だから、ここに来た!

いらっしゃいませ! 英国旅行記の他、映画や音楽、テレビドラマ、演劇のレビューを中心にお贈りしております!

ラッパ屋 第49回公演 「七人の墓友」/ナイロン100℃ 49th SESSION「江戸時代の思い出」

2024-07-14 | stage

日本の演劇は随分ご無沙汰になっていましたが、
気になっていた芝居を6月中に2本見ることが出来ました。

1本目はラッパ屋 第49回公演 「七人の墓友」
ラッパ屋を劇場に見に行くのは、第47回公演の「君に贈るゲーム」ぶり。
前回はまだコロナの影響が残っていたため、客席もいつもより空席が目立っていて、
ボードゲームを楽しむ登場人物たちもマスクをしていました。

今回は劇団の取り置きシステムを利用して前日にチケットを確保しましたが、
今回は平日でも席がかなり埋まっていて、観客が着実戻っているのを実感。

家族恒例のバーベキューパーティーに
食品会社に勤める長男、アラフォーで独身の長女、芸術家としてNYに住む次男が集まる。
次男はNYから恋人を連れてきて自分がゲイであることをカミングアウトし、
長男は職場の上司でもある一人暮らしの義父と同居することを告げると、
次々と納得いかない告白をされた頑固者の父は憤慨。
さらには、長年本音を押し込んでいた母が
「お父さんと同じお墓に入りたくない」と言い出す。
実は母は朗読サークルの仲間たちと一緒のお墓に入りたいと考えていた。
朗読サークルのメンバーは元水商売や大学の教授、熟年離婚した女性など様々。
母は父方の墓が岡山にあるが、遠いし「隣に八つ墓村のモデルになった村がある」から入りたくないと、
パーティーの前から長女に打ち明けていた。
父の理解を得られないまま、朗読サークルのメンバーは、
次男の恋人の従兄が住職を務めるお寺の桜の幹の下に骨を埋める樹木葬を見学することになる。

老後が心配になってきたお年頃の私にとっても気になるお墓が主題とあって、
これは勉強のためにも見ておかねば!と思った次第。

今作は主宰の鈴木聡さんが俳優座のために書き下ろした作品で、
当て書きをするラッパ屋では珍しく「当て書きしていない台本」を使っての公演だそうです。
それなのに、まるで演じる役者を想定して書いているように、
キャラクターと配役がぴったりあっていました。
俵木藤汰さん演じる鉄鋼業界にいた頑固おやじや、
対照的に能天気な雰囲気のおかやまはじめさん演じる友人、
弘中麻紀 さんは年齢よりも年上の、のんびりしていそうなのに芯が強そうなお母さん。

常連の客演陣、松村さんや谷川さんは、今回朗読サークルのメンバー役。
松村さんは女性役でビックリ!でも全然違和感なし!

劇団メンバーそれぞれの個性が際立っていて、それぞれのキャラクターが立っていて覚えやすい。
それが40年も劇団が続く秘訣のひとつなのかなと思ったりしました。

果たしてお母さんは友達と共同墓地に入ることになるのか?
お父さんは許してくれるのか?が最後までの注目ポイントになるわけですが、
最後のシーンが説明は最小限にとどめられているけれど、
その後の未来がわかるような幕引きになっていて、なるほど!と納得。
個人の意思を尊重することも、家族でお墓に入ることもどちらも肯定するような終わり方に、ホッとさせられました。

ただ、上演時間が長いわりに、ちょっと内容がのんびりしているようにも感じられたので、
もう少し端折れたところがあった気もする。
「筋書ナシコ」のように、繰り返し見たい!とまでは至らないまでも、
見たことを忘れられないような温かい1本でした。

2本目はナイロン100℃ 49th SESSION「江戸時代の思い出」。ナイロンこそ数年ぶりの観劇。
私は仕事の都合上、先行予約でチケットを取ることが難しいので、
当日券をチャレンジすることが多く、それでも大抵は立ち見でも入場できるのですが、
ナイロンは以前、当日券に並んでも入れなかったことがあり、
その失敗経験の印象が残っていて、確実に確保できる日程でないと無理だろうなと、
足が若干遠のいていました。

しかし、今は日にちによって直前に予約出来る当日引換券が出ているではありませんか!
席の場所は期待できないかもしれないけれど、見られるという確約が得られるだけで万々歳!
仕事終わりに見に行ける平日に席を確保しました。

 

ナイロン100℃が紡ぐ“笑いのための笑い”、30周年記念公演「江戸時代の思い出」開幕(舞台写真 / コメントあり)

「ナイロン100℃結成30周年記念公演 第2弾 ナイロン100℃ 49th SESSION『江戸時代の思い出』」が、6月22日に東京・本多劇場で開幕した。

ステージナタリー

 

「江戸時代の思い出」は主宰のKERAさんがX(Twitter)でタイトルだけは決まっていると投稿していたので、
そこからどのように話が作られていくのか興味津々。
かなりくだらない内容だろうなと想像はしていましたが、
想像通り出鱈目で、なんの教訓も得られない、ただただ脱力するような笑いが続いていくナンセンスコメディでした。

茶屋の前で通りがかった侍、人良(大倉孝二)に声をかける町民の武士之介(三宅弘城)。
彼は自分の思い出を通りがかりの者に話して聞かせているらしい。
人良は断るが、しぶとい武士之介はこれから起こる未来の出来事を「思い出」として話して聞かせるという。
興味を持った人良に、現代の、30年前に地面に埋めたタイムカプセルを掘り起こすために集まった
小学校の同級生たちの再会を話して聞かせる武士之介だったが…

今回の舞台は珍しく全4話オムニバス形式になっていて、
第一話がタイムカプセルを掘り起こそうとする小学校の同級生の話、
第二話が飢饉の中の茶屋を舞台にした話
第三話が顔が尻の形をした侍の話、そしてエピローグと言った具合。

KERAさんもパンフレットで話していたように、
特にオムニバスである意味はなさそうな内容ではあるけれど、
このエピソードの合間に、客席の一人にスポットライトが当たって、
「なんなんだこの話は…」とスポットライトが当たった人の心の声のようなモノローグが勝手に流れる演出が入る。
3人目はただ、いびきの音が流れたり(笑)。
4人目に上手最前列にスポットがあたり(これは役者)、
「こんなつまらない芝居、我慢できない!」と連れの女性を連れて劇場を出て行こうとする。
「イギリスではつまらなければ観客は途中で出ていく。野田秀樹が言っていた」と言いながら。
そこに、「本多劇場の者」を名乗る落ち武者が登場して、
「この国では途中退場は許されません!」と道をさえぎる。
…とこんなバカバカしい繋ぎが入るのが面白い。

かと思えば、武士之介と人良が江戸時代なのにゴザひいて(将棋ではなく)チェスをやり始めてて、
それに誰もツッコむ様子もなく、お尋ね者の「顔が尻の形」のケツ侍(!)が現れたものだから
2人は驚いてチェス盤をひっくり返してしまい、
驚かせたケツ侍がどちらも勝っている状態に駒を置き直してあげて二人が
「なんて優しいやつなんだ!」と感動するくだりがあったりもする。
尻の顔を持つ侍も訳がわからないし、そもそも何故チェスなのかもわからないし、
どちらも勝っている状態ってのはありえないし、とにかく全てが出鱈目

そんな感じで、とにかくオチもなく意味もない緩やかな笑いが連綿と続き、文字通り脱力させられてしまう。
爆笑というよりはずっとクスクスさせられる感じ。

そして、終演後に劇場を出た時、びっくりするほど体が軽い。なんで!?
下手なマッサージよりもよほど体がほぐれる!びっくり!
芝居を見終わってこんな感覚を味わったのは初めて。

ナンセンスは、一見適当に作ればいいように思えるけれど、実はとても高度なコメディ。
「江戸時代の思い出」も、適当な要素を並べ立てているように見えるけれど、
同じことは3回以上は繰り返さない等、体が心地よく感じる笑いのセオリーに則って書かれているのがわかります。
職人によって醸造された良質な日本酒のように
水のように飲みやすく見えても、中身は高度な技術によって構築された度数高めの喜劇
こんなナンセンス喜劇は長年作り続けてきた職人でないと作り出せない味だなと、
馬鹿馬鹿しくも上質な時間を過ごせて満足致しました。

偶然にも、ラッパ屋もナイロンも今回が第49回公演。
そしてラッパ屋は40周年、ナイロンは30周年を迎えました。

ラッパ屋のパンフレットを読んでいると、外部でも活躍している劇団員の皆さんが
それぞれ劇団をホーム=戻る場所だと感じているのが分かって、なんだかとても羨ましい気持ちになるし、
一方ナイロンは最近劇団員の訃報が続いている中で、今でも高度なコメディを手練れな役者の皆さんが上演し続けていて、
長く上演しづつける大変さやその尊さを観客としてヒシヒシと感じます。
それと同時に、近年ロンドンの舞台のことばかり考えていた私ですが、
日本の演劇を好きになり始めた10代後半から20代の頃のワクワクする興奮も思い出して、
ああ、やっぱり演劇っていいな…としみじみ感じた次第です。

