「陽気な死人」は、この世に執着せず、あの世へ行く。
③「墓」は、この世に生き残る者に対し、「涙を乞う」もの。彼らの同情は、いらない。
③-2 「陽気な死人」は、自尊心・名誉心の塊。同情を、嫌う。
③-3 同情をほしがる位なら、「生きながら鴉(カラス)を招いて/持ち崩したこの身、残るくまなく啄(ツイバ)ませ」た方がましだと言う。誇り高い魂!
《感想3》
④ここで、死人にたかる蛆(ウジ)に語りかける。蛆に親しく言う。「耳も眼もない哀れな兄弟分よ」と。生きた者なら嫌がる蛆が、死人にとっては友人。「陽気」な呼びかけ!確かに「暢気(ノンキ)で陽気な死人」。
④-2 蛆は、死人の「兄弟分」で、両者は似ている。蛆が「放蕩の哲学者」、「腐敗の子」なら、「陽気な死人」もまた、そうだということ。
《感想4》
⑤死人は、虚無であり、もはや「悩み」がない。死人は、「陽気」である。詩人は、虚無を「陽気」と呼ぶ。
⑤-2 だから「陽気な死人」は、蛆を挑発する。「俺の遺骸(ナキガラ)を遠慮なく探し廻って」みよと。
⑤-4 この死人は、肉体において「死んだ上に」、さらに精神においても「また死んで/魂抜けた老いの身」。
⑤-5 二重に死んだ「死人」は、二重に虚無であり、どんなに探し廻っても「残る悩みがまだある」ことがない。悩みがない「死人」は、「陽気な死人」である。
THE JOYFUL DEAD
In the clayey ground having many snails, I dig a deep hole by myself.
I lay my body there in a relaxed way,
And sleep in forgetfullness like a shark.
I hate a last will and dislike a grave.
I never ask for others’ tears,
But I invite crows while I live,
And I let them pick my evil body thoroughly.
Oh, maggots! My misery brothers having neither eyes nor ears,
Do look. Here comes one easygoing joyful dead to you now.
Prodigal philosophers, children of decay, maggots,
Do search around my dead body brutally,
And teach me what worries still remain
In my aged body that dies again after its death and has no soul!