スウェーデン音楽留学サバイバル日記 ~ニッケルハルパ(nyckelharpa)を学ぶ

スウェーデンの民族楽器ニッケルハルパを学ぶため留学。日々の生活を様々な視点からレポートします。

伝承音楽と楽譜

2019-02-04 12:31:54 | ポルスカについて

平日の朝「ピンポーン」という音で目が覚めました ご近所さんがおかしいと思ってインターフォンをならしてくれたんです。子どもの学校からも電話がかかってきました。この数日、深夜にCDを作っていて朝起きれなかったんです。子どもが「あれー、目覚ましならへんかった」と。そりゃそうです。前の日にOFFにして寝たのは私です。

「CD作らないの?」とよく聞かれていたのですが、初期費用がかかるし納得いく音に出会ったことがない(イメージと違う)、選曲もデザインもこだわりたい、楽譜も付けようかとか、リクスペルマンになったら記念に1枚と思っていたり…そんなこんなで考えていませんでした。それに素朴な伝統音楽は目の前で空気感を楽しむライブが一番とも思います。新鮮なお刺身をいただきます、みたいな。

結局作ったんですが、続きは後半で書くとして、今日はまじめに楽譜の話をまとめたいと思います(興味のない方には退屈な話かもしれません…)。

フォーク(伝統音楽)と楽譜の関係

スウェーデンの伝統音楽は、フォーク、民俗音楽、伝承音楽ともいいますが、譜面を使わない口伝の音楽です。楽譜を書いたり読んだりする知識がない村の奏者によるものが多数を占めます。

数百年前に書かれたノートブックnotbok(楽譜集)も多数ありますが、覚書きのようなもので、細かな音符や指示、曲名、誰が作ったのかそれとも伝承曲なのかも書かれていません(口伝の曲を、村の奏者を訪ねて楽譜に記録した楽譜集もあります)。

こうした曲は、知識や経験がない場合、楽譜だけで曲を覚える(学ぶ)のはとても難しいです。「楽譜を見て弾いて、後で原曲を聞いてあまりの違いに愕然とした」、はたまた「別の人は1小節多い」「あの人は1拍多い(変拍子!?)」「シャープ♯で弾く人とそうじゃない人ががいる?」と混乱してしまう話はよく聞きます。ダンスのステップというよりも、回転の動きに合わせて生まれたリズムだからでしょうか、譜面で書き表すことが難しい曲も多いです。地域によっては半音の半分の音(微分音)を使うのですが楽譜では分からなかったりします。

では、スウェーデンのフォークでは、楽譜は使わないのかというとそんなことはありません。私も数千曲の楽譜を持っています。スウェーデンの伝統曲は10万曲以上あるそうです。

楽譜の使い方

スウェーデンの伝統音楽では、楽譜はメロディの基本だけ分かるようできるだけシンプルに書かれます。リズムは地域や奏者でそれぞれなので、はっきりと書かないのです。つまり、地域やダンスなど分かっていればある程度推測できます。

パート別のアンサンブルを編曲するといったものでなければ、楽譜は「既に知っている曲を書き留めた備忘録」としての使い方が主流です。曲がぱっと思い出せないからと「出だしだけイントロ楽譜集」を自作している人もいます。地域やダンスで分類したい、収集が趣味、所属グループのレパートリー集等、それぞれの理由で楽譜を集める人は沢山います。(私の場合、収集が趣味かも…)

楽譜にきちんと書かない訳

一つは、地域名、ダンス名、誰が伝えたのか(奏者の名前)、この3つがあれば推測できる部分が大きいからです。

それと、もう一つの理由は「ダンスの伴奏」なので、「その場に合わせたライブミュージック」が基本だからです(と、私は思うのです)。

レッスンで「ここのボーイング(弓使い)は?」と聞くと、スウェーデン人の回答は「弾く度に違うので分からない」「好きにしたら」「意識したことがない」「自分がどう弾きたいかで変わる」というのがほとんどかなと思います。(「どう弾きたいかで変わる」については、自分はこう思う、と教えてくれます)。

