さんぽみちプロジェクト

さんぽみちプロジェクトの記録。
和歌山新報で日曜日一面に連載中の「WAKAYAMA NEWS HARBOR」と連携。

巨峰に対抗した新品種 東北生まれの「あづましづく」

2023-10-29 16:34:26 | WAKAYAMA NEWS HARBOR
前号では、糖度が20度に達するほどの甘味で、巨峰の枝変わり品種である「紫玉(しぎょく)」を取り上げた。
今週は、巨峰の栽培に課題がある地域で生み出された「あづましづく」を紹介したい。


【写真】大粒で程よい張りがある「あづましづく」

あづましづくは、平成16年(2004年)に品種登録された比較的新しいぶどう。「ブラックオリンピア」と「4倍体ヒムロッド」を交配し、大粒で極早生の種なしぶどうを選抜し育成したもの。新品種育成の経緯には、主な栽培地である福島県の課題があった。

福島県ではデラウェアやキャンベルなどの小粒のぶどうの栽培が行われていたが、次第に巨峰のような大粒のぶどうが消費者に好まれるようになり、巨峰の栽培へのシフトが余儀なくされた。
巨峰の産地は福島県よりも温暖な西の地域が中心で、成熟期や収穫量において劣る傾向にあった。巨峰を品種改良した「高尾」という品種も生み出されていたが、病害虫が原因で栽培が難航。あづましづくに注目が集まった。

あづましづくの特徴は成熟の早さ。8月上旬頃には収穫が可能で、市場価格が良いお盆の時期に出荷が可能。巨峰よりも20日から1ヶ月程度早いことから、市場優位性が高い品種となっている。

果実の重さは15g程度で、糖度は17度程度。肉質は巨峰よりやわらかい傾向にあり、皮は剥きやすい。果汁が多く濃厚でジューシーな食味となっている。

農水省統計(2020年)によると、国内の栽培面積は約14ha。第1位が福島県(12.5ha)と9割を占め、第2位が青森県(1.4ha)となっている。東北地方での栽培が主であるが、筆者は和歌山県内の産直市場で購入した。
収穫期の早さに着目されてなのか、福島県以西の地域でも僅かながら栽培が行われているようだ。
手にする機会があれば、ぜひ食べてみてほしい。

(次田尚弘/和歌山市)
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

糖度20度に達する甘味 巨峰の枝変わり品種「紫玉」

2023-10-22 13:30:00 | WAKAYAMA NEWS HARBOR
前号では、糖度が高く1粒が30グラムを超える大粒の実が特徴の希少品種「藤稔(ふじみのり)」を取り上げた。
今週は、藤稔と比べ粒は小さいが糖度が高い「紫玉(しぎょく)」を紹介したい。


【写真】際立つ甘さが特徴の「紫玉」

紫玉は昭和57年に「巨峰」の優良系統である「高墨(たかすみ)」の枝変わりとして、山梨県で発見されたもの。昭和62年に品種登録されている。

高墨という品種は、実が巨峰よりも一回り小さく、コクのある味わいと香りが特徴。紫玉は更にそれよりも優れた品種であり、巨峰の良いところを引き出したものである。
外観は巨峰そのもので見分けるのは難しいが、やや濃い紫色をしている。

1粒のサイズは12グラムから16グラム。糖度は20度に達するものもある。果皮は分厚いが剥きやすい。果汁が多く甘味も強いため、ぶどうそのものの旨味が凝縮されている印象。肉質は巨峰よりやや硬め。1房あたりの大きさは500グラム程度。

巨峰より10日から15日程度早く収穫されることから、巨峰から生まれた早熟(早生)品種としても知られる。価格は1kg1200円~2000円程度で、巨峰と同程度かやや高め。

農水省統計(2020年)によると、全国の栽培面積は26.9ha。第1位は山梨県(9.2ha)、第2位は兵庫県(7.2ha)、第3位は愛知県(3.4ha)。
和歌山県は第8位(1ha)となっており、僅かではあるが県内でも栽培されている。
筆者は、かつらぎ町内の産直市場で購入。やや小ぶりではあるが、しっかりとした濃い紫色に食欲をそそられた。

収穫時期は8月上旬から9月中旬まで。前号で取り上げた藤稔よりも更に希少な品種。
1粒に凝縮された甘味と風味を味わっていただきたい。

(次田尚弘/和歌山市)
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

30グラムを超える大粒も 糖度が高く、希少な「藤稔」

2023-10-15 14:04:00 | WAKAYAMA NEWS HARBOR
前号では、欧米系の品種が融合して生まれた、人気品種である「シャインマスカット」を取り上げた。
今週は「ピオーネ」を親とし、大粒の果実が特徴の「藤稔(ふじみのり)」を紹介したい。


【写真】大粒の果実が特徴の「藤稔」

藤稔は神奈川県藤沢市で、ピオーネ(「巨峰」と「カノンホール・マスカット」の掛け合わせ)と「井川682号」を交雑させ、選抜育成したぶどうで、昭和60年(1985年)に品種登録された。

果実の直径は500円玉ほどで、大きいものでは1粒の重さが30g以上になる。食してみると、糖度は17度程度と高めだが、甘味と酸味のバランスがよく、果汁が豊富。みずみずしい食感で、やわらかめの肉質である。栽培方法によって、種無しと種ありのものがあり、購入する際には注意したい。

