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モッチリ遅いコメの距離感

オーディオルーム、シアター、注文住宅などに関してのblog。

オーケストラ楽曲がステレオ再生の最終目標になるのかどうかを考える

2023-01-22 21:29:01 | オーディオ
純音楽の人類の最高傑作と挙げるとすれば、まあいろいろな異論はあると思うが何かしらの交響曲、つまりはオーケストラ曲が選ばれる可能性が高い。

ということになれば音楽再生でもやはりオーケストラをいかに忠実に再現できるかというのが最高にして最大の目標であるかのように思わされがちであるし、実際に自分も一時はそう考えていた。

ただ室内音響とステレオ音響の文献を当たっていくうちに疑問に感じていく部分が多くなり、ステレオ再生の場合はオーケストラは限界があるから、原音とは異なる音場だけれども良い感じに鳴っている状態を目標にした方が良いのではないかと考えるようになった。
頭の中でまとまっていないその辺りの考えを、まとめるための作業が今回の記事となる。

オーケストラ曲は生演奏の場合、楽器からの直接音を聴衆に届けるだけでなく、ホールで響かせて届けることによって、音量を確保しつつ、全ての聴衆そ一定水準の均等さに分配しつつ、響きの美しさを与えている。
そしてオーケストラは同じ楽器も複数の演奏者が配置され、音の厚みを与えつつ音量の確保を行っている。

つまりはオーケストラ曲は大編成を組んで音楽用のホールで演奏することによって
・多彩な弦楽器、管楽器、打楽器を出演しているので百花繚乱の音色を出せる
・低音用楽器、高音用の楽器を配置することで可聴周波数を広範囲に利用することができる
・合奏により大きいホールでも聞こえやすくする、音の重なりを楽しめる
・ホールの音響効果により聞き取りやすい音量の増幅を図ることができる
・ホールの豊かな響きによる包まれるような感じを得ることができる
この辺りがオーケストラ曲のホール演奏の醍醐味ということにはなると考えられるし、他の演奏スタイルでは得られないものである。

ではステレオ再生だとどうなるのかということを考えてみる。

・多彩な弦楽器、管楽器、打楽器を出演しているので百花繚乱の音色を出せる
・低音用楽器、高音用の楽器を配置することで可聴周波数を広範囲に利用することができる
この辺りは再生システムが、様々な音域で様々なタイプの楽器も忠実に再現できるような万能な性能を求められる。そういう意味で見る分にはシステムの力量を発揮するためにうってつけの音楽とも考えることができる。

・合奏により大きいホールでも聞こえやすくする、音の重なりを楽しめる
これに関してはステレオ再生の場合、音量は自由に上げ下げできるので合奏である必要性が薄い。
合奏による音の重なりは独奏とは異なる良さがあるのは事実だが、重なった音はそれぞれの楽器音が多少は干渉しているので1つ1つの明瞭性は落ちることは避けられない。しかもそれを2台のスピーカーで再生しているとさらに明瞭性は落ちていく。そもそも合奏は1つを分離させるよりも融和させようとしているので明瞭にならないのは当然ではある。
優れた再生システムは細部の表現の忠実な追従性を備えていることが殆どである中で、細部の忠実性に存在価値をかけたシステムと、多くの楽器の音を高いレベルで融和させて作り上げる大編成オーケストラ曲とで、それぞれが目指す方向が同じとは言いがたい。
それぞれが目指している方向が違うのであれば、素晴らしい一流オーケストラが奏でた名演による、大変に優れた名曲の録音を、素晴らしいステレオ再生システムで再生したとしても、名演を完全再現するという結果には繋がらない可能性が高い。
そういった意味では優れたシステムほど小編成の音楽の方が実力をフルに発揮できるのではないだろうか。

・ホールの音響効果により聞き取りやすい音量の増幅を図ることができる
これも音量の増幅が電気的に可能なステレオ再生では不必要で無関係な要素となる。

・ホールの豊かな響きによる包まれるような感じを得ることができる
この感覚(LEV)を得るには豊富な残響時間と適切な残響の到来方向が必要であるということは多くの研究から明らかになっている。それを小空間のステレオ再生で再現するのはかなりの限界があることも明らかではある。
小空間での残響時間は短すぎるし、音源に入っている残響も前方から鳴っているだけなので包まれるような感覚にはならない。

