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長内那由多のMovie Note

映画や海外ドラマのレビューを中心としたブログ

『MI5:世界を敵にしたスパイ』

2016-11-07 | 映画レビュー(え)
 “ジョニー・ウォリッカー・シリーズ”完結編となる第3作目。カリブ海に浮かぶ英領タークス&カイコス諸島で首相の資金洗浄の実態を掴んだジョニーは、愛するマーゴと共に島を脱出。ヨーロッパに潜伏し、反撃の時を伺っていた。しかし、包囲網は刻々と迫り…。一話完結で続いてきたこのシリーズだが、本作は完全に第3幕目扱い。ドラマチックな逃亡劇、ジョニーと黒幕との戦い等、これまでの抑制の効いた演出から一転、見せ場連続のダイナミックな完結編となった。

無表情を貫くジョニーからは彼を動かす正義の衝動がなかなか見えてこない。
のらりくらりとした立ち振る舞いは演じるビル・ナイの飄々とした個性による所が大きく、重要指名手配の凄腕スパイ(肩書的にはジェイソン・ボーンと同じ!)なのに銃ナシ、車ナシの手ぶらで悠々自適な逃亡生活を送っている姿はユーモラスな味わいすらある。

そんなジョニーが凄味を見せるのがクライマックスだ。怪優としての貫禄もたっぷりなレイフ・ファインズ扮する英国首相との直接対決でジョニーは反逆の動機を「仕事を奪われたからだ」と明かす。冷戦期、世界を股にかけたスパイの仕事はスマホとドローンに奪われ、国家を背負った矜持すらも過去の遺物とされてしまった。これは既得権益で国を大義なき戦争に加担させた時の政権とアメリカへの反撃なのだ。

ところがこれでは終わらない。情報を操作し、首相のクビを据え変えたジュディ・デイヴィスこそ本作最大の黒幕である(そう、MI5の仕事は国内の諜報活動なのだ)。何とはないカフェで繰り広げられる名優たちの引き算を信条とした演技合戦こそこの“ジョニー・ウォリッカーシリーズ”を象徴するミニマリズムであろう。久々に大きな見せ場を得たデイヴィスの圧巻の老獪さは名女優の本懐だ。

最高にクールな幕引きをするビル・ナイに惚れ惚れしてしまう。若作りではなくジジイのままクールである事のカッコよさを示してくれた。
 

『MI5 世界を敵にしたスパイ』14・英
監督 デヴィッド・ヘア
出演 ビル・ナイ、レイフ・ファインズ、ヘレナ・ボナム・カーター、フェリシティ・ジョーンズ、オリヴィア・ウィリアムズ、ジュディ・デイヴィス
 

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