『今日の一冊』by 大人のための児童文学案内人☆詩乃

大人だって児童文学を楽しみたい、いや、大人こそ読みたい。
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GOGOビリ!

2016-12-28 06:39:38 | 日本文学


岡田淳作 偕成社文庫 186頁 小学校中級から 2006年

『二分間の冒険』をはじめ、子どもたちからとっても人気のある作家岡田淳さん。今ごろ!?って感じですが、実はこのたび初めて読んでみました

『びりっかすの神様』を選んだ理由は、活字嫌いの長男(小5)が感情移入しやすいかなと思ったから。ええ、彼限りなくびりっかすに近い位置におりますもので、おほほほ。このたび持ち帰って来た『あゆみ』も“もう少し”が一つ増えておりましたの。イイネ~。え、よくない!?でも、この物語読んだ後だと、なんだかビリに近いほうがいいことあるような気がしてきちゃう(笑)。

≪『びりっかすの神さま』あらすじ≫
転校してきた始がなぜか毎回ビリになるようがんばっている。理由は、ビリになると、びりっかすさんという最低点の子のところに来る神さまが見え、心の中で会話できるから。そして、それは友だち同士でもできることが分かり、どんどんビリを取りたがる仲間が増えて行く・・・。

いいなあ。なんかこういう物語読むと肩の力が抜ける。このとき書いた養老孟司さんの言葉を思い出し、こういう世界があるとなんだか救われるなあって思います。

【ここがポイント】
・がんばるって何だろう?と考えさせられる(教訓的でなくネ)
・仲間が増えて行くって素敵だなと思える
・ビリが素敵なものに思えてくる(←状況変わらなくとも見える景色が変わってくるの重要!)
・会話文も多く、分かりやすいので低学年には読み聞かせにも


主人公のお父さんは「がんばる」が口癖で、がんばりすぎて早死にしちゃったタイプなんですね。なので、逆にお母さんは子どもに「がんばらなくったっていいのよ」って言います。(このご時世で、いいお母さん)でも、主人公はがんばらないことにもな~んか違和感覚える。ところがね、ビリになるとびりっかすさんが見えると知ってしまったものだから、もう面白くて、ビリになろうとがんばっちゃう(←がんばるんか~い!)。

あとがきによると、「子どもが喜んでビリを取るとしたら、どんな状況なんだろう?それを考えたときびりっかすさんは生まれた」そう。子どもの心で書いているから、この物語は子どもたちからの支持を受けるんだなあ

一人で秘密を抱えていたときも面白かったけれど、友だちと秘密を共有したらもっと面白くなった。次々に仲間が増えるとさらに面白くなった。そのうち、子どもたちは、みんなで最低点を取るために勉強を教え合うようになるんです。ビリから二番目の点数より1点下を目指すので、0点に近い子にとってはそれより上を目指さなくっちゃならないってわけ。だから、勉強を教え合う。これねえ、日本の学校、こういう風にしていけばいいと思うんです。競争させるんじゃなくて、協力させちゃうの、教えあっちゃうの。そのほうが全体的に底上げされるから。子ども同士だとね、なぜその子がその問題を理解できないのか、どこを勘違いしているのかが、大人目線よりもよく分かったりするんですよね

で、子どもたちは仲間を増やして心の中での会話を楽しんでいたのですが、運動会がきっかけでふと考えこむようになります。のとき、隣のクラスに障害を持った子がいるのですが、その子が本当に一生懸命に走るけれど、足がどうしても遅いんですね。がんばらない、本気ださないのは失礼なんじゃないかな、って。ぐるぐるぐるぐる考える。
これってとっても大切ですよね。何のためにがんばるのか。1位を取るためにがんばる、そうじゃないんですよね。結果が目的になっちゃってるから、今の日本の勉強はおかしくなっちゃってる。結果はどうでもいい・・・というか後からついてくるものなんです。大事なのは自分に挑戦して本気出すってこと

それで思い出しました。ファンタジー大賞の授賞式のときに何回も茂木健一郎さんイジられていた奨励賞を取った青年のこと。「次は大賞取りたいと思います!」と宣言した京大卒の青年に向かって、茂木さんが何回も突っ込んだのはそこ。大賞を狙って書くんじゃないんだよ、って。自分の中で湧き上がるものがあって、見つめたいものがあって、それを言葉として紡ぎ出したとき、最良のものが生まれたら、結果として大賞があるわけ。でも、それ何回言ってもその青年には通じてなくて、それはそれで、その青年もブレなくていいな~、と面白かったですけど(笑)。

ちなみに、次男(小2)には読み聞かせしたのですが、学校のことなので、親近感わくらしく、“早く続き続き!”とすごい食いつきようでした。なぜか三男(来月4歳)も
そして、読み終えた後、次男がしみじみ言いましたよ。「僕にもびりっかすさん、見えるかなあ?でもなあ~、0点は取れないんだよなあ・・・」って。え~!?0点くらい取る勇気を持て、若者よ(笑)。