外国語学習の意味、そして母国語について考えましょう

社内公用語の英語化、小学校での英語の義務化など最近「英語」に振り回され気味ですが、何故、どの程度英語を学ぶか考えます。

言葉の二大機能とは、「伝達」と、...何でしょう

2022年01月11日 | 言葉について:英語から国語へ
言葉の二大機能とは、「伝達」と、...何でしょう
 
お早う英語
 
名匠、小津安二郎の映画に『お早う』(1959)というのがあります。少年がテレビを買ってくれない父親に口答えします。(00:42:00)
 
息子:だったら大人だって余計なことをいっているじゃないか。こんにちは、おはよう。こんばんは、いいお天気ですね、ああ、そうですね。
父:ばか。
息子:あら、どちらへ。ちょっとそこまで。ああ、そうですか。そんなこと、どこへ行くか分かるかい。ああ、なるほど、なるほど。何がなるほどだい。
父:うるさい、だまっていろ。
 
挨拶を理屈通りにとればたしかにこの少年の言う通りでしょう。しかし、言葉にはなごみを作り出すという機能があって挨拶はその一番単純な例です。子供には分かりにくい言葉の機能です。な~あんだ、と言う方もおられるでしょう。伝達の弱いのがなごみつくりというわけでしょう、と。しかし、単に「弱い」というだけでなく一つの特徴を挨拶などは備えています。それは、挨拶には、「誰が言ったか」ということは問題にならないということです。たしかに、伝達という言葉は便利な言葉で言語のほとんどの機能を含みます。音で伝達すること、文字で伝達すること、音から理解すること、文字から理解すること、です。しかしこの四つの機能には「だれが」、「だれに」という情報が必須です。しかし、挨拶はだれが言い出しっぺであるかは問題がありません。一時のなごみの時間が作り出せればいいのです。ところが、子供だけでなく大人でも、何か意味のあることを言わなければという強迫観念にとらわれて雰囲気づくりに失敗することがありませんか。たとえば20代ぐらいの人になごみづくりを期待するのは難しいです。今、私はタクシーの運転手さん、看護師さんとちょっとだけ話す機会が非常に多いのですが、例外は少ないですね。
ときどき、伝達となごみ作りがするどくぶつかる場面もあります。産経新聞の投稿エッセイにあった話ですが、パラリンピックの盲人伴走をしている方が、選手から、今妙齢の美女が通ったでしょう。よい匂いがしましたよ、と言われました。じっさい通ったのは若い青年男子。ひと風呂浴びてきたみたいで、洗剤の香料に匂いがしていたのです。その方は、つい「いや、若い男性でしたよ」と言ってしまって、相手の選手はがっかりした様子をしていたそうです。こんなふうに伝達の言葉となごみ作りの瞬時の判断は難しいものです。うそをつくわけですから。とくに忙しいとき、疲れているとき身に覚えがあるでしょう。
映画は、よく晴れた日、八丁畷(なわて)のプラットフォームで、久我美子と佐田啓二が偶然出会って、空を見ながら言葉を交わす場面で終わります。(01:30:00)
 
佐田:ああ、いいお天気ですね。
久我:ほんと。いいお天気。
佐田:このぶんじゃ、ニ、三日続きそうですね。
久我:そうですね。続きそうですね。
佐田:あ、あの雲、面白い形ですね。
久我:あら、ほんと。面白い形。
佐田:何かに似ているな。
久我:そう。何かに似ているわ。
佐田:いいお天気ですねえ。
久我:ふふ。ほんとにいいお天気。
 
映画を通してここまで見た人は、伝達ではない言葉、いや「伝達を目的をしない映画」というものを味合わせてくれる結末になっているのです。
 
 
 
 
 

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