※更科功(サラシナイサオ)(1961生)『爆発的進化論 1%の奇跡がヒトを作った』新潮新書、2016年
第10章「命」生命は物質から作れるか
(24)生命の起源に関する「化学進化」説:「コアセルベート」が細胞の祖先ではないかとオパーリンが考えた!
単純な分子が複雑な有機物になり、それらが組み合わされることで生命が生まれたとする説は、生命の起源に関する「化学進化」説と言われる。これが現在、有力な説だ。1920年代末、有機物が溶けた液体の中に自然に生じる丸い「コアセルベート」が細胞の祖先ではないかと旧ソ連のオパーリンが考えた。「コアセルベート」は二つに分裂したり、物質を吸収したりする。だが生命は作れなかった。Cf. 実は、当時はまだ、たんぱく質を構成する20種類のアミノ酸さえ全部は報告されていなかった。(177-178頁)
(24)-2 「初期の地球で何かの拍子にアミノ酸ができても不思議はない」:スタンリー・ミラーの放電実験!
1952年、スタンリー・ミラーが、師ハロルド・ユーリー教授の「化学進化」説に基づき、初期の地球の大気「メタン、アンモニア、水素、水蒸気」の中で雷(6万ボルトの放電)を起こしたところアミノ酸ができた。アミノ酸はタンパク質の材料だ。ミラーは物質から生命ができるストーリーの第1歩を踏み出した。(1953年、論文発表。)しかし後に、初期の大気は「水蒸気、二酸化炭素、窒素」(天体衝突時の脱ガスの主成分)と考えられるようになり、この組成の大気ではアミノ酸はできないと分かった。それでも放電しただけでアミノ酸ができたことで、「初期の地球で何かの拍子にアミノ酸ができても不思議はない」と考えられるようになった。(179-182頁)
(24)-3 アミノ酸を熱して球状の構造を作る:細胞の原型を作ろうとする試み(フォックスと原田馨)!
フォックスと原田馨は、自然に存在するものを使って、細胞の原型を作ろうと試みた。アミノ酸はタンパク質の材料で自然界に存在する。(隕石の中にもアミノ酸はある。)彼らは、アミノ酸をおよそ200℃で熱すると、アミノ酸同士がつながり、それを水に溶かすと球状の構造(「プロテイノイドミクロスフェア」)ができることを発見した。(184-185頁)
★反論1:だが地球上で、200℃で生きている生物は存在しない。これについては、他の研究者たちが「アミノ酸に金属塩を加える」ことにより100℃程度で球状の構造(中身の詰まったマリグラニュール、中空のマリゾームなど)を作りだすことに成功した。(185頁)
★反論2:だがもっと重要な問題点があった。これら球状体の膜は「タンパク質」(両親媒性の分子になるようにアミノ酸がつながったもの)でできている。だが現在の生物の細胞膜の主成分は「リン脂質」だ。両者は全く違う!(185頁)
(25)すべての生物は共通した仕組みで生命を継承する(生物学における「セントラル・ドグマ」):二重らせんのDNAの情報を、1本鎖のRNAに転写し、その情報をもとにしてたんぱく質を合成する!
1953年、米国のジェームズ・ワトソンと英国のフランシス・クリックが「DNAの二重らせん構造」を発見した。これは生物学の歴史上、最大の発見と言われる。この研究で「すべての生物は共通した仕組みで生命を継承している」ことが分かった。「二重らせんのDNAの情報を、1本鎖のRNAに転写し、その情報をもとにしてたんぱく質を合成する」。これは生物学における「セントラル・ドグマ」と呼ばれる。「DNA」は遺伝や発生の情報源であり、「タンパク質」は実際に生命現象をつかさどる因子だ。(186-188頁)
★DNAは安定しており、遺伝情報の保存はDNAがふさわしい。(188頁)
★RNAはタンパク質が必要になった時、そのたびに作り出され、タンパク質の合成が終われば、分解される。分解されないといつまでもタンパク質が作られ続けてしまう。このためRNAは不安定で分解されやすい方がかえっていい。(188頁)
(25)-2 「セントラル・ドグマ」によれば、「進化」の最初にDNAがあれば、生命の起源に関し問題はない!
生命の起源に関して、「セントラル・ドグマ」(すべての生物が共有する特徴である「DNA→RNA→タンパク質」という遺伝情報の流れ)によれば、「進化」の最初にDNAがあれば問題はない。進化の過程で、まずDNA が現れ、それから順にRNAやタンパク質が合成され、そしてついに生命が誕生したのであれば問題はない。(188-189頁)
(25)-2-2 「DNA」も「タンパク質(酵素)」もない状態から、どちらが先に進化したのか?一方で「DNAがなければタンパク質(酵素)は作れない&他方で「タンパク質(酵素)がなければDNAは作れない」!
