さじかげんだと思うわけッ!

日々思うことあれこれ。
風のようにそよそよと。
雲のようにのんびりと。

四十九

2007-06-05 21:13:19 | 『おなら小説家』
午前九時。草田男は、浜辺を歩く。
求めるものは、彼の独自の感性。それはつまり、自分自身の人生を探すことに他ならない。
人生。わたしの人生は、恵美の登場によって狂ってしまったのか。
いや、違う。彼女はわたしの人生の価値を高めこそすれ、負の価値を与えたことはない。
では、どうして。
すべてはわたしのせいではないのか。
わたしは、甘えすぎていたに過ぎない。
では、自分には力はないのか。と草田男は考えた。自分には、人を感動させる力はないのか。
いや。と草田男はつぶやいた。
そんなことはない。恵美を感動させるだけの、力があったではないか。
夢想家ではあっても、現実主義者の恵美は、もし草田男に文章家としての力がなければ、彼と一緒に夢を追うはずがない。
それは、恵美をも認めさせる才能の輝きがあったということではないのか。

草田男は、顔を上げた。そこには、確かに海があった。広い広い海が広がっていた。
彼は、支えてくれていたはずの恵美が、いつの間にか自分の圧力になっていたのだ。
恵美はいつだって、草田男を支えてくれている。そう、支えてくれている。
立っているのは、あくまでも自分の足で立っていることに気がついた。

草田男は、彼の右手に力がわき上がるのを感じた。
書きたい。今、書く。
彼は持ち合わせた手帳に、筆を走らせた。

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