以上から、オーケストラを究極的に高いレベルで再現することを目指すとしたらマルチチャネル再生の方向に向かうべきと言わざるを得ない。
オーケストラ曲がオーケストラをホールで演奏することによる醍醐味をすべて引き出そうすると、小空間ステレオ再生では限界があるのは明らかであるし、マルチチャネル再生ではそれができる可能性がある。
そういう意味ではマルチチャネル再生を突き詰めていくことは意義のあるものだが、全てのチャンネルが高品質なマルチチャネル音源が世の中にはあまりにも少ないし、本当に高品質なマルチチャネル再生システムを可能とする機材の選択肢も少ない。商業的に市場が小さすぎるし、将来的に大きくなる可能性も無いため今後の期待もできない。
なのでオーケストラ演奏を小空間再生システムで高い忠実性を持って再現するという趣味はかなり苦しいものにならざるを得ない。

ただオーケストラのそれぞれの楽器の音を分離させて鑑賞することが単純に駄目という話でもない。生演奏で聴衆を沢山入れて聴かせようとすると分解能が下がってしまうだけで、別に生演奏で起こる現象の全てを再現することが良いことという考えをする必要は必ずしもあるわけでは無い。包まれるような長い残響も心地良いものではあるが音の明瞭度を下げるものなのでメリットデメリット両方あるものではある。ないならないで良い面もある。
なのでオーケストラ曲を高品位なステレオ再生システムで再生すれば、システムの能力を遺憾なく発揮できるし、素晴らしい音楽が部屋を満たし、素晴らしい経験をする時間となることは確かなのだが、生演奏の楽しみ方、醍醐味とは異なる別の良さにはなってしまっている可能性が高い。

オーケストラ曲をしっかり再生するためにステレオシステムを頑張るのはやりがいのあることだし、頑張ったリターンもあるとは思うのだが、生演奏という指標に対してやや異なる方向に努力することになるので、客観的かつ普遍的な良さを追求することにはなりづらい。
そういう意味では響きの多くない小さめの空間で演奏される小編成の演奏をステレオ再生システムの再現の目標とする方が、高品位なステレオ再生システムの長所を活かしやすいし、再現性の高い音場を作ることができる可能性が高いし、客観的かつ普遍的な良さを表現できる可能性が高いのではないだろうか。

「スピーカーの存在が消える」というが。。。

2023-01-13 17:17:03 | オーディオ
今回も何度か扱っている視覚情報による聴覚への影響に関しての考察。
ステレオフォニックは前面の視覚的に何もない部分に聴覚的なファントムの音像を作り出す技術ではあるが、そもそも野獣から進化して今に至る人類にとって、何も無いところに音像があるという事象が本質的に気持ち良いものなのかという疑問が浮上している。

人を含む優れた視覚を持つ動物にとって視覚は狩猟や避難に重要なツールである。危険や食料の場所を正確に察知することができる。ただ視覚は可視光線を観察しているものだ。可視光線は波長が短いため簡単に遮蔽されてしまう。
そこで他の感覚器を併用して用いるわけだが、聴覚も当然ながら狩猟や避難に用いられる。聴覚は音波という波長が比較的長く透過性が高い波を感知するので、視覚(可視光線)では検知できない狩猟対象や危険を察知することができる。
聴覚で回避すべき存在を認知できれば危険を回避するための逃亡くらいはできるかもしれない。だが聴覚で存在だけは確認できていても視覚で見えていない対象を狩猟することはほぼ不可能であろう。聴覚である程度の存在の種類、方向、距離、大きさなどは把握できるが、正確な位置を把握する能力は視覚の補助が必要になる。
では聴覚では注意すべき音を察知できているのに、音の鳴る方向に原因となる存在を視認できない時に人はどう思うだろうか?なぜ見えないのだろう?隠れているのだろうか、背景に擬態しているのだろうか、どうすれば見つかるのか、と不穏な気持ちを起こさせるのではないだろうか。見たいのに見えないというフラストレーションを感じるのではないだろうか?

ステレオフォニックの技術はある程度の制限はあるものの、理論上は耳の錯覚を使って何もない部分にあたかも音源があるように感じさせることはできるし、高品位な音場を形成することができれば「スピーカーの存在が消える」というオーディオ批評でよく用いられる表現も理論上可能ではある。
ただ逆説的に言えば「スピーカーが消えた!」と驚くように賞賛することがまかり通っているのは、一般的には再生音楽は「スピーカーから音が鳴っている感じ」が日常的に当然だと皆が考えていることの証左ではある。
ステレオフォニックの原理原則から言うと、正しく再生されていれば全面にファントムの音場を形成しているのだからスピーカーから鳴っていない感じがして当たり前ということなので、いかに原理通りに運用されていないことの証拠ではある。
これを世の中のステレオ再生を全て正しく音場形成させるべきだとか言いたいわけではなく、聴覚上の音像がある部分に視覚上の音源がないということが非日常の異質な感覚であり、異質な感覚を抱かせるためにファントム音源を作り出している訳ではないということを振り返る必要がある。
スピーカーの存在が消えた!すごい!と言って驚くだけでは手品の類にすぎない。ステレオフォニックの音場を形成することにより音楽鑑賞体験を深く充実したものにすることが最終目標であるはずだ。