 

 

 

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【初日】NODA・MAP 第26回公演 「兎、波を走る」【ネタバレあり】

2023-06-19 | stage

■6月17日■

土曜日の仕事が終わった後、当日券情報が目に入り、
思い切って当日券で初日の舞台「兎、波を走る」を観に行くことにしました。

NODA MAPは昨年の「Q」の再演もやはり当日券で観に行きました。
仕事の都合で、前もってチケットを取っておくということが難しいゆえ…

職場の最寄り駅から真っ直ぐ池袋に向かい、
東京芸術劇場に到着したのが当日券の販売される18時。
列は売り場からぐるりと回って劇場の正面入り口近くの階段の中ごろまで伸びていました。

昨年の「Q」の時は、コロナ対策もあり、当日券は整理券を配っての抽選式でした。
どんなに遅くきたとしても席に座るチャンスがあったのですが、
今回は昔に戻って先着順で販売している様子。

(これは立ち見すらも危ういかなぁ…)と思いつつも、ダメもとで並ぶこと約50分。
なんとか2階立ち見で見ることが出来ました。
先日のロンドンで、足首が痛い中、立ち見で舞台を観に行って、途中でロビーに出て行くことにした経験をしたばかりだったので、
ちょっと心配なところもありましたが、もたれかかれる壁もあるし、演者に合わせて動くこともないので
なんとかなるのではないかと思っていました。

そして、やはり脚は痛くなりましたが、最後は内容に引き込まれてすっかり痛みが気にならなくなりました。
いや、本当にそれほど、終盤の展開に釘付けでした。

 

今回の公演のお目当ての役者でもある大倉孝二さんのように、
私も波とウサギといえば「因幡の白兎」の話かと思っていたのです。

しかし、蓋を開けてみると、兎を追うアリスという少女が登場。
「そっちか!」と思いながら見始めましたが、
不思議の国のアリスと異なるのは、兎を追っていなくなったアリスを探す母親が登場する点です。

 

※ここからは本編に触れていますので、ご注意ください

 

アリスの母が娘を探しまわる一方、売却されようとしている「遊びの園」という遊園地で、
「桜の園」のラネーフスカヤを思わせる元女優が、
子供の頃に母親と見たアリスの話をもう一度見たいためにチェーホフの孫を名乗る作家に脚本を書かせますが、
納得いかずにブレヒトの孫を名乗る作家にも物語を書かせます。

これが前述の兎を追うアリスを追う母の物語、ということなのですが、
その2つの軸の中に、ピーターパンと母親のいない迷子たち空港建設反対の座り込み運動や今や話題が尽きないAI技術など、
数々のモチーフが持ち込まれ、
最初はこれがどう最終的にエンディングに集束していくのか??とハラハラしながら見守っていました。

野田さんお得意のダジャレの言葉遊び…
今回は「もう、そうするしかない国」=「妄想するしかない国」というセリフが劇中で何度も出てきます。
これは私も大好きな、夢の遊眠者の「小指の思い出」にも出てくるフレーズなので、
えっ、言葉遊びの使い回し?とちょっと納得いかないこともあり、
徐々に反抗的な気分になりながら見ていたのですが、
終盤、逃げ続けている「兎」の正体がハッキリと明言されます。

アンミョンジン。

そこで、ああ、やはりそうなのか!と確信します。
勘のいい人は初めから、この話は工作員と拉致被害者の話だとわかっていたのかもしれませんが、
逃げた兎は元はピーターパンで、迷子たちは「USA GI」、というセリフを聞いている時は、
ん??USA??と混乱していて、ハッキリ明言されるまで確信が持てませんでした。

そして、妄想の国に引き込まれ自動書記の力を手にいれたチェーホフの孫とブレヒトの孫は、
戻ってきたうつつの世界で競って新作を書きますが、2人でどうしても同じ結末を書いてしまうように。
第三の作家、AIが彼らを媒体として作品を作り出すようになっていたのです。

同じく妄想の国に引き込まれた元女優も自分自身がアバターと化して、実体のない存在として、
本当にここで母親とアリスの物語を見たのだろうかと、記憶が曖昧になりながら、売却された遊園地を後に去っていくのです。

何か、全てが判然としているわけではないのでうまくいえないのですが、
両端のように見えた2つの軸が、最後に畝るようにあざなっているように感じられます。

最近横田滋さんが亡くなって3年というニュースを聞いて、
どんどん月日ばかりが過ぎていくんだなと思ったばかりでした。
ニュースで久しぶりに拉致事件のことを思い出し、
こうやってニュースで知らされないと、ふと思い出せない世の中の大事なことが多すぎる、と…。

その上に、創作だけではなく自動的に作成された最もらしい物語が混然と入り混じる現代で、
忘れてはいけない現実を、どうやって語り継いでいけるんだろう?
どうやって記憶に留めておけるのだろう?

実世界の「兎」について、芝居を観た後に色々記事を読んだら、
晩年は、経済的に困窮し、事件について信憑性の低い話を語りながら高い取材費を受け取っていたそうで、
当初は有り難がられた彼の発言自体も、日本国内でだんだんと信用を失っていったそうです。
その人生はとても数奇で、それこそ不条理でもあり、アリス側の苦しみと同じくらいに重いものがあります。

昨年再演された「Q」もロミジュリを主題にしながら、シベリア抑留の実話をモチーフにした非常にシリアスな物語でしたが、
今回も観客にただ物語を提供するだけでなく、何日も思い出して考えさせられるような舞台を見せてくれています。
野田さんは、それこそ自分の作品の中に、現実の種を仕込んで、観客の中でそれを育てさせるような、
そんな仕事をするのだと、覚悟を決めて作品を作っているのではないでしょうか。
そしてそれは確かに、どんな媒体よりも力強く、観たものに植え付けられます。
だからこそ、やはり演劇はいい、特別なものだと、しみじみ思わされるんです。

…でも、個人的にはアナグラムやふざけた役名はちょっと食傷気味かなあ。

カーテンコールは4、5回ほどあったように思います。
だんだんとスタンディングオベーションする人が増えていく感じ。
最後の最後に野田さんが一人残って両手で盛り上げながらお辞儀をする。
とりあえず野田さんが最後に受け止めてくれないと終われないですね(笑)。

ところで、役者についてですが、
前半の、まだまだ話がハッキリ見えない時に、
大倉さんのあのいつものクネクネとした動きやとぼけた台詞回しにとんでもなく癒されました。
初めて舞台で見た20年以上前から変わらない輝く個性
当時は共演することもなかった野田さんと対になる作家役で舞台に出てるなんて、
それだけで私のような観客にとってはご褒美です。

松たか子さんは野田地図の常連なので、いつも通りの安心感がありましたが、高橋一生さんは舞台で初めて見ました
「フェイクスピア」は見られなかったのです。悲しい…)
映像作品に出ているときは、喋り方がちょっとクセがあって苦手だな、と思うことがあるんですが、
今回の兎役で見たら、いい役者さんなんだな!と思えましたね。
身体的な動きや笑いとシリアスの緩急がうまい。
近年、野田地図に出ている主役級の男性俳優で一番好きかもしれない!
でも、今日テレビで放送していた「引っ越し大名」でもいい演技してたので、
声がどうのっていうのは、単に好きなキャラかどうかの問題なのかもしれない…
とにかく、また舞台で見たくなる存在でした!
「フェイクスピア」再演してくれないかな!!

 

【高橋一生×松たか子×野田秀樹】「謎だらけでスミマセン」NODA・MAP新作『兎、波を走る』ロングインタビュー - ぴあWEB

NODA・MAP第26回公演『兎、波を走る』が始動。作・演出の野田秀樹と出演の高橋一生、松たか子に、今、語れる限りの内容を語ってもらった。

ぴあWEB

 

あと「桜の園」を見直そうかなと思ったりしてね。

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ミュージカル「ジェイミー!」 Everybody's Talking About Jamie ウエストエンド版

2021-09-15 | stage

ロンドン留学中は節約のために観劇はなるべく控えめにしていたのですが、
それでも2回見に行ってしまったミュージカルがあります。

それが"Everybody's Talking About Jamie"

日本でも邦題「ジェイミー!」で2021年8月に日本版が上演され、
9月17日にはプライムビデオで映画化作品も配信されます。

↓映画版の予告編
Everybody’s Talking About Jamie | Official Trailer | 20th Century Studios

↓日本版ミュージカル「ジェイミー!」のHP

OGPイメージ

ミュージカル『ジェイミー』 | 【公式】ホリプロステージ|チケット情報・販売・購入・予約

ミュージカル『ジェイミー』の公式サイトです。公演スケジュール・チケット情報・グッズ情報などはこちらから。先行販売手数料無料でホリプロ制作舞台...

