モッチリ遅いコメの距離感

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「スピーカーの存在が消える」というが。。。

2023-01-13 17:17:03 | オーディオ
今回も何度か扱っている視覚情報による聴覚への影響に関しての考察。
ステレオフォニックは前面の視覚的に何もない部分に聴覚的なファントムの音像を作り出す技術ではあるが、そもそも野獣から進化して今に至る人類にとって、何も無いところに音像があるという事象が本質的に気持ち良いものなのかという疑問が浮上している。

人を含む優れた視覚を持つ動物にとって視覚は狩猟や避難に重要なツールである。危険や食料の場所を正確に察知することができる。ただ視覚は可視光線を観察しているものだ。可視光線は波長が短いため簡単に遮蔽されてしまう。
そこで他の感覚器を併用して用いるわけだが、聴覚も当然ながら狩猟や避難に用いられる。聴覚は音波という波長が比較的長く透過性が高い波を感知するので、視覚(可視光線)では検知できない狩猟対象や危険を察知することができる。
聴覚で回避すべき存在を認知できれば危険を回避するための逃亡くらいはできるかもしれない。だが聴覚で存在だけは確認できていても視覚で見えていない対象を狩猟することはほぼ不可能であろう。聴覚である程度の存在の種類、方向、距離、大きさなどは把握できるが、正確な位置を把握する能力は視覚の補助が必要になる。
では聴覚では注意すべき音を察知できているのに、音の鳴る方向に原因となる存在を視認できない時に人はどう思うだろうか?なぜ見えないのだろう?隠れているのだろうか、背景に擬態しているのだろうか、どうすれば見つかるのか、と不穏な気持ちを起こさせるのではないだろうか。見たいのに見えないというフラストレーションを感じるのではないだろうか?

ステレオフォニックの技術はある程度の制限はあるものの、理論上は耳の錯覚を使って何もない部分にあたかも音源があるように感じさせることはできるし、高品位な音場を形成することができれば「スピーカーの存在が消える」というオーディオ批評でよく用いられる表現も理論上可能ではある。
ただ逆説的に言えば「スピーカーが消えた!」と驚くように賞賛することがまかり通っているのは、一般的には再生音楽は「スピーカーから音が鳴っている感じ」が日常的に当然だと皆が考えていることの証左ではある。
ステレオフォニックの原理原則から言うと、正しく再生されていれば全面にファントムの音場を形成しているのだからスピーカーから鳴っていない感じがして当たり前ということなので、いかに原理通りに運用されていないことの証拠ではある。
これを世の中のステレオ再生を全て正しく音場形成させるべきだとか言いたいわけではなく、聴覚上の音像がある部分に視覚上の音源がないということが非日常の異質な感覚であり、異質な感覚を抱かせるためにファントム音源を作り出している訳ではないということを振り返る必要がある。
スピーカーの存在が消えた!すごい!と言って驚くだけでは手品の類にすぎない。ステレオフォニックの音場を形成することにより音楽鑑賞体験を深く充実したものにすることが最終目標であるはずだ。

ではどうすれば良いかと言うと、実際に再生しているスピーカーではなく、ファントムの音像がある位置に本当に音源があるという自己暗示をかければ良い結果につながる可能性がある。ステレオフォニックによって音像が作られた先に実際に何か音が鳴っていそうなものが見える。見えれば不穏にならずに安心して音楽鑑賞に励むことができるという理屈が通る可能性がある。
これに関しては表層的な感情ではなく(ファントムの音像なので目に見えないのは当然だと理性では分かっているので)、深層心理下での違和感とかもやもや感のレベルの問題なのでその真偽の探求が非常に難しい。
ただ音が出ているように見えるものを音像の相当部に設置するという行為を試行錯誤の一環として行う価値はあるのかもしれない。
設置するものは使っていないスピーカーや人像、動物の像や、ただの絵でも良いのかもしれない。

逆に実際に音を出しているスピーカーは、その存在自体が視覚的には正確な音場形成の阻害因子になっている可能性がある。市販音源で右に音像が寄っていることを表現する時にでも、ほぼ確実に左でもその音は入っている。右だけに入っていて左に全く入っていないという極端な表現をすることは殆ど無い。
なので右に寄った音像を作りたい時でも左にも音のソースは入っているので、左右の音が混ざると右寄りだけれどもスピーカーより少し内側に音像が結ばれるはずである。
ただスピーカーの視覚的な存在が大きすぎてそれに引っ張られ、右寄りの音はスピーカー正面に音像があるように感じてしまう。
つまり聴覚上の音像と視覚上の音像が少しぶれることになる。

また音場をスピーカーの後方に形成したい場合でもスピーカーの視覚的な存在感が大きく、音はスピーカーから出ているという先入観が強すぎるせいで、視覚的効果によりスピーカーの位置まで音場がひきずり出されてしまう可能性がある。
スピーカーをバッフルマウントにして壁に埋め込んでしまえばそうはならないだろうが、しっかり壁から距離を取った場合は視覚的効果の影響を無視できないのではないだろうか?
そういった意味でも、「ここから音が出ている」感が強いスピーカーよりも視覚的に存在感が少ないものの方が視覚的効果のノイズを減らすことができるかもしれない。
コメント
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