ではどうすれば良いかと言うと、実際に再生しているスピーカーではなく、ファントムの音像がある位置に本当に音源があるという自己暗示をかければ良い結果につながる可能性がある。ステレオフォニックによって音像が作られた先に実際に何か音が鳴っていそうなものが見える。見えれば不穏にならずに安心して音楽鑑賞に励むことができるという理屈が通る可能性がある。
これに関しては表層的な感情ではなく(ファントムの音像なので目に見えないのは当然だと理性では分かっているので)、深層心理下での違和感とかもやもや感のレベルの問題なのでその真偽の探求が非常に難しい。
ただ音が出ているように見えるものを音像の相当部に設置するという行為を試行錯誤の一環として行う価値はあるのかもしれない。
設置するものは使っていないスピーカーや人像、動物の像や、ただの絵でも良いのかもしれない。

逆に実際に音を出しているスピーカーは、その存在自体が視覚的には正確な音場形成の阻害因子になっている可能性がある。市販音源で右に音像が寄っていることを表現する時にでも、ほぼ確実に左でもその音は入っている。右だけに入っていて左に全く入っていないという極端な表現をすることは殆ど無い。
なので右に寄った音像を作りたい時でも左にも音のソースは入っているので、左右の音が混ざると右寄りだけれどもスピーカーより少し内側に音像が結ばれるはずである。
ただスピーカーの視覚的な存在が大きすぎてそれに引っ張られ、右寄りの音はスピーカー正面に音像があるように感じてしまう。
つまり聴覚上の音像と視覚上の音像が少しぶれることになる。

また音場をスピーカーの後方に形成したい場合でもスピーカーの視覚的な存在感が大きく、音はスピーカーから出ているという先入観が強すぎるせいで、視覚的効果によりスピーカーの位置まで音場がひきずり出されてしまう可能性がある。
スピーカーをバッフルマウントにして壁に埋め込んでしまえばそうはならないだろうが、しっかり壁から距離を取った場合は視覚的効果の影響を無視できないのではないだろうか?
そういった意味でも、「ここから音が出ている」感が強いスピーカーよりも視覚的に存在感が少ないものの方が視覚的効果のノイズを減らすことができるかもしれない。

あえて理詰めでリスニングルーム内装デザインについて考える②

2023-01-12 17:39:50 | オーディオ
視覚は左右の目が見えている場合、左右の視点の交差する位置などにより距離感をつかむことができる。つまりは目で距離感を図る場合、ある程度独立して精度の高い距離感を持っている。
聴覚の場合は間接音の割合や残響時間など、響き方で距離感を把握している。そしてそれでは不十分であるので視覚でそれを補正していると言われている。

今のリスニングルームはホームシアター機能とは別に5.0chマルチチャネルオーディオ再生機能に対応しているのでセンタースピーカーを設置している。
当然ながらステレオ音源の再生ではセンタースピーカーから音が鳴ることはないが、ステレオフォニックにより中央に定位する音はセンタースピーカーが鳴っているような錯覚を受ける。
左右に寄った音はステレオスピーカーのスコーカーから鳴っているように感じる(実際にその通りでもある)。
中央寄りだが左右に若干寄って定位する音はセンタースピーカーとステレオスピーカーの間で鳴っているように感じる。

左右のスピーカーで定位する音がはっきり定位するのは当然だが(実際にスピーカーから音が出ているので)、中央で鳴っている音もセンタースピーカーのグリルを外してしっかりスコーカーを見せた方が中央に定位する感じはする。
そしてセンタースピーカーのステレオスピーカーの間で定位する音は、センタースピーカーあたりで定位する音と比較して不明瞭でもやっとする感じがする。上下の定位も合わせづらい気がする。
どちらもファントムの音像であるのにである。
これは音が鳴っていないダミーのスピーカーであっても定位を合わせる手助けとなる視覚情報であり、存在することによって音の印象が変わるということかもしれない。その証拠にセンターとステレオの間は定位を合わせる補助的な視覚情報がないためセンターと比較して定位が不明瞭になっている。