【公式】ホリプロステージ|チケット情報・販売・購入・予約

 

 

ミュージカル作品としては、2017年2月に英国北部シェフィールドクルーシブル劇場でオープンし、
11月にはロンドン・ウエストエンドアポロ・シアターにトランスファー。
3年に渡って上演されていましたが、2020年3月に新型コロナウイルス感染拡大の影響で休演。
その後、2021年5月再開し、2021年9月からは全英ツアーが予定されています。

作曲はシンガーソングライターのダン・ギレスピー・セルズ
作詞・台本は脚本家のトム・マックレイ
(トム・マックレイは「ミス・マープル」の『バートラム・ホテルにて』
 「ドクター・フー」の『サイバーマン襲来/鋼鉄の時代』『無情に流れる時間』の脚本家でもあります。)

プライムビデオで配信される映画で主役のジェイミーを演じるMax Harwoodはこれが映画デビューとなる新人
ミュージカルのオリジナル・キャストはジョン・マクリー
彼は映画版にも出演しています。

 

■■■事実に基づいたミュージカル■■■

このミュージカルは、英国北部に住むドラァグクイーンになりたいゲイの高校生ジェイミーが、
クラスメイトのいじめや、自分を受け入れてくれない父親の存在に悩みながらも
お母さんや友人たちの協力を得て密かに「プロムにドレスを着て参加する」計画を立てる物語。
2011年にBBCで放送されたドキュメンタリーJamie: Drag Queen at 16が元になっています。

私は舞台を見た後にこのドキュメンタリーを見たのですが、
思った以上にジェイミーの実体験に沿って物語が作られていました。

↓モデルとなったジェイミー・キャンベルとママ。ドキュメンタリーの映像も。
Jamie the drag queen: The gay teenager who wore a dress to prom

 

↓こちらが本物のジェイミーが初めて舞台に立った時の動画。
Jamie: Drag Queen At 16 - Unseen/ Full Boulevard Performance Footage - Part 1 of 2

(ちなみにETVで「11歳、僕はゲイとして生きていく」という番組を見た時に、
 "Jamie: Drag Queen At 16"に似ていると思いました。
 こちらは2017年の作品なので6年近く後のお話で、
 ジェイミーと比べて、プロムでもすんなり受け入れられていたりしています。
 再放送された時はぜひチェックしてみてください!)

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「11歳、僕はゲイとして生きていく」 - ドキュランドへようこそ

ゲイであることをカミングアウトしたビリー。自分らしく生きようと、自らの日常を撮影してきた。11歳から17歳まで、少年の成長過程の苦悩や素直な...

ドキュランドへようこそ - NHK

 

 

■■■英国生まれの学園ミュージカル!!■■■

ドラァグクイーンが出てくる名作ミュージカルというと、
「RENT」「キンキーブーツ」などが思い浮かびますが、
"Everybody's Talking About Jamie"
学園ミュージカルとしても楽しめるのです。

英国の学校らしく日本のように生徒は制服を着ていたり、
クラスメイトが人種多様で、ジェイミーの親友プリティ
ヒジャブをかぶったムスリム系の女の子だったりと、
アメリカの学園モノとはまた趣が違うところが魅力。

(椅子がスライドして中に入るようになっている教室の机が
 想像上のステージのように並べ替えられたり、
 裏返すとレンガの塀になったりする、装置演出の工夫も楽しい)

母マーガレット友達のレイがジェイミーのセクシュアリティに対して寛容で、
彼の将来を全面的に応援しているのも素敵

その一方で、クラスメイトのディーンからからかわれたり、
子供の頃に女装をした姿を見た父親に「気味が悪い」と言われたショックが忘れられなかったりと、
ジェレミー自身は今でも問題を抱えていたりもしますが、
家族や親友、ドラァグクイーンの先輩からの励ましを受けながら、パフォーマーとしての第一歩を踏み出すのです。

 

↓第一幕冒頭の曲"And You Don't Even Know It"。オリジナル・キャストによるオリヴィエ賞でのパフォーマンス。
Everybody's Talking About Jamie performance at the Olivier Awards 2018 with Mastercard

 

 

■■■ウエストエンド公演について■■■

"Everybody's Talking About Jamie"が上演されているアポロ・シアターは
ロンドンのシャフツベリー・アベニューの劇場街の真っ只中にあります。

チケットは劇場のボックスオフィスでも購入出来ますが、
私はレスター・スクエアの公園に隣接しているTKTSの窓口で当日券を購入していました。
定価よりも割引でチケットを購入出来ます。

OGPイメージ

TKTS London - Last Minute Theatre Tickets | OLT

TKTS London is the number one place for London theatre deals. Get the ...

TKTS

 

私が見に行った際にはジョン・マクリーから交代し、
レイトン・ウィリアムズが主役のジェレミーを演じていました。
彼はUKツアーのオリジナル・キャストとして今後は全英を巡る予定になっています。


当時のキャスト表(左)&劇場のトイレ(右)。

↓レイトンがメインのUKツアー用の予告編
Everybody’s Talking About Jamie UK Tour Trailer

 

■■■私のお気に入りジェイミー、レイトン・ウィリアムズ!!■■■

このレイトン君、ビリー・エリオットで主役デビューし、
「RENT」の20周年UKツアーではエンジェル役をやっていた人。
彼がエンジェルなんてイメージにピッタリすぎる!

↓2017年にSOHOのゲイクラブ"G-A-Y"で行われた「RENT」打ち上げパーティで、"Today 4 U""I'll Cover You"を歌うレイトン。
Rent the Musical at G-A-Y

見よ、この身体能力! そして歌唱力も確か!

↓2021年2月にBBCで放送された"Musicals: The Greatest Show"より
Layton Williams - ‘The Wall In My Head’ - Everybody’s Talking About Jamie

この半端なく華やかなレイトン君のジェイミーにすっかり魅了されて、
劇場に2回(2019.3.22/2019.7.2)足を運んでしまった私ですが、(本当はもっと行きたかった)
その他にも、6月に行われたロンドン・プライドのステージや
夏に行われる無料野外イベントWest End Liveでも
"Jamie"のステージを見たので、実質?4回は見に行ったことになります。

自分好みのキャストに出会えるのもミュージカルの醍醐味だったりしますよね。
海外にもツアーが出るらしいので、万が一日本にレイトン君が来たら絶対見に行きたい…
もちろん「ジェイミー!」の来日があったらレイトン君じゃなくても、
是非たくさんの人に、生のジェイミーを楽しんでほしいです!!


楽屋口でサインに応えるレイトン(左)&開演前の劇場(右)

 

↓レイトン含むキャストのアポロ・シアターでのラスト・ステージ
Layton Williams' FINAL bow as Jamie in the West End!

 

■■■パワフル&美しい楽曲■■■

"Everybody's Talking About Jamie"はジェイミー&アンサンブルの歌のような
元気になれる曲が印象的ですが、脇役たちの曲もキラリと光っています

私が特に好きな曲は、親友のプリティが歌う"It Means Beautiful"
女装で着飾らなくてもジェイミーは美しいと励ます、美しい歌です。

↓COVID-19で多くの犠牲者を出したインドのためのチャリティ・セッション。
"It Means Beautiful" | West End charity single for India Covid Relief

 

そして、ジェイミーと喧嘩した母マーガレットが歌う"He's My Boy"
どんなに傷つけられても我が子を愛する、母の深い愛情を感じさせる一曲。

私が見に行った公演はRebecca McKinnisがマーガレットを演じていましたが、
とてもパワフルで、この時期に私が見たミュージカルでベスト3に入る感動のパフォーマンスでした。

↓BBCのチャリティ番組"Children in Need"でのパフォーマンス。この時は劇場ほどパワフルじゃないけど…
He's My Boy - Everybody's Talking About Jamie - Rebecca McKinnis live at Children in Need

 

噂によると、プライムビデオの映画版では
劇場のオリジナル楽曲を一部省略しているらしいのですが、
そんな選曲になってるんだろう…。

そんなところも気にしながら映画版を鑑賞したいです。

Everybody’s Talking About Jamie – Release Date Announcement I Prime Video

 

映画やツアーを通じて、ますます"Jamie"が世界的にメジャーな作品となり、
ジェイミーのようなセクシュアリティに悩む子達の助けにもなるよう願うばかりです!

 

本編をご覧になった方も、どんな曲があるのか気になった方も、
下のリンクからチェックしてみてください!

OGPイメージ

Everybody's Talking About Jamie: The Original West End Cast Recording

Original West End Cast of Everybody's Talking About Jamie · Album...

Spotify

 

Everybody's Talking About Jamie: The Original West End Cast Recording

 


夜のレスター・スクエア

《追記》
↓映画版、見ました。

OGPイメージ

プライムビデオ「Everybody’s Talking About Jamie ~ジェイミー~」【ネタバレ注意】 - だから、ここに来た!

先日紹介したミュージカル"Everybody’sTalkingAboutJamie"を映画化した、「Ever...

プライムビデオ「Everybody’s Talking About Jamie ~ジェイミー~」【ネタバレ注意】 - だから、ここに来た!

 

 

参考:
https://www.everybodystalkingaboutjamie.co.uk/
Drama Resource Pack

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ウエストエンド版ミュージカル「ウェイトレス」 "Waitress"(2018.07.08)

2021-03-09 | stage

ミュージカル「ウェイトレス」の日本版が近く上演されるということで、
ちょっとずつ進めている留学日記ではまだ触れることが出来ていないのですが、
ロンドンで見たウエストエンド版の「ウェイトレス」"Waitress"のことを振り返っておこうと思います。


(Adelphi Theatreと、劇場のある大通り=ストランド)

ミュージカル「ウェイトレス」は2007年の映画「ウェイトレス 〜おいしい人生のつくりかた」を舞台化した作品で、
ダイナーで働くウェイトレスのジェナが、夫に虐待されながらも、
大好きなパイを焼きながら現状を打破しようともがく物語。

実は私は、映画の舞台化である「ウェイトレス」にはそれほど興味はなく、
日本に帰国するまでに見る予定もなかったのですが、
俄然見る気になったのは、当時ジェナ役を引き継いたばかりのルーシー・ジョーンズ
「ウエストエンドライヴ」(2019年6月22日・23日)で見たことがきっかけでした。

ウエストエンドライヴは、ウエストエンドで上演中の演目から、キャストが出演して
ハイライトとなる楽曲を演じる無料イベントで、ミュージカル好きは決して見逃せません。

そこで、ルーシー・ジョーンズが歌った"She used to be mine"に圧倒!!!されまして、
これは絶対見に行かなきゃいけない!と思ったのでした。

WEST END LIVE 2019: Waitress Live performance "She Used To Be Mine"
(これが実際に私が撮影したウエストエンドライブでのパフォーマンス)

(オフィシャルの映像はこちら↓)
West End LIVE 2019: Waitress performance (Sunday)

後で知ったのですが、ルーシー・ジョーンズはオーディション番組「Xファクター」出身で、
2017年のユーロヴィジョンコンテストに英国代表として出場した実力の持ち主。
(ユーロヴィジョンに出てた時はそれほど気にしてなかった…)
レミゼのコゼットや、「RENT」のモーリーンを演じた経験もあります。
伸びやかで力強い声は、トラファルガー・スクエアから全英まで響き渡っているんじゃないか?と思うくらいでした。


(観劇時のキャスト表)

Adelphi Theatreのロビーでは、Tシャツやマグカップのようなグッズの他に、
瓶入りのパイを売っていたらしく、入り口に入ってすぐ、
甘ぁい、いい匂いが一帯に漂って幸せな気分になりました。

まさかスイーツが売ってるとは思わなかったので買いそこねてしまった…
今、すげー後悔してます。

Waitress to plate up Pie Jar selection at the Adelphi Theatre

Waitress, soon to begin previews at the Adelphi Theatre, has announced...

Official London Theatre

 


(お姉さん、手にジャーを持ってますね。買えばよかった…)


(幕がパイ柄で可愛い!美味しそう!しかもアーチがパイケースになっているのだ!!!)

それでは、物語も振り返っておきましょう。
(紹介する動画はブロードウェイ版も含んでいます。)
※字幕もなく英語で見たのであらすじが微妙に違っていたらごめんなさい…

 

ACT 1

ウェイトレス仲間のベッキーとドーンとともに「ジョーのダイナー」で働いているジェナ。
彼女は食べた人を幸せな気分にするパイ作りの達人でした。

Katharine McPhee performs "Opening Up" | Waitress in the West End
(ウエストエンド版のオリジナル・キャスト)

ある日、吐き気に苦しむジェナにベッキーとドーンが妊娠検査を試すよう進めます。
すでに夫とは冷え切った関係で、妊娠を望んでいないジェナ。
結果が陽性であることを知り落胆していると、店に夫のアールがやってきます。
彼女のチップを取り上げ、低賃金の仕事とパイ作りをあきらめさせようとする夫。
ジェナは夫の前で妊娠については触れず、
自分と同じように不幸な結婚生活を送っていた母を思い出しながら、
個性的な手作りパイを焼くことで自分を慰めます。

Sara Bareilles Performs 'What Baking Can Do' at the Adelphi Theatre in London
(作曲家のサラ・バレリス本人の歌唱)

産婦人科に立ち寄ったジェナは、新しい担当医ジム・ポマターに出会います。
昔から診てもらっていた女性医師ではないことに苛立つジェナは、
子供を望んでないことを明かし、彼女のために特別に作ったパイをポマター医師に押し付け帰宅。
砂糖を絶っているため、はじめはパイを断っていたポマター医師でしたが、
彼女の手作りパイを口にすると、すっかり魅了されてしまいます。

ダイナーに戻ると、オーナーのジョーに彼女の妊娠の件がすっかり伝わっていましたが、
彼はジェナに賞金の出るパイ・コンテストに出るよう提案します。

一方、彼氏が出来たことのないドーンは、オンラインデートで相手から連絡をもらい、
初のデートを取り付けてすっかり興奮してしまいます。

Waitress the Musical - When He Sees Me

(「オレンジ・イズ・ニュー・ブラック」にも出演しているキミコ・グレンの歌唱)

仕事の後、バス停で偶然ポマター医師と出会ったジェナは、
不幸な結婚生活を送っていることを明かします。
ポマター医師は、彼女のパイに感動したこと、
彼女の思いやりに惹かれていることを伝えます。

家に帰ると、仕事を首になったアールがもっと金を稼ぐようジェナに当たり、
ついに彼女が妊娠していることを告げると、やっと冷静さを取り戻しますが、
自分を子供よりも愛するように命令するのでした。

Waitress the Musical - You Will Still Be Mine

翌日、ジェナはベッキーとドーンにパイ・コンテストに出場し、
その賞金で夫を置いて、子供と新しい生活を始める計画を話します。
そしてドーンのデートのためにとっておきのパイを作ってあげます。

ドーンのデートの日。
変わり者で積極的なデート相手オギーと距離を取りがるドーンでしたが、
お互いにアメリカ革命の再現(コスプレ?)に参加していることを知ると意気投合します。

Waitress the Musical - Never Ever Getting Rid Of Me

一方、ジェナは出血していることに気づき、翌朝、予約した時間にポマター医師を訪問。
仕事前に呼び出されたのに、妊娠初期によくあることだと診断されたジェナはイラつきます。
言い争った末に衝動的にキスしてしまうジェナとポマター医師。
動揺しながらも二人は、欲求不満な生活に終止符を打つために関係を持ってしまいます。

Jessie Mueller and Drew Gehling Sing "Bad Idea" from Sara Bareilles' WAITRESS
(ブロードウェイ版のリハ動画)

 

ACT 2

ポマター医師との密会の後、ダイナーに出勤すると、
ジェナはベッキーとカルがカウンターの裏でセックスしているところを発見。
不道徳だとなじりますが、ベッキーもジェナの不倫に気づいて彼女も同じだと主張します。

Waitress the Musical - I Didn't Plan It

ジェナと先生との関係は、ベッキーとカルの関係や、ドーンとオギーの交際と同じく、
その後数ヶ月続き、オーナーのジョーや看護師にも関係が知られるようになり、
会う回数も少なくなりますが、ポマター医師と再会したジェナは
この関係は間違っていると思うか確認し、
彼はお互いがこの世界で必要としあっている大切な存在だと答えるのでした。

Sara Bareilles and Gavin Creel - 'You Matter To Me' | Waitress London
(ウエストエンド版向けの動画。サラ・バレリスとギャビン・クリールの歌唱)

数ヶ月後、ドーンとオギーが結婚式を挙げ、お腹の大きくなったジェナが完璧なケータリングを用意。
式でカルに、ベッキーと不倫していても幸せか聞くと、「幸せすぎるほど」だと答えます。
そしてジェナとダンスするジョーは、珍しく彼女への信頼の情を表現するのでした。

しかし、突然ジェナの夫アールが現れ、宴会から彼女を無理やり家へと引き戻します。
コッソリ貯めていたコンテストの出場資金を、アールが見つけてしまったのです。
ジェナは赤ん坊のベビーベッドのために貯めていたお金だと説明しますが、
隠されていたことが気にくわないアールは金を取り上げ、出て行ってしまいます。
長い間大切に貯めた資金を取り上げられ、打ちひしがれるジェナ。

Sara Bareilles - She Used To Be Mine (Official Video)

(サラ・バレリスのオフィシャル動画)

さらに、絶望する彼女を陣痛が襲います。

病院に着いたジェナを見舞ったのはジョー。
実は先が短く手術を受ける予定のジョーは、赤ん坊が生まれたら開封して欲しいと、
ジェナに封筒を渡します。

ベッキーやドーン、アールやポマター医師の妻まで現れて混乱するジェナ。
そして、赤ちゃんが産声をあげます。

ジェナは生まれた女の子にルルと命名。
夫のアールは性別が女の子であることに失望し、
相変わらず、赤ん坊ではなく自分を愛するよう命令しますが、
ジェナは冷たく離婚することを伝えます。
ベッキーとドーンに部屋を追い出されるアール。
残されたポマター医師は、ジェナとの関係の継続をのぞみますが、
ジェナは彼との「幸せすぎる」関係を終わらせることを告げ、
出会いのきっかけになった手作りパイの代わりに市販の小さなパイをプレゼントします。

"Everything Changes" - Betsy Wolfe and the WAITRESS Band
(ブロードウェイ版のキャスト、ベッツィ・ウルフの歌唱)

退院の時。ジェナはジョーからの封筒を思い出します。
手紙を読むと、彼の死後はダイナーをジェナに残すこと、
そして、自分の名前をつけたパイを作って欲しいと書かれていました。

2年後、ダイナーは「ルルのダイナー」と名前を変え、
オーナー兼料理長のジェナの人生がついに花開くのでした。

Waitress The Musical London | Official Trailer

(ウエストエンド版トレーラー)

ロンドンにいる間、資金を使いすぎない程度に舞台やミュージカルを見ていたのですが、
偶然なのか、女性のエンパワーメントをテーマにした芝居が多くてとても勇気づけられました。
「ウェイトレス」もその中の一つで、不幸な結婚生活に囚われたジェナが、
やっと暴力夫と別れる決断をして、自分の人生を手にする姿はすっきりしました。
ジョーが店を残してくれたからこその独立ではありますが、
これまでのジェナのダイナーでの貢献とジョーへの対応の結果でもありますからね。

ジェナがつぶやく「砂糖、バター、小麦粉」"Sugar, Butter, Flour" は、
まるでシンデレラを変身させる魔法の呪文のように聞こえます。
パイを作っている時こそが彼女を最高の魔法使いにする瞬間…。

私が「ウェイトレス」を見るきっかけになった"She Used To Be Mine"の、
昔の若かった自分を振り返りながら、でももう彼女は自分自身ではない、
自分のものではないのだという歌詞が、あまりに分かりすぎて、歌詞を読むだけで泣きそうになります。
ちょっと途中で休憩を入れないと読めないほどに(笑)。

ジェナほどの苦労はしていなくても、誰しもあの頃の自分を思い返す時ってあると思うんですよね、
一生懸命で、忍耐強くて、傷ついても完璧でいようとする女の子のこと…。

(劇場の中でもルーシー・ジョーンズのパフォーマンスは圧巻でした。
 観客すべてが歌声に集中し、割れんばかりの拍手と歓声が送られていました。)

コンテスト資金を失い、ルルの誕生をきっかけに夫を離れる決意をするジェナ。
やろうと思えば、もっと早くに決断出来たと思うのですが、
その決断が一番難しくて肝心ってことなんですよね。

ポマター先生との不倫も、不道徳な関係ではあったとしても、
ジェナに他の人生を選ぶことも出来るというヴィジョンを与えた意味で、
決断のはじめのきっかけを与えたのかもしれませんね。

ドーンとオギーの、初々しいカップルも可愛かった。
アメリカ独立戦争の格好でナニしてるのには笑っちゃいましたが。

「ウェイトレス」のバンドは、演者と一緒にお店の中(舞台上)で演奏しているので、
お店専属のバンドみたいなのも、見ていて楽しかったです。

とにかく劇場に入った時の甘い匂いから、パイ生地の幕、ケースに入ったパイのアーチ
甘くて酸っぱい音楽と、ジェナを囲んで交差する仲間の人間模様が、
アツアツのパイみたいに仕上がっていて、
お腹いっぱいデザートを平らげたような気分にさせてくれました。

ちなみに、ウエストエンド版は2020年7月に閉幕する予定でしたが、
パンデミックの影響で予定より早い3月にクローズしています。残念。
ウエストエンドライブも2020年は中止となりました。

また演劇好きが安全に気軽に観劇出来る環境になり、
ウエストエンドに活気が戻ることを心から祈っています。

 

 

余談ですが、「ドクター・フー」の"Hell Bent"というエピソードで、
クララ役のジェナ・コールマンがウェイトレス姿で出てくるのですが、
あれって「ウェイトレス」をイメージしてたんだなーとミュージカルを見てやっと気づきました。(遅い)
しかもどっちもジェナだし。すごい似合ってました。

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NT Live「フリーバッグ」を見た後に思う「現代のお姫様」像

2020-03-15 | stage


本題の前に。先日、BSで「伴走者」と言うドラマを見たんです。
気になっていた原作本のドラマ化だったので、割と放送を楽しみにしていました。

主人公はマラソン選手なのですが、五輪選考会のランナーに選ばれず、
目が不自由になったことでパラリンピックのマラソン選手を目指している元有名サッカー選手の「伴走者」としてトレーニングすることになります。

このドラマの中には2人の女性…主人公の妻と、元サッカー選手のアシスタントが登場します。

主人公は身重の妻に選考会に選ばれなかったことを隠し続けるのですが、
妻は夫が不在の間に上司から事情を聞いて、嘘をついていることに気づいてしまいます。
でも、妻は全く怒らない。
全くショックを見せずに、給料がよくなるからってわけじゃないけど、いいじゃない!と歓迎します。

サッカー選手のアシスタントの方は、雇い主が現役時代から支え続けている通訳者で、
目が見えなくなった彼を、栄養面でもサポートし続けています。
で、話の途中から、主人公が突如、アシスタントのために走ってやれとエールを送るように。
突然その2人が思い合っている設定になってくるんです。
その気になって、その子に愛の告白をする元サッカー選手…

ちょっと待て!
女は男を支えるだけの存在なんかい!


女には家庭を壊さないようにする手本を見せて、
イケメンとの恋愛設定でも見せておけば満足するだろ、
とでも思ってんのかい!

おそらく原作には妻の設定もアシスタントの恋愛設定もないと思います。
ドラマ用に付け足された設定でしょう。

特に腹が立ったのは、
主人公たちが大会に出場している間に妻が産気づいて一人で病院に向かうのを
さもよく出来た妻かのように美化していたこと。
百歩譲ってこれが実話だったとしても、
主人公!お前!喜んでないで早く病院に行かんかい!!!

なんでこんな「改悪」をするのか? 腹が立って仕方ありませんが、
おそらくこれを「改悪」と思わない人が多いのかもしれませんね。

女性はもっと獰猛で、野心的で、猛々しく怒り、同時に悲しむ生き物です。
男主人公の引き立て役なんかじゃないんです。



そんな憤りを持つ私が、2018年から2019年にロンドンに留学中、
特に心に響いたドラマがBBCで放送されていた「フリーバッグ」でした。

ちょうど第2シリーズが始まるタイミングで
「シャーロック」のモリアーティ役で知られるアンドリュー・スコットや、
当時BAFTAを受賞したばかりだった映画「女王陛下のお気に入り」のオリヴィア・コールマンが出演していると聞いて、
この時点で第1シリーズは観ていなかったのですが、面白そうなのでチャンネルを合わせたのです。

第2シリーズは、いきなりトイレの洗面台に向かう女性が鏡を見ながら鼻血まみれの顔をゆっくりタオルで拭うところから始まります。
そして彼女がカメラ目線で放つ一言が強烈。
「これは、ラブ・ストーリーです」

そうなの!?



見ていくうちに、どうやら彼女が、再婚する父と再婚相手を囲んでの食事会に
長女とその夫、結婚式に立ち会う予定の神父と参加している…
しかも表向きは仲良く振舞っているけど、それぞれに軋轢があるらしい、
ということが、わかってきます。

楽しく幸せそうに見えて、実際は絶対行きたくないような気まずい食事会…。
初対面の神父以外、全員が主人公を精神的に不安定な娘と信じて笑顔で軽蔑している。
娘の誕生日にカウンセリングのチケットをプレゼントする父、その父を寝とった義母、
無理やりキスしてきたアル中の義兄に、妹が夫に言い寄ったと信じる姉。
主人公がまともな行動を起こそうとしている時にも、誰も信じようとしない。
胸が痛い…
そして最後に訪れる修羅場…。

なんてこった、最高に面白いドラマじゃないか!

