どんぴんからりん

昔話、絵本、創作は主に短編の内容を紹介しています。やればやるほど森に迷い込む感じです。(2012.10から)

わん貸し岩・・鳥取、わん貸し岩屋にしかられた善助・・徳島 碗貸伝説

2022年09月19日 | 昔話(日本)

・わん貸し岩(鳥取のむかし話/鳥取県小学校国語教育研究会編/日本標準/1977年)

 自分の家で、大勢のお客さんをもてなすのに、ごちそうをいれる椀が必要になると、赤松の淵にある畳何十枚もしけるような岩に お椀をかりていた村が、ありました。

 大声で頼むと「オー」と返事があり、必要な数がちゃんと岩の上に置いてありました。

 ところが悪い男がいて、借りたお椀をひとつごまかすと、淵の底から「足らーん。足らーん」と、太い声がして、それっきり、だれが借りにいっても、もうお椀を貸してくれないようになったと。  

 

・わん貸し岩屋にしかられた善助(徳島のむかし話/徳島県教育会編/日本標準/1978年)

 雨も降らず、日照りが続き、川の水も干上がったのに困った中山村で、善助さんのところで寄り合いし、「雨ごい祭り」をしようと相談した。お祈りに使う道具はみんなそろえたが、おわんだけが どうしても足らなかった。

 死んだじいさまが「困ったことがあったら、村境の岩屋さんにおたのみしたらええぞ」と、言い残したことを思い出した善助さんが、半信半疑であったが、すぐに岩屋にいって、「雨ごい用のおわん21枚、村の衆のおわん70枚、しめて91枚」貸してくるようにたのみます。すると、岩屋の奥から「あしたの朝、来い」と大きな声。

 つぎの日、朝早く岩屋にいってみると、いままでみたこともないようなきれいな模様のはいったおわんがおいてあった。それから、お祈りをすると、真っ黒な雲がもくもくわいて、雨が降り出した。

 これから、村でおおきな催しがあると、岩屋さんにいって おわんを借りるようになった。あるとき、女の衆が、おわんをひとつひとつ丁寧に洗い、お返ししようとしたが、どうしてもひとつ足りない。なんぼさがしても、おわんがみつからないので、女の衆は、善助に内緒にして、「ひとつぐらいならわからへん」と、だまって岩屋さんに返したそうな。それを知らなかった善助さんが、半年たって、岩屋さんに おわんをかりにいくと、山がくずれるような大きな声がして、「嘘つき者。もう貸さんわい」と、おこられたそうな。それからは、善助さんが、いくらたのんでも、ひとつのおわんも、貸してくれんようになったそうな。

 

 碗貸し伝説は、日本の各地にあり、かして貸してくれる相手も、河童や、龍、女神、お地蔵様と、さまざまのよう。

 古くは、家に家族に必要な数以上の食器を持たなかったため、おおぜいの人が集まる機会に、ほかから、膳や椀を借りなければならなかったことがある。

 椀貸伝説が異族との無言貿易を表したものだという説や、椀貸伝説は貸借関係に過ぎず、さらに相手は神であることから信仰現象だとした説もあるというから奥が深い。