簡易な実験としてダーツの的をセンターとステレオの間に設置して中間の音を聞いてみる。

今回は左右に複数の音像が存在する音源としてウエストサイドストーリーのTonight(Quintet)を再生する。

これは左右に4人が並んでそれぞれが歌を歌う構図だが、中央付近だがやや左右に寄っている歌手の定位がどうなるかを確認できる。
予想通りダーツの的があるセンターと右スピーカーの間はダーツの的がない左側と比べて定位しやすく、壁に貼ってあるので比較的遠くで定位しているように感じる。
定位の明瞭化も良い事だが、一番良いと思ったのは視覚的には音像のある部分に音源が何もないという違和感が相応に改善したことである。今回は実験でしかないが、普段のリスニングでも付けておきたいと若干感じるほどだったので、音像のある位置に視覚的には音像に相当する音源がないというのは深層心理的にはそこそこストレスであったようである。

結論として考えるのは視覚情報として音像の定位の手助けとなるようなオブジェクトをインテリアとして設置することも有用かもしれない。そしてそのオブジェクトの大きさや距離は音像を作り出したい位置によって調節するといいのかもしれない。
視覚の錯覚を利用して音を改善するというのは邪道かもしれないが、そもそもステレオフォニックの音像自体が耳の錯覚である。そして人間は聴覚で距離感を認識する際には、視覚情報も参考にする性質の生き物なのであれば、音像の感覚を補強する目的で視覚の補助があることはそれなりの正当性があるように感じる。

スピーカーに関してもスピーカーの視覚的な存在感があること自体は定位の手助けになっているが、その存在感圧迫感が強すぎて右側や左側で生み出される音像が前方に引っ張られている気もする。
スピーカー自体は室内インテリアに埋もれるようにして正面壁の奥にガイドとなるオブジェクトを設置することで音に奥行き感を感じやすくなるのかも知れない。

あえて理詰めでリスニングルーム内装デザインについて考える①

2023-01-11 17:34:54 | オーディオ
リスニングルームは比較的よくあるパターンとして、「木の部屋」という感じの内装になりがちである。
塗装が少ない方が高域が吸収されづらいためそれを期待してと言うのもあるが、リスニングルーム内装には木目の美しい硬質の木材を使うことが多いので、木材の美しさを隠す必要性を感じないという意味でもそうなりがちである。
コンサートホールのような内装感を出すというのもあるかもしれない。
ただリスニングルームにとって上質な木材の美しさや木の色の落ち着く色味が無難すぎるだけに、思考停止して木材の色を多用しすぎている印象があるのではないかと思えてくる。

リスニングルームのインテリアデザインについて考える際にデザインは感性の話にはなってくるので理屈でどうこうするよりもデザインセンスが重要であるという話にはなりやすい。
ただ理屈で追求した場合に、○○といったデザインが適性があるという発見もあるとは思う。
なので理詰めでリスニングルームはどのようなインテリアデザインが適性が高いのかを考えていきたいと思う。

まず内装について考える必要として、音の空間印象が視覚情報と相互に影響を受けているということがある。言い方を変えればプラシーボなのかもしれないが、実際の知覚に影響があることが証明されているのであれば、それを無下に扱うわけにもいかない。
音源の距離感、音の奥行き感、音の親密性、音の広がり感、残響感が視覚による影響を受けていると言われている。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jasj/78/8/78_437/_article/-char/ja

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jasj/72/11/72_684/_pdf
などなど

視覚情報を誤魔化せば音が良くなるとまでは言わないが、視聴覚統合感覚として良好な再生環境であることはリスニングルームにとってそこそこ大事なものではないだろうか?
視覚情報の聴覚への影響の論文を広く深く読んでいる訳では無いのだが、空間として広く感じさせるインテリアデザインによって音の距離感、奥行き感、広がり感、残響感を広げるもしくは増やす方向の作用を期待できるだろう(過信は禁物であはあるが)。

インテリアデザインで部屋を広く見せるというノウハウは蓄積されている分野ではあるので、それを積極的に取り入れた方が良さそうだという理屈にはなる。

部屋のインテリアデザインと再生音質との関連としてもう一つの懸念がある。
それは視覚情報が脳内情報処理においてノイズとなり得るということである。
音楽鑑賞している時にも聴覚情報以外に様々な感覚情報を脳内では処理している。
その中でも聴覚情報以外の感覚で大きなウエイトを占めているのは明らかに視覚情報である。
目を閉じていれば視覚情報は入ってこないが、音楽再生中にずっと目を瞑っている訳にはいかない。
なので目を開けていても視覚刺激が少ない方が音楽鑑賞に支障がないということになり、より深い感動へと結びつくものとなりうる。
視覚刺激を少なくするためにどうするかと言えば、強い光刺激を避ける(目に直接光が入らないようにする)、彩度の低い色調を多用する(極彩色<モノトーン)などが良いと考えられる。

