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傑作喜劇! ラッパ屋第42回公演『筋書ナシコ』

2016-07-02 | stage
旅日記の途中ですが、ここで最近観た演劇について。

ここ数年日本の演劇についての記事は書いていませんでした。
芝居を見る本数が減っていたということもありますし、
ツイッターでつぶやいて満足してしまうということもあるのですが、
今回感想を書き残しておきたい芝居に出会えたので、久しぶりに記しておこうと思います。
ラッパ屋第42回公演『筋書ナシコ』です。

ラッパ屋は演劇を今よりは見ていた大学時代から通っていたわけではなく、
劇場中継で見たことがあるなー程度に知っていた劇団でした。
きっかけは、ここ数年私が好きなドラマの吹き替えをしている役者さんがこの劇団に所属していて興味を持ったのが始まり。
(「名探偵モンク」のシャローナ役の三鴨絵里子さんや、「シャーロック」のマイクロフト役の木村靖司さんです。)

第40回公演の『ダチョウ課長の幸福とサバイバル』で始めて劇場に足を運んだのですが、
初めて見た時はそれほど強く魅かれる部分は正直ありませんでした。
主人公がサラリーマンのおじさんで、物語に共感出来るところが少なかったからかもしれません。
ただ、演劇好きではない人にも楽しめる、間口の広い劇団なんだということは感じ取れました。
勢い勇んで芝居を見に来ました!というよりは、
仕事が終わってリラックスした雰囲気で笑っている人たちが客席にたくさんいる感じだったんですね。

その後、第41回公演は行くのをすっかり忘れていて、
今回の公演は「先が見えない40代独身女性」が主人公だと知り、
「これは今後のためにも見ておくべきではないか?!」「人生のヒントがもらえるかもしれん!」と、
改めて見に行くことにしたわけです。
劇場は紀伊国屋ホールで、東京の公演期間は9日間。
試しにとエコノミー席を購入しました。



舞台は商業施設の中のレストラン街らしき場所。
その共有スペースに現れたのはフリーライターの梨子さんと雅美さん。
2人は仕事の依頼を受けている「ビッグバレー出版」のパーティーに出席するためにやってきたのですが、
会場入りする前に出版社の社員から、実は会社の業績が悪化し倒産の危機にあることを耳にします。
もしかしたら倒産の発表をこのパーティーでするのかもしれない、とか。
会社が倒産すれば、仕事の依頼もなくなってしまう…
梨子さんたちにとってもピンチな状態。
こんな時は男に慰めを求めるしかないのかも?!
ところが、梨子さんは交際中の別の出版社社長の次男坊から「話があります」と切り出され…




舞台の中心には風見鶏が立っていて、その周りに会社のパーティーが行われてるイタリアンレストランや、
タイ料理のレストラン、寿司屋、バーが並んでおり、(もちろんトイレも有。)
登場人物はその料理屋をいったり来たりします。
つまり、メインステージの陰にある、ワン・シチュエーションの「バックステージもの」なのです。

ビッグバレー出版のパーティーの最中に、
社長は資金繰りのためにタイレストランで新潟から来た資産家の家族と面会し、
専務は新企画の実現のため不動産の相談をバーで進めたり、
あちこちで同時進行的に物語が進んでいきます。
その一方で、梨子さんと雅美さんは、出版社のパーティーの隣で行なわれている
熟年婚活パーティーの参加者に誘われて顔を出したり、
寿司屋ではその参加者の友達が葬式後に仲間で飲み交わしていたり。
この同時進行の物語が最後につながっていきます。



梨子さんはご想像の通り、冒頭で若い彼氏から、梨子さんの後輩のライターに惚れてしまったことを告げられ
つまり振られてしまうのですが、
「いい夢見させてもらったよ!」と明るく2人を見送ります。
その勇姿に雅美さんも客も拍手(笑)。
この作品では、こういう梨子さんのアラフォーならではの覚悟を決めた態度が、
周りの人々を動かしていくのです。


↑左から梨子さん(岩橋道子さん)、専務(木村靖司さん)、社長(俵木藤汰さん)、雅美さん(谷川清美さん=演劇集団円)

物語が進む中で、特に印象に残ったのは、
専務が梨子さんに出版社を始めたきっかけを話す場面。

ビッグバレー出版の専務は元々映画が好きで、社長と共に映画雑誌の刊行から始めたことを明かし、
「梨子さんは、"マクガーフィン"という言葉をご存知ですか?」と訊きます。
マクガフィンというのはヒッチコックの造語で、
物語における、泥棒にとっての宝石、スパイにとっての地図のようなものだと梨子さんに説明し、
実際にヒッチコックが、物語の中で使われる予定だったウラニウムの入った瓶が気に入らないプロデューサーに対して、
「ウラニウムじゃなければダイヤモンドでいい」と言った話を引用しながら、
目的はなんでもよくて、自分たちにとっては行動することが大切だったと話すのです。

これは迷い多き私にとっても、分かりやすい人生のヒントだ!と膝を叩きました。
目指すところはなんだっていいんだよね!と、確信をもらえたシーンでしたね。



物語の終盤、社長の資金繰りは難航し、専務の方も実は詐欺にあっていたことが発覚。
修羅場の中、専務に感化されて出版社のために一肌脱ごうと金持ちの婚活パーティーでお金を貰えそうなおじさんを口説いていた梨子さんでしたが、
実は、口説いていたのが父親の友人で、しかも、専務を騙していたのが母親だと判明しちゃうのです。
「どうなるのよ、私の筋書!」



見に行くまでは、「筋書ナシコ」というタイトルの通り、
将来が見えない女子のドタバタ喜劇のようなものを想像していたのですが、
蓋を開けてみると、最後までナシコさんの筋書きはぼんやり見えないままなのです。
でも、彼女が周りの人たちの運命を切り開いているのは確かで、
人間、自分の筋書ばかり気にしがちだけど、実は他人の筋書きを決めてるのって、自分なのかもね?と
ごく当たり前だけど、見つけにくかったことに気づかされるのでした。



この作品をすっかり気に入ってしまった私は、
再度、前楽にも劇場に足を運びました。
日本国内の芝居を週に二回も観に行くなんて、初めてのことかも!?
とにかく、劇場が終始笑いに包まれていて、幸せな雰囲気でした。

特に客演で雅美さんを演じた谷川清美さんや、
婚活パーティーに参加する金持ちのおじさんを演じた松村武さんが面白くて。
ハンドバック代わりにシャネルのショッパーをぶら下げた雅美さんが、
「友達がこれに本入れて返してくれたの。いい友達でしょー?」と言いながら、
袋のはげた部分を塗るためのマジック持ち歩いてたりするのも笑ったし、
婚活パーティーのおじさんが現金をスポーツバッグに入れて持ち歩いてるっていう、
ありえない設定も笑ってしまいました。



私が見に行った時は記録用に録画をしていたのですが、
記録するだけで、放送はしないのかな…
劇場中継で放送してほしいけど、それが無理ならそして近い将来の再演も期待しつつ戯曲は買って何度も読み返したい!
それほどに、もうすぐいずれ梨子さんの歳になる私にとって、
元気をもらえる思い出深い作品になりました。

あとは北九州公演が残っているそうなので、そちらでも盛り上がるといいですね!

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