装飾音についても同じです。装飾音をどういれるのか?と聞けば、弓使いの時と同じような答えが返ってきます。

では、弓使いも装飾音も自由にしてい良いのか、というと、2パターンあります。一つは、習った時のまま弾く(誰かが「その弾き方はどうして?」と聞くと、「誰々に習ったバージョンだ」という会話になるパターン)。自由に弾く場合は、違和感を感じない程度までという暗黙の縛りはあります。(※コンセプトがあって編曲された曲はもっと自由ですが)

去年11月に来日したダニエルは「ダンスの達人である必要はないけど、音の一つずつが体の動きと関連しているから、曲と体の動きの基本的な部分を理解しておかないといけない」と言っていました。音と体の動きの関連性が途切れると違和感になるのかもしれません。

それでも楽譜から曲を覚えたい

(誤解のないように言うと、楽譜を見ながら弾くことについては触れていません。また、「どうやって曲を覚えたらいいか」と尋ねられれば「耳で聞いて覚えるのが一般的です」と答えます。)

楽譜から独学で曲を覚えるのは難しいと感じるかもしれませんが、一人の奏者(古い奏者)、一つの地域に絞るとある程度理解が追いつき、そこから違う地域に広げると良いと思います。楽譜だけ見ても推測できるようになっていきます。

たまたま見つけたこの曲、弾きたいな。私もそういうことはよくあります!とにかく、その曲の地域、奏者、知らなければどんなダンスなのかを動画検索で見たり、同じ地域の似た曲でもいいので探して聞きます。私は資料のように膨大なCDを持っていますが、最近はネットもかなり充実しています。できるだけ地元奏者や愛好家の演奏の動画を探します。特徴をつかむにはシンプルなものがおすすめです。また、日本でも教えている人はいるので、基本的な部分だけでも習いに行くことをおすすめします。旅行感覚でスウェーデンに行って、ちょっと習うこともできます。

楽譜を入手するには/楽譜集の紹介

ネットなら

1.folkwiki、また、Blue Rose(運営が個人?なのか不明なのでリンクはのせませんがアメリカのサイトです。来日講師の演奏が楽譜とともに掲載されている曲もあり、参考になります)も充実しています。

2.各地のステンマ(フォークミュージック・フェスティバル)はイベントの大小関係なくアルスペル曲(Allspel låtar 皆で弾く基本の曲)が10曲ほど公開されます。誰もが参加しやすいよう、その地域の定番曲を載せています。例えば、スウェーデンで最大規模のステンマ、BingsjöstämmanでもAllspellåtarのリストで楽譜が掲載されています。

3.ストックホルムのVisarkivetで保存する1700-1800年代など古い楽譜集はスキャナーでPDF化されており、検索するとネット閲覧できます。最近webサイトがリニューアルされたようです。The collection of the folk music commision (他の地方で保存されているものは見れません) よく演奏される楽譜集の名前を挙げると、Andreas Dahlgren, Andreas Höök, Petter Dufva, Blomgren, K.P. Leffler, Einar Övergaard,…等々。その人たちが書き留めた(または集めた)楽譜集です。古い楽譜集に写真や解説を加えて近年出版されたものもあります。

4.それぞれのスペルマンスラーグのサイト ※スペルマンスラーグは地元のアマチュア演奏家グループ。(名前はたいてい、地名+Spelmanslagで、大きな地方の名前もあれば小さな町の名前もあります)下記8を参照。

本なら ※私は、現地で買う、知り合いにもらう、ネットで買う、ネットの古本屋antikvariatで探す、などで入手しています。

5.Svenska Låtar:100年近く前、地方を周って曲を収集したもので、地域別に全20巻。バイブルのような存在です。奏者の写真やプロフィールも掲載。ただし、北部は含まれません。以前は、ストックホルムの音楽博物館で買えましたが名前も建物も代わりました。私はリニューアル後行ったことありません。Scenkonst museet (Swedish museum of performing arts) または、上記3のVisarkivetからメールで取り寄せて本を買えます。本より送料のほうが高くなるのが難点…。

6.Svenska Folkdanser del 1, 2:グリーンブック、ブルーブックと呼ばれ、ダンスの解説と楽譜がセットです。地域別に豊富な曲、ダンスの種類が網羅されているので基本の楽譜集ともいえます。音楽関係よりも、ダンス関係で買う機会があります。ダンス組織はFolkdansringenと言い、このサイトでこの本の注文についてのページがあります