だが「酵素」がなければDNAは作れない。(Cf. 生物の体の中ではものすごくたくさんの化学反応が行われている。「酵素」がそれら化学反応をコントロールしている。)そして「酵素」は「タンパク質」の一種だ。かくて生命の起源に関して、一方で(「セントラルドグマ」によると)「DNAがなければタンパク質(酵素)は作れない」、他方で「酵素というタンパク質がなければDNAは作れない」。では、最初は「DNA」か「タンパク質(酵素)」か?「DNA」も「タンパク質(酵素)」もない状態から、どちらが先に進化したのか?(189-190頁)
(26) 酵素としての機能のあるRNA:「リボザイム」!
「テトラヒメナという単細胞生物」のRNAは、「酵素として働くタンパク質」なしに、切れたりつながったりする。つまりRNA自身に酵素の働きがある。様々なRNAの中には酵素として働けるRNA がある。この「酵素としての機能のあるRNA」が「リボザイム」と命名された。(1982年トーマス・チェックらが発表。)シドニー・アルトマンも「RNAに酵素の働きがあること」をすでに1975年に発見していた。(Cf. 1989年、アルトマンとチェック、ノーベル化学賞受賞 。)(191-193頁)
(26)-2 生命の起源に関する「RNAワールド仮説」:生命の初期の段階では「RNA(リボザイム)が遺伝子としても酵素としても働いていた」!進化の過程で「RNA(リボザイム)」から、一方で(遺伝子としての機能は)「DNA」に、他方で(酵素としての機能は)「タンパク質」に徐々に移行していった!
「酵素としてはたらくRNA」(リボザイム)が発見され、セントラルドグマの「進化(※生命の起源)に対する見方」が大きく変化した。DNA(Cf. 情報)もタンパク質(Cf. 酵素)も、一人では何もできない。しかしRNA(リボザイム)は情報も持っているし酵素としてもはたらける。RNA(リボザイム)だけいれば何とかなる。かくて進化(生命の起源)についての「RNA ワールド仮説」が生まれた。すなわち「生命の初期の段階ではRNAが遺伝子としても酵素としても(一人二役で)働いていた」とする考えを「RNAワールド仮説」という。ただし「遺伝子」という機能に関して言えばDNAが安定し、RNAより優れている。また「酵素」という機能に関しては「タンパク質」(アミノ酸の種類も多く様々な立体構造を作れる)が、RNAより優れている。そこで進化の過程で「RNA(リボザイム)」から、一方で(遺伝子としての機能は)「DNA」に、他方で(酵素としての機能は)「タンパク質」に徐々に移行していった。(193-194頁)
★「RNAワールド仮説」を支持する例1:「ウイルスの中には、DNAでなくRNAを遺伝子としているものがいる」。また「(セントラルドグマとは逆に)RNAからDNAを合成する逆転写酵素も存在する」。これらは大昔に存在したRNAワールドの名残りであり、RNAワールド仮説を支持するものだ。(194頁)
★「RNAワールド仮説」を支持する例2:RNAワールド仮説は、現在の生物の細胞で起きている化学反応からも支持される。DNAはデオキシリボヌクレオチドという物質が沢山つながった分子だが、それはRNAを構成しているリボヌクレオチドを材料にして作られる。DNAの材料は、RNAの材料から作られる。(194-195頁)
(26)-3 生命の起源に関する「RNAワールド仮説」への反論:「タンパク質ワールド仮説」!「おそらく初期の地球には、RNAより先にタンパク質があった」!
(ア)RNAのリボヌクレオチドを作る材料の中にはアスパラギン酸、グリシン、グルタミンなど、タンパク質の材料であるアミノ酸が含まれている。つまり一方で「RNA」 の材料は、「タンパク質」の材料から作られる。他方で「RNAワールド仮説」は(「DNAよりRNAが先にあった」というだけでなく)「タンパク質よりもRNAが先にあった」という仮説だ。かくて「タンパク質」と「RNA」とどちらが先にあったかに関して、「RNAワールド仮説」に矛盾が生じる。(195頁)
(イ)そもそもRNAを構成するヌクレオチドという物質は、複雑なプロセスをたどらないと作れない。アミノ酸を作る方がずっと簡単だ。ヌクレオチドが作られる前から、多くのアミノ酸があったはずだ。(しかもアミノ酸は隕石によって宇宙からも供給された。)まだ生物のいない地球で、ヌクレオチドが作られることは可能だが、それよりもはるかに多数のアミノ酸があったはずだ。そして少数のアミノ酸だけでタンパク質は作れる。かくて「おそらく初期の地球には、RNAより先にタンパク質があった」という考えが「タンパク質ワールド仮説」だ。(196頁)
第10章「命」生命は物質から作れるか
(24)生命の起源に関する「化学進化」説:「コアセルベート」が細胞の祖先ではないかとオパーリンが考えた!
