長内那由多のMovie Note

映画や海外ドラマのレビューを中心としたブログ

『レヴェナント 蘇えりし者』

2017-01-27 | 映画レビュー(れ)

巻頭、いよいよ神がかる名手エマニュエル・ルベツキのカメラワークに圧倒される。
美しい大自然の下に収められた狩猟隊と先住民達の死闘は複雑なオペレーションでありながら、全てが
『バードマン』と同じくマスターショットとして完成された構図を持つ。曲芸的な長回しはもはやルベツキにとって難度の高い挑戦ではないのかもしれない。

おそらく最も困難だったのはマジックアワーの自然光にのみこだわった撮影コンセプトではないだろうか。
 過酷な自然環境の中で激しいスタントが繰り広げられる本作はオスカーを競った
「マッドマックス/怒りのデス・ロード」同様、カメラにありのままが収められているというエクストリーム感がストーリー云々以上に2時間40分を牽引する原動力となっている。これはここ数年アメリカ映画で着実に進んでいるアンチVFXという潮流で、主演男優ディカプリオが熊に半殺しにされ、氷河に流され、崖から転落し、ついにはバッファローの生肉を喰らうというある種の“見世物感”が異例の大ヒットにつながった要因の1つではないだろうか。

 恐れを知らぬディカプリオは「これでオスカーを獲れなきゃ何をやってもムリ」と思える勇猛果敢なスタントだが、復讐心に突き動かされた主人公を静的な心理表現で演じており新境地だ。実在の人物へのなり切り演技や熱演がアカデミー賞で大手を振るう事にしばしば首を傾げてきた筆者だが、振り返ってみれば
『ブリッジ・オブ・スパイ』のマーク・ライランスといい、円熟したパフォーマンスが評価されたオスカーだったのかもしれない。もちろん、対照的に“クサい芝居”で敵役っぷりが際立つトム・ハーディの怪優ぶりも本作を語る上で欠かせない。

頭をかすめるのはこれが誰の映画か?という疑問だ。
 ルベツキの超然としたカメラによる大自然と人間の対比は当然テレンス・マリックの映画を思い起こさせるが、ここには映画館の闇に身を沈めたくなるような瞑想的な静寂はなく、観る者を陶酔させる詩心を感じなかった(坂本龍一らが手掛けた劇判が終始鳴り響くミスマッチな音響にも問題はある)。果たしてイニャリトゥの作家性とはどこにあるのか?人間の業と情念を描くオムニバス構造は後に監督デビューした脚本ギレルモ・アリアガの手法と判明し、
「バードマン」から本作に至る“カメラ至上主義”はルベツキの作家性である。何が言いたいかって?2個のオスカー監督賞はあげ過ぎってこと!!


『レヴェナント 蘇えりし者』15・米
監督 アレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥ
出演 レオナルド・ディカプリオ、トム・ハーディ、ドーナル・グリーソン
 

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