どんぴんからりん

昔話、絵本、創作は主に短編の内容を紹介しています。やればやるほど森に迷い込む感じです。(2012.10から)

チロヌップの 子さくら

2022年09月30日 | 絵本(日本)

    チロヌップの子 さくら/たかはし ひろゆき:文・絵/金の星社/1986年初版

 

 「チロヌップのきつね」「チロヌップの虹」に続く三作目。


 江戸時代、北の小さな島チロヌップ(キツネの意味)で、与平の娘さくらときつねのチロは、きょうだいのようにくらしていました。しかし、ふかい きりがたちこめる ある夏の日、さくらは突然、息をひきとります。

 与平は、丘の上に小さな墓をたてました。そして五日をかけて、さくらの姿を思い、木ぼりの人形をつくり、さくらが髪につけていた赤い布を、人形の首に結びました。

 チロは、いつもさくらの墓のそばにうずくまり、与平夫婦の姿がみえるまで じっと まっていました。

 秋風が立ちはじめたある朝、鉄砲の音が響きました。髪の毛の赤い大男たちが、ラッコをとりにきたのです。与平夫婦は、松前藩から命じられ、ラッコの見張りに きていたのです。大男たちは、与平夫婦の小屋に火をつけ、ラッコをボートに積み込むと、引き揚げていきました。藩に知らせるため、与平夫婦は「すぐ かえるからのー!」「さくらの墓をたのんだぞー!」と言い残し、島をあとにしました。

 チロは、小屋に火をつけられたとき、木ぼり人形を避難させていました。与平夫婦がなぜいなくなったかわからないまま、さくらの人形と墓をまもりながら、ふたりのかえりを 待ち続けます。

 流氷がきえた朝、ラッコの捕獲にやってきた男たちから、さくらを守ろうと、墓の反対側に誘導したチロでしたが、重い傷を負ってしまいます。

 それから20年後、与平夫婦が島にもどりました。争いに巻き込まれ、国元を離れることができなかったのです。そして丘の上に、首に赤い布をつけた さくらの人形そっくりの小さな地蔵をみつけます。地蔵のまわりには白いきつねざくらが つつむように咲いていました。そして、こぎつねが丘の上にのぼってきました。チロのまごたちでした。

 チロは、なだれに巻き込まれ、たったいっぴきだけ助かったきつねで、まもなく うまれたさくらと兄弟のように育てられていたのでした。

 きつねと人間の深い絆を感じさせるものがたり。娘じぞうは、今も建っていても いくことはかなわない千島の島です。

 改訂版初版が2022年6月に発行されています。”きつねざくら”は、どんな桜でしょう。