単純な分子が複雑な有機物になり、それらが組み合わされることで生命が生まれたとする説は、生命の起源に関する「化学進化」説と言われる。これが現在、有力な説だ。1920年代末、有機物が溶けた液体の中に自然に生じる丸い「コアセルベート」が細胞の祖先ではないかと旧ソ連のオパーリンが考えた。「コアセルベート」は二つに分裂したり、物質を吸収したりする。だが生命は作れなかった。Cf. 実は、当時はまだ、たんぱく質を構成する20種類のアミノ酸さえ全部は報告されていなかった。(177-178頁)
(24)-2 「初期の地球で何かの拍子にアミノ酸ができても不思議はない」:スタンリー・ミラーの放電実験!
1952年、スタンリー・ミラーが、師ハロルド・ユーリー教授の「化学進化」説に基づき、初期の地球の大気「メタン、アンモニア、水素、水蒸気」の中で雷(6万ボルトの放電)を起こしたところアミノ酸ができた。アミノ酸はタンパク質の材料だ。ミラーは物質から生命ができるストーリーの第1歩を踏み出した。(1953年、論文発表。)しかし後に、初期の大気は「水蒸気、二酸化炭素、窒素」(天体衝突時の脱ガスの主成分)と考えられるようになり、この組成の大気ではアミノ酸はできないと分かった。それでも放電しただけでアミノ酸ができたことで、「初期の地球で何かの拍子にアミノ酸ができても不思議はない」と考えられるようになった。(179-182頁)
(24)-3 アミノ酸を熱して球状の構造を作る:細胞の原型を作ろうとする試み(フォックスと原田馨)!
フォックスと原田馨は、自然に存在するものを使って、細胞の原型を作ろうと試みた。アミノ酸はタンパク質の材料で自然界に存在する。(隕石の中にもアミノ酸はある。)彼らは、アミノ酸をおよそ200℃で熱すると、アミノ酸同士がつながり、それを水に溶かすと球状の構造(「プロテイノイドミクロスフェア」)ができることを発見した。(184-185頁)
★反論1:だが地球上で、200℃で生きている生物は存在しない。これについては、他の研究者たちが「アミノ酸に金属塩を加える」ことにより100℃程度で球状の構造(中身の詰まったマリグラニュール、中空のマリゾームなど)を作りだすことに成功した。(185頁)
★反論2:だがもっと重要な問題点があった。これら球状体の膜は「タンパク質」(両親媒性の分子になるようにアミノ酸がつながったもの)でできている。だが現在の生物の細胞膜の主成分は「リン脂質」だ。両者は全く違う!(185頁)
(25)すべての生物は共通した仕組みで生命を継承する(生物学における「セントラル・ドグマ」):二重らせんのDNAの情報を、1本鎖のRNAに転写し、その情報をもとにしてたんぱく質を合成する!
1953年、米国のジェームズ・ワトソンと英国のフランシス・クリックが「DNAの二重らせん構造」を発見した。これは生物学の歴史上、最大の発見と言われる。この研究で「すべての生物は共通した仕組みで生命を継承している」ことが分かった。「二重らせんのDNAの情報を、1本鎖のRNAに転写し、その情報をもとにしてたんぱく質を合成する」。これは生物学における「セントラル・ドグマ」と呼ばれる。「DNA」は遺伝や発生の情報源であり、「タンパク質」は実際に生命現象をつかさどる因子だ。(186-188頁)
★DNAは安定しており、遺伝情報の保存はDNAがふさわしい。(188頁)
★RNAはタンパク質が必要になった時、そのたびに作り出され、タンパク質の合成が終われば、分解される。分解されないといつまでもタンパク質が作られ続けてしまう。このためRNAは不安定で分解されやすい方がかえっていい。(188頁)
(25)-2 「セントラル・ドグマ」によれば、「進化」の最初にDNAがあれば、生命の起源に関し問題はない!
生命の起源に関して、「セントラル・ドグマ」(すべての生物が共有する特徴である「DNA→RNA→タンパク質」という遺伝情報の流れ)によれば、「進化」の最初にDNAがあれば問題はない。進化の過程で、まずDNA が現れ、それから順にRNAやタンパク質が合成され、そしてついに生命が誕生したのであれば問題はない。(188-189頁)
(25)-2-2 「DNA」も「タンパク質(酵素)」もない状態から、どちらが先に進化したのか?一方で「DNAがなければタンパク質(酵素)は作れない&他方で「タンパク質(酵素)がなければDNAは作れない」!
