入笠牧場その日その時

入笠牧場の花.星.動物

     ’20年「春」 (64)

2020年05月24日 | キャンプ場および宿泊施設の案内など
 昨日、また大型の囲い罠に鹿が入っていた。たった4頭とはいえ、この時季は妊娠していることが多いから、もしかすれば罠の中の頭数は増えるかもしれない。タンクに水を入れてやらねば。



 毎日上ってくる間に、その日の仕事の内容を決めておくことが多い。きょうもそうして来た。ところが時にはその仕事に対して気が進まないこともあるわけで、それをだましだまし始める場合もある。きょうは小入笠の頂上までの電牧の立ち上げをやるつもりでいたが、今一つ気が乗らない。疲労感が抜けないせいだと思う。
 
 第1牧区の電牧は鹿対策用だから、近年その効果のほどは甚だ疑わしいが、ともかくもその立ち上げは最優先に行う。他方、第4牧区の電牧は、同牧区をAとBに区画するために張るのだから、牛の入牧が近付くまではやらないことにしている。それを早まると、鹿に断線されるばかりで、見回りと保守のために余計な仕事を増やすだけになるからだ。
 あの電牧は、前任者の時代のことだが、業者に依頼して小入笠の頭から仏平までを電牧で張り巡らすということを試み、結果、当然ながらその保守に手が回らず放置されたままになっていた。それを数年前に全て撤収して、現在の場所に張り直した。
 今電牧は放牧地と森の境界に沿うように張ってあるが、冬季は雪の移動で、急な斜面の支柱は折られてしまう。そのため、冬の間は撤去することにしているが、秋に支柱を抜く時も、春になって打ち込む時も、どちらも結構な仕事になる。第3牧区にも牛を出すとなれば、さらに同じような仕事が待っている。安易に電気牧柵に頼り過ぎた結果である。
 きょうは、電牧の立ち上げの前に、とりあえずそれらの支柱だけでも設置しておけば、後の作業が楽になると考えて始めることにした。距離的には、登山口から入笠山の山頂へ登るくらいだが、上り下りを繰り返さなければならないから、倍くらいになると思う。ただし、こちらの方が登っていく間の眺めは余程良い。管理人だけの特権であると言え、諏訪湖まで見えることを知る人は少ないだろう。
 今年は生憎、期待していた山桜は待っていてくれなかったが、それでも、その背後のまだかなりの雪を付けた空木岳の姿は変わらず気高く、鳥の声、就中郭公のよく通る鳴き声がずっと聞こえていた。小入笠の頭に登ったのも、今年は初のことだった。

 海老名出丸さま、誠に有難く落手いたしました。本当にすいません。非常事態宣言が解除されれば、キャンプ場や小屋の営業を始めることになります。出鼻を挫かれた格好になり、さらに問題は解決したわけではないので決して気は抜けません。
 
 本日はこの辺で。

 




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     ’20年「春」 (63)

2020年05月23日 | キャンプ場および宿泊施設の案内など


 静かな牧場の午後だ。光の加減か、妙に周囲の緑がぼやけて見える。まだ樹種により葉の色はそれぞれが違うはずなのに、きょうはそうではない。空の青さと小鳥たちの声だけはいつもと変わらず、白い雲が権兵衛山と小入笠の間に湧き出したのを漫然と眺めている。少し早いが、いつもの呟きをしたら帰ろう。
 
 朝、JA上伊那の組合長と東部支所の所長が立ち寄ってくれ、午後はテイ沢から帰ってきて休んでいたら今度は伊那市長他2名のお歴々が寄ってくれ、先程帰っていった。きょうは、開山祭は中止になったが、山の安全を祈って伊那市と富士見合同でのお祓いが行われ、そのついでだった。
 小屋の内部の雰囲気が変わったからとそれぞれ案内し、インスタントコーヒーで待遇した。組合長と所長とは牧場のことなど、市長らとは入笠の観光や、この辺りの歴史に関する話をした。帰り際市長は、以前のようにまたここの小屋に50人ばかりが集まって、祝宴を催したいと言っていた。 
 
