<フジの「ザ・ノンフィクション」8月に500回/b>
■愛と人情軸に社会映す
フジテレビが日曜午後に放送しているドキュメンタリー番組「ザ・ノンフィクション」が、8月に放送500回を迎える。視聴率もスポンサーも取りにくいとされるドキュメンタリーだが、「愛と人情」にこだわって粘り強くカメラを回し続けてきた。
「サラリーマンが休日にごろ寝をしながら見られるドキュメンタリー」との狙いで95年に始まった。第1回で取り上げたのは、当時、大リーグにデビューしたばかりの野茂英雄投手だった。
紀行もの、動物ものなど、様々な分野を手がけているが、多いのは家族を題材にしたものだ。
埼玉県の会社員一家が北海道の山村に移住し、再び埼玉に帰ってくるまでを9年にわたって追った特集がある。家族の一人ひとりが強く結びつきながらも時には傷つけ合う、きれいごとではないリアルな姿をつぶさに見つめた。
00年から番組にかかわるチーフプロデューサーの味谷和哉さんは「番組を貫くのは愛と人情の路線。ひとつの家族から社会現象を考える、ミクロからマクロを見る番組を心がけている」と話す。
昔ながらの商店街で経営危機に陥った老舗(しにせ)だんご屋一家の奮闘を描いた「柴又草だんご頑固物語」(05年)、結婚を機に能登半島の老舗旅館を切り盛りすることになった元看護師を追う「花嫁のれん物語」(07年)の2本で、この路線が確立したという。
無名の人々が多く登場するのも特徴だ。夢を追う若者、障害と闘う人、逆境をバネに羽ばたく人……。
個人の感情やプライバシーに踏み込むだけに、取材は一筋縄ではいかない。カメラの前での言動と本音が異なることもあるし、当人から「描かれ方が違う」と文句を言われたこともあった。放送前の社内試写には時間をかけ、気になることが少しでもあれば再取材のために番組を差し替える。
「ドキュメンタリーは少なくとも半年、通常なら1年以上の取材期間を考えないと、訴える力の強い作品はできない。速成では視聴者は必ず離れていく」と味谷さん。
民放では、ドキュメンタリー番組は本数も少なく、あっても放送時間が深夜など、厳しい状況に置かれている。「ザ・ノンフィクション」も、この不況下で制作費が大幅に削られた。味谷さんは「ドラマやバラエティーと同じ枠内で考えられると、存続は難しい」と嘆く。
500回の記念の番組は8月2日放送予定の「康子のバラ」。原爆のため19歳で命を落とした、当時の広島市長の次女・粟屋康子さんの物語だ。台湾出身の留学生との淡く切ない秘話を、残された日記をもとに宮崎あおいのナレーションでたどる。
番組プロデューサーの森憲一さんは「戦渦の日々と当時の19歳の生き様を、今の若い人にも知ってもらいたい」と話している。
2. 修学旅行向け体験企画 フジとJTB 「めざましテレビ」模擬制作
フジテレビが、中高生向けの職業体験プログラムとして、朝の情報番組「めざましテレビ」制作を実物そっくりのセットで体験する企画を9月から始める。修学旅行生を対象にした旅行会社のJTBとの共同事業だ。正式な開始に先立ち、都内の私立京華中学の2年生など3校が7月に実地体験を行った。(辻本芳孝)
体験には、日常生活の中で気になることをアンケートなどで調査する人気コーナー「ココ調」用の2分間VTRを事前に制作することが必要。京華中でも、クラスごとにディレクターやリポーターなど役割分担を決め、撮影を行った。「夏休みの過ごし方」「ニュースへの意識調査」などのアンケート項目で、クラスメートのインタビューを収録。そのVTRをフジテレビに送り、編集作業を行った。
7月中旬、東京・台場の同局湾岸スタジオに設置された体験用スタジオで、スタジオ収録が行われた。A組の生徒34人は職種ごとの色違いシャツを着て、持ち場に分かれた。スタジオでは、スタッフがカメラ担当の生徒に「思いっきりアップにしてピントを合わせ、それから引いて」と助言。隣の副調整室では、ディレクター役や画像を切り替えるスイッチャー役が機器の説明に真剣に聞き入っていた。
