さじかげんだと思うわけッ!

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雲のようにのんびりと。

笛吹権三郎(4)

2007-11-09 21:26:35 | 民話ものがたり
何とか無事だった村人たちは、一度、庄屋の屋敷にいくことにしました。
この水が引かぬことには、どうすることもできませんし、冷え切った身体を、庄屋の屋敷で温めようということになったのです。
庄屋の屋敷では、一帯の住民が避難していました。みな手に手を取り合って、その場の無事を喜んでいました。
特に、権三郎が助けた若者の両親は涙を流して喜び、権三郎に何度もお礼をしました。権三郎は、照れながらも感謝を受け入れておりました。
一段落すると、権三郎は母の姿を探しました。ここに避難しているはずです。それほど人がいるわけでもないので、すぐに見つかると思っておりましたが、探せども母の姿が見つかりません。
「母上」
と呼んでも返事がありません。
権三郎が、母を捜していることに気が付いた庄屋の妻は、
「権三郎の母上様は、まだお見えになっていませんが」
といいます。
権三郎の背中に、ぞくりと悪寒が走りました。
そのときでした。庄屋の屋敷の戸ががらりと開いたのです。
そこに立っていたのは、権三郎の母を庄屋の屋敷に連れていくようにいわれていた、義助でした。
義助だけでした。
義助は鬼気迫る表情で、まばたきもろくにせず、荒く呼吸をするだけでした。
その雰囲気に、庄屋の屋敷はしんと静まりかえってしまいました。
「義助や。権三郎の母上は、どうした」
誰も尋ねるものがいないので、義助の父が尋ねました。
「わ、わからん」
とだけ答えました。
「それでは、答えになっておらん。権三郎の母上はどうしたのか」
「お、おれは…坂の手前まで、母上さんを手を引いて案内した。でも、そのときに母上さんがこういっただ。『笛を忘れた』ってな。何をいってるんだと思っていたら、おれの手ェを振り払って、またうちに舞い戻っていったんだ」
その話を聞いて、権三郎は頭を大きな岩で殴られたように、ぐわんぐわんと目まいがして、その場にへたり込んでしまいました。
庄屋が、おおと権三郎に駆け寄りますと、権三郎はがくがくと震えております。
「ほんで、お前はそのままにしておいたんか」
「んなことはねぇ。おれは追いかけた。しかし、すぐに堤が破れるえらい音がして、あっという間に目の前が水に浸かっちまったんだ。おれはどうすることもできなくなって…ここに戻ってきた」
みな、義助を責めることもできず、また権三郎にかける言葉もなく、黙っているしかありませんでした。

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