ただ問題となるのは前半で述べた「広い空間に見せた方が広い空間の音のようになるので望ましい」ということと、「穏やかな光でモノトーンにした方が音に集中できるから望ましい」ということとは一部矛盾をした部分を持っている。
モノトーンで黒い壁にして暗めの部屋にした場合は音には集中しやすいが、黒い内装は部屋を狭く感じさせ圧迫感を感じさせる作用があるので、視覚情報の影響で音像が近く狭い響きに感じさせてしまう可能性が高い。
これに関しては視覚の刺激を不用意に増やさないことを優先すべきな気はする。
室内が実際より広いと錯覚させるための視覚刺激をたくさん与えて「広い空間の響き」に錯覚させることに脳のリソースの多くを消費させたとしても、
それによってこの視聴体験が良い音だと感動してくれるものになるかというと、そうならない可能性が十分ありそうだからだ。

とは言えそういった別の要素とバッティングしない程度に、より広く見せるようなインテリアを意識するのは音にとっても有益とは言えるので、軽んじるべきでは無いと思われる。



リスニングルームの壁面設計案

2023-01-10 16:46:12 | オーディオ
以前のITDG10msを確保することを目的とした仮想リスニングルームで、作った外形から壁面を前にシフトしても問題が少ないであろう部分を前にシフトして前にシフトしてできた隙間に吸音や拡散できるスペースを作っていってみる。

赤線で囲った部分は開けておきたいが、赤線と黒の外形線の間の部分は吸音材や拡散材の厚みとして確保できると考えられる。


まず正面の部分はこんな感じで有害かもしれない一次反射面にではあるのだが目立つ場所なので、表面はデザイン性重視にしつつ、その後方で必要な音響調整をしていくのが良いのかもしれない。


正面の若干側方がスピーカーの裏側なので重要性はあまり高くない。スペースをしっかり取って吸音などをしても良いのかもしれないが、比較的視野に入りやすい場所なので見た目との兼ね合いも注意した方がいいのかもしれない。


コーナーは比較的デッドスペースになっている部分ではある。定番ではあるが低音のコーナートラップを必要に応じて置けるスペースとしておくのがベストかもしれない。アクティブ型や膜振動型のベースとラップがコーナーと適性が良いとは言われている。アクティブ型を置くことも想定してコンセントを敷設しておくと良さそうだ。


側前方は一次反射面にはならないまでも、二次以降であったり拡散であったりでASWの幅に関わる部分ではある。そのまま反射させてもすぐにはリスニングポジションに入射しないだけに正解が難しいが少なくとも積極的に吸音するとかなりデッド寄りになってしまいそうな気はする。リスニングポジションからはかなり斜めに見る視野になるので、それを視覚効果に活かすのもありか。


側方一次反射面を吸音させることはモニター的には好まれる場合が多く、リスニング用途では好ましいASWを生み出すという難しい選択を迫られる。反射すると仮定すると、定位の影響を及ぼす10ms以内は悪影響が懸念されるのである程度遅延を確保した方がよさそうで、遅れ気味の方が聴感上好ましいとする報告が複数見られる。
反射音の大きさをそのままとするか、小さくした方がいいのかは諸説あり、好みによるところではあるようだ。
ある程度の時間的な分散をした方がいいのかは微妙だが、やらない場合には大きな失敗につながる可能性もありそうではあるので、やっておいた方が良いのではないかと思うところではある。


後方は拡散、必要に応じて吸音をまんべんなくするという手法で問題は少ないような場所ではある。


後方の一次反射面は有害もしくは良い効果がないと言う考えのことが多いのでなるべくしっかり排除したいところではある。

棚の多彩なデザインと音響調整の親和性

2023-01-08 18:32:53 | オーディオ
棚に頼らない音響調整のリスニングルームを設計しようとしていたが、本棚にさまざまなデザインがあり、むしろ棚をより効果的な音響調整ができつつ、よりデザイン性が優れたインテリアになりそうな気もしてきたので気になったデザインをピックアップしてみる。


幅の異なる棚を開口部を横向きにして並べることで凹凸を作っている本棚。
これ自体が2次元のQRDのようになっている上に、表面にさらに細かい2次元QRDをくっつければかなりの拡散性能を期待できる。さらに本棚の中を収納としても良いが1次元のQRDを入れてさらに拡散性能を上げることもできる。
似たような設計として以下のようなものもある。