だが「酵素」がなければDNAは作れない。(Cf. 生物の体の中ではものすごくたくさんの化学反応が行われている。「酵素」がそれら化学反応をコントロールしている。)そして「酵素」は「タンパク質」の一種だ。かくて生命の起源に関して、一方で(「セントラルドグマ」によると)「DNAがなければタンパク質(酵素)は作れない」、他方で「酵素というタンパク質がなければDNAは作れない」。では、最初は「DNA」か「タンパク質(酵素)」か?「DNA」も「タンパク質(酵素)」もない状態から、どちらが先に進化したのか?(189-190頁)
(26) 酵素としての機能のあるRNA:「リボザイム」!
「テトラヒメナという単細胞生物」のRNAは、「酵素として働くタンパク質」なしに、切れたりつながったりする。つまりRNA自身に酵素の働きがある。様々なRNAの中には酵素として働けるRNA がある。この「酵素としての機能のあるRNA」が「リボザイム」と命名された。(1982年トーマス・チェックらが発表。)シドニー・アルトマンも「RNAに酵素の働きがあること」をすでに1975年に発見していた。(Cf. 1989年、アルトマンとチェック、ノーベル化学賞受賞 。)(191-193頁)
(26)-2 生命の起源に関する「RNAワールド仮説」:生命の初期の段階では「RNA(リボザイム)が遺伝子としても酵素としても働いていた」!進化の過程で「RNA(リボザイム)」から、一方で(遺伝子としての機能は)「DNA」に、他方で(酵素としての機能は)「タンパク質」に徐々に移行していった!
「酵素としてはたらくRNA」(リボザイム)が発見され、セントラルドグマの「進化(※生命の起源)に対する見方」が大きく変化した。DNA(Cf. 情報)もタンパク質(Cf. 酵素)も、一人では何もできない。しかしRNA(リボザイム)は情報も持っているし酵素としてもはたらける。RNA(リボザイム)だけいれば何とかなる。かくて進化(生命の起源)についての「RNA ワールド仮説」が生まれた。すなわち「生命の初期の段階ではRNAが遺伝子としても酵素としても(一人二役で)働いていた」とする考えを「RNAワールド仮説」という。ただし「遺伝子」という機能に関して言えばDNAが安定し、RNAより優れている。また「酵素」という機能に関しては「タンパク質」(アミノ酸の種類も多く様々な立体構造を作れる)が、RNAより優れている。そこで進化の過程で「RNA(リボザイム)」から、一方で(遺伝子としての機能は)「DNA」に、他方で(酵素としての機能は)「タンパク質」に徐々に移行していった。(193-194頁)
★「RNAワールド仮説」を支持する例1:「ウイルスの中には、DNAでなくRNAを遺伝子としているものがいる」。また「(セントラルドグマとは逆に)RNAからDNAを合成する逆転写酵素も存在する」。これらは大昔に存在したRNAワールドの名残りであり、RNAワールド仮説を支持するものだ。(194頁)
★「RNAワールド仮説」を支持する例2:RNAワールド仮説は、現在の生物の細胞で起きている化学反応からも支持される。DNAはデオキシリボヌクレオチドという物質が沢山つながった分子だが、それはRNAを構成しているリボヌクレオチドを材料にして作られる。DNAの材料は、RNAの材料から作られる。(194-195頁)
(26)-3 生命の起源に関する「RNAワールド仮説」への反論:「タンパク質ワールド仮説」!「おそらく初期の地球には、RNAより先にタンパク質があった」!
(ア)RNAのリボヌクレオチドを作る材料の中にはアスパラギン酸、グリシン、グルタミンなど、タンパク質の材料であるアミノ酸が含まれている。つまり一方で「RNA」 の材料は、「タンパク質」の材料から作られる。他方で「RNAワールド仮説」は(「DNAよりRNAが先にあった」というだけでなく)「タンパク質よりもRNAが先にあった」という仮説だ。かくて「タンパク質」と「RNA」とどちらが先にあったかに関して、「RNAワールド仮説」に矛盾が生じる。(195頁)
(イ)そもそもRNAを構成するヌクレオチドという物質は、複雑なプロセスをたどらないと作れない。アミノ酸を作る方がずっと簡単だ。ヌクレオチドが作られる前から、多くのアミノ酸があったはずだ。(しかもアミノ酸は隕石によって宇宙からも供給された。)まだ生物のいない地球で、ヌクレオチドが作られることは可能だが、それよりもはるかに多数のアミノ酸があったはずだ。そして少数のアミノ酸だけでタンパク質は作れる。かくて「おそらく初期の地球には、RNAより先にタンパク質があった」という考えが「タンパク質ワールド仮説」だ。(196頁)