さんぽみちプロジェクト

さんぽみちプロジェクトの記録。
和歌山新報で日曜日一面に連載中の「WAKAYAMA NEWS HARBOR」と連携。

熊野灘の「海洋深層水」 三重県尾鷲市 2

2016-03-27 19:55:20 | WAKAYAMA NEWS HARBOR
前号では、木を身近に感じられる「尾鷲ヒノキ」について取り上げた。

尾鷲市にはこの他にも特徴のある地域資源がある。
市の南東部に位置する古江漁港から熊野灘へと伸びる全長12.5㎞、水深415mの取水管から採水される「みえ尾鷲海洋深層水」だ。
今週はこの海洋深層水について紹介したい。


【写真】みえ尾鷲海洋深層水の処理施設「アクアステーション」

海洋深層水とは、太陽光が届かず表層の海水と混ざることのない、概ね水深約200m以深にある海水を指す。
特徴としては、水温が年中通して約9.5度と一定し、植物の生育に必要とされる窒素やリンなどの無機栄養塩を多く含み、ミネラルも豊富であるということ。
これらの特徴を活かし、食品分野をはじめ健康や美容に関する商品開発、養殖業など水産分野への利用による地域振興が期待されている。

実際に商品化されているものとしては、ミネラルウォーターを始め、焼酎や甘酒などの地酒、豆腐や大豆の水煮、海水から取り出された塩、蕎麦の出し汁や料理店で提供されるご飯やスープ、干物などの加工品、栄養クリームや入浴剤などの美容品、サービスとしては温浴施設での利用など、多岐にわたる。

これらの商品化のため深層水を処理し提供する施設が、古江漁港にある「アクアステーション」。
原水と、淡水、濃縮水、カルマグ水、高ナトリウム水の処理水4種類を分水(販売)。
筆者が訪れた際も専門業者が大型のタンク車に給水する姿が見られた。
また、海洋深層水に関するパネル展示や加工品を販売。
筆者が実際に購入したパック入りの塩は味が細やかで、深海で熟成された深層水ならではという感覚を受けた。

ここは、和歌山県から最も近い海洋深層水の採水地。
熊野の自然が育み熟成された深層水の魅力に触れてみては。

(次田尚弘/尾鷲市)
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木を身近に感じる「尾鷲ヒノキ」 三重県尾鷲市

2016-03-20 22:07:59 | WAKAYAMA NEWS HARBOR
今週は熊野市の北隣「尾鷲(おわせ)市」を紹介したい。

尾鷲市は東紀州地域のほぼ中央に位置する人口約1万7千人の市。
西側に大台ケ原山系を背負い、東側には熊野灘に面する美しいリアス式海岸が広がる。
熊野灘から流れ込む暖かく湿った空気が山々にぶつかり、南東側斜面に位置する同市は雨雲が発達しやすい地形となっており、年間降水量は4000ミリに迫る。
和歌山市の年間降水量は約1300ミリ。比べると降水量の多さが歴然だ。

市の面積の約90%が山林。
急斜面と痩せた土壌という、木が生育するには厳しい環境であることが幸いし、年月をかけて育まれたヒノキは年輪が緻密で光沢があり「尾鷲ヒノキ」のブランドで知られている。

江戸時代に紀州藩がこの地域における林業を奨励し、建築に用いられる「柱材」を熊野灘から江戸へ運んだのが発展のきっかけ。木にはカジノールという成分が多く含まれ、耐久性に加え抗菌性にも優れていることから、建材の他にも、まな板や、さじなどの日用品にも加工されている。

市内にはそれらの日用品を製造・販売する店があり、お土産用の様々なアイテムが並ぶ。
ヒノキのよい香りに包まれながら商品を手に取り眺めていると、木を身近に感じ、どこか心が和らぐ気がするのは筆者だけだろうか。

訪れた店でユニークな商品を見つけた。


【写真】「尾鷲ヒノキ」で作られた郵便はがき

尾鷲ヒノキで作られた郵便はがき。重量の関係上82円切手が必要となるが、普通郵便で取り扱い可能。
表面は非常に滑らかで艶があり、ほのかに香りもする。
旅の思い出を、送り先の家族や知人へ、絵葉書では表現できない触覚・嗅覚を使って共有できるおすすめ商品。

この地域ならではの木の魅力に触れる旅をしてみては。

(次田尚弘/尾鷲市)
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鬼伝説と自然の造形美「鬼ヶ城」 三重県熊野市 5