この棚はそれ自体がフラッターエコーの解消と拡散性を有するウエッジ型でありつつ、互い違いに本棚の開口部を持っている。


デザイン性もさることながら、この開口部に1次元のQRDを入れることでデザイン性と拡散性は確保できそうではある。
ただし造作家具として作って貰ったり自分で作ったりするにはやや難易度が高そうに思われる。


これは棚を斜めにすることにより左右で見え方が異なる棚。


リスニングルームのように一方向からの視界しか利用しかしないことが想定される場合に相性がよさそう。
少し前に考えていたフラップデザインとも類似している。

極端に難易度が高いものではないこともメリット

本棚でやっている実例もないがこういった間接照明も多分できる。

ただ棚が向いていない片面の方に大きな吸音性や拡散性を持たせにくいのがデメリットにはなるか。


一方通行機構を用いた反射音の方向コントロール案

2023-01-07 14:09:55 | オーディオ
側方の一次反射音はSound Reproductionで楽しむ為のリスニングの場合あった方が良いということで、ITDGを10ms確保しつつ、音量や到来時期に調整を加えるという条件は付けるものの、積極的に取り入れていく設計方針で考えてみることにした。

以前のフラップデザインで一次反射面のフラップを除去してみると

こんな感じになる。

もはやフラップが何の役割を果たしているか微妙な感じであるが、フラップの隙間に音響調整材を設置しつつ、それを隠すという効果はまだある。他にも、前方の反射音を側方に送る機能もあるのではないかと考えられる。


とはいえ、フラップに流されていくにも側方に運ばれる前に外に出て行ってしまい、結局正面壁に戻ってしまいそうな気がする。

そこで逆ホーン状にして入りやすく出にくいようなフラップの配列にしてみる。
その間に入りにくく出やすいホーン形状ができてしまうので、そこはふさいでしまう。


波形をシミュレーションすると一次反射面辺りから集中的に反射波が出てきているようではある。


ただこれはさすがに小手先が過ぎる感はある。ASWは方向に偏りが無い方が広がり感を感じられるという論文も過去読んだものを探したところあったのは事実であるし、ASWの広がりを感じられる範囲は下図のように側方の広い範囲にある。
結果的に今回の発想は恐らく悪手である可能性が高そうではあるが、反射波をトラップしつつ、任意の方向に持って行くのに良さそうな発想なので、記録として今回残しておくことにする。


「悪くない音、正しい音」と「感銘を受ける音、はっとする音」

2023-01-06 13:52:32 | オーディオ
Sound Reproductionはやはり良書ではあると思う。今回は自分にとっての疑問の解決と論点整理が進むという意味であるのだが。

音楽を作る側は良いと思う設計と音楽を聴く側が良いと思う設計に若干の違いが出る部分があるということを明確の述べてくれているし、周波数特性には悪影響はあったとしてもリスニングにはあった方がよいと言う要素をちゃんと優先すべき順位をつけて説明してくれている。
そういうものを明文化してくれなかったら、音楽を作る人間が好まない傾向がある、周波数特性には悪影響があるといわれていることに対して、そんな要素を付けたら音が悪くなる。邪道だ。ありえない。耳が悪い証拠だ。などという批判を懸念して採用するのを躊躇うケースが非常に多いと思う。
それを、音楽を作る人間は好まないことが多いし、周波数特性にも悪影響があるのは事実だ。けれども音楽を聴くときにはあった方が良いと感じるし、周波数特性への影響も部屋が広いなどの条件があれば問題ない程度だ。と言及してくれていることで救われるものがある。通り一遍の表面的な知識だけの書籍だとこういう救済をしてくれない中でSound Reproductionは拾ってくれているところが白眉ではあると思う。

またまた音楽再生の部屋はガチガチのソリッドな壁にした方が良いと言われているが、それは防音を目的としたものであって、バランスのよい低域を実現するためならそこまで分厚くない方が良いと言ってくれている。そういった部分もやはりそれなりの説得力のある立場の人が明言してくれることで救われる人はいるとは思う。

部屋の音響調整となると1番目に防音がきて、2番目に音響障害の解消が来て、最後に正しい特性が来る。そしてそこまでになってしまうことが多い。
ただ、コストがかかるものではあるし趣味性の高いものではあるのでやはり悪い所がない、正しい音が出るだけのためにそこまでやっても面白くないのではないか。
趣味のオーディオとして理想的な部屋の音響調整は1番目に最低限以上の防音を必要としてない立地がきて、2番目により好ましい音にする処理が来て、最後に音響障害の解消がくるというものではないだろうかと感じるところである。