いよいよ本番スタート。実際の放送と同じ映像と音楽が流れる。キャスター役の3人がぎこちなくオープニングトークを開始。天気予報、「ココ調」に続き、当日のニュースを読み上げた。予定より数秒早く終わった以外はミスもなく番組メニューをすべて終えると、スタジオに大きな拍手が起こった。
番組責任者役の阿部孝充君(13)は「指示を出すたびに緊張した。毎日やっている人はすごい心臓を持っている」と感心。岡田一顕教諭は「本物の機材を使っての模擬番組の制作は、子供たちにとって貴重な経験だった」と話していた。
この企画は、同局が2006年に放送外収入の開発を目指して始めた「新規事業開発プロジェクト」の一環だ。08年には、テレビ局のノウハウを生かした結婚式の企画・運営をする子会社を設立するなど、フジテレビらしい斬新な計画を打ち出している。
同プロジェクトは、校外学習や修学旅行の行き先として台場を訪れる中高生が多いことに着目。料金を生徒1人3950円と設定した。企画した経営管理室の森山俊輔さんは「番組制作に約200人もかかわっている実情を知ってもらえる。ココ調の制作でVTRの切り方により印象操作が可能なことも体感できるので、情報をうのみにせず自分で読み取るきっかけにもなるはず」と語った。
JTB法人東京(港区)の有馬武典さんは「修学旅行で東京を訪れても自主研修と称し自由行動させるだけという学校が多いのが実情。この企画で仕事場の空気や共同作業を学べる上に、思い出作りにもなると学校側にアピールできる」と言う。既に約30校の予約が入り、出足は好調だ。
夏休み期間中は、家族向けにスタジオ収録体験(予約制)してもらい周知も図る。同局では、3年後には年間3万人の参加を見込み、黒字化を目指している。
■愛と人情軸に社会映す
フジテレビが日曜午後に放送しているドキュメンタリー番組「ザ・ノンフィクション」が、8月に放送500回を迎える。視聴率もスポンサーも取りにくいとされるドキュメンタリーだが、「愛と人情」にこだわって粘り強くカメラを回し続けてきた。
「サラリーマンが休日にごろ寝をしながら見られるドキュメンタリー」との狙いで95年に始まった。第1回で取り上げたのは、当時、大リーグにデビューしたばかりの野茂英雄投手だった。
紀行もの、動物ものなど、様々な分野を手がけているが、多いのは家族を題材にしたものだ。
埼玉県の会社員一家が北海道の山村に移住し、再び埼玉に帰ってくるまでを9年にわたって追った特集がある。家族の一人ひとりが強く結びつきながらも時には傷つけ合う、きれいごとではないリアルな姿をつぶさに見つめた。
00年から番組にかかわるチーフプロデューサーの味谷和哉さんは「番組を貫くのは愛と人情の路線。ひとつの家族から社会現象を考える、ミクロからマクロを見る番組を心がけている」と話す。
昔ながらの商店街で経営危機に陥った老舗(しにせ)だんご屋一家の奮闘を描いた「柴又草だんご頑固物語」(05年)、結婚を機に能登半島の老舗旅館を切り盛りすることになった元看護師を追う「花嫁のれん物語」(07年)の2本で、この路線が確立したという。
無名の人々が多く登場するのも特徴だ。夢を追う若者、障害と闘う人、逆境をバネに羽ばたく人……。
個人の感情やプライバシーに踏み込むだけに、取材は一筋縄ではいかない。カメラの前での言動と本音が異なることもあるし、当人から「描かれ方が違う」と文句を言われたこともあった。放送前の社内試写には時間をかけ、気になることが少しでもあれば再取材のために番組を差し替える。
「ドキュメンタリーは少なくとも半年、通常なら1年以上の取材期間を考えないと、訴える力の強い作品はできない。速成では視聴者は必ず離れていく」と味谷さん。
