長内那由多のMovie Note

映画や海外ドラマのレビューを中心としたブログ

『マトリックス レザレクションズ』

2022-01-01 | 映画レビュー(ま)

 3部作完結編『マトリックス レボリューションズ』以来、18年ぶりの続編となる本作『マトリックス レザレクションズ』には正直、何も期待していなかった。救世主ネオは自らの命を賭して人類と機械世界の両方を救い、物語は終わったハズだった。以後、監督のウォシャウスキー兄弟あらためウォシャウスキー姉妹にはヒット作がなく、これはハリウッドお得意の安易なフランチャイズ、再生産ではないかと疑った。今更いったい何を語ろうというのか?

 第1作のストーリーを踏襲し、“かつて『マトリックス』という人気ゲームがあった”とする前半約30分のメタ展開に「おいおい大丈夫か?」という気持ちはさらに強まる。ローレンス・フィッシュバーンからヤーヤー・アブドゥル・マティーン2世に交代したモーフィアス周りの設定については、誰か僕にわかりやすく説明してもらえないだろうか?(まぁDr.マンハッタンだしな!)
かつてハリウッドに大革命をもたらしたヴィジュアルインパクトは望むべくもなく、そもそもアクションシークエンスは少ない。

 そんな2021年のマトリックス世界にネオ=Mr.アンダーソンは未だ囚われていた。髪もヒゲもボサボサに伸びた“ぼっちキアヌ”なMr.アンダーソンは、ゲーム『マトリックス』で一躍時代の寵児となったゲームプログラマーだ。しかし以後はヒット作もなく、今は若手ばかりのベンチャーゲーム企業で末席に甘んじている。ただただ無気力で薬(そう、青だ)とセラピストが欠かせない彼は完全にメンタルヘルスを病んでいる。それは1999年の『マトリックス』に熱狂してから20余年、救世主にもなることもなければ自分を変える事もできず、企業というシステムに搾取され続けている僕の姿そのものだ。そんなMr.アンダーソンの前にティファニーという女性が現れる。2人の子供を持つ幸せそうな主婦である彼女とは、なぜか初めて会った気がしない。

 監督のウォシャウスキーにとってもこの20年は決して容易いものではなかった。『マトリックス』3部作の成功以後、ラリーとアンディはララとリリーへ性転換。本当の自分を手に入れることに成功するが、新たな代表作を得ることは叶わず、いち早くNetflixでTVシリーズに進出した『センス8』も打ち切りの憂き目に遭った。そして両親の看取りにある中、ラナはネオとトリニティの再会を夢見たという。本作には時間も空間も超え、死んでしまった人ともいつか会うことができると語る狂気じみた信念がある。本作鑑賞に先駆けて前3作は必修だ。語り直されるナラティブの中、ティファニーがトリニティの名前を取り戻し、再びネオが彼女と巡り会う姿に僕は無性に泣けてしまった。

 ウォシャウスキーの性別移行によって前3作につきまとった“精神と肉体の不一致”というテーマはより明確になっている。ボーイッシュなジェシカ・ヘンウィック演じるバッグスにはもう少し見せ場があって良かったものの、新世代キャストの電脳空間衣装はクィアカルチャーの側面がより強まった。キャストの人種構成は20年前の時点で既に現在のハリウッド映画の水準を軽々とクリアーしている。そしてマトリックス世界を破壊するでもなく、システムに囚われた人々をキャンセルするでもなく、「虹をかけよう」という言葉で締め括るラストシーンに、僕は『マトリックス』シリーズが2020年代に復活した意味を見るのである。


『マトリックス レザレクションズ』21・米
監督 ラナ・ウォシャウスキー
出演 キアヌ・リーブス、キャリー・アン・モス、ヤーヤー・アブドゥル・マティーン2世、ジョナサン・グロフ、ジェシカ・ヘンウィック、ニール・パトリック・ハリス、ブリヤンカ・チョープラー・ジョナス、ジェイダ・ピンケット・スミス

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