音響設計としてITDGを10ms確保して床も一次反射面は吸音として定位を作り出す時間には直接音以外を入れないようにする。
10ms以降にスピーカー側の側壁からの一次反射音を積極的に入れる。一次反射音は正面から120°以上の角度をとってワイドにする。これによりASWを幅広くして広大な音像を作り出す。他の一次反射音は積極的には入れないようにする。
10ms以降に後期反射音を満遍なく入れてLEVまではいかずともライブ感を出しつつも音響障害にならない程度まで細かくし、なるべく上方からの反射音を多くして開放感を出すというようなものが良いのではないかと考える。残響の長さは拘らず明瞭さに欠けるようなら吸音部を作り、前の音で次の音がマスキングされるような印象がなければ小空間でできる残響時間を残しておく。

こういった設計にすると、定位は良い割にダイナミックな音像となり、広々とした空間の音になるのではないだろうか(実際にこれをやるには広々とした部屋が必要なのだが)。そんな音はすごいと思える音、気に入る音、好きになってしまう音ではあると思う。
もちろんこの設計だと周波数特性はベストではなく、明瞭さを最優先にしたものでもないが、ベストではないなりに許容範囲に収まるだろう。趣味としてやるならこういった音ではないかと自分では思えてくる。



Acoustics of Small Rooms を読んで

2023-01-05 13:47:22 | オーディオ
Sound Reproductionを機械翻訳にかけたら案外読めたので調子に乗ってAcoustics of Small Rooms を読んでみる。


内容は良い意味でも期待外れな意味でも教科書的で、数式などが多く網羅的に解説されているが、応用的にこういう知見があったのかというの発見は少なかった。
備忘録で残しておきたいものというのもこれといって無かった感じ。
とはいえ新しめの本で網羅的に基礎的な学術情報が入っているので疑問に思った時に改めてこの本で調べてみるなどして読み返して役立つこともありそうだ。

Sound Reproductionを読んで

2023-01-04 16:18:45 | オーディオ
ホームオーディオの室内音響に関しての書籍で大きな存在であるSound Reproductionではあるが、翻訳版がなかったので読むのを躊躇っていた。仕事でも洋書を読むのは苦手だったし、今は洋書を読まなくなって久しいのでより苦手になっている。


ただ、デジタル版を手に入れることができたので、web翻訳にかけて読んでみた。細かいニュアンスが分からないのだが、一度機械翻訳版を読んだ後で原本を読めばスムーズに読めるだろう。

気になった部分を備忘録として書き留めておく。
・ASWは聴覚上のポジティブな印象を与えるということは複数の研究から支持されている。

・ASWは30〜90°の幅広い音像を作る部分で効果的である。後方やスピーカーの内側からの一次反射音はあまりポジティブには評価されていない。

・側方反射音はリスナーにとってはあった方が良いが、ミュージシャンやサウンドエンジニアは無いことを好む傾向がある。強い作用があるだけにモニター用途では存在が気になるということである。ハイファイオーディオの場合は細かい音を拾うことを好むリスナーが多く、排除すべきなのか活かすべきなのかその中間をとるべきなのか、この辺りはかなり流動的と言える。

・LEVは小空間だと残響時間が少ないため限界があると繰り返し述べている。そして大空間のLEVを再現することは無理があると述べている。とはいえ大空間でのLEVを聴いた体験や感情を思い起こさせる目的でそれとは別物であっても小空間にLEVがあることは有用であるというような内容は述べられている。妥協の産物ではあってもそれでいいじゃないかという発想である。

・ASWの側方反射音は一般的な小空間のものよりも遅延が大きく反射が大きい音の方がポジティブな効果が期待できるということだ。パッシブな音響であれば遅延を大きくすることはできても、反射音を大きくすることはできないのでサラウンドでそのような反射音を作ることの有用性を述べている。ステレオ再生であれば音の大きさは仕方ないので目をつぶって、側方反射の遅延が大きい方がASWとしてはより良いというtipsと考えて良いのではないか。

・反射音との干渉によって起こるコムフィルタ現象は周波数特性を変化させ音のカラレーションを起こす。リスナーにとってはこのカラレーションが好意的な音の変化と捉えられるようである。周波数特性はフラットであることはリスナーにとってそこまで重要ではないのではないかというのは各所で言われていたことだが、むしろカラレーションしていた方が良いことまであると研究レベルでも言及されているのは軽く衝撃的ではある。ただカラレーションを積極的に行っていくことが設計として正しいのかというと微妙なところではある。

