さじかげんだと思うわけッ!

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十二支のはじまり(3)

2007-12-30 23:55:59 | 民話ものがたり
一方、当の仙人御殿では、日の出前より仙人が門前に立ち、一番にやってくる動物はないかと待ちかまえていた。
そのうち東の山の端から、その年の一番新しい太陽が頭を出した。日が昇るのは、思っているよりも早い。
毎日眺めるこの日の出であるが、やはり元日の日の出というのは期すものがある。
仙人は手のひらを合わせてナムナムと何かをつぶやき、再び動物たちがやってくるであろう方向に視線を移した。
すると、はるか地平からやってくる動物の影が見える。
仙人の宮殿に一番最初にたどり着いたのは、りゅうでもとらでもなかった。
「うし、か」
そののっそりとした足取り。ゆっさりと揺れる大きな身体、そして凶暴にとがった角を持つ動物は、世界広しといえどもうし以外にはない。
「仙人さまぁ~」
といやに間延びした声を上げながら、うしはのっそりとやってくる。
そして、仙人まであと3mまで近づいたときだった。
何者かがうしの頭から飛び降りて、ゆったり歩くうしを尻目に、すばしっこい動きで仙人さまの足下までやってくると、うやうやしく頭を下げた。
「仙人様。あけましておめでとうございます。ねずみめでございます」
それはねずみであった。ねずみのやることはたった二つ。一つは、旅立つうしの背に飛び乗り、もう一つは、ゴールが近づいてきたらうしの背から飛び降りて、仙人にあいさつし自分が一番乗りであることをアピールすることだった。
それを見て、仙人はうしがさぞや怒り狂うであろうと思ったが、意外にも何も言わずにたたずんでいる。
仙人の考え通りなら、ここでやんややんやと拍手でもしてその栄光を称えるはずであったのだが、まさかこういう結末に終わるとは思いもよらず、仙人はもてあました。
「おお、ねずみか」
「は、ねずみめでございます。わたくしねずみめが一番乗りでございます」
とひょうひょうと言ってのけたので、仙人は対処に困って、うしの方をみやった。
「うしよ。お前は、悪い言い方にはなるが、このねずみに利用されたことになるが、本当にそれでよいのか」
「そうですねぇ。でも、確かに仙人さまに一番はじめにあいさつしたのはねずみさんですから、今年はねずみさんでいいと思います。ぼくが証人になりますよ」
と利用された側がそういうのだから、仙人が何をいうことはない。
一番がねずみ。二番がうしとなった。
それから、一人と二匹は門の中に入り、後続を待った。これからは原則、門をくぐった順番になる。あとは仙人のさじかげん。

次にやってきたのは、とらとりゅうのグループ。そのすぐあとには足の速い動物たちの一団から"頭角"をあらわしたうさぎが続く。
とらとりゅうは、なかなかの競り合いであったが、足の速さに関してはとらが有利であった。なにしろ、"千里を走る"ほどの健脚の持ち主である。
最後に頭一つ抜け出して、三番でゴールイン。
りゅうが不利だったことは、その身体の長さが異様に長かったことである。
うさぎよりも早く頭を門にくぐらせたが、しっぽまでくぐる間にうさぎが一息でゴールしてしまったものだからたまらない。
この不測の事態には仙人も仰天したが、しかし、先に身体全体をくぐらせた方が勝ちということにして、四番がうさぎ、五番がりゅうということになった。
六番に滑り込んだのは、へびである。道なき道を突き進んできた結果であった。
七番はうま。八番はひつじという順番で門をくぐった。

さぁまた困ったことが起こった。
次にやってきたのはいぬとさるだったのだが、飛び込むタイミングも同じなら、くぐり抜けるしっぽのタイミングも同時。
しかも、今度の当事者は、さきほどのうしのようなお人好しでもなければ、りゅうのような器の広い二匹でもない。
どちらもお互いに嫌い合っているいぬとさるである。
門をくぐり抜けたとたんに、とっくみあいのけんかが始まった。
「おれが先だ」といぬが噛みつけば、「おれの方が早かった」とさるがひっかく。急いで周りの動物たちが止めにはいるが、騒ぎはそれだけにとどまらない。
背が高いうまがいなないた。
「あいやー、えらい砂煙だぁ。こっちに来やすぞ」
見れば、確かに門へ続く道を、ものすごい煙を上げながらこちらへやってくるものがいる。いぬもさるもその様に意を奪われて、殴り合う手を止めた。
「にわとりか?」
確かに、影はにわとりのようだが、実際に砂煙を上げているのは別の者のようである。
「いんやぁ、あれほどの猛進ぶりはいのししのだんなに違いねぇ」
とうまがいう。あの砂煙がにわとりだというのは無理があるが、いのししが立てているといえば合点がいく。
そんな詮索をしていると、みるみるうちににわとりといのししがこちらにやってくる。
構図とすれば、にわとりがいのししに追いかけられているように見える。
その実、十一番になるかか十二番になるかの、熱い競り合いである。
にわとりは高い跳躍で距離を稼ぐが、いのししの猛進ぶりもかなりのものである。今にも追いつかれそうなる。
あと残りの道のりも少なくなってきた。と、あっと思った瞬間にいのししがにわとりを差し抜いた。
おお、と一同が思った次の瞬間であった。
何を誤ったのか、いのししは門をくぐらず、門の脇の柱にがつんと激突してしまった。柱はくの字に折れ曲がり、いのししはしばしかぶりをふって、気を取り直していた。
にわとりはその隙を突いて門をくぐり、十一番の栄誉を勝ち取ることになった。
いのししもすぐに気がついて、落ち着いて門をくぐり十二番ということになった。

にわとりといのししの決着がつくと、騒動が起こるまで続いてたいぬとさるのけんかが再燃。慌てて止めに入って、仙人の詮議を受けることにした。
いわく、「ぬしら二つの種族が隣り合っておるといさかいが絶えず、どうしようもならん。そこでだ。おぬしらの間に、十一番目のとりを入れることにする」
といった。仙人の取り決めとなれば、いぬもさるも逆らうわけにはいかぬ。いやいやながらも、その話を飲むことにした。
そういうことで、とりは十番となった。さるといぬ、どちらが九番でどちらが十一番になるかということで、また取っ組み合いのけんかになりそうだったが、
「静まれ、愚かな。ちゃんとそこも考えておるわい」
と地面に二本のいびつな平行線を引き、その端に「九」と「十一」を書いた。その間に数本の橋を渡し、「さぁ」といって数字の反対側の端に「いぬ」・「さる」と書かせた。
今でいうあみだくじであった。
その結果、さるが九番、いぬが十番ということになった。
これで一番から十二番までが決まった。

仙人は、しばらく待ったがもうあとに続く者がいなかったので、そこで競争を打ち切った。
結果は、以下のようになった。
一番 ねずみ
二番 うし
三番 とら
四番 うさぎ
五番 りゅう
六番 へび
七番 うま
八番 ひつじ
九番 さる
十番 とり
十一番 いぬ
十二番 いのしし
異論がなかったわけではなかったが、そう確定して、今年の子孫を残してもよい種族はねずみということになった。
ところが。この話には、さまざまな後日談がある。

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