雑文の旅

猫爺の長編小説、短編小説、掌編小説、随筆、日記の投稿用ブログ

猫爺のエッセイ「エスカレーター」

2016-08-22 | エッセイ
 こんな状景を見た。 茶髪の母親の後を追って、三歳にも満たないだろうと思われる男の子が誰の手も借りずにエスカレーター乗った。
   「さすが現代っ子だ」
 感心して見ていると、エスカレーターの中程へ来たとき男の子はクルッと振り向くと両足を揃えてピョンと一段飛び降りた。エスカレーターが上がるとまた一段飛び降りるものだから母親と離れて行く。五回繰り返したところで母親が上階に着き振り返って注意をした。
   「何をしとんねん、早よ上がって来なさい。置いて帰るよ」
 子供は遊びを止めて、上がって行った。普通なら、「危ないよ」と、注意をしたいところだが、その素晴らしく安定した動作に、「危ない」なんて感じが全くないのだ。

 猫爺は、内村航平さんの見事な「着地」を思い出していた。
   「もかしたら、この子は十八年後のオリンピックのマットで見事な演技を決めて、拍手を受けているのではないだろうか」
 十八年後など猫爺はこの世に存在するわけはないのだが、空想するのは猫爺の勝手だ。「頑張れよ」と、心で応援して、その場を去った。

 思えば最近、エスカレーターに乗るのを恐がる子供なんて見たことがない。昔々その昔、猫爺が若かりし頃にはよく居たものだ。いや、大人でさえもエスカレーターの乗るところでタイミングが取れずに躊躇している人が居たものだ。

 もっと昔々には、エレベータに恐くて乗れない人が居たという話を聞いた。また、エレベータに乗るのに履物を脱いで入り、降りる時に履物が無くなっているのに気付き大騒ぎをしたという笑い話もあった。
 だが、あれは嘘に違いない。そんな昔は勿論、昭和二十年代でも、エレベータには「エレベターガール」と呼ばれる係員が乗っていた。もし、履物を脱いで乗る人がいたら注意をした筈である。
   「お待たせ致しました。上へ参ります」
 デパートでは、売り場の案内もしてくれた。
   「ドアが閉まります。ご注意ください」
 ユニフォームに白い手袋の美人エレベータ嬢が、優しく丁寧に案内してくれたものだ。