2016-03-13 13:38:43 | WAKAYAMA NEWS HARBOR
前号では、三重県熊野市の世界遺産・獅子岩と、縁の深い大馬神社について紹介した。
今週は獅子岩と共に、国の名称と世界遺産に登録されている「鬼ヶ城(おにがじょう)」を紹介したい。


【写真】国の名勝・世界遺産「鬼ヶ城」

「鬼ヶ城」は獅子岩から北東へ約2キロに位置する景勝地。伊勢志摩から続くリアス式海岸の南端にあたり、急激な地面の隆起と熊野灘の荒波による浸食で、大小様々な海蝕洞が約1キロに渡って広がる巨大な凝灰岩。
海蝕洞の上部は鳥のクチバシのように先端が尖り、内部は蜂の巣のような無数の穴が並ぶ。

「鬼ヶ城」の由来は、平安時代に遡る。武官であった坂上田村麻呂(さかのうえのたむらまろ)が、この地域で鬼と恐れられていた海賊の征伐に訪れた。
海賊(鬼)の隠れ家が鬼ヶ城であると知った坂上田村麻呂だが、熊野灘の荒波が行く手を阻み、立ち寄ることはできなかったという。

しかし、鬼ヶ城の沖、約1.5キロに浮かぶ「魔見ヶ島(まみるがじま)」に童子が現れ舞を踊り、それを見ようと岩戸を開けた海賊の頭(鬼神)に田村麻呂が矢を放ち、一度でしとめたという伝説がある。
大馬神社(前号で紹介)に討ちとった鬼の首を埋めたとされ、年に一度、同社では平安を祈る「弓引き神事」が行われている。

また、西暦1400年頃、この地を治めた熊野有馬氏の一族が、鬼ヶ城一体の山頂に城を建てており、その山城を「鬼ヶ城」としていた。
現在も城跡が残り、ハイキングコースが整備されており、鬼の見晴台といわれる展望台からは熊野灘が一望できる。
これからの時期、一帯では、4種類の桜が次々に開花。訪れる者を魅了してくれる。

広い駐車スペースがあり食事などを楽しめる「鬼ヶ城センター」が観光の拠点。桜の見頃にぜひ訪れてみては。

(次田尚弘/熊野市)
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狛犬の役割を担う「獅子岩」 三重県熊野市 4

2016-03-07 22:35:44 | WAKAYAMA NEWS HARBOR
前号では、三重県熊野市の世界遺産「花の窟(はなのいわや)神社」の自然崇拝の文化について触れた。
今週は「花の窟神社」の程近くにある「獅子(しし)岩」とその歴史を紹介したい。


【写真】世界遺産登録されている「獅子岩」

「獅子岩」は国道42号沿いの七里御浜にある岩山。
高さ約25メートル、周囲約210メートルの奇岩で、地盤の隆起と波の浸食により、岩山の上部が熊野灘へ向かう獅子のように見えるのが特徴。
国の名勝、天然記念物に指定、世界遺産に登録されている。

獅子岩は、ここから北西へ約5キロのところにある「大馬(おおま)神社」の「狛犬」としての役割を持つ。平安時代の武官、坂上田村麻呂(758-811)が、熊野灘で悪さを働いていた海賊を討ち、その首を埋め、その上に社殿を建てたのが始まりと、紀伊風土記に記されている。
 
坂上田村麻呂の愛馬を一緒に埋めたことから、あるいは、大きな悪魔を討った社という意が、神社の由来といわれている。
海にまつわるそれらの由縁から、獅子岩が社の狛犬と位置付けられ、現在も境内に狛犬が存在しない。
これもまた、自然崇拝のひとつといえるだろう。

獅子岩は写真の愛好家にも人気のスポット。
獅子の鋭い口が光輝くように見える、夕日をバックにした写真は絶好のシャッターポイント。
また、毎年8月17日に行われる全国的にも有名な「熊野大花火大会」では、岩をバックに討ちあがる無数の花火が獅子を浮かび上がらせるさまは、年に1度だけ観る者を魅了する特別なもの。

獅子岩へのアクセスはJR紀勢本線「熊野市駅」から新宮方面へ国道42号沿いに徒歩約10分。駐車場もあり。
自然と文化が一体となった歴史が息づく熊野市の魅力に触れてみてほしい。

(次田尚弘/熊野市)
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