また、果実が大きいが故に、房から実落ちすることがあるため、長距離の輸送に向かず、包装を外し持ち上げるとバラバラと実が落ちてしまい、驚かされることもある。

農水省統計(令和2年)によると、主な生産地は、第1位が山梨県(62.1ha)、第2位が兵庫県(22.4ha)、第3位が神奈川県(18.3ha)で、全国的に見ても栽培面積は広くない。山梨県内では「大峰(たいほう)」の名で販売。海外への進出が行われており、中国で栽培されている。和歌山県内での栽培面積は第20位で2.5haとなっており、僅かではあるが栽培されている。

収穫時期は8月上旬から9月下旬まで。1つの農園あたり、およそ2週間から3週間程度の期間で収穫が終わるので、食べられる期間が短く希少価値もある。

今年のシーズンは終わってしまったが、1粒が巨峰の倍以上にもなる珍しい品種。
ぜひ、口いっぱいに広がる甘味と豊富な果汁を味わってほしい。

(次田尚弘/和歌山市)
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

欧米系の品種が融合 大人気の「シャインマスカット」

2023-10-08 22:46:15 | WAKAYAMA NEWS HARBOR
前号では、大粒で糖度や香りに優れ、巨峰を親にもつ「ピオーネ」を取り上げた。
今週は、巨峰、ピオーネと並ぶ、日本の代表的なぶどうとなった「シャインマスカット」を紹介したい。


【写真】黄緑色の果皮が美しい「シャインマスカット」

シャインマスカットは「安芸津21号」と「白南」を交配し育成。2006年に品種登録された歴史の浅いぶどうである。

安芸津21号はアメリカ系の品種である「スチューベン」と、ヨーロッパ系の品種である「マスカット・オブ・アレキサンドリア」を交配したもの。
一方、白南はヨーロッパ系の「カッタクルガン」と「甲斐路」を交配したもので、いずれも、アメリカ系とヨーロッパ系の品種の組み合わせから生まれている。

一般的に、アメリカ系は弾力があり噛み切りにくい肉質でフォクシー香と呼ばれる特有の香りがあり、ヨーロッパ系は柔らかく噛み切りやすい肉質でマスカット香と呼ばれる香りがある。

果肉は大きく楕円形をしており、果皮の色は黄緑色で皮は薄いが、果肉と密着しているため剥きづらい。ジベレリン処理により種なしになっているものが多いため、皮ごと食べることができる。

食してみると、張りのある皮によるパリッとした食感があり、果肉は非常に甘くジューシー。酸味は控えめで、マスカットに近い香りがする。

農水省統計(2020年産)によると、全国の栽培面積は2281haで、巨峰に次ぐ2番目。
主な生産地は、第1位が長野県(640ha)、第2位が山梨県(609ha)、第3位が山形県(227ha)となっている。和歌山県でも栽培されており、面積は12haとなっている。

ハウス栽培のものは6月下旬から出荷が始まり8月下旬まで。露地栽培のものは8月上旬から10月上旬まで楽しめる。
栽培面積が拡大し、以前よりも手頃に購入できるように。ぜひ、味わってみてほしい。

(次田尚弘/和歌山市)
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

大粒で糖度、香りに優れる 巨峰を親にもつ「ピオーネ」

2023-10-01 14:02:34 | WAKAYAMA NEWS HARBOR
前号では、肉厚でコクがあり、根強い人気を誇る「巨峰」を取り上げた。
今週は、巨峰を親として開発された「ピオーネ」を紹介したい。


【写真】甘さと爽やかさが特徴の「ピオーネ」

ピオーネは昭和32年に、母を「巨峰」、父を「カノンホールマスカット」として生まれ、巨峰の甘さとマスカットの爽やかさを兼ね合わせた品種。
糖度が高く、香りが優れ、適度な酸味があり、大きいものは1粒20g程度。果肉はしまっており、巨峰よりも粒が落ちづらく、日持ちがよいという特徴をもつ。

名前はイタリア語で開拓者を意味する「pione(ピオーネ)」に由来する。元々は英語で開拓者を意味する「Pioneer(パイオニア)」と命名されていたが、後に改名されたという。

ピオーネには「ニューピオーネ」と名付けられたものがあるが、種があるか無いかの違い。
ジベレリンという植物ホルモンを用いて、種を作らず果実を肥大化させる技術が用いられている。

農水省統計(2020年産)によると、全国の栽培面積は1910ha。国内の生食用ぶどうの約15%を占め「巨峰」「シャインマスカット」に次ぐ3番目。
主な生産地は、第1位が岡山県(799ha)、第2位が山梨県(350ha)、第3位が香川県(106ha)となっており、和歌山県は第11位(25ha)。県内では、かつらぎ町を中心とした北部の地域で栽培されている。

栽培面積第1位を誇り、全体の約42%を占める岡山県では、産地が独自の出荷基準を設けた「プレミアムピオーネ」と称されたものがある。大きさや糖度、見た目を評価したもので、主に贈答品として使われている。

出荷時期はハウス栽培のものは5月下旬から11月中旬にかけて。露地物も10月下旬頃まで出回る。

冷凍庫に入れ、シャーベットのようにして食べても美味しいピオーネ。お好みの味わい方で楽しんでみてほしい。

(次田尚弘/和歌山市)
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする