長内那由多のMovie Note

映画や海外ドラマのレビューを中心としたブログ

『EMMA エマ』

2021-05-30 | 映画レビュー(え)

 ジェーン・オースティン原作、幾度目かの映像化は再演に耐え得る古典の魅力が詰まった好編だ。貴族令嬢エマは気位が高く、周囲の恋愛成就に世話を焼くのが大好きなトラブルメーカー。それでいて他人の気持ちなんてこれっぽっちも理解しておらず、オースティン自身も「私以外、誰も彼女のことを好きにならない」と公言したとか(ちなみに96年版ではグウィネス・パルトロウが演じている!)。寄宿学校に暮らす身寄りのないハリエットと付き合うのも自尊心が先立ってのことだ。エマはハリエットの身分に相応しい相手を見つけようと、お節介にも社交界のマッチングを始める。

 2020年版の見どころの1つは同年、『クイーンズ・ギャンビット』を大ヒットに導いた旬のスター、アニャ・テイラー・ジョイをはじめとする若手俳優陣のアンサンブルだ。Netflixの人気TVシリーズ『セックス・エデュケーション』『ザ・クラウン』から多数が出演しており、ほとんど同じ役所を演じているのが可笑しい。『ザ・クラウン』でコンプレックスの塊であるチャールズ皇太子を演じ、世界中の視聴者を苛立たせたジョシュ・オコナーがここでも難アリなミスター・エルトンをのびのびと演じており、実に楽しげ。『セックス・エデュケーション』でも風変わりな女生徒だったタニヤ・レイノルズはやっぱり浮いているが、クイーンズ・イングリッシュでしっかり貴婦人芝居をしている所に地力の確かさを見た。同じく『セックス〜』組のコナー・スウィンデルズはまたしても不器用な青年に扮し、その切り立った丘陵のような顔は何とも愛らしいではないか。

 主演アニャのフォトジェニックなルックスは英国田園風景とオスカー候補の衣装によく映え、彼女もラブコメディにセンスを見せるが、その才能を思えばまだまだ無難と言ってもいいだろう。エマの高慢さを打ち砕くハリエット役ミア・ゴスの天真爛漫さが愛らしく、彼女のトレードマークでもあるブリーチされた眉毛こそ本作の要である。彼女のパンクなルックスをそのまま時代劇に持ち込んだキャスティングはじめ、本作には現代的な新解釈の数々が施されている。とりわけエマの特権階級ゆえのプライドの高さは過酷な格差社会である2020年の今日、よりえぐ味を放つ。またチャーチルとの婚約をひた隠しにされ、その心を弄ばれるフェアファクス嬢(薄幸美人のアンバー・アンダーソン)は「とても疲れているんです」とこぼし、明らかにメンタルヘルスに不調を来している。”上流”の戯れの陰で”下流”が犠牲になるのは世の常だ。この演出の機知を引き受けられるところにジェーン・オースティンの普遍性がある。

 もちろん、小気味よく楽しめる”元祖ラブコメ”である。きっと数年後にも魅力的な再演が行われることだろう。


『EMMA エマ』20・英
監督 オータム・デ・ワイルド
出演 アニャ・テイラー・ジョイ、ジョニー・フリン、ビル・ナイ、ミア・ゴス、ミランダ・ハート、ジョシュ・オコナー、カラム・ターナー、ルパート・グレイヴス、ジェマ・ウィーラン、アンバー・アンダーソン、タニヤ・レイノルズ、コナー・スウィンデルズ



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