
あぁ、これは映画館の闇に身を潜め見なくてはいけない映画だ。4Kでリマスタリングされたロベール・ブレッソン監督の『白夜』は、スクリーンを通じて1971年パリはセーヌ川のほとり、ポンヌフ橋の夜気が流れ込んでくる。主人公は画家のジャック。しゃにむにパリを練り歩き、理想の女性に巡り会ったと錯覚しては後を追う恋に恋する若者だ。ある夜、彼はポンヌフ橋の欄干から身投げしようとする若い娘マルトに出会う。聞けば彼女は愛し合った男が約束の1年を過ぎてもパリへ戻らないことに悲観していた。以来、2人は毎夜ポンヌフのたもとで互いの身の上を語り合っていく。
わずか83分の映画にはたったこれだけのプロットしかない。だが、あと100分続いたって構わない至福の映画時間がここにはある。恋の予感と性愛への期待。言葉に優る映画の言語が散りばめられている。男は恋しい女の名前を所構わず口にし、女は自らの肢体にこれから訪れるであろう愛の予兆を見出す。過ぎゆくゴンドラと河岸の歌い手達によって、夜は静かに更けていく…。
映画になる恋物語としては顛末が他愛なさ過ぎるだろうか?いいや、往々にして愛は呆気なく終わるものであり、ジャックの背負う寂寥はこの季節を生きる者だけが味わえる特権なのである。
『白夜』71・仏
監督 ロベール・ブレッソン
出演 ギョーム・デ・フォレ、イザベル・ヴェンガルテン
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