そして、一気にこの番組のファンになりました。



番組のクリエイターで、主人公を演じるフィービー・ウォーラー=ブリッジは、
BBCのサスペンス・ドラマ「キリング・イヴ」のクリエイターとしても知られ、
映画「ハン・ソロ/スター・ウォーズ・ストーリー」では印象的な長身のドロイドL3-37を演じ、
さらには「007/ノー・タイム・トゥ・ダイ」で共同脚本家として参加するなど、
まさに乗りに乗っている女性クリエイターの一人。

もともと、この作品は2013年にロンドンのSOHO Theatreでプレビュー上演され、
その後、コメディの登竜門的演劇祭エディンバラ・フリンジでも上演され
Fringe First Awardを受賞した一人芝居が元になっています。

内容はテレビの第1シリーズとほぼ同じ内容ですが、
ヒットを受けて、2019年にロンドンで舞台としてリバイバルされ、
日本では劇場中継ナショナル・シアター・ライブのラインナップの一つとして、
2020年3月13日から映画館上映されています。

このリバイバル上演をビザの関係で見ることが出来ず、
ロンドンのフォイルズで買った戯曲を胸に、泣く泣く日本に戻った私でしたが、
幸い日本でこの上映を見ることが出来ました。



フィービーの演じる主人公(本名を呼ばれることはない)は、舞台上でも画面の中でも
観客に向かって自分の性生活や欲望を赤裸々に明かしたり、目の前にいる人の悪口をつぶやいたり、
まるで友達にその日一日の実況をしているかの様に生き生きと語りかけてきます。

前から歩いてくる男性をバカにしながら媚を売った後で悪態をつかれたり
元カレのために、自分の体の写真をトイレで撮影する姿は
みっともなくって笑わずには入られません。

フィービーは主人公=フリーバッグについて、こんな風に語っています。

「20代でかなり懐疑的な気分だった頃、
社会の重圧に辟易し、女性が抱える社会のプレッシャーに目覚めて、崖っぷちに立たされていました。
その割れ目から底を覗き込むと、そこに口紅をつけたフリーバッグがいて、私を見つめ返してきたんです。
性的な魅力によって自分が価値づけられると信じている女性に」


私自身はそれほど男性に承認欲求を満たされたい人間ではないので、
どうしてフリーバッグにこんなにも共感するのか、考えてみると不思議ですが、
この物語の中の彼女が、世の中生きにくい…と感じているのは共感できます。

例えば、テレビにも舞台にも登場する場面で、
主人公と姉がフェミニストの集会に参加し、5年間完璧な体と交換してみたいか訊かれて
勢いよく手をあげたら、手をあげたのは彼女たちだけだった、という気まずいシーンがあるのですが、
このシーンについて、フィービー自身はインタビューでこう答えています。

「もし質問されたとしたら、私がその手をあげる子。
『当たり前じゃん!』って。
そして正直だから勇気を与える!と思うと同時に、
失望させてる…とも思うでしょう」


現代女性は人生の選択肢が増えている!自由を謳歌している!と世間的には思われている一方で、
まだまだ正直に生きていくは辛い世の中です。
ハイヒール履くのだるい!辛い人は、もう職場で無理して履くのはやめませんか?
と言っても問題になる世の中。

私らしくいよう、という美化されたメッセージはあくまで可愛く彩られたフレームの中に飾られたものなのかも。
例えば、フリーバッグのような、セックス大好き! ヤな奴に悪態つくのって最高!という
およそ女の子が公言しないような正直さは、当然世の中に歓迎されません。
前述したドラマのように、女は従順で引き立て役でなければならないのですから。




そもそも、フリーバッグが「男から受け入れられたい」という思考は、
果たして本当に彼女自身の欲求と言えるのか…
単純に男が欲求を満たすために整備された世の中に、飼い慣らされているだけじゃないのか…?

彼女は性に奔放で、男に求められたい女である自分自身を認めていながら、
その罪悪感に苛まれている女性でもあるのです。
フリーバッグのその率直さと罪悪感は、この物語の軸でもあるような気がします。

そしてそれは、共同でカフェを経営していた親友の死が原因となっています。
フリーバッグが素直でいられた相手。
自分たちを誇れるモダンな女性だと一緒に宣言出来た仲間。
彼女は自分が犯した過ちのせいで、実は深く打ちひしがれています。



舞台版とドラマ版との違いとして、常連客のジョーの存在があります。
親友が亡くなってからも店に通い続ける年配の彼は、
終盤、投げやりに裸を見せる彼女に触れることなく、店を出て行きます。

バーやカフェでウクレレを弾いて歌を聞かせることに喜びを見出すジョーは
体を求めることだけに意味を見出す自分はおかしいのか?と銀行家に問いかけるフリーバッグとは
対照的に描かれている人物と言えるかもしれません。

そして、地下鉄の中で知り合った「口の小さい男」が蹴飛ばして瀕死状態になった、
親友が愛したモルモットを、裸の胸に抱きしめるフリーバック。
舞台版はドラマと異なり、彼女のサディスティックな部分と、優しさと悲しみが綯交ぜとなった、
ショッキングなシーンでした。


ところで、RADAで演技を学んでいた学生時代に、”受け身のプリンセス”を演じたくないフィービーは、
「なんで激動の運命に生きる役を演じられないの? そんな役はないの?!」
と激怒したことがあるとか。
演出家はそんな彼女のために怒れる若い女性の役を書き、言ったそうです。

「君には怒りの才能があるから」

「それで、私はいつも求めていたものに気づきました。
怒りは必ずしもネガティブなものでなければならないなんて思わないから。
憤りは動機を与え、やる気を与え、何かを変えるものになりうると思うし、
まさに、今(世間の女性に)起こってることだと思うんです」


フリーバッグは誰もがなりたいと憧れるおとぎ話のお姫様ではありません。
微笑むだけの主人公の理想の妻でも恋人でもありません。

でも、あなたが一人きりで家に帰って、顔を洗った後、
洗面台の鏡の中にフリーバッグがいませんか?

仕事がうまく行かなくて家に帰って泣いたり、
やけくそになって飲みすぎたり、
自分を理解してくれない家族と対立したり、
人前で一生思い出してしまいそうなヘマをしたり、
好きになってくれる男性と一夜を過ごしてもなんだか満たされなかったり。

そんな等身大の女性こそ、現代を戦うリアルなお姫様じゃないでしょうか。



参考:
Phoebe Waller-Bridge on Woman’s Hour: Nine things we learned
Furiously Funny: Phoebe Waller-Bridge On Female Rage
DRYWRITE AND SOHO THEATRE PRESENT FLEABAG
'I was cynical and depressed in my 20s': Fleabag's Phoebe Waller-Bridge discusses 'self-loathing judgement and the pressures women are under'
Fleabag – Edinburgh festival 2013 review
DryWrite make their Edinburgh debut with the world premiere of a hilarious one-woman show written and performed by Phoebe Waller-Bridge
Edinburgh Fringe 2013
Phoebe Waller-Bridge’s Fleabag coming to BBC Three


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真・劇団アニメ座DB ~DB芸人絶滅計画~

2020-03-14 | stage

最近、今更ながらドラゴンボール芸人にハマってます。

30代女性でドラゴンボールが未だに好きっていうとたいがい白い目で見られがちですが、
彼らを見てるとなんでもかんでもDBで本物そっくりに例えたりボケたりしてくれて痛快なんですよね。

そんな折、運良く追加発売されたチケットを入手して、
作・演出、R藤本による過去最大級のドラゴンボール芸人総出演のライヴ
「真・劇団アニメ座DB ~DB芸人絶滅計画」千秋楽を紀伊国屋ホールで観てきました。
日本のお笑いのライヴなんていつぶりか… イギリスではちょいちょい行ってたけど…。

ポスター

お笑いライヴと言っても、ちゃんと芝居の形になっていて、なぜかいつもの力を発揮出来なくなったDBのキャラたちがその力を元に戻すため、
ドラゴンボールを持ってる者たちから与えられた試練(ものまねや漫才、クイズ等…)を乗り越えボールを集めていくと言う話。

大勢いるDB芸人の中にはまだ芸が「仕上がってない」人もいるけど、
舞台上では全員の見せ場があって、それぞれの個性やお馴染みの決め台詞が披露され、
全員が面白く、誰もスベらない。