 ところで、そういう先の話はさておき、そろそろ山小屋やキャンプ場の営業について考えなければならない。すでに予約や問い合わせがここばかりでなく、下の東部支所にも来ているらしい。基本的には、非常事態宣言が解除されている地域に住む人たちであれば、予約を前提に受け付けていくことになると思う。ただし、ある程度は予防のための配慮をお願いすることになる。
 たとえば、テントは家族(家族に準ずる場合も含む)以外は単独使用を原則とする。消毒液、ビニール手袋、ジッパーのあるごみ袋を持参。山小屋ではマスクを使用し、できれば寝袋、もしくは寝袋カバーを持参してもらう、等々。
 受け付ける側としては、小屋もキャンプ場も、予約のあった段階で人数の調整を行う。特に小屋は当面、一度に2組(人ではない)以上は受け付けない。また、消毒液、ビニール手袋などを念のため用意する。

 肝心の料金については、前年度実績のある人は据え置きとし、そうでない場合は、キャンプの単独者1500円、その他は各自1000円に加え(タープあるなしにかかわらず)テント1張り1000円。小屋の宿泊料金はガス、冷蔵庫、食器などの使用料を含め4000円、という案を検討中。
 詳細が決まり次第、改めてここでお知らせすることにします。

 本日はこの辺で。明日は沈黙します。



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     ’20年「春」 (62)

2020年05月22日 | キャンプ場および宿泊施設の案内など
 好天、今朝9時の気温15度。鳥の声がよく聞こえてくる。山桜の中には、葉の色がこの時季と秋の紅葉期に似たような渋い朱の色を見せる。その色が、他の様々な新緑の中で隠し味のような効果を出し、森をより味わい深く飾る。天然の画家の技量に疑いはない。
 今、ここから見えている最も新緑らしい鮮やかな緑は白樺で、落葉松の葉の緑はまだくすんでいる。この色の対比もまた悪くない。



 きょうも予定通り、第1牧区の牧柵補修をしていたら、それほど遠くない下の方で 動物のもがくような音がした。鹿だった。右の後ろ足 を電牧のリボンワイヤーに絡ませてしまい、逃げようとしても思うように動くことができずにいた。
 鹿の1頭や2頭 を捕獲してみても、大勢にどれほどの影響があるわけではない。それに、止め射しをするにはナイフが要るが、そんなものを常時腰にしているわけではない。面倒が増えるだけだと思ったら、仏心が湧いてきた。それにしても、当然感電しているはずなのにそんなふうにも見えない。不審に思いながら近付いたら、リボンワイヤーが有刺鉄線に接触していて、その状態では電流は地中に流れてしまって用をなしていないことが分かった。
 鹿にしてみたら、一度は数千ボルトの電流に感電したのだろうが、暴れているうちにうちに運よくその災難だけは免れることができたのだろうか。そして途方に暮れながら、一夜をそこでじっと耐えて過ごしたのだろうと想像が付く。枯葉を褥にした跡が残っていた。1匹の動物としては、できる限りのことをしたはずだ。
 ところが人間は、そういう鹿の生きようとする努力を認めかけて、ズタズタボロボロにされた電気柵を見て、気が変わった。しがない牧場管理人の立場に戻ることにしたのだ、やはり始末すべきだと。
 止め射し用のナイフを小屋へ取りに戻り、再び現場へ帰ってきた。鹿は改めて殺気を察知したのか、逃げようとして前よりも激しく暴れた。電牧ばかりか、通常の柵にもその被害が及びかけた刹那、激しく動く相手の頭に一撃を加え、昏倒させた。そしてすかさず胸部2か所を刺した。

 牧場に、また静かな夕暮れが近付いてきた。一日が終わる。明日は入笠の開山祭が予定されていたが、山の無事を祈るお祓いだけするそうだ。
 本日はこの辺で。

 

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     ’20年「春」 (61)

2020年05月21日 | キャンプ場および宿泊施設の案内など
 寒い、曇天。朝ここへ来た時の気温は10度しかなかった。そのせいか、昨日はウグイスと郭公が交互に鳴いていたのに、きょうはその声もしないし、いつもいる場所に鹿の姿が見えない。


Photo by Ume氏

 静かな山の午後だ。昼を過ぎても気温は上がらず、昨日は通行止めになっている小黒川林道を2台の車が下っていくのを見掛けたが、きょうはまだ1台の車も通らない。家で自作してきた弁当をここで黙って食べ、また作業に戻る。

