さじかげんだと思うわけッ!

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十二支のはじまり(1)

2007-12-28 22:43:22 | 民話ものがたり
遠い遠い、昔の話。
その頃、まだ世界は平等だった。肉食や草食といった区別なく、みな仙人が用意した食料を分け合って暮らしていた。
なので、多少のいがみ合いはあったものの、だれがかれを殺すというような物騒な話などなく、すべてが平和のうちだった。
もちろん、人間も他の動物に混じって、同じような生活をしていた。まだそのころの人間は服を身につけるというような悪習がなく、他の動物を同じく、裸で歩き回っていた。

しかし、平和だからこそという、ぜいたくな懸念が起きた。
それは、あまりにも動物たちの数が増えすぎてしまったことであった。
本来は、死ぬ数と生まれる数は均衡であるべきなのに、平和であるがゆえに、死ぬ数が生まれる数に追いついて行かぬようになってしまったのだ。
おかげで、仙人が一日中、食事の用意に追われてしまうことになったのである。
これでは、本来やるべき仕事ができなくなってしまう。同時に、自然と動物たちの心にも邪心が現れて、争いごとが絶えなくなってきた。
「これでは、世界が悪しき方向へと向かってしまう」
困窮した仙人は、食事の世話に追われながらも、ある妙案を考えついた。

さっそく次の日の朝、仙人はそれぞれの動物の族長を呼び寄せて、演説をすることにした。
しかし、集まってきた族長たちもすっかり俗物となってしまっていて、本来正道を導くべき彼らでさえも、隣人と大げんかを始める始末。
「静まれ!」
と、仙人もとうとう怒鳴ってしまった。そして、とうとうと今までも各部族の争いから始まり、昔はよかったとか、日々の食事の支度がどれほど大変なのかとかなどということをくどくどと説き、説教をたれた。
ひとしきり話をして一息つくと、仙人はがくりと肩を落とした。仙人は、ぐい飲みについだ酒をぐびりとあおった。
「それでは本題に入るぞ。よいかー?」
仙人はくだをまきつつ、話をはじめた。以下のような話である。

わしゃ、もうみなの食事の世話をするのに疲れ果ててしまった。そこで、なぜ食事の世話が大変になったかを考えてみたのだ。
食事の世話が大変ということは、食う分が多いと言うことだ。
食う分が多いということは、食らう者が多いと言うことだ。
食らう者が多いということは、生まれてくる者が多いと言うことだ。
行き着いた答えは、みなが好き勝手に子孫を残すからじゃということになる。その割に、平和で死んでいく数が少ないので、数が増えて大変になるだと気付いた。
そこで、また考えた。要は、子孫を残す種族を限定してしまえばよいのじゃと。
毎年、子孫を残してもよい種族を決めて、それを順繰りに回していけば平等ではないかと。
では、どのような方法でその順番を決めたらよいだろうかと悩み考えた。
身体の大きさや食べるものに左右されず、鼠から牛までみな平等な方法がないだろうかと考えたのじゃ。
そこで思いついた。
来年、1月1日の日の出までに、わしが住む宮殿に早く着いた者の順番ということにする。
どうじゃー? 簡単じゃろー? えー?

実に分かりやすい、単純な話だったので、仙人がどかりと倒れて寝てしまうとさっそく集落へと戻って、種族の代表を決めることにした。
みながちりぢりになっているところへ、寝過ごしたというねこの族長がやってきた。話の詳細を求めるが、こんなおいしい話を教えるはずもなく、ねこの族長はすっかり途方に暮れてしまった。
そんなとき、救いの手をさしのべたのは、ねずみの族長だった。
「おお、ねこの族長どの。寝坊をしたのは自分のせいだとしても、いくらなんでもかわいそうじゃ」
「ねずみの族長どの。すまぬ、後生であるから、仙人の話が何だったのか教えておくれ」
「おお、おやすいご用だ」
というと、仙人の真似をして、酔っぱらった振りをして話をはじめた。
かいつまめば、「ウィー、正月明けて二日目の朝に、わしの宮殿に早く来たものをその年の動物の王とする。以後、順番に動物の王とする。ウィー」という話である。
その話を聞いて、けげんな表情をしたのがねこの族長である。
「えー? 二日目? 正月明けて二日目なのか?」
「そうじゃよ。元日は、仙人さまもゆっくりと過ごしたいらしい。だから正月二日なのじゃ」
「おお、そうか。なるほど。では早速帰って、部族会にはからねば。ありがとう、心から感謝する」
とねんごろに礼を言って、急ぎ帰って行った。
ねずみの族長は、その姿を何も言わずに見送っていた。

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