笑い続けて、終演まであっという間でした。
隣に座ってたおじさんも笑いすぎてむせてて心配になった(笑)。

物語はそのタイトルの通り、DBの世界を歪めたウィルス?が
「本当の芸人ならDBのキャラ芸人なんてやめて、真面目に漫才練習してM-1を目指せ」と唆す展開に。

そこで氷川きよしよろしく神龍に乗ったベジータたちが登場し、
観客のパワーを集めた悟空が元気玉でウィルスを退治!
「俺は俺の信じた道を行く!俺たちがナンバーワンだ!」 
笑うところなのに、なんだか妙に感動してしまった…。

お花

昔からDBキャラの中ではベジータが好きな私は、
10年前にR藤本のベジータネタを見た時にはそれほど引っかからず、深追いしなかったんですよね。
でも、その後もずっとキャラも変えず、強力な仲間を得て、クオリティを上げながらここまでのライヴに漕ぎつけてるとは、
同世代でここにきて生き方ブレブレの私は単純にすごい!と思ってしまう。
もちろん元の素材が現在進行形だからこそ、だけど。
この舞台の最後の展開は、まるでDB芸人として改めての決意表明のようで潔く、かっこよく見えました。

何を言われようが、やりたいことがブレないって大事。
世の中にはびこるすべての「こうでなきゃいけない」に、食らえ!ビックバン アターック!!!です。

ちなみに、アフタートークは本当のベジータ役、堀川りょうさんがゲストで登場して、
もはやR藤本がベジータにしか思えないところで聞いた生の「貴様!」にはビリビリしびれました。
まさしく本物!! かっこよかったー。

新宿の街

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2020年オリヴィエ賞ノミネート作品発表!

2020-03-10 | stage

大変ご無沙汰しています。
このブログに記事を書くのはおよそ2年ぶり?
今でも英国一人旅や「シャーロック」関連で訪問してくれる方がいるようで嬉しい限りです。

何故しばらく更新が出来なかったかというと、2018年から2019年にかけて英国に語学留学(とその準備)をしていたからです。
留学に関するブログは別に設けてあります。
⬇️⬇️⬇️
『ミウモのロンドン留学体験記』

もともとじっくり考えてブログを書く方なので、こちらもなかなか更新出来ていませんが、
留学以外のエンタメニュースで気になることや帰国後に鑑賞した芝居・映画についても少し残しておきたいので、
またここに記していければと思います。
昔の旅行記で書けていないものもありますしね。

今回はイギリスの権威ある舞台芸術のための賞、オリヴィエ賞の話題です。
先日ノミネート作品が発表となりました。
ちょうど私が留学中に見た作品や、帰国するために泣く泣く見られなかった作品がたくさん!
以下に特に受賞してほしい作品たちを書き残しておきます。授賞式が楽しみ!
The Olivier Awards nominees have been revealed!
I’ve seen some shows on the list but couldn’t do others to go back to Japan in tears.
I’ll hope my favourites below win. (The ceremony will be held on 5 April.)






🎭「屋根の上のバイオリン弾き」"Fiddler on the Roof"
ミュージカル再演/演出/主演男優/主演女優/助演男優/作曲/振付/衣装デザイン賞

→帝政ロシア時代のウクライナ地方でユダヤ人迫害の不穏な革命の足音が迫る中、ある一家の生活や結婚騒動を描いた名作。
恥ずかしながらロンドンで初めて見たけど、歌もダンスもセリフも装置も全て素晴らしく楽しかった!
(主演のアンディ・ナイマンは観劇前に別の芝居のスクリプトのサイン会でお話ししたのですが、主人公のテヴィエ同様陽気で気さくな人でした。)

Fiddler On The Roof | Official West End Trailer




🎭"Present Laughter"
演劇再演/主演男優/主演女優(2名)賞

→ノエル・カワード作のコメディ。
成功しているけど自己中心的で中年の危機に陥っている喜劇俳優が、アフリカへのツアーのための準備をしているところに若い女に言い寄られたり、新人脚本家に付きまとわれ、秘書夫婦の仲を取り持ったりしなければならなくなる。
BBCのドラマ「フリーバッグ」でさらに人気を獲得したアンドリュー・スコット主演。
彼が主人公の喜劇俳優役と聞いて、あまりイメージが湧かなかったけど、生き生きと混乱の中でもがく主人公を演じていて、喜劇でもこんなに映える人なんだ!と舌を巻いた。
共演のソフィー・トンプソンやインディラ・ヴァルマも好演でした。
日本でもNT Liveで今夏映画館上映されます。

National Theatre Live: Present Laughter | Trailer




🎭「フリーバッグ」"Fleabag"
コメディ演劇/主演女優賞


→前述のテレビドラマ「フリーバッグ」の舞台版。
007「ノー・タイム・トゥー・ダイ」でも脚本を担当しているフィービー・ウォーラー=ブリッジ作・出演。
テレビドラマの第2シーズンが放送された時は、どの新聞にも頻繁にフリーバッグを見かけるほど話題沸騰だった。
もちろん私も夢中に。大好きな作品です。(Amazonプライムで配信してるから見たことない人は見よう!)
元々エディンバラ演劇祭で上演された一人芝居が元になっているので、この舞台は正確に言うと再演。
残念ながら生で見られなかったので、日本での映画館上映で見る予定

Fleabag goes to the West End - BBC London News




🎭"Waitress"
ミュージカル初演/作曲賞賞

→映画「ウェイトレス〜おいしい人生のつくりかた」の舞台版。
アメリカ南部のレストランでパイ作り名人として知られているウェイトレスが不幸せな結婚生活からの逃亡を計画。
しかし新参者の男性と恋に落ち、さらに妊娠も発覚して人生の決断をせまられる。
無料の屋外ライヴで”She used to be mine”という曲を聞いて感動し、急遽見に行った作品。
どの曲も耳に残って印象深いし、登場するキャラクターも親しみがわく。
物販でオリジナルパイも売っていて、その匂いがたまらんのなんの!

Waitress Tony Performance She Used To Be Mine




🎭"Emilia"
コメディ演劇/音響デザイン/衣装デザイン賞


→エリザベス朝時代に詩人・教師・フェミニストとして活動し、シェイクスピアにもインスピレーションを与えたとされる女性エミリアの人生をオール女性キャストで肉付けした物語。
女性だからと軽視され、盗作され、仲間までも失ったエミリアによる最後の怒りに満ちたスピーチでは、まるで教会の説教のように観客から共感の歓声があがり、後ろで見ていた女の子は感極まって号泣していた。
ロンドンの演劇は女性のパワーが力強く感じられて本当に勇気付けられます。

Emilia in the West End | 2019 opening night




🎭"A Very Expensive Poison"
演劇初演/主演男優賞

→ロンドンで元ロシア諜報部員が変死した事件を取り上げた原作本を舞台化。
私の好きな俳優リース・シアスミスがプーチン大統領役で出演していたので絶対見たかったのに帰国せざるをえなかった。
見たかった、見たかったぞー!(フリーザ口調)
これまでも舞台やTVでひとクセある、信用ならない役を演じ続けてきた彼が久々のノミネートで嬉しいかぎり。
やっと世の中が追いついたらしいぜ!Finger crossed!

A Very Expensive Poison | Audience Reactions

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傑作喜劇! ラッパ屋第42回公演『筋書ナシコ』

2016-07-02 | stage
旅日記の途中ですが、ここで最近観た演劇について。

ここ数年日本の演劇についての記事は書いていませんでした。
芝居を見る本数が減っていたということもありますし、
ツイッターでつぶやいて満足してしまうということもあるのですが、
今回感想を書き残しておきたい芝居に出会えたので、久しぶりに記しておこうと思います。
ラッパ屋第42回公演『筋書ナシコ』です。

ラッパ屋は演劇を今よりは見ていた大学時代から通っていたわけではなく、
劇場中継で見たことがあるなー程度に知っていた劇団でした。
きっかけは、ここ数年私が好きなドラマの吹き替えをしている役者さんがこの劇団に所属していて興味を持ったのが始まり。
(「名探偵モンク」のシャローナ役の三鴨絵里子さんや、「シャーロック」のマイクロフト役の木村靖司さんです。)

第40回公演の『ダチョウ課長の幸福とサバイバル』で始めて劇場に足を運んだのですが、
初めて見た時はそれほど強く魅かれる部分は正直ありませんでした。
主人公がサラリーマンのおじさんで、物語に共感出来るところが少なかったからかもしれません。
ただ、演劇好きではない人にも楽しめる、間口の広い劇団なんだということは感じ取れました。
勢い勇んで芝居を見に来ました!というよりは、
仕事が終わってリラックスした雰囲気で笑っている人たちが客席にたくさんいる感じだったんですね。

その後、第41回公演は行くのをすっかり忘れていて、
今回の公演は「先が見えない40代独身女性」が主人公だと知り、
「これは今後のためにも見ておくべきではないか?!」「人生のヒントがもらえるかもしれん!」と、
改めて見に行くことにしたわけです。
劇場は紀伊国屋ホールで、東京の公演期間は9日間。
試しにとエコノミー席を購入しました。