写真は私の本棚より、Einar Övergaards folkmusiksamlingの中を紹介。CDを見ていて曲名の後に、SvLの何番、の何番と記載があれば、Svenska LåtarやEinar Övergaardの略で本の楽譜番号のことです。

7.Slatta:Svenska Låtarには北部がないと言いましたが、ヴェステルボッテン地方については、その地域のアーカイブ(研究施設的な位置づけ)が相当に分厚い楽譜集Slattaを出していますが既に販売終了のようです。

8.各地のスペルマンスラーグが販売する楽譜集:スペルマンスラーグのサイトを見ると、自分たちのレパートリーの楽譜もあれば、その地域の古い資料的な楽譜集の再販をしている場合も。ちなみに、ニッケルハルパの定番、Byss-Calleの57曲の楽譜集は、Uplands Spelmansförbundで買えます。

9.アーティストによる楽譜集:ヴェーセンのtune book、Mia Marin、ヨーラン・モンソンのCD付き楽譜(日本で販売)等々、調べると本人がCD付きで売っていることがあります。UK Nykcelharpa Projectのイギリス人ミュージシャンも楽譜販売をしています。

ここに書ききれなかった楽譜はまだまだあります。ぜひ楽譜を有効活用してくださいね。スウェーデンの伝統音楽のバライエティ豊かな面にさらにはまることを願って…。


 CDの話の続き

1/13にタイムブルーで販売したCDを購入された方へ1曲増え全6曲バージョンになりました。100円で新しいCDをお渡しします。その際は古いほうのCDは返却いただきます。お手数ですがご希望の方はご連絡ください。

追記:CDは事情により対面販売のみの予定ですが、ケルトの笛屋さん京都店にて、ご厚意により数枚置かせていただいております。音のサンプルはSoundcloudで3曲聞けます。

https://soundcloud.com/usermh-3/01byss-calle-32

ヴェーセンのOlovにレコーディング用リボンマイクのことを聞いたら、意外に手が届く価格ということが分かったんです。ちょうどその頃「私が生きているうちに作ってよ」とパンチの聞いた一言をいただきまして 簡易版ならすぐに作れるという気に。

重ね録りをしてみたのですが、自分が2人って意図が明確になるんだなって実感。この世に私みたいな人がいっぱいいたら大変なことになる、とはよく言われますが、音だと困ったことにはならないんですね。

でも、難しかったのは、目や表情や動きが見えないので呼吸が合わせにくい。そんな時はメトロノームに合わせて一定のリズムで弾くものでしょうが、リズムの伸び縮みやタメの部分がなくなって変な感じに。なので、それはせず、とにかく耳で聞いて合わせました。ですが、これが中々…。自分が意外に予想外の動きをするんですよね。なんでそこでそう突っ込む!?と、一人コント状態?で先に進みません。そんなこんなで1曲につき20テイクくらいやり直し続けて、最後は頭が回らなくなって指だけ動いている状態です。CDを聞いた方に、控えめで上品だったと言われましたが、このくらい意識朦朧、じゃなくて邪念がないと、控えめになるのですね。普段はもっと荒くれているのでしょうね。

音は何も触らずマイク2本の音量バランスの調整のみです。こだわればもっと音は良くなると思いますが、響きは生の音に近いと思います。選曲とデザインはできるだけシンプルに。初めての試みということで、CD-Rにやいた簡易版として対面中心に少量のみ販売予定です。(先にも書きましたが、5曲版を購入いただいた方でご希望の方は、100円と現物で6曲版と引き換えますのでご連絡ください)

お知らせ

2/22(金) 奈良ホテル 創業プレ110周年特別記念イベント <グルメとワインの祭典>にて、ハープとニッケルハルパで

創業110周年という歴史と格式のある奈良ホテルにて、ハープの奈未さんと一緒に演奏します。アインシュタインが弾いたピアノが置いてあったり、オードリー・ヘプバーンが宿泊した時の写真があったり、時間が止まったかのような空気を感じる歴史ある佇まいのホテルです。ワイン50種が楽しめるという予約制ビュッフェ。料理もおいしそうです!打合せでは、紅茶、食事など北欧を取り入れられるか検討中ですとのことでした。ご予約は、奈良ホテルまで。

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