 今は牧柵の補修をしている。こういう作業は、登攀ではなく、単独で山を歩いている時の気分とよく似ている。急ぐ必要もないし、誰かから急かされるわけでもない。作業の速さは自分次第で、ただ歩き続けて距離を稼ぐように、少しづつ仕事を進めていく。
 無心でも、没頭というわけでもないから、あれこれと考える。きょうは、昨日N氏から聞いた話を思い返していた。第1堰堤のあの枝垂れ桜の植わっている場所は昔は「オイデラ」と呼ばれ、外部から集落へ不審な者が来た際にはみんなで自警し、追い返した場所だと話してくれた。あんな山の中では、そういうことがあったかもしれない。
 また、その場所は山室川に流れ込む座頭沢と八ッ株沢の出会いでもあり、炭焼きを重要な生業とした集落の人々はまずそのオイデラに集まってから、二つの沢や、その支流の先に設けためいめいの炭焼き場へと向かったのだそうだ。
 その話を思い出しながら、もしかしたら「オイデラ」というのは「会う平」が訛って「オイデエラ」もしくは「オイデラ」になったのではないのだろうか、などと勝手な空想をしてみたりした。自警団が集合する機会よりかも、あの場所で作業の打ち合わせなどをする方が余程多かっただろうから、と考えたのだが。
 
 とにかく、牧場は今が一番清しくてきれいだ。放牧地に生えだした新鮮な緑の牧草が、枯草を押しやるようにして美しい縞模様を作り始めた。落葉松の葉はまだ淡く、樹幹から左右に伸びる黒い枝がその靄のような緑に透けて見えて、今の間だけはこの愛想のない人口林にも好感が湧く。白樺の幹と生え出した若葉が、揃って相性の良いところを見せれば、山桜の清楚な花がそろそろ舞台での短い出演を終えようとしているようで、惜しまれる。
 こんな春の静かな牧場は14年間で初めてのことだ。悪くない。
 
 本日はこの辺で。



 
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     ’20年「春」 (60)

2020年05月20日 | キャンプ場および宿泊施設の案内など
 昨日は雨が降っていたため、上には行かなかった。それでも、例の第1堰堤に咲く八重紅枝垂れ桜の情報が入ったので芝平までは行ったが、生憎先方は留守で目的を果たせず帰ってきた。


                      Photo by Ume氏

 今年はあまり野鳥の姿を目にしない。そんなことを思っていたら、わずか1ヶ月の間に次々と樹々の葉が繁茂し始め、これからはさらに鳥の姿を見るのが難しくなる。白樺はこの幾日かの間に、すっかり黄緑色の葉が出揃ったようで、残るはダケカンバを待つばかりか。牧場へ通うようになってから早や1ヶ月が過ぎた。



 第4牧区の電牧の立ち上げをやっていて、ふと道路と初の沢の源頭になる谷の向こうに、特徴のあるヤマナシの木が目に入った。驚いたことに、開花が始まりかけている。早い。昨年が28日ごろだったから、やはり1週間は早まったことになる。となると、コナシの花が咲くのは、早ければ今月中になるかも知れない。そしてクリンソウも後追いするだろう。
 そのコナシ、昨年は木々の開花が一斉とはいかず、白い花が何本もの縞の列を作る一昨年のような見事な様を見ることができなかった。今年はどうなるか。あの性格の悪い木が、揃って花を咲かせてくれるのかどうか、楽しみだ。
 そう言えば、昨年はコナシの開花に合わせて撮影会を企画した。初めての試みで、参加者は少なかった記憶が苦く残る。天気さえ良ければ、昨年は悪かった、腕の悪い人でも絶対に参加を後悔はさせないと断言できるが、今年は、奇跡的にコロナウイルス奴が消えても、やらない、やるものか!

 入牧予定が決まった。6月の11日でどうかときょう、畜産課長が問い合わせて来たから、結構だと答えておいた。ただし、今年は種牛(まき牛、雄牛)は入牧しないというから、頭数はあまり期待できないだろう。あの狂暴な種牛と、緊張のやり取りをしなくて済むと思えば確かに気は楽になるが、そうなると牧場経営は厳しくなると予想せざるを得ない。マッキー奴の繁殖成績が良くなかった可能性もあるが、長野県3大公共牧場の面目は立ちそうもないのが辛い。美し(が原)や、菅平はどうだろう。
 今年は、期待していた映画の撮影も、Covid-19のせいで流れてしまったし、キャンプ場や小屋の営業も自粛を続けているから、ここも先の見通しはあまり明るくない。まあ大所帯のJA上伊那にとっては、どうなのか分からない。

 かんとさん、通信に気付かずにいてすみません。そうですか、牛飼い座もいい位置に見えるようになったのに残念です。本日はこの辺で。

 

 




 
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