舞台は商業施設の中のレストラン街らしき場所。
その共有スペースに現れたのはフリーライターの梨子さんと雅美さん。
2人は仕事の依頼を受けている「ビッグバレー出版」のパーティーに出席するためにやってきたのですが、
会場入りする前に出版社の社員から、実は会社の業績が悪化し倒産の危機にあることを耳にします。
もしかしたら倒産の発表をこのパーティーでするのかもしれない、とか。
会社が倒産すれば、仕事の依頼もなくなってしまう…
梨子さんたちにとってもピンチな状態。
こんな時は男に慰めを求めるしかないのかも?!
ところが、梨子さんは交際中の別の出版社社長の次男坊から「話があります」と切り出され…




舞台の中心には風見鶏が立っていて、その周りに会社のパーティーが行われてるイタリアンレストランや、
タイ料理のレストラン、寿司屋、バーが並んでおり、(もちろんトイレも有。)
登場人物はその料理屋をいったり来たりします。
つまり、メインステージの陰にある、ワン・シチュエーションの「バックステージもの」なのです。

ビッグバレー出版のパーティーの最中に、
社長は資金繰りのためにタイレストランで新潟から来た資産家の家族と面会し、
専務は新企画の実現のため不動産の相談をバーで進めたり、
あちこちで同時進行的に物語が進んでいきます。
その一方で、梨子さんと雅美さんは、出版社のパーティーの隣で行なわれている
熟年婚活パーティーの参加者に誘われて顔を出したり、
寿司屋ではその参加者の友達が葬式後に仲間で飲み交わしていたり。
この同時進行の物語が最後につながっていきます。



梨子さんはご想像の通り、冒頭で若い彼氏から、梨子さんの後輩のライターに惚れてしまったことを告げられ
つまり振られてしまうのですが、
「いい夢見させてもらったよ!」と明るく2人を見送ります。
その勇姿に雅美さんも客も拍手(笑)。
この作品では、こういう梨子さんのアラフォーならではの覚悟を決めた態度が、
周りの人々を動かしていくのです。


↑左から梨子さん(岩橋道子さん)、専務(木村靖司さん)、社長(俵木藤汰さん)、雅美さん(谷川清美さん=演劇集団円)

物語が進む中で、特に印象に残ったのは、
専務が梨子さんに出版社を始めたきっかけを話す場面。

ビッグバレー出版の専務は元々映画が好きで、社長と共に映画雑誌の刊行から始めたことを明かし、
「梨子さんは、"マクガーフィン"という言葉をご存知ですか?」と訊きます。
マクガフィンというのはヒッチコックの造語で、
物語における、泥棒にとっての宝石、スパイにとっての地図のようなものだと梨子さんに説明し、
実際にヒッチコックが、物語の中で使われる予定だったウラニウムの入った瓶が気に入らないプロデューサーに対して、
「ウラニウムじゃなければダイヤモンドでいい」と言った話を引用しながら、
目的はなんでもよくて、自分たちにとっては行動することが大切だったと話すのです。

これは迷い多き私にとっても、分かりやすい人生のヒントだ!と膝を叩きました。
目指すところはなんだっていいんだよね!と、確信をもらえたシーンでしたね。



物語の終盤、社長の資金繰りは難航し、専務の方も実は詐欺にあっていたことが発覚。
修羅場の中、専務に感化されて出版社のために一肌脱ごうと金持ちの婚活パーティーでお金を貰えそうなおじさんを口説いていた梨子さんでしたが、
実は、口説いていたのが父親の友人で、しかも、専務を騙していたのが母親だと判明しちゃうのです。
「どうなるのよ、私の筋書!」



見に行くまでは、「筋書ナシコ」というタイトルの通り、
将来が見えない女子のドタバタ喜劇のようなものを想像していたのですが、
蓋を開けてみると、最後までナシコさんの筋書きはぼんやり見えないままなのです。
でも、彼女が周りの人たちの運命を切り開いているのは確かで、
人間、自分の筋書ばかり気にしがちだけど、実は他人の筋書きを決めてるのって、自分なのかもね?と
ごく当たり前だけど、見つけにくかったことに気づかされるのでした。



この作品をすっかり気に入ってしまった私は、
再度、前楽にも劇場に足を運びました。
日本国内の芝居を週に二回も観に行くなんて、初めてのことかも!?
とにかく、劇場が終始笑いに包まれていて、幸せな雰囲気でした。

特に客演で雅美さんを演じた谷川清美さんや、
婚活パーティーに参加する金持ちのおじさんを演じた松村武さんが面白くて。
ハンドバック代わりにシャネルのショッパーをぶら下げた雅美さんが、
「友達がこれに本入れて返してくれたの。いい友達でしょー?」と言いながら、
袋のはげた部分を塗るためのマジック持ち歩いてたりするのも笑ったし、
婚活パーティーのおじさんが現金をスポーツバッグに入れて持ち歩いてるっていう、
ありえない設定も笑ってしまいました。



私が見に行った時は記録用に録画をしていたのですが、
記録するだけで、放送はしないのかな…
劇場中継で放送してほしいけど、それが無理ならそして近い将来の再演も期待しつつ戯曲は買って何度も読み返したい!
それほどに、もうすぐいずれ梨子さんの歳になる私にとって、
元気をもらえる思い出深い作品になりました。

あとは北九州公演が残っているそうなので、そちらでも盛り上がるといいですね!
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「ショー・マスト・ゴー・オン」劇場中継

2010-03-17 | stage
先日、BSで放送されていた
91年上演の劇場中継「ショー・マスト・ゴー・オン」。

「これだー! これだよ懐かしいー!」
って興奮しちゃった。

劇場の舞台裏にいるスタッフたちが、
おかしなトラブルを乗り越えて芝居を終演させるまでの話なんだけどね。
なんでもないのに、面白い。
限られた空間だからこそ、こんなに面白い。
っていうか、くだらないw

自分が映画や演劇を好きになる直前の、
バァっと世界が広がっていくような、懐かしきあの時代。
三谷さんの、(私の判断では)いい時代。
胸が熱くなるぜ…。

やっぱ西村(雅彦)さんは「今泉慎太郎」より、
「シンさん」とか「ジャンボ」とか、
嫌味な大将キャラだよな…。
今は亡き伊藤俊人さんとの2ショット、泣ける…。


あと…久々にUNOがやりたくなる。


↓消えてしまうかもしれないが…見てミソ。
http://www.nicovideo.jp/watch/sm4238183
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萩尾望都原画展&おしゃべりなレストラン

2009-12-18 | stage
プロ作家生活40周年を迎えて、今なお現役な、
萩尾望都の原画展に行ってきた。




漫画とはいえ、扉絵なんかは絵画といってもいい。
原稿自体も精緻に描きこまれているのにも関わらず、
ほとんど修正の後もなく、神懸った仕事ばかり。

学生時代から親しんでいる作品の原画を
目の前で読めるのは貴重な体験で、
特に「ポーの一族」「トーマの心臓」のコーナーでは
感動でチビりそうだった。
エドガー(ポーの主人公)は美人すぐるし、
エーリク(トーマの)も少女のようにかわいらしい。

萩尾さんの、特にSFものや欧州の文学のような作品は
遠い知らない土地に旅に出たような気分にさせてくれる。
それだけでなく、非常に複雑だし奥が深い。
これから年をとって、いい年齢になっても
心が旅立ちたくなったら手に取る作家のひとりだと思う。






おとといは毎年見に行っている青山円形劇場プロデュースの
ア・ラ・カルトという芝居へ。

今年は21年目ということで、
タイトルを「おしゃべりなレストラン」に変更。
昨年までレギュラーだった白井晃さんと陰山泰さんも卒業?し、
新キャストと日替わりゲストで新装開店することになったので、
どんな内容になるのか心配だった。


その日の日替わりゲストはROLLY。
青山円形でROLLYを見るのはこれで3度目!
ショータイムで見せる情熱的なヴォーカルとギターソロには
毎度メロメロにさせられる。
トークも暴走気味で楽しいし。

新キャストの山本光洋さんと本多愛也さんは
あとで調べたらパントマイマーだそうで、
確かにマイム芸が多かったなーと。

特に強烈だったのが、山本さんが演じるチャーリー山本!
操り人形に扮するんだけど、気持ち悪いほど上手い!
拍手よりも「えー?」なんて声が上がってたほど。
チャーリー山本、恐るべし!
本多さんのブルースハープの演奏もかっこよかった。

http://www.youtube.com/watch?v=fYBaGYxKmsU


新装開店で、去年までの楽しみは半減してしまうかなーと思ってたけど、
全くその心配はなかった。
年末の楽しみの一つはこれからも色あせないでいてくれるみたいだ。
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