荻野洋一 映画等覚書ブログ

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『あの日の指輪を待つきみへ』 リチャード・アッテンボロー

2008-07-23 00:34:00 | 映画
 驚く勿れ。『素晴らしき戦争』『遠すぎた橋』といった稚気溢れる戦争映画で、日曜洋画劇場の優良視聴者たる子どもを夢中にさせた大ベテラン、リチャード・アッテンボロー(来月になんと85歳になるらしい)の8年ぶりの新作と、東劇などという変哲ない劇場で普通に出会ってしまうという、映画たるものの不可思議…。前作は未公開に終わったから、日本では11年ぶりの新作公開となる。正直、そんなに大した監督とも思わないけれども、とはいえ見られるというのは、めでたいではないか。

 巨匠の新作『あの日の指輪を待つきみへ』は、第二次世界大戦下の悲恋秘話が、50年後の1991年に指輪の発掘がきっかけとなって、すべて白日のもとに晒される、という謎解きメロドラマだ。その古色蒼然たる作風も含めて、観ているこっちまでタイムスリップした気分となる。なにしろシャーリー・マクレーン主演なのだ。そう、これはタイムスリップじみたメロドラマだが、さすがはイギリス映画、ビーンとした辛口で、パール・ハーバーによって参戦を余儀なくされる以前に花開いたアメリカの田舎の美男美女の酔わせるラヴ・ストーリーが、IRAの爆弾テロと厳重監視に怯える1991年現在の北アイルランド・ベルファストの路地の、禍々しい空間に、獰猛に接続されてしまう。
 
 アッテンボローという人は、こんな良質な戦時下ものを撮れる監督だったか?という新鮮な驚きがある。しかし思えば、アッテンボローは20代前半の時に、パウエル=プレスバーガーの『天国への階段』(1946)に俳優として出演したのだ。『天国への階段』は戦時下ものの傑作で、『あの日の指輪を待つきみへ』と同様、墜落した爆撃機に乗った兵士の安否、そして地上に残した愛の行方について語っている。今作は恐らく、キャリア初期の師匠であったパウエル=プレスバーガーへの60年越しの意趣返しと取ることもできよう。

 学生時代、竣工間もない飯田橋のブリティッシュ・カウンシルで『天国への階段』(L・ツェッペリンではありませんよ)を見て、度肝を抜かれたっけ。



7月19日(土)より東劇他、全国8大都市で公開中
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