外国語学習の意味、そして母国語について考えましょう

社内公用語の英語化、小学校での英語の義務化など最近「英語」に振り回され気味ですが、何故、どの程度英語を学ぶか考えます。

福沢諭吉の愉快な英語修行 4 手塚治虫の先祖諭吉にしてやられる、の巻

2018年12月01日 | 福沢諭吉と英語のつきあい

福沢諭吉の愉快な英語修行 4 手塚治虫の先祖諭吉にしてやられる、の巻

緒方 写本前回は、「とんでも」との言葉が聞こえそうなpractical jokerぶりの一端を紹介しましたが、今回もここで何か教訓めいたことが書いてあるだろうと思う方には、残念ながら、何もありませんというしかありません。そうですね。あるとすれば「他山の石」でしょうか。みなさんも道頓堀などに投げ込まれないように切磋琢磨しましょう。今回は、前回につづき、適塾時代の諭吉の仕業をもう一つ紹介します。もっと引用したくなるのですが、英語学習サイトゆえ、ここで打ち切り。次回に適塾の特徴について福沢が触れている点に焦点をあて、そのあと英語へと移ります。

適塾に手塚良庵という若者が入塾してきます。なかなか見えもあって押だしがいい。だからといって「生意気だ」といじめる風は緒方の塾にはありません。しかし、手塚にはある欠点がありました。福沢から見れば、ですが。

以下、少し長いですが、途中の註なしに載せましょう。じつに念の入ったやりようです。昔の日本語になれていただくのもこのシリーズの目的の一つです。

手塚良庵(-----) それから塾中の奇談を云うと、そのときの塾生は大抵みな医者の子弟だから、頭は坊主か総髪で国から出て来るけれども、大阪の都会に居る間は半髪になって天下普通の武家の風(ふう)がして見たい。今の真宗坊主が毛を少し延ばして当前の断髪の真似をするような訳で、内実の医者坊主が半髪になって刀を挟さして威張るのを嬉しがって居る。その時、江戸から来て居る手塚と云う書生があって、この男はある徳川家の藩医の子であるから、親の拝領した葵(あおい)の紋付を着て、頭は塾中流行の半髪で太刀作りの刀を挟してると云う風だから、いかにも見栄があって立派な男であるが、どうも身持がよくない。

ソコデ私がある日、手塚に向かって、「君が本当に勉強すれば僕は毎日でも講釈をして聞かせるから、何はさておき北の新地(遊郭のあるところ)に行くことはよしなさいと云ったら、当人もその時は何か後悔した事があると見えて「アヽ新地か、今思出してもいやだ。決して行かない。「それならきっと君に教えてやるけれども、マダ疑わしい。行かないと云う証文を書け。「よろしいどんな事でも書くと云うから、うんぬん今後きっと勉強する、もし違約をすれば坊主にされても苦しからずと云う証文を書かせて私の手に取って置て、約束の通りに毎日別段に教えて居た所が、その後手塚が真実勉強するから面白くない。

手塚良庵遊女の手紙こう云いうのは全くこっちが悪い。人の勉強するのを面白くないとは怪しからぬ事だけれども、何分興(きょう)がないからそっと両三人に相談して、「あいつのなじみの遊女は何と云う奴か知ら。「それはすぐに分かる、何々という奴。「よし、それならば一つ手紙を遣(や)ろうと、それから私が遊女風の手紙を書く。かたことまじりに彼等の云いそうな事を並べ立て、何でもあの男は無心を云われて居るに相違ないその無心は、きっと麝香(じゃこう)をくれろとか何とか云われた事があるに違いないと推察して、文句の中に「ソレあのときやくそくのじゃこはどておますと云うような、判じて読まねば分らぬような事を書入れて、鉄川様何々よりと記して手紙は出来たが、しかし私の手蹟(て)じゃまずいから長州の松岡勇記と云う男が御家流(通俗的な書体)で女の手に紛らわしく書いて、ソレカラ玄関のとりつぎをする書生に云いふくめて、「これを新地から来たと云って持って行け。併し事実を云えばぶちなぐるぞ。よろしいかと脅迫して、それから取次が本人の処に持て行って、「鉄川と云う人は塾中にない、多分手塚君のことゝ思うから持て来たと云て渡した。手紙偽造の共謀者はその前から見え隠くれに様子を窺がうて居た所が、本人の手塚は一人でしきりにその手紙を見て居る。麝香の無心があった事かどうか分らないが、手塚の二字を大阪なまりにテツカと云うそのテツカを鉄川と書いたのは、高橋順益の思付きでよほどよく出来てる。そんな事でどうやらこうやらついに本人をしゃくり出して仕舞しまったのは罪の深い事だ。

手塚 夜這い二、三日はとまって居たが果して行ったから、ソリャしめたと共謀者は待って居る。翌朝、帰って平気で居るから、こっちも平気で、私が鋏(はさみ)を持て行ってひょいと引っつかまえた所が、手塚が驚いて「どうすると云うから、「どうするも何もない、坊主にするだけだ。坊主にされて今のような立派な男になるには二年ばかり手間が掛るだろう。往生しろと云って、髻(もとどり)を捕まえて鋏をガチャ/\云わせると、当人は真面目になって手を合せて拝む。そうすると共謀者中から仲裁人が出て来て、「福澤、余り酷いじゃないか。「何も文句なしじゃないか、坊主になるのは約束だと問答の福沢、手塚を諫める中に、馴合いの中人(ちゅうにん)が段々取持つような風をして、果ては坊主の代りに酒や鶏を買わして、一処に飲みながら又冷ひやかして、「お願いだ、もう一度行て呉れんか、又飲めるからとワイワイ云たのは随分乱暴だけれども、それが自ずから切諫(いけん)になって居たこともあろう。岩波文庫 p.70

手塚良庵は漫画家、手塚治虫のひいおじいさん。手塚の漫画『陽だまりの樹』は、手塚良庵なる人物が登場する虚実交えたストーリーです。上のエピソードとともに福沢諭吉も登場するそうです。

続く(福沢諭吉5へ)

 

 


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