・直接記載されていることではないが、読んでいて感じたこと。初期反射音は聴感上の直接音をダンピングするものである。そのため初期反射音を排除すると聴感上は直接音量が減少する(能率が悪くなる)。その分を音量を上げてもうるさく感じない。音量を上げられるということは残響音の音量が上がり残響時間を長くすることができる。ただ本書では小空間では残響時間は重要ではなく0.2~0.5秒あればよいとは述べられている。有用な初期反射音はスピーカー側の側壁しかなさそうではあるので、その部分以外の初期反射音は床や天井含めて排除しても良さそうである。

・側方反射音のASWにしても、コムフィルタ現象のカラーリングにしても、LEVの存在にしても、いわゆる音の分解能に関しては正の影響とならない可能性が高く、おそらく負の影響がある。明瞭さを犠牲にしても付与した方が良い音になるという要素が研究レベルで見つかっていることの証左ではある。ステレオ再生において分解能を追求しただけでは必ずしも良い音にならないとは言われがちだが、原因は聴き疲れしやすいとかつまらないとかそういう話になりがちであった。分解能を犠牲にしてまで他の要素を組み込むとしたらどのようにすれば良いか、というのはデメリットを負いつつもそれ以上のメリットを追求するものなので難易度が高い。エビデンスのある情報を活かして追求すべきものではあると考えられる。

・コムフィルタ現象が実際にはあまり問題にならない理由は比較的しっかり述べられている。少なくとも10msの遅延があればひどいディップが起こることはなく、そもそもコムフィルタ現象の減衰も最大で-6dBに収まる。音の立ち上がりの最初の部分は反射波の干渉を受けないため聴感上の問題になりづらい。最初の周波数が1/3オクターブバンドに変換するとほとんどディップにならない程度になる。左右の耳でコムフィルタ現象の起こり方は異なるため、単純なマイク測定のものよりは現実の耳ではある程度補償される。などがその要因だそうだ。
コムフィルタ現象のカラーリングが良いと感じるのかは微妙ではあるが、側方反射音を10ms以上遅延させればコムフィルタ現象の負の面は少なく、ASWの恩恵が大きいので活かした方が良い場合が多いという説が補強されている。

・内側の壁はあまり強固にしない方が良いと述べられている(具体的には石膏ボード2枚ではなく1枚)。定在波が明確な影響を発揮させないためということである。もし防音をするならグラスウール層の外側にする方がよいと言うことである。これはコストパフォーマンスを考慮すると賢明な案かもしれない。床や天井に関しても強固であることがどこまで良いことに繋がるかというと諸説あってもよいのかもしれない。ただコスト度外視で究極を目指す場合にこれが良いのかというと他の選択肢があるのかもしれない。いずれにしろリスニングルームはガチガチの防音室にするより、音を漏らしても構わない立地で防音しすぎない部屋を作る方が良いのではという考え方に信憑性が強くなっている印象がある。

・本書では小空間のLEVには懐疑的ではあるが拡散体の設置には否定的ではない(ただそれほど詳しくは扱っていない)。大半の吸音材は実際には半吸音であり跳ね返ってくる音も存在する。吸音層からの反射音はあまり性質が良くない。その点では拡散体は跳ね返ってくる音の素性が良いけれども、返ってくる音の大きさが減少する拡散体に優位性がある。また部屋の中の音響エネルギーの総量をそれほど減らすことなく反射波を弱められる点も有用性があるとしている。また拡散は水平方向の拡散が聴感上効果があるとしている。

・少し気になるのは本書の通りにしたとして、音が悪くない部屋になるのは間違いなさそうではあるが、感銘を受けるほどの良い音にすることができるのかは少々疑問が残る。実際に部屋の音響処理をする人間に多大な負担をかけない提案が多いのだが、「これは普通にしてても結構良いよ」みたいなものが多く、特別な音を出すためのヒントは少ないためである。

・いずれにしろ可変性はとにかく大事だとは思えた。側方の初期反射面にしても以前は吸音、少し前に拡散が提案され、本書では反射が推奨されている(ただしエンジニアやミュージシャンは吸音)。現時点で本書の見解で皆が一致している訳でもないし今後何が良いとされるか分からない。部屋のオーナーが何を好むかも分からない。ただ知識を備えた上であえて反射をさせるのも独りよがりな手法などではなく、それなりに支持されている手法だというのは一番注目したいところではある。