どこぞの若造が、富士に背くらべを挑むというので、大した騒ぎとなった。
富士を知る山はもちろん、富士を知らぬ山も、彼女に対しては少なからずよい印象を持っていなかったので、八ヶ岳を応援する山は多かった。
「少しの遊びのつもりが、やっかいなことになったものだ」
と話を持ちかけた鳳凰山は呟いた。
「まさか、これほど早くに噂が流れることになろうとは」
鳳凰山の真下を流れる釜無川の神に、愚痴をこぼした。
「はっはっは。致し方あるまい。おぬしがまいた種じゃ」
「まぁ愚痴を吐いていてもしょうがあるまい。さて、近い近いとはいえ、駿河から信濃。甲斐の端と端だ。どうやって背くらべをしようかの」
一部の山々が、恨みを晴らすために仕組んだこととはいえ、日本が注目する大勝負…大背くらべとなってしまったものだから、公平を期さなければならなくなった。
そこで、よい方法はないかと賢人として名高い、釜無川の神に尋ねることにしたのだった。
「ふむ」
相談を受けた釜無川は、しばらくサラサラと流れ、考えにふけった。
鳳凰山は、じっとしてその流れを見ているしかなかった。
「ふむ。思案を巡らして、一つの妙案を思いついた」
ようやっと考えがまとまり、釜無川が声を上げた。
「ほう、それは?」
「それはの…」
「ふむふむ、おお、それは名案だ。さすが、釜無川の叔父御だ」
それはこの世の理を利用したものなので、いんちきすることはできない。まさしく公平無比の名案であった。
一方、八ヶ岳が富士と背比べをするという噂は、正式に話が届く前に、富士の耳に入ってしまった。
しかも、相手が新参者で己の目の前に現れた八ヶ岳だと聞いて、富士は驚いた。
富士は高飛車の高慢ちきで、しかもかんしゃく持ちだったのでみなに嫌われてはいたが、頭が悪いわけではなかった。
目の前…とはいっても、片や駿河と甲斐の国境、片や信濃と甲斐の国境である。それなりに距離がある。この距離であれだけ見えていれば、富士と互角か、それ以上の高さではないかと判断していた。
とはいっても、挑戦を受けなければ名折れだし、勝負に負けたらこけんに関わる。
しかし、「今までわらわよりも高い山などなかったし、きっとこれからもそんな山が現れることはないだろう」と高をくくり、軽い気持ちで勝負を引き受けることを決めたのだった。
富士を知る山はもちろん、富士を知らぬ山も、彼女に対しては少なからずよい印象を持っていなかったので、八ヶ岳を応援する山は多かった。
「少しの遊びのつもりが、やっかいなことになったものだ」
と話を持ちかけた鳳凰山は呟いた。
「まさか、これほど早くに噂が流れることになろうとは」
鳳凰山の真下を流れる釜無川の神に、愚痴をこぼした。
「はっはっは。致し方あるまい。おぬしがまいた種じゃ」
「まぁ愚痴を吐いていてもしょうがあるまい。さて、近い近いとはいえ、駿河から信濃。甲斐の端と端だ。どうやって背くらべをしようかの」
一部の山々が、恨みを晴らすために仕組んだこととはいえ、日本が注目する大勝負…大背くらべとなってしまったものだから、公平を期さなければならなくなった。
そこで、よい方法はないかと賢人として名高い、釜無川の神に尋ねることにしたのだった。
「ふむ」
相談を受けた釜無川は、しばらくサラサラと流れ、考えにふけった。
鳳凰山は、じっとしてその流れを見ているしかなかった。
「ふむ。思案を巡らして、一つの妙案を思いついた」
ようやっと考えがまとまり、釜無川が声を上げた。
「ほう、それは?」
「それはの…」
「ふむふむ、おお、それは名案だ。さすが、釜無川の叔父御だ」
それはこの世の理を利用したものなので、いんちきすることはできない。まさしく公平無比の名案であった。
一方、八ヶ岳が富士と背比べをするという噂は、正式に話が届く前に、富士の耳に入ってしまった。
しかも、相手が新参者で己の目の前に現れた八ヶ岳だと聞いて、富士は驚いた。
富士は高飛車の高慢ちきで、しかもかんしゃく持ちだったのでみなに嫌われてはいたが、頭が悪いわけではなかった。
目の前…とはいっても、片や駿河と甲斐の国境、片や信濃と甲斐の国境である。それなりに距離がある。この距離であれだけ見えていれば、富士と互角か、それ以上の高さではないかと判断していた。
とはいっても、挑戦を受けなければ名折れだし、勝負に負けたらこけんに関わる。
しかし、「今までわらわよりも高い山などなかったし、きっとこれからもそんな山が現れることはないだろう」と高をくくり、軽い気持ちで勝負を引き受けることを決めたのだった。