
Photo by Ume氏
いい風が吹いてくる。昨夜も上に泊まった。朝起きてすぐに第1牧区へ上がり、牛たちの機嫌を窺う。これが牛守の一日の始まりであり、広大な草原で爽快な気分を独占できる時でもある。天気が良ければ中央アルプスから北アルプスを遠望できるが、今朝は生憎それが適わなかった。まだ梅雨は完全に明けてはいないのかも分からないが、そんな中、それでも高ボッチ、霧ヶ峰、美しの遠景は薄い靄の中に見えていた。
牛の群は御所平から動かず、呼び声を上げたら反応したが、塩場へ来るためには距離にして数百メートル、湿地と林を通らなければならず、まだこれだけの移動は無理のようだった。そのうち群れは幾つかに分散して、その中には中心になる牛も現れ、少しづつ調教に応じるようになるだろう。
やはり、第4牧区と比べれば、牧区は広いが第1牧区の方が管理はしやすい。この牧区にも電牧はあるが鹿対策用で、保守にそれほど神経を使わずに済む。
「モシモシ、静岡のXXですが、覚えていますか」
「マッータク、覚えていない」
そう、意識的にぶっきらぼうに応えると、静岡のXXは説明を始め、それですぐに分かった。今回は二組の夫婦で来たいと言う。
「テントは二組別々だな。何、露天風呂にも入れるかだと。それはいいが、混浴は駄目っだぞ。おお、夫婦ならもちろん構わない」
なんて会話があり、予約を受けることにした。
昨年は男だけ4,5人で来て、その中で静岡のXXだけがよく動き、仲間の面倒を見ていた。結婚していたということは、言ったかも知れないが忘れていた。好男子だったという記憶はある。
容量にあまり余裕があるわけではないから、親しくしても強いて記憶に残そうとしない場合が多い。だから、1年ぶりに会って、相手を落胆させてしまうこともあり、できるならもう少し記憶容量を増やしたいと願うも、どうしたらいいのか。老体は最早劣化の一途、そういう時は素直に詫びて、許しを求めるしかないだろう。
ああ、もちろん君やあなたは忘れていない、大丈夫。
NMさん、貴重な情報を有難く頂きました。あの三叉路に「牧舎前」の停留所ですか。いいですね。農業や炭焼きぐらいしかない僻村の芝平や荊口では、観光への期待があったのかどうかまでは分かりません。それでも、バスの運行は貴重な交通手段だった思います。今ではここまでバスが来ていたことを知る人は少ないでしょう。入笠での催しに際しては、伊那側からの通行を常に避けたがる"あの人たち"にも教えたい話です。
ヤマモトさん、どういたしまして。今度は牧場の方へお越しください。
本日はこの辺で。