モッチリ遅いコメの距離感

オーディオルーム、シアター、注文住宅などに関してのblog。

Sound Reproductionを読んで

2023-01-04 16:18:45 | オーディオ
ホームオーディオの室内音響に関しての書籍で大きな存在であるSound Reproductionではあるが、翻訳版がなかったので読むのを躊躇っていた。仕事でも洋書を読むのは苦手だったし、今は洋書を読まなくなって久しいのでより苦手になっている。


ただ、デジタル版を手に入れることができたので、web翻訳にかけて読んでみた。細かいニュアンスが分からないのだが、一度機械翻訳版を読んだ後で原本を読めばスムーズに読めるだろう。

気になった部分を備忘録として書き留めておく。
・ASWは聴覚上のポジティブな印象を与えるということは複数の研究から支持されている。

・ASWは30〜90°の幅広い音像を作る部分で効果的である。後方やスピーカーの内側からの一次反射音はあまりポジティブには評価されていない。

・側方反射音はリスナーにとってはあった方が良いが、ミュージシャンやサウンドエンジニアは無いことを好む傾向がある。強い作用があるだけにモニター用途では存在が気になるということである。ハイファイオーディオの場合は細かい音を拾うことを好むリスナーが多く、排除すべきなのか活かすべきなのかその中間をとるべきなのか、この辺りはかなり流動的と言える。

・LEVは小空間だと残響時間が少ないため限界があると繰り返し述べている。そして大空間のLEVを再現することは無理があると述べている。とはいえ大空間でのLEVを聴いた体験や感情を思い起こさせる目的でそれとは別物であっても小空間にLEVがあることは有用であるというような内容は述べられている。妥協の産物ではあってもそれでいいじゃないかという発想である。

・ASWの側方反射音は一般的な小空間のものよりも遅延が大きく反射が大きい音の方がポジティブな効果が期待できるということだ。パッシブな音響であれば遅延を大きくすることはできても、反射音を大きくすることはできないのでサラウンドでそのような反射音を作ることの有用性を述べている。ステレオ再生であれば音の大きさは仕方ないので目をつぶって、側方反射の遅延が大きい方がASWとしてはより良いというtipsと考えて良いのではないか。

・反射音との干渉によって起こるコムフィルタ現象は周波数特性を変化させ音のカラレーションを起こす。リスナーにとってはこのカラレーションが好意的な音の変化と捉えられるようである。周波数特性はフラットであることはリスナーにとってそこまで重要ではないのではないかというのは各所で言われていたことだが、むしろカラレーションしていた方が良いことまであると研究レベルでも言及されているのは軽く衝撃的ではある。ただカラレーションを積極的に行っていくことが設計として正しいのかというと微妙なところではある。

・直接記載されていることではないが、読んでいて感じたこと。初期反射音は聴感上の直接音をダンピングするものである。そのため初期反射音を排除すると聴感上は直接音量が減少する(能率が悪くなる)。その分を音量を上げてもうるさく感じない。音量を上げられるということは残響音の音量が上がり残響時間を長くすることができる。ただ本書では小空間では残響時間は重要ではなく0.2~0.5秒あればよいとは述べられている。有用な初期反射音はスピーカー側の側壁しかなさそうではあるので、その部分以外の初期反射音は床や天井含めて排除しても良さそうである。

・側方反射音のASWにしても、コムフィルタ現象のカラーリングにしても、LEVの存在にしても、いわゆる音の分解能に関しては正の影響とならない可能性が高く、おそらく負の影響がある。明瞭さを犠牲にしても付与した方が良い音になるという要素が研究レベルで見つかっていることの証左ではある。ステレオ再生において分解能を追求しただけでは必ずしも良い音にならないとは言われがちだが、原因は聴き疲れしやすいとかつまらないとかそういう話になりがちであった。分解能を犠牲にしてまで他の要素を組み込むとしたらどのようにすれば良いか、というのはデメリットを負いつつもそれ以上のメリットを追求するものなので難易度が高い。エビデンスのある情報を活かして追求すべきものではあると考えられる。

・コムフィルタ現象が実際にはあまり問題にならない理由は比較的しっかり述べられている。少なくとも10msの遅延があればひどいディップが起こることはなく、そもそもコムフィルタ現象の減衰も最大で-6dBに収まる。音の立ち上がりの最初の部分は反射波の干渉を受けないため聴感上の問題になりづらい。最初の周波数が1/3オクターブバンドに変換するとほとんどディップにならない程度になる。左右の耳でコムフィルタ現象の起こり方は異なるため、単純なマイク測定のものよりは現実の耳ではある程度補償される。などがその要因だそうだ。
コムフィルタ現象のカラーリングが良いと感じるのかは微妙ではあるが、側方反射音を10ms以上遅延させればコムフィルタ現象の負の面は少なく、ASWの恩恵が大きいので活かした方が良い場合が多いという説が補強されている。

・内側の壁はあまり強固にしない方が良いと述べられている(具体的には石膏ボード2枚ではなく1枚)。定在波が明確な影響を発揮させないためということである。もし防音をするならグラスウール層の外側にする方がよいと言うことである。これはコストパフォーマンスを考慮すると賢明な案かもしれない。床や天井に関しても強固であることがどこまで良いことに繋がるかというと諸説あってもよいのかもしれない。ただコスト度外視で究極を目指す場合にこれが良いのかというと他の選択肢があるのかもしれない。いずれにしろリスニングルームはガチガチの防音室にするより、音を漏らしても構わない立地で防音しすぎない部屋を作る方が良いのではという考え方に信憑性が強くなっている印象がある。

・本書では小空間のLEVには懐疑的ではあるが拡散体の設置には否定的ではない(ただそれほど詳しくは扱っていない)。大半の吸音材は実際には半吸音であり跳ね返ってくる音も存在する。吸音層からの反射音はあまり性質が良くない。その点では拡散体は跳ね返ってくる音の素性が良いけれども、返ってくる音の大きさが減少する拡散体に優位性がある。また部屋の中の音響エネルギーの総量をそれほど減らすことなく反射波を弱められる点も有用性があるとしている。また拡散は水平方向の拡散が聴感上効果があるとしている。

・少し気になるのは本書の通りにしたとして、音が悪くない部屋になるのは間違いなさそうではあるが、感銘を受けるほどの良い音にすることができるのかは少々疑問が残る。実際に部屋の音響処理をする人間に多大な負担をかけない提案が多いのだが、「これは普通にしてても結構良いよ」みたいなものが多く、特別な音を出すためのヒントは少ないためである。

・いずれにしろ可変性はとにかく大事だとは思えた。側方の初期反射面にしても以前は吸音、少し前に拡散が提案され、本書では反射が推奨されている(ただしエンジニアやミュージシャンは吸音)。現時点で本書の見解で皆が一致している訳でもないし今後何が良いとされるか分からない。部屋のオーナーが何を好むかも分からない。ただ知識を備えた上であえて反射をさせるのも独りよがりな手法などではなく、それなりに支持されている手法だというのは一番注目したいところではある。
コメント
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