民放では、ドキュメンタリー番組は本数も少なく、あっても放送時間が深夜など、厳しい状況に置かれている。「ザ・ノンフィクション」も、この不況下で制作費が大幅に削られた。味谷さんは「ドラマやバラエティーと同じ枠内で考えられると、存続は難しい」と嘆く。
500回の記念の番組は8月2日放送予定の「康子のバラ」。原爆のため19歳で命を落とした、当時の広島市長の次女・粟屋康子さんの物語だ。台湾出身の留学生との淡く切ない秘話を、残された日記をもとに宮崎あおいのナレーションでたどる。
番組プロデューサーの森憲一さんは「戦渦の日々と当時の19歳の生き様を、今の若い人にも知ってもらいたい」と話している。
2. 修学旅行向け体験企画 フジとJTB 「めざましテレビ」模擬制作
フジテレビが、中高生向けの職業体験プログラムとして、朝の情報番組「めざましテレビ」制作を実物そっくりのセットで体験する企画を9月から始める。修学旅行生を対象にした旅行会社のJTBとの共同事業だ。正式な開始に先立ち、都内の私立京華中学の2年生など3校が7月に実地体験を行った。(辻本芳孝)
体験には、日常生活の中で気になることをアンケートなどで調査する人気コーナー「ココ調」用の2分間VTRを事前に制作することが必要。京華中でも、クラスごとにディレクターやリポーターなど役割分担を決め、撮影を行った。「夏休みの過ごし方」「ニュースへの意識調査」などのアンケート項目で、クラスメートのインタビューを収録。そのVTRをフジテレビに送り、編集作業を行った。
7月中旬、東京・台場の同局湾岸スタジオに設置された体験用スタジオで、スタジオ収録が行われた。A組の生徒34人は職種ごとの色違いシャツを着て、持ち場に分かれた。スタジオでは、スタッフがカメラ担当の生徒に「思いっきりアップにしてピントを合わせ、それから引いて」と助言。隣の副調整室では、ディレクター役や画像を切り替えるスイッチャー役が機器の説明に真剣に聞き入っていた。
いよいよ本番スタート。実際の放送と同じ映像と音楽が流れる。キャスター役の3人がぎこちなくオープニングトークを開始。天気予報、「ココ調」に続き、当日のニュースを読み上げた。予定より数秒早く終わった以外はミスもなく番組メニューをすべて終えると、スタジオに大きな拍手が起こった。
番組責任者役の阿部孝充君(13)は「指示を出すたびに緊張した。毎日やっている人はすごい心臓を持っている」と感心。岡田一顕教諭は「本物の機材を使っての模擬番組の制作は、子供たちにとって貴重な経験だった」と話していた。
この企画は、同局が2006年に放送外収入の開発を目指して始めた「新規事業開発プロジェクト」の一環だ。08年には、テレビ局のノウハウを生かした結婚式の企画・運営をする子会社を設立するなど、フジテレビらしい斬新な計画を打ち出している。
同プロジェクトは、校外学習や修学旅行の行き先として台場を訪れる中高生が多いことに着目。料金を生徒1人3950円と設定した。企画した経営管理室の森山俊輔さんは「番組制作に約200人もかかわっている実情を知ってもらえる。ココ調の制作でVTRの切り方により印象操作が可能なことも体感できるので、情報をうのみにせず自分で読み取るきっかけにもなるはず」と語った。
JTB法人東京(港区)の有馬武典さんは「修学旅行で東京を訪れても自主研修と称し自由行動させるだけという学校が多いのが実情。この企画で仕事場の空気や共同作業を学べる上に、思い出作りにもなると学校側にアピールできる」と言う。既に約30校の予約が入り、出足は好調だ。
夏休み期間中は、家族向けにスタジオ収録体験(予約制)してもらい周知も図る。同局では、3年後には年間3万人の参加を見込み、黒字化を目指している。